【特別企画】

「テニプリ」の愛称で親しまれている「テニスの王子様」はコミックス発売から24周年!

個性的な中学生達が予測不能の熱い戦いと青春を繰り広げる大人気テニスマンガ

【「テニスの王子様」コミックス1巻】

2000年1月7日 発売

 アニメやマンガに詳しくなくても、きっとどこかで一度は「テニプリ」というワードを見聞きしたことがあるのではないだろうか。「テニプリ」こと「テニスの王子様」は、主人公・越前リョーマの成長と、中学テニス部の熱い戦いを描いた許斐剛氏による大人気青春スポーツマンガだ。そんな「テニスの王子様」がコミックス1巻発売から本日で24周年を迎える。

 本稿では、コミックス第1巻の発売24周年を迎える「テニスの王子様」の魅力を中心に“テニプリの世界”を少しご紹介したい。筆者にとって思い入れのある作品故に少し長めの本稿だが暇つぶしにでもお付き合いいただけたら嬉しい。また、以降はネタバレも多く含むので注意してほしい。

今なお連載が続く「テニスの王子様」とは

 「テニスの王子様」は週刊少年ジャンプ(集英社)にて1999年32号から連載開始後、2008年14号まで約9年間に渡り連載された。さらに2009年3月からはジャンプスクエア(集英社)にて新シリーズ「新・テニスの王子様」が連載開始され、現在も絶賛連載中の大人気ご長寿テニスマンガだ。

 「テニスの王子様」のコミックスは全42巻で完結しており、2022年時点の累計発行部数は6,000万部を突破。また、2001年10月にはアニメ化され、2005年3月までテレビ東京や系列局で放送された。

 アニメ版放送終了後も本作の人気の勢いは止まらず、公式ファンブック、OVA化、アニメ版声優陣が歌唱するキャラクターソングの定期的なリリース、コンサート、劇場版の放映、ゲーム(コンシューマー/アプリ)、人気2.5次元俳優達による舞台化(通称「テニミュ」)など主に女性をターゲットにした多種多様なメディアミックス展開が行なわれ、多くの入り口が用意されている。

 どこからでも流入できて楽しめる仕組みを作り上げた「テニスの王子様」は、今やキャラクターコンテンツの代表格としてもその名を馳せ、既存ファンを大切にしながらも世代を問わず新たなファン層を常に獲得し続けている。

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原作マンガ「テニスの王子様」、「新テニスの王子様」シリーズ連載が2019年に20周年を迎えるにあたり、名試合をスタッフ&キャストが新たな想いを込めて描き出すプロジェクト新作OVA「テニスの王子様 BEST GAMES!!」も話題となった

 週刊少年ジャンプでは過去にバスケットボールを題材に青春スポーツマンガとして伝説的な人気を残した「SLAM DUNK」をはじめ、「キャプテン翼」、「アイシールド21」、「ハイキュー!!」、「黒子のバスケ」等の様々な人気スポーツマンガが連載されてきた。そんな過去の連載作品数が700作品を超えた週刊少年ジャンプの世界で「テニスの王子様」は長期連載ランキング上位(14位)に君臨している。(※参照「統計情報リサーチ」

 まさに平成・令和と時代を駆け抜けるビッグネームタイトルとなった本作は、少年マンガらしい現実的なスポ根要素をしっかりと踏襲したストーリーに加えて、キャラクター達が繰り出す必殺技の数々は、読者をワクワクさせながらも予想を遥かに凌ぐ驚きの展開を見せてくれる。時に非現実的なテニスプレーの数々と魅力溢れる個性的なキャラクター達そのものが本作最大の魅力だろう。

あらすじ

 テニスの名門校・青春学園中等部に入学してきた越前リョーマは、過去アメリカJr.大会連続優勝の経歴を持つテニスの天才少年。

 中学入学と同時にテニス部に入部したリョーマは、1年生であるにも関わらず異例のレギュラー入りを果たす。

 青学レギュラー陣として他校の個性的な選手達と切磋琢磨しながら成長し、全国大会優勝を目指していく。

 「テニスの王子様」では中学部活動のテニスの試合を中心にストーリーが進む。主人公が属する青春学園中等部が地区大会、都大会、関東大会、全国大会と名だたる他校の強者達と熱いコート上の試合を繰り広げながら優勝を目指していくというスポーツ青春マンガ王道のストーリーがベースになっている。

