【特別企画】
「ポリスノーツ」誕生30周年! 小島秀夫氏が手掛けた、まるで大作映画のような名作アドベンチャーゲーム
2024年7月29日 00:00
- 【ポリスノーツ】
- 1994年7月29日 発売
日本を代表するゲームクリエイター・小島秀夫氏の代表作といえば「METAL GEAR(メタルギア)」シリーズが真っ先に思い浮かぶかと思う。しかし、知名度的には陰に隠れてしまっているが、ゲームとしては「メタルギア」に引けを取らない名作といえる小島作品は数多く存在する。
そんな名作のうちの1つが、PC用ソフトとしてリリースされ、その後3DOやプレイステーション、セガサターンなど様々なハードに移植された「ポリスノーツ」だ。ジャンルは本作の一作前に小島監督が手掛けた「スナッチャー」と同様のアドベンチャーゲームとなっている。
完全コマンド選択式で進行していく「スナッチャー」に対して、「ポリスノーツ」はカーソルで気になる場所を調べて物語を進める形式になっており、ゲーム性が増した作りとなっている。「スナッチャー」は全編ドット絵で描かれており、今見ると少しレトロチックな印象を受けるが、3DO版以降の「ポリスノーツ」は随所にCGやアニメーションムービーが使われ、映像の見せ方がより映画的に進化した。
本稿では、1994年にリリースされたPC版から数えて今年2024年で30周年を迎える「ポリスノーツ」を振り返っていく。本作を知らなかった人も本稿で興味を持ってもらえたら幸いだ。なお、多少のネタバレも含んでいるため、未プレイの方は注意してほしい。
プレーヤーをグイグイ引き込む、息を呑むストーリーと複雑な人間ドラマ
本作は小島監督が得意とするSFをテーマにした作品だ。プレーヤーは主人公「ジョナサン・イングラム」となり、次から次へと迫る事件を調査していき、陰謀渦巻く事件の謎に迫っていく。
2010年にスペースコロニー「ビヨンド・コースト」が完成し、人類は宇宙進出を始めた頃、宇宙の治安を維持するために宇宙訓練を受けた5人の警察官・ポリスノーツが各国から選抜される。本作は、この5人のポリスノーツ達が宇宙で起こる様々な事件を解決する――といったようなありきたりな内容ではなく、ポリスノーツに就任した主人公の「ジョナサン・イングラム」はEMPS(コロニー外活動用ポリススーツ)のテスト遊泳中に暴走事故が発生し、宇宙を漂流する事となってしまうのだ。
宇宙を漂流してから25年。絶望と思われていたジョナサンだったがコールドスリープ状態で奇跡的に救助される。
その後、地球(ホーム)へと生還して5年。ロスでネゴシエーター(誘拐犯との交渉人)まがいの探偵をしながら孤独な日々を送っているジョナサンに、一件の仕事の依頼が舞い込んでくるシーンからゲームが始まる。
依頼人はビヨンドから遥々やってきたジョナサンの元妻「ロレイン」だった。再婚相手である「ケンゾウ・北条」が行方不明になっており、夫を探してほしいという頼みであった。
様々な感情が揺れ動き、ジョナサンはロレインの依頼を即決で引き受けることができなかった。事務所を後にしたロレインは、その直後に謎のライダースーツの男が仕掛けた爆弾によって帰らぬ人となってしまう。
息を引き取る間際に、自身の娘である「カレン・北条」のことを託される。ケンゾウの行方、ロレインが狙われた理由、そしてカレンに会うため、ジョナサンは地球を離れて再び宇宙へと赴く。
ビヨンドにたどり着いたジョナサンは、元ポリスノーツメンバーで親友の「エド・ブラウン」と30年振りのバディを再結成し、2人は事件の捜査に当たる。
人探しから始まった事件は捜査が進んでいく中で、汚職や違法ドラッグ、さらには宇宙を取り巻く大きな陰謀へと繋がっていく。この映画的なストーリーの見せ方はさすがの小島監督である。
プレーヤーの心を揺さぶるリアルな人間ドラマ
ストーリーもさることながら、ジョナサンを中心とした登場人物たちが織り成す人間ドラマも見逃せない。
