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「アンチャーテッド 古代神の秘宝」にみる一本道でない世界のヒロイン像

オープンワールドのメリットを最大化するキャラ設定の手法とは

3月19日~24日開催

会場:Moscone Center

共同著者ということになっているが実質メインシナリオライターのJosh Scherr氏

 GDC2日目の20日には、Naughty DogのシナリオライターScherr氏が、「アンチャーテッド 古代神の秘宝」を題材に、オープンワールドゲームにおけるキャラクター展開をテーマにしたセッションを行なった。氏の役割から察するとおり、ここでいうキャラクターは、ゲームキャラクターのアートワークではなく、作中での行動原理をつかさどる内面の個性の部分だ。

 作中でのキャラ同士の掛け合い同様、軽妙な語り口でありながら、オープンワールドのシナリオのあり方について、非常に参考になる内容であったため、本セッションの内容をご紹介しておきたい。

【UNCHARTED: The Lost Legacy - Launch Trailer】

 「アンチャーテッド 古代神の秘宝」(原題「Uncharted: The Lost Legacy」。以下「UC: TLL」)は、「アンチャーテッド4」(以下「UC4」)のDLCとして、昨年8月(日本では9月)に配信が開始されたゲームだ。

 本作の主人公は、いつものネイトではなく、ネイトの元カノ、クロエがヒロインとして再登場する。パートナー役は「UC4」本編に新登場したナディーンだ。この2人のキャラクターの取り合わせの妙味が、本作の活劇とその幕間を彩っている。

 本作では、開放的な性格のクロエと堅実家のナディーンという2人の性格の違いが、物語が進行していくうえでの対立軸となっており、さらにゲームシステムに組み込まれたバディとの関係がシーンに反映されるシステムが、シナリオ進行にウィットに富んだ描写を加えている。

【UNCHARTED: The Lost Legacy - Western Ghats Gameplay Video】

 オープンワールドのゲームでは、本質的に映画や完全なキャンペーン型ゲームのような一本道のストーリー進行は難しい。ゲームシステム的にプレーヤーの行動の制約がかなり少なく、空間内でできることが多いからだ。それがオープンワールドゲームの魅力そのものであるわけだが、反面、プレーヤー任意の要素が多ければ多いほど、あらかじめ仕込んでおかなければならない要素が増えることになる。また、物語のインプレッションという観点でも、シナリオを製作する側はストーリーラインが1本のほうが抑揚を盛り込みやすいし、プレーヤーにとってもわかりやすいものとなる。

 こうした本質の理解、作品固有のゲーム要素、ゲームプレイ進行の構造に適合した分解能のシーン、セリフを用意していくことで、結果として魅力あるキャラクター性をもったヒーロー、ヒロインがゲームに誕生することになる。著名な外部のシナリオライターを起用しても、思ったような深いインプレッションを与えるシナリオにならないのは、こういったゲーム固有のインタラクティブ性に対する理解や適合が不足しているためだ。

【「UC:TLL」のキービジュアル】

 本作においては、Naughty Dogに長く在籍し、シリーズ1作から3作目まではカットシーンのリードを務めてきたScherr氏は、「UC4」からシナリオを担当している。過去作品でキャラクターがどのように活劇をみせていたかの理解があるし、ゲームデザイン側からのリクエスト、フィードバックも集約しやすい。

 事実、Scherr氏のオフィスには、フィードバック踏まえながら記載したストーリー上の出来事をリーフにした付箋が大量に貼られているし、それらの構成を随時変更しながら大筋のストーリーの流れを完成させている。

【シナリオ製作プロセス】

 ストーリーの大枠が固まったとしても、本作には、いくつかのユニークな要素が存在することを考慮しなければならない。フィールド移動の自由度に加え、4WDやボートといった乗り物、ロープアクション、フィールドギミックと連動した謎解き要素など、ストーリーと密接に関わるものが多数ある。

 なかでも、オープンワールド中の移動の自由度はやっかいで、すべてを含めると、プレーヤーが取ることのできるルートは、それこそ無限に存在する。その自由な空間でゲームを進行させる主導権を握るのは、あくまでプレーヤーだということも忘れてはならない。