 主人公は当時の少年マンガには珍しく、生意気かつ負けず嫌いなクールな性格。入部時点から天才的なテニスの実力とセンスを持っているという一般的にはライバルキャラのような設定で、その意外性から読者の興味を引く。

 また、主人公を含め各キャラクター達のテニスに対する熱さには、勝利も敗北も一緒にコートの側で見守っているような気持ちにさせられる。ストーリー自体は極めてシンプルだが、魅力的なキャラクター同士の多彩で奇抜な必殺技の数々と、そこで生まれるドラマにはいつの間にか魅了されてしまう。

 基本的には試合シーンがほとんどを締めている本作だが、合間に日常パートなども挟まれていて、主人公がテニスで世直しをするような勧善懲悪なストーリーなど、キャラクター達の意外な一面や素顔も楽しめるようになっており、より一層本作の魅力が深まる要素の一つとして読者の心を掴んで離さない。実は筆者も本作のキャラクターに魅せられた読者の1人だ。

読者を魅了する個性豊かなキャラクター達

 圧倒的に女性ファンが多い本作。主人公「越前リョーマ」をはじめ、どのキャラクターも強いビジュアルと個性を持ち、新たな学校が登場するたびに目移りしてしまう。

 中学生のわりに、主人公以外がやたらと大人びたビジュアルで大学生も紛れているのではないか? と疑ってしまうが、その理由として過去にミュージカル版の公式Q&Aでは「 主人公のリョーマの視点で描かれているから 」と書かれている。(※世界一わかりやすいテニミュQ&Aより)

 そういえば筆者が中学1年生の時の先輩達はとても大人っぽく見えていた気がする。作中では、各中学校ごとに実に数多くの魅力的なキャラクターが登場するため、ここでは主に主人公属する青春学園中等部(※以降「青学」)を中心に一部だが紹介したい。

青春学園中等部

越前 リョーマ(1年)
必殺技:ツイストサーブ・ドライブA~D・サムライドライブなど

 非常にクールな本作の主人公。アメリカJr.大会優勝記録を持つテニスの天才少年。

 青学テニス部へ入部するや否やいきなりレギュラー入りを果たす。「まだまだだね。」など挑発的な態度で先輩や対戦相手を煽るなど生意気で負けず嫌いな性格をしている。だが実際に実力も伴うリョーマ故に、先輩達からは温かく見守られている。リョーマの実力を認めている部長の手塚国光からは「青学の柱になれ」と信頼されており、面倒見の良い桃城武とは先輩後輩としていいコンビ感がある。帰国子女なだけあってバイリンガル。時折対戦相手を英語で煽ることもある。トレードマークはFILAの帽子。よく動物に懐かれる。

手塚 国光(3年)
必殺技:手塚ゾーン・手塚ファントム・零式サーブなど

 どう見ても部顧問に見えるビジュアルだが、青春学園中等部テニス部の部長を務めている立派な中学3年生。

 中学テニス界ではその名を知らない人はいないほどの全国区でも実力者。笑顔を見せず、口癖は「油断せずに行こう」など大人顔負けの落ち着いた性格で、「グラウンド◯周!」と自分にも部員にも厳しく妥協を許さない努力家。中学1年の頃の先輩にラケットで左肘を殴られて負傷し、以来左肘を庇ってテニスを続けたため手塚本人も気づかぬうちに左肘に爆弾を抱えることになる。実は家ではお笑い番組を見ている。

大石 秀一郎(3年)
必殺技:ムーンボレー・オーストラリアンフォーメーション・大石の領域(テリトリー)など
 青学テニス部副部長。クールな手塚とは対象的な温かい人柄で手塚をフォローする。その穏やかな人柄から「青学の母」とも呼ばれている。菊丸とのダブルスは他の追随を許さぬほどの完成度で「ゴールデンペア」と称されている。いつも全体のことを考え、部員一人一人のメンタルケアにも気を遣う。口癖は「こりゃ大変」。テニス以外の特技はひよこのオスメス鑑定。