事故によって25年という月日が流れ、ポリスノーツの輝かしい栄光や、最愛の妻「ロレイン」など、ジョナサンは多くのものを失ってしまった。偵事務所には若い頃のロレインの写真が飾られ、ジョナサンは当時の結婚指輪を今でも付けたままでいる。だが、ロレインはジョナサンが宇宙を漂流している間に別の男性と再婚していたのだった。
高価な装飾品に身を包んで裕福な暮らしをしていながら、困ったときには数十年越しに元旦那の前に現われる――という第一印象はかなり悪いが、話を進めていくことでその印象が変わってくる。
行方不明になったジョナサンの事をキッパリ忘れた訳ではなかった。ゲームでも詳しい内容は描かれていないが、再婚後もジョナサンのことでケンゾウとの夫婦仲は良好とはいえなかったようだ。
ジョナサンが救助された際も本当はすぐに駆け付けたかったが、“自分はジョナサンを裏切ってしまった”という自責の念に駆られ、会いに行くことができなかったのだ。不幸な事故をきっかきに、ジョナサンもロレインも互いのことを想いながらも、どちらも幸せになれない最期を迎えてしまうのは何ともやりきれない。
月日の流れは残酷で、ロス市警の名物デカと知られていた相棒のエドもかつての輝きを失っていた。
過去に起きたある事件をきっかけに刑事としての自身を喪失し、エドは警察内の“ゴミ溜め”と言われている風紀課の主任として配属されている。主任というと聞こえは良いが、ロクに仕事もない実質ただの窓際族である。
悪い噂通りで、ジョナサンが風紀課を訪ねるとエドは暇を持て余して昼間から居眠りをしているという有様だった。
数十年ぶりに自分に会いに来てくれた友人に喜ぶエドだったが、ロレインの依頼の件で協力を求めるとその顔色は曇り、力にはなれないと告げられてしまう。
かつてのエドを知っているジョナサンは「昔のエドはどこへ行ったんだ?」と問いかけるも返って来た言葉は「お前の知っているエドは30歳も若いエドだ。今の俺は違う」という重い一言だった。
情けで警察に置いてもらっている立場にあるエドは面倒な事に首を突っ込むことができなかったのだ。“守るべき家族があり、年をとれば勇気もなくなり失敗を恐れ、権力にも屈するようになる”と悲嘆するエドの姿にジョナサンは、「俺は30年の間にいろんなものを失っちまった。だが、これで本当に全てを失っちまったって訳だな……」と心の内を明かす。落ち着いた口調で語るが、その表情は悲しげだ。
無理を言ったなと言い残して去るジョナサンの背中を見たエドは、「あと3年で無事定年だってのに!」と声を荒げながらも、葛藤の末にジョナサンに協力する。社会的立場と親友、どちらも捨てられないが故の心の揺れ動く描写などもリアルで、この人間臭いドラマがプレーヤーを引き込んでいく。
初めは保守的だったエドだが、事件を追っていく中で次第にかつての情熱を取り戻していくのも本作の見所だ。かつて名コンビと呼ばれていた2人の活躍は非常にカッコイイのでぜひ実際に見てもらいたい。
物語を追うだけじゃない。ゲームとしての面白さも健在
ここからはゲーム部分にも触れていこう。ゲームの基本は、調べたい場所や話したい人物をカーソルで選択して物語を進めていくという、昔ながらのスタイルのアドベンチャーゲームだ。
会話や調べられる場所を総当たりで進めていけば基本的には詰まることなく進行できるので、ゲーム自体の難易度は優しい。
ストーリー自体はハードボイルドな内容ながら、真面目の中に盛り込まれる小島節の効いたギャグテイストは本作でも見られる。過酷な境遇に遭いながらもタフな精神の持ち主であるジョナサンはとにかく女好きで“出会う女性に誰彼構わずイタズラ”をすることができる。
特定の部位に触れると発生する“揺れるアニメーション”までもわざわざ作り込まれているのだ。どうしようもなくくだらないネタ(誉め言葉)だが、そんなネタ部分であっても全力を注いでいるのは開発の強いこだわりを感じさせる。
