【特別企画】

「SILENT HILL」シリーズ再始動第一弾タイトル「SILENT HILL: The Short Message」プレイレポート

SNS、いじめ、自殺などのセンシティブなテーマに挑戦したショート作品

【SILENT HILL: The Short Message】

2月1日 配信予定

価格:無料

 1999年に、初代プレイステーションで第1作目がリリースされたサイコロジカルホラー「SILENT HILL」。2013年にPlayStation Vitaでリリースされた「SILENT HILL:Book Of Memories」を最後にシリーズ展開が止まっていた。

 そして2022年に長い沈黙を破り、「SILENT HILL」シリーズの新作&リメイク作品が急遽4タイトルも発表された。そして今回、その時点ではまだ発表されていなかった「SILENT HILL: The Short Message(サイレントヒル:ザ ショートメッセージ)」が本日2月1日に無料配信された。

 「SILENT HILL: The Short Message」は単体で物語が完結する作品で、完全に独立したシリーズ短編となる。過去作と直接的なストーリーの繋がりは無い。そのため、本作から「SILENT HILL」シリーズに触れる人でも問題なくプレイが楽しめる。PS5で無料配信される作品ということもあり、2~3時間程度で終わるボリューム感となっている。

 本稿では、本作の世界観や作品の雰囲気などをお伝えできればと思う。なお、本作は“自殺”や“いじめ”などのセンシティブな要素を含む作品となっているので、その点を念頭に置いて読んでもらいたい。

ゲーム内で注意喚起のメッセージが何度も入るほど過激な内容となっている。ゲームの容量は約13.5GBだ
【SILENT HILL: The Short Message - ローンチトレーラー (4K:JP) | KONAMI】

不気味さに満ちた、自殺の名所の廃墟マンションを探索

 主人公「アニタ」の友達であるグラフィティ・アーティストの「マヤ」からメッセージングアプリで呼び出され、投身自殺の多い廃墟マンションを訪れるシーンからゲームが始まる。

 ゲーム開始時にキャラクターやストーリーの説明などはほとんどなく、見知らぬ空間にプレーヤーをいきなり投げ出すかのような恐怖感を冒頭から演出している。

本作の主人公のアニタ。周りの目を気にし過ぎて苦悩の日々を送っている
友達のマヤを探すため、廃墟のマンションを探索することになる

 本作は没入感の強い一人称視点で進行する。戦闘などは一切無く、探索をメインとしたウォーキングシミュレーター色の強いゲーム性となっている。進行ルートはほぼ一本道となっているので、調べる必要のあるオブジェクトさえ見逃さなければほぼ迷うことなくゲームを進めることができる。

基本は廃墟の中を探索するのみのシンプルなゲーム性
それほど多くはないが、謎解き要素も用意されている

 アニタが持つスマートフォンの明かりだけを頼りに薄暗い廃墟内を進んでいくのだが、朽ちたコンクリートの壁に書かれた落書きや捨てられたボロボロの人形、そこらで動き回っている虫など、どこを見ても嫌悪感を抱く要素が満載で先へ進むのが常に気が重い。PS5用のタイトルだけあってグラフィックスのレベルが高く、リアルな不気味さがプレーヤーを襲う。

 サウンド面もとても雰囲気を出しており、基本的には廃墟内を吹き抜ける風の音と、静寂の中に響き渡るアニタの足音や軋んだドアの開閉音のみ。開けていたドアが背後でバタンとひとりでに閉まるなどビビらせる仕掛けなどもあり、ヘッドホンを着用してプレイしていたら間違いなく声が出ていただろう。

廃墟内の不気味な雰囲気や音などでプレーヤーを震え上がらせる

 廃墟内には、マヤの描いた作品や様々な人が書き残した手紙などが散りばめられている。それらに触れることで、時代背景のほか若くしてグラフィティ・アーティストとして認められているマヤという人物像が見えてくる。

友達という設定しか分からなかったマヤの事が、ストーリーを進めることで明かされていく

 だがその華々しい成功の裏では“よそ者”、“成功への妬み”といった理由から、学校では壮絶ないじめを受け苦悩する場面も。陰湿ないじめの描写がリアルで、ゲームとはいえかなり気分が悪くなってくる。

陰口や罵声、ロッカーのイタズラなどの描写は心をえぐってくる

 SNSでもマヤの絵は称賛のコメントに溢れており、一方でアニタが投稿した(不気味な)イラストはコメントはおろかフォロワーが減ってしまうといった始末。自撮りの写真を投稿することでしか周りからの関心を得られないアニタの劣等感や、友達でありながら自分には無いものを持つマヤへの妬みなど、若者の不安定な心理をリアルに描いている。