乾貞治(3年)
必殺技:データテニス・高速サーブ・ウォーターフォール
 青学テニス部のデータマン。分厚いメガネをかけており、部内では部員のトレーニングメニューを作るなどマネージャーや参謀のような立ち位置。レギュラー陣の中では手塚・不二に次ぐ実力の持ち主。口癖は「~の確率、◯%。」など。ランニングで遅かった者や練習試合で負けた者には、自作の怪しいドリンク(通称「乾汁」)を飲ませ、部員のモチベーションを高めている。韓国映画が好き。

菊丸 英二(3年)
必殺技:菊丸印のステップ・菊丸ビーム・菊丸バズーカなど

 アクロバティックテニスを得意とし、どんな体勢からでも返球する予測不能な動きで対戦相手を翻弄する。ダブルスプレーヤーで大石とのダブルスでは右に出る者はいない。気分屋で天真爛漫な性格で、原作だと「~よん」という独特の語尾がつくが、アニメ版だと「にゃ」という語尾がつく。右頬の絆創膏がトレードマーク。アクロバティックプレイのため彼だけハーフパンツの下にスパッツを仕込んでいる。ふわふわオムレツが好き。

不二 周助(3年)
必殺技:つばめ返し・羆落とし・白鯨など

 カウンター技を得意とし、部内では手塚に次ぐNo.2の実力の持ち主で全国区レベルの実力を持つ。一人称は「僕」だがたまに「俺」になることも。シングルスもダブルスもどちらもそつなくこなす器用さもあり、ダブルスでは河村と組むことが多い。他人に弱点を知られることを嫌っており、同じ青学の乾ですら正確なデータが取りづらい底の見えないプレーヤー。性格は穏やかで物腰も柔らかく家族や友人思い。だが二面性を持ち、一度激情すると普段糸目の穏やかな目が開眼しその様子は凄まじい。部長の手塚と本気の試合をすることを強く望んでいる。また、自身は勝負への執着心がないとも語っている。辛いものが好き。

河村 隆(3年)
必殺技:バーニングサーブ・波動球・両手波動球など

 青学レギュラー陣の中では唯一3年になってからレギュラー入りした。小学生の頃に空手をやっていたこともあり青学一のパワーを持つ。部長の手塚以外からは「タカさん」と呼ばれるなど温厚で優しい性格だが、一度ラケットを持つと「バーニング!」の口癖と共にテンションが上がり豹変する。特別な才能やテクニックがないことを気にしており「みんなの足手まといにならないように」と無茶をすることも。実家の寿司屋の手伝いをしてから朝練に行なっている。

桃城 武(2年)
必殺技:ダンクシュマッシュ・ジャックナイフ・弾丸サーブなど

 ずば抜けた身体能力を活かした豪快かつ繊細なテニスが得意。熱血漢で上下関係に拘らない人懐っこい性格。

 後輩には「桃ちゃん先輩」と呼ばれ慕われている。口癖は「(~しちゃ)いけね~な、いけね~よ」と独特。熱血漢だが以外と冷静に周りを見ており、洞察力と判断力にも優れている。手塚とは違った形でリョーマのことを気にかけており、よくリョーマを自転車の後ろに乗せている。海堂とはしょっちゅう喧嘩しているが良きライバルでもあり海堂とのダブルスでの試合にも勝っている。アイドルグループの曲が好き。

海堂 薫(2年)
必殺技:スネイク・ブーメランスネイク・トルネードスネイクなど

 相手の体力を奪うプレイスタイルから通称「マムシ」の異名を持つ。人付き合いが苦手で無口。鋭い目つきで少々血の気も多く喧嘩っ早いので誤解を受けがちだが、本当は礼儀正しく常識もあり正義感も強い。おまけに猫など小動物が好きという可愛いギャップがある。かなりの努力家で日夜トレーニングを欠かさず行なっている。一日の走行距離は25キロ。テニス以外の特技は家事全般。

立海大附属中学校(ライバル校)

必殺技:五感剥奪(イップス)※厳密に言うと幸村には必殺技はなく、相手の打球をどんな技やコースでも全て必ず打ち返すことができる(以外とノーマル……)
幸村 精市(3年)

 本作のラスボス。立海大附属中テニス部部長で全国2連覇の立役者でもある「立海三強(ビッグスリー)」の1人。

 全国大会決勝戦まで無敗かつ一ゲームも落とさずきたことから「神の子」の異名を持つ。中学2年の冬に免疫系の難病を患い入院。後に壮絶なリハビリを経て全国大会から復帰した。中性的で優しそうな見た目をしているが、王者立海の部長に相応しい厳格さで指揮統括を行なう。勝利への執着心が異常に強く時に冷酷な指示を下すことも。コートを出ると穏やかな性格で口癖は「死角はない」など。ジャージに袖を通さず肩に掛けた状態でテニスをする。