アドベンチャーゲームというとどうしてもテキストを読み進めるのが中心となってしまうジャンルであり、「ポリスノーツ」もその例に漏れずではあるものの、しっかりとゲームとしての遊びが盛り込まれてる点も本作の魅力。中でもプレイを盛り上げてくれるのは銃撃戦による戦闘パートだ。一人称視点によるガンシューティングの様なゲーム性で、セガサターン版はガンコントローラーにも対応していた。
戦闘パートはストーリーの随所で挿入され、街中での銃撃戦やカーチェイス、さらには宇宙空間での戦いなど、熱いシチュエーションの数々が用意されているのだ。
筆者が本作を初めてプレイしたのは小学校低学年くらいの頃だったので、そのときは当然ストーリーの内容など全く理解しておらず、ただただ銃撃戦だけが楽しくてプレイしていた。
戦闘パート以外にもちょっとした謎解き要素や、本作の目玉ともいえる爆弾解体パートなども存在する。この爆弾解体パートが本作でもっとも鬼門で、1回でもミスをしてしまうと爆発してコロニーに穴が開いてゲームオーバーになってしまう。
まず第一段階として、店に並んでいる鞄の中に1つだけ爆弾入りのものがあるので、爆弾のありかを特定するところから始まる。店内の鞄は全部で21個。爆弾入りの鞄の見本と見比べてデザインが違うものを選んで、爆弾入り以外のものを全て排除していく。
見本と見比べられるなら簡単かと思うかもしれないがこれが意外と難しい。明らかにデザインが異なるものは問題ないのだが、パッと見どこに違いがあるのかわかりにくいものもいくつかあり、プレーヤーを爆死させる気満々である。
鞄を特定してからが本番の爆弾解体パートに突入する。制限時間以内にすべての起爆装置を解除できればクリアとなる。
ペンチやドライバーなどの工具を使って仕掛けを解除していくのだが、「光センサーの解除」、「振動センサーの解除」、「プレートの取り外し」、「起爆コードの切断」と作業工程は本格的だ。
コンティニューは無限ではあるが、解体作業をどこまで進めていたとしてもミスをしたら最初からやり直しになってしまうので、大詰めの部分でやらかしたときの絶望感は半端じゃない。まさに爆弾解体の緊張感をプレーヤー自身も体感することができるのだ。もちろん今回のプレイで筆者は何度も爆破し、存分に絶望を味わうこととなった。
30年経っても色褪せない不朽の名作「ポリスノーツ」
今回改めて「ポリスノーツ」をプレイしたが、30年前の作品とは思えないほど全く古さを感じさせない内容で、どれだけ年月が経っても色褪せない名作であることを改めて再確認した。
これまで数えきれないほどプレイしてきたので正直を言って内容はハッキリと覚えていた。なので今回の原稿を書くにあたって“とりあえず中盤くらいまでプレイすればいいだろう”と思っていた――のだが、一度プレイを始めてしまったらもう止まらない。エンディングまでノンストップである。
強大な敵に力を合わせて立ち向かう姿や、気心の知れた2人ならではの軽快な掛け合いなど、ジョナサンとエドの名コンビがバディものとしての面白さを見事に表現しているのだ。小島監督の中でも思い入れがあるのか「METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS」にも、セルフパロディでジョナサンとエドというキャラクターがコンビで登場していたりもする。
ほかにも、元妻の娘であるカレンとジョナサンの複雑な関係や、ネタバレになってしまうので詳しい内容は伏せるが、非人道的な描写やショッキングな内容が含まれる衝撃的なストーリー展開などとにかく見所が満載。エンディングを迎えたときは、まるで大作映画を見終わったような満足感に包まれること間違いなしだ。
「ポリスノーツ」がリリースされているのはPC、3DO、PS、セガサターンと、ソフトとハードを揃えるのはどれもかなり敷居が高いが、PSPやPS3、PS VitaなどでダウンロードできるPSアーカイブスでも配信されているのでこちらは比較的手が出しやすいハズだ。本作をまだ遊んだことのない人は絶対にプレイしてもらいたい。いや、プレイしたことがある人ももう一度改めて遊んでもらいたい。
(C)1994 1996 KONAMI