【特別企画】

「実況パワフルプロ野球'94」30周年! 見た目はコミカルでも中身は超リアル。記念すべきシリーズ第1弾の回顧企画をプレイボール!!

【実況パワフルプロ野球'94】

1994年3月11日 発売

※画像はスーパーファミコン版「実況パワフルプロ野球'94」より

 1994年3月11日にコナミ(現:コナミデジタルエンタテインメント)がスーパーファミコン用ソフトとして発売した「実況パワフルプロ野球'94」が、本日で30周年を迎えた。

 本作は、今なおシリーズ作品が出続けている野球ゲーム「パワプロ」シリーズの記念すべき第1弾にあたる。その名のとおり、試合中は「アベロク」こと安部憲幸アナウンサーのバリエーション豊かな“実況”と、ウグイス嬢による選手紹介などのボイスが流れるのが大きな特徴で、NPBの全12球団、選手、スタジアムもすべて実名で登場する。IBM BIS(現:NPB BIS)のプロ野球公式記録に基づいたデータが盛り込まれ、当時はまだ珍しかったバッティングとピッチングの3D化も実現し、多くのプレイヤーを大いに驚かせた。

 「パワプロ」シリーズ名物のオリジナル選手育成モード、「サクセス」はまだ存在しなかったが、それでも本作は十分に面白く、稀代の傑作であることに疑いの余地はない。以下、シリーズ第1弾から久しく「パワプロ」シリーズに熱中し、元野球少年でもあった筆者なりに、ゲーム史に残る本作ならではの魅力を改めて振り返ってみた。

プレイヤー、プロ野球ファンをアツくさせるシステムが満載

 本作の最大の特徴は、選手たちは2頭身のコミカルなビジュアルでありながら、まるで自身がプロ野球選手になったかのような気分で打つ、投げる、走る楽しさとリアルさを存分に堪能できるところにある。

 バッティング時は、画面中央に表示されるストライクゾーンを目安にストライク、ボールを見極めつつ、球速や球種に合わせてミートカーソルを操作して打ち返す。ボールの軌道は左右だけでなく、高低と緩急の変化も読むことが必要となるので、プレイヤーはまるで本当に打席に立っているかのような気分にさせてくれる。打率の高い選手はミートカーソルが総じて大きく、ホームラン数の多いスラッガーは打球が飛びやすいので、例えば辻発彦(西武 ※所属球団は当時のもの。以下同)が打席に入ったらはコツコツ当てて出塁を狙い、池山隆寛(ヤクルト)であれば三振覚悟の一発狙いでブンブン振り回すなど、各選手のイメージを脳内変換しながらプレイするのがとにかく面白い。落合博満(中日)の神主打法や、バーフィールド(巨人)をはじめとする外国人選手のクラウチングなど、選手ごとの構え方を再現しているのも嬉しい。

各選手には詳細な能力値が設定され、身体能力はA~Dの4段階で評価していた
当時のミートカーソルは四角形。今となっては実に懐かしい
「強振」システムも当時から実装。当たればデカイが、空振りしやすいリスクも伴う
落合(博)が打席に入ると、本物と同様に神主打法で構える

 ピッチングの際は、ピッチャーごとに球速、球種および変化球の曲がり具合などがまったく異なるので、それぞれの特徴を把握しつつ、相手バッターをいかに抑えるのか、配球を考えながら試合を組み立てるのが実に面白い。サイドスローやアンダースロー、さらには野茂英雄(近鉄)の代名詞、トルネード投法のフォームも再現しており、ランナーが出ると全員セットポジションにちゃんと変わる。猪俣隆(阪神)のナックルをはじめ、今中慎二(中日)のスローカーブ、佐藤義則(オリックス)のSFF、伊藤智仁(ヤクルト)の高速スライダーなど、ごく一部のピッチャーしか使えない、独特の軌道を描く変化球を自由自在に投げられるのもたまらなく面白かった。

 グラウンドを立体的に表示したうえで、ミートカーソルを操作して打つ、またはカーソルを動かしてピッチングができるシステムは、1991年に同じくコナミが発売したPC(X68000)用野球ゲーム「生中継68」にすでに導入されていた。あくまで筆者の私見になるが、本作は「生中継68」よりもボールの軌道がよりリアルになり、打つ楽しさも投げる楽しさも、特にプレイヤー同士で対戦した場合は、さらに増していたように思う。

伊藤(智)の伝家の宝刀、高速スライダーは、不調の状態で投げてもキレッキレ
こちらはパームボールの使い手、石井丈裕(西武)。ゆっくり、かつ大きく落ちるので見た目以上に打ちにくい
かの有名な野茂の「トルネード投法」も見事に再現

 守備と走塁を巡る、駆け引きの面白さと緻密さも「パワプロ」の大きな特長だ。相手がバントをすると読んだら「前進守備」にすかさず切り替えたり、牽制球に警戒しつつ盗塁やエンドランを仕掛けたりなど、時には選手たちを操作しつつ監督のようにチームを指揮することも求められる。ランナーを操作中は、LRボタンを連打すると少しだけスピードが速くなるのも面白いアイデア。これによって、プレイヤーはたとえ凡ゴロを打った場合でも、自然と最後まで諦めずに全力疾走させる効果があったように思われる。

 また本作では、ホームベース上でのクロスプレイ時に、一部の選手はキャッチャーに体当たりを放ち、(攻撃側から見れば)成功すると相手キャッチャーの落球を誘い得点を奪うことも可能。これを利用して、たとえ完全にアウトのタイミングでも、ビハインドの場面ではイチかバチかの勝負を賭けるといった楽しみ方もできるアイデアも秀逸だった。