真田 弦一郎(3年)
必殺技:風林火山・風林火陰山雷など

 立海大附属中テニス部の副部長。言動や立ち居振る舞いから部長を間違われがち。幸村不在時は幸村に代わりぶを仕切っていた。「立海三強(ビッグスリー)」の1人で「皇帝」の異名を持ち、「風林火山」という4つに分けたプレイスタイルを奥義とする。性格は厳格そのもので他人にも厳しく自分にはさらに厳しい。口癖は「たるんどる!」、「たわけ!」などかなり古風。手塚以上に中学生とは思えない顔立ちで度々疑われる。お小遣いの使い道は貯金。

柳 蓮二(3年)
必殺技:データテニス・かまいたち・空蝉など

 「立海三強(ビッグスリー)」の1人で卓越した技巧から「達人(マスター)」の異名を持つ。

 データテニスを得意とし、立海では参謀としてもその能力を発揮。幸村から絶大な信頼を寄せられている。青学の乾とは幼馴染で乾にデータテニスを教えた師でもある。普段は長時間目を開けていられないらしく糸目だが時折試合中開眼するタイプ。性格は冷静沈着で口癖は「~とお前は言う」。好きな音楽は雅楽。

氷帝学園(ライバル校)

必殺技:氷の世界・破滅への輪舞(ロンド)・タンホイザーサーブなど
跡部 景吾(3年)

 氷帝学園中テニス部200人の頂点に立ち「オールラウンダーの中のオールラウンダー」と呼ばれる凄腕プレーヤーでテニス部部長。自ら「美技」と称する必殺技を多く持つ。決め台詞は「俺様の美技に酔いな」。

 氷帝学園に多額の寄付を行っている「跡部財閥」の御曹司でテニスの本場である英国育ちの帰国子女。

 全国大会決勝を前にリョーマが行方不明になった際には捜索に協力するなど面倒見のよい一面も。また、勝負ごとにおいては冷徹な一方でテニスや仲間に対しては熱い感情を覗かせる。圧倒的なカリスマ性にファンからは「跡部様」と呼ばれ 絶大な人気を誇っている。さらにはそのカリスマ性からマンガ・アニメの世界を飛び出して 森永乳業のCMにも大抜擢されるほどだ。口癖は「あ~ん?」など。本稿でも敬意を表し、以降は「跡部様」と記述させていただく。

テニスなのに!? 誰もがワクワクするキャラクター固有の必殺技!

 ここまでで紹介してきな各キャラクターの紹介を読んで「テニスに必殺技?」と思われるかもしれないが、各キャラクター固有の技があることで、打球のラリーにアクションファンタジーのようなキャッチーさが生まれる。これが子どもから大人までエンタメ的に楽しめる本作の強力なフックとして作用している。

 筆者が当時最初に心を奪われたのは、青学レギュラー陣の中でも天才と称される不二周助の多彩なカウンター技の数々だ。不二周助は主にカウンター技を得意とし、青学レギュラー陣の中ではどちらかというとトリッキーなキャラクターとなっている。

 相手のボールが一切バウンドしなくなる「 つばめ返し 」、逆風が吹いている時にのみ発動可能な強烈なバックスピンと共に自分のコートへボールが戻ってくる「 白鯨(はくげい) 」、相手が打ち返したボールがネットを超えることができない「 百腕巨人(ヘカトンケイル)の門番 」などなど、いかにも中学生らしいインパクトのある名前の華麗なカウンター技を持つ。「テニスの王子様」連載当時ちょうど彼らと同じく中学生くらいだった筆者は、所謂中二病が刺激されワクワクするような技を見て例にも漏れずテンションが上がった。

 しかも不二周助は二面性を持つキャラクターだ。普段ニコニコと優しい雰囲気を醸し出しているが、ここぞという時に開眼しミステリアスな雰囲気へと一気に様変わりする様子は色っぽさもある。特に「白鯨」を放つ時にキッ!と開眼し「 さあ もう一球いこうか…… 風の止まないうちに 」(コミックス17巻/Genius142)とまるで全てを掌握したかのようなセリフには、その限界突破したかっこよさに一瞬にして不二周助というキャラクターが筆者の最初の王子様となった。