マヤの絵との評価を比較して落胆するアニタ。上げている絵が絵だけにフォローはできない
フォロワーが減ることを極度に恐れている。病的のようにも思えるが、現実でも普通にある話である

 随所で導入されるイベントシーンの演出も特徴的で、本作のムービーシーンはなんと実写映像が使われている。異国からアニタの住む町にやってきたマヤは日本の役者が担当しているのも印象的で、まるで映画作品を観ているような感覚が味わえる。

さすがのPS5だけあって映像力が高くまるで実写の様……と最初は思ったが、本当に実写であった

 イベントシーンでもう1点特徴的なポイントは、廃墟に呼び出したマヤ、そしてもう1人の友達である「アメリ」とのメッセージングアプリのやりとりで物語が展開していくという見せ方だ。ゲームが進むにつれて不鮮明であったキャラクターたちのバックボーンなどがここで明らかになっていく。

キャラクター同士のメッセージのやり取りで、関係性なども見えてくる

 ゲームを進めていって衝撃的だったのが、アメリとの連絡を取る中でアニタが今いる廃墟のマンション屋上から“マヤは身を投げて自殺していた”という事実を知る。正確には、マヤがこの世を去っていたことを初めて知るのではなく、アメリの言葉をきっかけで思い出したのだ。

 友達であるマヤの死をアニタは何故忘れていたのか、既に死んでいるハズのマヤが何故アニタに連絡をできたのか、そして自分が自殺した場所にアニタを呼んだ理由とは? 謎が謎を呼ぶストーリー展開にプレーヤーをグイグイと引き込んでくる。

謎が多い展開だが、最後にはすべてが明らかになるので自分の目で確かめてもらいたい

恐怖のクリーチャーが迫る、トラウマ必至の逃走パート

 薄暗い廃墟という舞台、いじめや虐待などの人が持つ狂気性、人間が疲弊して弱っていく様など、そういった方向のホラー色が強い作品となっているが“物理的な恐怖”もしっかり用意されている。

 廃墟内を探索していると、「SILENT HILL」シリーズらしさ全開の独創的なデザインをしている“桜の姿をしたクリーチャー”が現われ追いかけてくる場面が存在する。クリーチャーに抵抗する術は無く、こちらを追ってこないエリアまでひたすら逃げ続けるしかない。

アニタを襲う頭部が桜の花のクリーチャー。生前にマヤは桜に憧れていたが何か関係があるのだろうか

 クリーチャーの見た目の不気味さもさることながら、痙攣したかのように身体を小刻みに振るわせながらものすごいスピードで迫って来る姿はとにかくインパクトが凄まじく、カッコつけて強がった感想を言っても滅茶苦茶怖い。撒いたと思って扉を開けた先にクリーチャーが立っていたときは比喩ではなく鳥肌モノであった。

扉を開けたら目の前に立っているのは正直心臓に悪い

 探索パートでは進行ルートがほぼ一本道なのだが、クリーチャーとのチェイス時は廃墟内の地形が変化する。序盤のクリーチャーからの逃走はさほど難しくはないのだが、ゲームが進むにつれて複雑で入り組んだ構造になるので、ルートを覚えずにがむしゃらに走っているだけでは同じ道を延々ぐるぐると回って逃げ切ることができない。

 クリーチャーに捕まると一発アウトだが、本作にはゲームオーバーという概念は無くクリーチャーが現われる直前のポイントからリトライとなるので、何度も挑戦すればいずれはクリアできるゲームバランスとなっている。しかし、最後のチェイスはかなりの難しさで、リトライに次ぐリトライの末に筆者は逃げ切るまでに30分以上も掛かってしまった。

試遊時間内にクリアできるかハラハラさせられるほど、最後のチェイスは難関であった

 今回の先行プレイでエンディングまでプレイしたが、難解なストーリーや世界観が売りの「SILENT HILL」シリーズの中では、本作のストーリーはある意味直球で、それでいて単純ではない複雑で重いメッセージ性を含んだ作品となっている。

 ネタバレになってしまうので深くは語れないが、「SILENT HILL: The Short Message」はただのホラー作品というだけではなく、若者の中に渦巻くリアルな葛藤や闇を鋭く切り込んでいる。

 受け取り手によって評価が大きく変わりそうなストーリーだが、「SILENT HILL」シリーズファンだけではなく多くの人にプレイしてもらい、物語の結末を見届けてほしい。

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