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最高の「ファイナルファンタジーXV」体験をするならPC版をおいて他にはない
ビジュアルクオリティの向上に貢献する「GameWorks」
2018年3月24日 00:00
GDCも4日目になって、NVIDIAはスクウェア・エニックスの看板PRG「ファイナルファンタジーXV」(以下「FFXV」を題材にしたセッションを行なった。本セッションは、昨年3月7日に発売されたばかりの「ファイナルファンタジーXV ウィンドウズエディション」開発において、NVIDAのゲーム開発ライブラリ「GameWorks」によって、どういった点が進化したかを解説するものだ。
GameWorksは、NVIDAのGPUを搭載しているPCのみならず、MicrosoftのローレベルゲームAPI「DirectX 11」以降をサポートする環境であれば、GPUやOSを問わず動作する。よって、「FFXV」をコンソール版より高品質なビジュアルで楽しむチャンスは、すべてのPCゲーマーにあるというわけだ。
本セッションでは、GameWorks使用前、使用後のゲーム画面を数多く公開していたので、その差は一目瞭然だ。コンソールと比較して、ハードウェアパワーに勝るPC環境で、いったいどれほどの違いが出るというのか。早速、具体的に見ていこう。
PC版「FFXV」に使用されたGameWorksの機能は、多岐に渡る。なかでも、本セッションで紹介された機能は、「FFXV」への実装を経て、新規にGameWorksの一部となったものや、改良が加えられたものだ。
最初に紹介されたのは、テラインのテッセレーションで、これはランドスケープの地表面を構成するポリゴンを描画時に動的に分割して情報量を増やす機能だ。一般的にゲームの地表面にはループテクスチャをタイリングして配置していることが多い。砂地なら砂地、草原なら草原といったタイルの切れ目がグリッド状に見えないのは、境界線周辺では複数のマップを同一タイルに適用して、それらをブレンドしているからだ。また、上物の構造物や、プロシージャルな手法で生成された草木によって覆われていたりすることもある。
自然界の情報量には遠く及ばないが、「FFXV」のようなオープンワールドでなくても、製作量との兼ね合いや、ビジュアルに割くべきリソースの優先順位から、おおむね妥当な手法と言っていい。テクスチャリソースの解像度やマルチマップの可不可といった差異はあれど、プレイステーションの時代から行なわれてきた由緒正しい方法論だ。
リソースの限界や、特にRPGではゲームデザイン的な重要度が低いこともあって、特に疑問に感じることもなく長い時が過ぎてきたのだが、近年このテライン表現にもついに改良が加えられるようになってた。現在、開発者の誰もがやろうとするのが、このテッセレーションで、地表面のディティールを劇的に増やす手法だ。背景には、近年のGPUにテッセレーションのハードウェアアクセラレータが乗るようになったことが挙げられる。
「FFXV」には、テストを経て、パフォーマンスとクオリティのバランスが良い20分割が採用された。また、ノーマプマップからディスプレイスメントマップを生成する新機能により、コンソールではノーマルであったものが、ディスプレイスメントへと高級化している。
ディスプレイスメントマップでは、特定の視点から見た時の凹凸しか表現できない、バンプマップやノーマルマップとは異なり、シェーダーによってジオメトリの頂点位置が実際にオフセットされるため、光源や視点に左右されない凹凸表現が可能になる。地平面に起伏をつけるには、現状ベストな解だ。コンソールでも採用しているケースは見られるが、計算コストが高いため限定的で、内臓GPUの世代交代、つまり次世代機への移行までお預けだ。
このディスプレイスメントは、地表面のみならず、水面の品質向上にも寄与している。テッセレーションによって、ポリゴンが分割されれば、波打つ高低差の階調は豊かになり、そこにディスプレイスメントが加わるのだから、複雑さは目で見てわかるレベルだ。加えて、水際や鏡面反射に与える複雑さも有益だろう。
次に紹介されたのは、Turf、つまり下草に対するエフェクトだ。光源からの影響を受けて影を落としたり、影を受けたりするといったエフェクトだが、これがなかなかあなどれない。不揃いな草原を突っ切るキャラクターの影が投影される面に応じて適切に描かれるだけで、すいぶんと自然な印象が得られている。遮蔽もきちんと考慮されており、リアリティと速度の向上に役立っている。
続いては、HairWorksによるモンスターの獣毛の表現だ。これはもう、ONとOFFでは段違いのモジャモジャ、もふもふ度なので非常に有効に機能していると言えるだろう。獣毛の乱れを表現するためのノイズ処理が、新たにHairWorksに実装され、情報の受け渡しはGバッファを介して行なわれている。Gバッファを参照してピクセルを加工していくステージは「FFXV」側のルミナスエンジンに委ねられており、使いやすい妥当な実装と言えるだろう。
冒頭のテッセレーションと並んで、非常に使い出があるのは、このVXAOだろう。AO、つまりアンビエントオクルージョンは、光の届きにくい陰の部分に光源に応じて適度な階調を与えるため、リアル調の引き締まった絵になる。現在主流なのは、比較的計算コストの安いスクリーンスペースAO(SSAOまたは単にSAO)で、工夫の差異はあれど、デプスを見て、それっぽい結果を得ているにすぎない。ただし、SSAOで十分な効果が得られることから、特に高級なAOのニーズが高いわけではない。
SSAOと比較して、よりPBRらしいアプローチと言えるのが「FFXV」に導入されたVXAOだ。ボクセル単位に粒度が下がるため、完璧とは言えないが、少なくともSSAOと比較にならないほど、かなり真面目に光源と遮蔽によって導かれる陰深度を表現することが可能だ。
空間中の光源と遮蔽する物体を、きちんと認識したアルゴリズムであることの効果は絶大で、バーカウンターの下、テーブル席のソファやテーブル、キャラクターの衣装のシワといった箇所に適切な陰処理が施されていることがわかる。
こうして比較してみると、いかにSSAOがインチキなのかわかってしまうのだが、とはいえ、AOなしと比較するとSSAOであってもやはりあったほうがいい。SSAOには、メリハリの効いた結果や計算コストが安いというメリットがあるため、「FFXV」では物理的にリアルなVXAOとスミ表現として有用なSSAOの両方をハイブリッド使用している。
上記のほか、プレーヤーキャラクターたちのセルフシャドウにはFTSが利用されている。正確な影が得られるのが特徴だが、ハードシャドウなので、通常は各種アンチエイリアシングによってソフトに加工されるが、「FFXV」の場合、プレーヤーキャラクターのセルフシャドウ用にしか使っていないためハードなままだ。たとえば、腕組みをしているとして、影をつくる腕と影を受ける胴体は近接しているため、ソフトになる余地がないという判断のようだ。
また炎やそこから立ち上る煙やパーティクルには、Flowという流体シミュレーションが使われている。品質はなかなかのもので、カメラアングルの移動にも強い。こうしたダイナミクスの制御は、取り扱うアーティストにとって、なかなか難しいものだったりするのだが、できるだけ物理的に正しい方向への進化は、とどまることはないだろう。
引き続き「ファイナルファンタジー」シリーズには、本作のような協業体制を通じて、世界中のビジュアルクオリティにこだわるAAAタイトルを牽引するタイトルであり続けて欲しい。