 アニメ版の声優・甲斐田ゆきさんの低音で穏やかだが腹の底が見えない魅惑的な声の不二周助を見た時はあまりにもドンピシャ過ぎるキャスティングに、昼も夜もしばらく不二周助のことを考えていた。紛れもなく筆者にとっての青春の1ページだ。

 大人になった今、不二周助の試合シーンを改めて読み返すと若干のむず痒さを伴いつつも、やはり突き抜けた先のかっこよさがあり、これぞ「テニスの王子様」だとホームのような安心感すらある。

コミックス17巻

 物語序盤は必殺技を繰り出しつつも比較的リアルなテニスをしていた本作。例えば、リョーマの必殺技の一つで、打球が相手の顔面に向かってバウンドする「 ツイストサーブ 」という技。実際にはキックサーブと呼ばれるもので、作中のように顔面めがけてバウンスするというよりはサーブを打つ人の利き腕の方向にバウンドする技として実在するという。

 他にも、青学・海堂薫のポールの外側を通って相手コートにボールを打ち返す「 ブーメランスネイク 」も打球の描写がかっこいい技の一つ。バギーホイップショットというものの応用技で実際に再現可能なショットでもあるようだ。

 このように必殺技といっても実在するショットを元に編み出される必殺技もあるので、テニスをやったことがある人ならちょっと挑戦してみたくなるような、そんなキャッチーさももちろんある。マンガの世界のテニスとして十分にパンチもありスポーツマンガとしてもまだリアリティさを残していた。

 しかし、一体いつからSNSで話題になるような非現実的な新たなテニスマンガへと進化していったのか。

 読者の感覚にもよるかもしれないが、変化が訪れ始めたのは大体コミックス11巻くらいからではないかと筆者は考える。青学部長・手塚国光のボールの回転を自在に操ることで返球を全て自分の立ち位置にコントールする「 手塚ゾーン 」や、ボールが全く弾まない「 零式ドロップ 」など現実には不可能に近い必殺技が登場し始める。

 明らかに目を疑うような展開となったのが、コミックス21巻/Genius177の青学対六角中「不二周助/菊丸英二VS樹希彦/佐伯虎次郎」のダブルスでの試合だ。佐伯にマークされ動きを止められた菊丸は状況を打破すべく なんと2人に分身する

コミックス21巻

 さらにコミックス31巻/Genius267で珍しくシングルスでの試合で苦戦を強いられた菊丸は、「 ならダブルスでいくよ 」と もう一度2人に分身している 。もう一度言うがシングルスの試合で「ならダブルスでいく」と言っている。

コミックス31巻。作中には「会場にいる誰もが目を疑う そこには信じられない光景があった」(コミックス31巻P64)と、作中のテンション的にもあたかもこれまでは普通のテニスをしていたかのようなナレーションも入っているからにわかに信じ難い

 いずれも超高速移動をすることによって分身したかのように見せる技のようだが、これらのシーンはテニスにおけるダブルス・シングルスの概念を一瞬にして覆した。何度読み返しても予想の斜め上を行くどころか真逆にすら行ってしまう展開に脳内処理が追いつかない。逆に頭の中のいろんなことが一瞬吹き飛んでしまい、良い意味で笑いが溢れてしまう。「テニプリ」はこういうところが秀逸で病みつきになってしまう。

 他にも、同じパワータイプの青学・河村隆と四天宝寺中・石田銀の「波動級」は文字通りの必殺技で危険だ。石田に至っては「 ワシの波動級は百八式まであるぞ 」と言っている。そんなこと言われてしまったら絶望しかない。同じ波動級使い同士の河村と石田の試合ではお互いに負傷し、最終的に石田は棄権するが、河村に至っては肋骨3本にヒビ、大腿骨損傷、踵骨損傷、頚部挫傷、右足首の捻挫の大怪我を負っている。

 「四天宝寺中のレギュラー遠山金太郎の超強力なパワーショット「 超ウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐 」も危険だ。一言でいうとコート一帯に爆風が吹き荒れるくらいの威力で、この技が放たれる直前に「 逃げろ越前! 」(乾貞治/コミックス38巻Genius339)とその危険を察知したキャラクター達がそれぞれリョーマに声をかけるシーンがある。テニスマンガで「逃げろ」なんてセリフが出るのも「テニプリ」くらいだろう。