【シナリオ製作プロセス】

 Scherr氏は、3つのステップを経て、本作のシナリオを進めている。ひとつ目は、シナリオに盛り込むべきTo Doリストを作成すること、ふたつ目はプレーヤーの目的を設定すること、3つ目はシナリオをゲームに実装されているシステムのうちどの表現手法を採用するかを選択して、いくつかのストーリーの断片を実装してみることだ。

【シナリオ製作プロセス】

 本作で採ることができる表現方法は、大きく4つある。ひとつ目は、カットシーンで、これはプレーヤーの自由度が介在する余地が最も小さい。ふたつ目はスクリプトによって制御されるイベントシーケンス、3つ目は乗り物に乗っている途中の会話、4つ目は通常のフィールド行動時の会話で、これが最もプレーヤーの自由度が大きい。

【カットシーン】

 カットシーンの最中は、一定のプロットをまとめて排他的にプレーヤーに渡してしまうことができる。ここでは、シナリオのなかでも重要なドラマを印象づけることができ、ひとつのカットシーンなかではストーリーのつくりは一本道のゲームと変わらないと言えるだろう。

 ところが、本作の場合、プレイヤーの到達が順不同となる場合がある。チャプター4の弓矢の塔、戦斧の塔、三ツ又の塔がそれで、プレイヤーはこの3つの塔の攻略順序を自由に選択できる。

 このため、これらの塔の攻略を達成した際のイベントはスクリプトによって制御されており、どこから攻めてもシナリオの流れが変わらないように、異なる塔を背景にして同趣旨のイベントが展開されるように製作されている。

【スクリプト制御シーケンス】

 乗り物に乗った状態で展開される会話は、本作ならではで最もユニークだ。例えば、ゲームシステム上、4WDを運転中にプレーヤー任意のタイミングで、いつでも車の乗り降りができる。ナディーンとの対話が続いていても、プレーヤーが車から降りればその会話の流れはいったん終了し、再度車に乗り込んでドライブを始めた際に、自然に話の続きが展開されるように製作されている。

 なんでもないように思えるかもしれないが、そもそもの車中でおしゃべりするというアイディアもさることながら、それなりに繋ぎのレトリックを要するところであり、非常に良くできている。

【4WDでの会話】

 フィールド行動時の会話は、プレーヤーのアクションの状態や、特定の箇所への侵入をチェックしたり、プレーヤー自身による会話開始のトリガーによって展開されるものだ。プレーヤーを飽きさせないために、1度目と2度目以降でセリフが大幅に変わったり、また塔の攻略などでは、その塔が1つ目なのか2つ目以降なのかによって、細かい変化が起こったりする。

 セリフのみで完結する変化は、RPGではさほど珍しくないが、通常行動時の会話イベントにいたるまでフルボイス前提のゲームの場合、そのバリエーションの量を適切に保ちながら印象的なものとするための工夫は、非常に重要だろう。本作のようにプレーヤーとパートナーが行動を共にしながら、お互いの関係性によって、セリフが変化するシステムならなおさらだ。

【会話イベントの変化】

 Scherr氏は、最後にゲームシナリオライターのために、以下の教訓をまとめてくれた。ゲームの核心部分の達成目的は早い段階で固めること、達成目的に沿って個性を深化させていくこと、セリフは中庸な状態のものから始めること、キャラクターを掘り下げるためにも中庸なセリフを活用すること、仮データでも会話はできるだけ早い段階から作ることが挙げられていたが、どれも本作のようなゲームのみならず、ゲームシナリオを執筆するうえで、重要な事項だ。

 ゲームシナリオは、セリフの文学的な表現で完結することはなく、シーンの映像的な表現、プレーヤーの入力による双方向性やフロー制御といった、複数の要素が総合的に織りなす、ゲーム独特の機微に落とし込む必要がある。ところが、担当する開発者のキャリアも関係してか、各要素を合理的に捉えて最適解を導くことが難しいのが現実だろう。

 「UC:TLL」のシナリオは、純粋に楽しめる王道の活劇にふさわしいものに仕上がっている。ゲームシナリオライター諸氏には、本作のScherr氏のアプローチを参考に、プレーヤーのインプレッションを主眼に置いたゲームシナリオになるように、制作手法に磨きをかけていただきたい。