 筆者が本作を初めてプレイしたきっかけは、プロ野球好きでもあったゲーム仲間にすすめられたことだった。「バッティングとピッチングが3次元になってるのはカッコイイけど、頭でっかちの選手を動かしても楽しいのかな?」と、第一印象は正直あまり良くなかった。ところが、いざ遊んでみたら「超」が付くほどリアルさと面白さを兼ね備えていることがわかり、すぐに本作を気に入ってしまった。

 「ファミスタ」をはじめとする従来の野球ゲームとは異なり、バッティング時は左右だけでなく、上下の操作も必要となったため、筆者は初めのうちはほとんど打てなかったが、それでも夢中になって遊ぶほど面白かった。ピッチャーの投げたボールの軌道も実にリアルで、とりわけ郭泰源(西武)の高速スライダーの殺人的、かつ美しい軌道に大きな衝撃を受けたことを今でもよく覚えている。

 ほかにも、当時までほとんどの野球ゲームが導入していなかったであろう、パスボールやインフィールドフライなどのルールを実装したり、ランナーを任意の位置でストップさせる操作を取り入れたことで、ハーフウェーで打球の行方を確認できたりするなど、ありとあらゆる面でリアルさ、あるいは野球らしさが体感できたのも実に見事だった。

牽制、盗塁による駆け引きの楽しさも、ホームベース上でのランナーとキャッチャーが激突するクロスプレイ時の迫力も秀逸だった

実況演出以外にも独創的なアイデアが盛りだくさん

 本作はプレイボールからゲームセットまで、状況に応じてさまざまな実況ボイスが流れる。それだけでも当時としてはすごいことだったが、きわどい判定だった場合は「アウトォ!」「セェーフ!」と口調がより強くなったり、野手がダイビングやジャンプでフライ、またはライナーをキャッチすると「取った、ナイスプレイ!」とプレイヤーを褒めたりするなど、TPOに応じたボイスを流す演出も本当に素晴らしかった。

 実際の野球や人間では起こり得ない、ゲームならではの楽しい演出やアイデアも満載だ。中でも特に面白かったのが、連打や失点が重なりピンチが続いたピッチャーは、頭が混乱して「ふらふら状態」になってしまうこと。ふらふらになると、狙ったコースからボールが大きく外れてボールになったり、ド真ん中に棒球を投げたりする失投の確率が大幅にアップするので、投手交代のタイミングも試合に勝つうえでは重要なポイントとなった。

ピッチャーの失投、メロメロ状態も面白いアイデア
ファインプレイの場面では、プレイヤーを褒め称える実況と声援が流れる演出もこれまた素晴らしい

 バッターが空振りすると勢い余って転んだり、デッドボールを受けると泣き顔になったり、あるいはギリギリでストライクのボールを見送ると後方をチラッと振り返ったりするなど、選手たちの細かい仕草も見ていて楽しい。またマニュアルには明記されていないが、攻撃側のプレイヤーが投球前にセレクトボタンを押すとバッターがスパイクで足元をならし、守備側のプレイヤーがボタンを押した場合は、ピッチャーが首を左右に振る演出も用意されている。

 隠しデータとして、一部の選手には「対左投手に強い(または弱い)」「ピンチに強い(または弱い)」などの特殊スキルが設定されていたことも本作ならではの大きな特徴だ。筆者は当時、攻略本でその存在を初めて知り「ここまで細かい能力が設定されているのか!」と衝撃を受けた記憶がある。「人気者」のスキルを持った選手が打席に立つと、観客が「ワーッ!」と騒ぎ出すなど、ゲームの進行に直接影響しないスキルをわざわざ用意していたことにも驚かされた。

 ちなみに本作には、全選手の中で唯一、ハウエル(ヤクルト)だけが持つ特殊スキル「サヨナラ男」が存在する。ハウエルは1993年に、日本記録となる1シーズン5本のサヨナラホームランを放った事実を反映させたものと思われるが、1人しか適用できない特殊スキルをわざわざ導入したところに、筆者は開発スタッフの尋常ではないこだわりと野球愛を強烈に感じたものだ。

ギリギリストライクのボールを見送ったバッターが「いまのはボールじゃない?」と言わんばかりに振り返る演出も心憎い
セレクトボタンを押すとバッターが足元をならし、同時にミートカーソルを定位置に戻せるアイデアも地味ながら素晴らしかった

 ところで、本作の実況システムは「当時としてはすごいことだ」と先ほど述べたのはいったいなぜか? その理由は、音声データの容量がとても大きいので、限られた容量のプログラム、あるいはROMの中に納めるためには、データ圧縮などの高い技術が必須となるからだ。逆に言えば、その突出した技術をコナミが持っていたからこそ「『実況』パワフルプロ野球」を完成させることができたのである。つまり「パワプロ」の登場は、技術面でも歴史に残る出来事だったのだ。

 手前味噌でたいへん恐縮だが、当時の技術的な事情などについて興味のある人は、2021年に「スポーツナビ」に掲載された拙稿「『ファミスタ』×『パワプロ』夢の対談! 開発者2人が振り返る野球ゲーム誕生秘話」で、コナミデジタルエンタテインメントの谷渕弘氏が貴重な証言しているので、ぜひご覧いただきたい(※全文を読むためには「スポーツナビ」公式アプリを使用することが必要)。

 2021年には、国際オリンピック委員会(IOC)主催の国際大会「オリンピックバーチャルシリーズ2021」に「パワプロ」が使用され、今年の11月には「WBSC eBASEBALL パワフルプロ野球」を使用した世界大会「ePremier12」が東京ドームで開催されることが決定している。そして今年の1月には、あの大谷翔平選手が「パワプロ」および「プロスピ」(こちらも今年で20周年を迎える)シリーズの公式アンバサダーに就任したことも発表された。誕生から30年が経過した今もなお「パワプロ」シリーズの動向には目が離せない。