コミックス38巻

 コミックス5巻の巻末に収録されている本作の前進作となった特別読切の中で「テニスがネットを挟んでやるテニスで良かった」とリョーマが語っているが、そのセリフも虚しく、本編ではネットを挟んでいても選手生命が危ぶまれる局面が多々ある。

 このような必殺技は紹介し出すとキリがないが、やはり類を見ないテニスマンガとして衝撃を与え、新たな世界の第一歩を見せてくれたのは、謎のオーラを纏う「 無我の境地 」の登場からだろう。

コミックス22巻。「無我の境地」は簡単に言うと己の限界を超えた者だけが辿り着ける領域のこと。この領域に入るとオーラをまとい、身体能力が実力以上に上昇し、過去の対戦相手の技を無意識下で繰り出すことができる。しかし、同時に体力の消耗も激しく自身の制御が難しい状態でもある。所謂ゾーンに入っている状態。この無我の境地の先にある三つの扉が「才気煥発の極み」、「百連自得の極み」、「天衣無縫の極み」だ。三つ目の扉が「天衣無縫の極み」

 この「無我の境地」の三つ目の扉「天衣無縫の極み」にリョーマが辿り着くのが全国大会決勝戦の「越前リョーマVS幸村精市」(コミックス42巻/Genius376)の試合だ。

 幸村によって「五感剥奪(イップス)」にかかったリョーマは視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚が全て奪われ、選手生命が危ぶまれるピンチに陥る。

 vs王者立海らしいラスボス展開といえばそうかもしれないが「 は!? じゃあ、あの越前の様子はどう説明するんだよ!! 」と、作中のキャラクターですらどう考えても理解が追いつかない精神レベルで危険なテニスをしている。(※一応解説しているキャラクターによると、相手の打球をどんな技やコースでも全て必ず打ち返すことで「どんな球を打っても返ってくる」というトラウマを植え付けられ結果イップスのような状態に陥るのだとか)

 しかし、ここでリョーマは幸村によってかけられたイップスから「 テニスって楽しいじゃん 」の精神で、ついに「天衣無縫の極み」へと辿り着きイップスから己を解き放つ。目で追えないほどの打球を放つ無敵状態の身体能力を発揮するその様子はまるで「ドラゴンボール」でいうスーパーサイヤ人のようだ。

 なぜリョーマはイップスから抜け出せたのか、要するに「天衣無縫の極み」は「テニスを楽しんでいる」という精神状態のことで、テニスを始めたばかりの頃はみんな持っているものだとリョーマの父親・越前南次郎が語っている。(コミックス42巻/Genius378)この解説のお陰でラストの天衣無縫の極みの無敵状態がうっかり腑に落ちてしまった筆者。最終回「コミックス42巻/Genius379 Dear Prince」では号泣して筆者の心には王子様達が深く刻みこまれた。

 不二に続き幸村もご贔屓キャラとなってしまった筆者としては、最終話のがむしゃらに優勝を掴もうとする幸村の姿に感動させられたのも大きい。本作に登場する王子様達には皆それぞれ胸を打たれるシーンが必ずある。どんなに奇抜な必殺技を繰り出していても、やはり根底はスポ根ならではの熱いドラマがしっかり支えている。筆者は紛れもなく原作者である許斐剛氏の術中にハマってしまった一人だ。完敗だ。

こちらはCD「Dear Prince~テニスの王子様達へ~」のジャケット。最終話は許斐剛氏が作詞した「歌詞」でコマが進んでいく。この斬新さにはファンのみならずネット上でも話題となった。後に最終話で綴られていた歌詞がキャラクターソングで無事リリースされ、ファンの間にはこの曲の冒頭を聴くだけで膝から崩れ落ちる人もいるという。そう、筆者だ

 そして「テニスの王子様」は全42巻で幕を閉じることになるが、この後に始まる新シリーズ「新・テニスの王子様」で彼らはさらに高次元のテニスを披露している。最近SNSなどで時折バズっていることもあるのでご存知の方もいるだろう。

 「新・テニスの王子様」(※以降「新テニ」)では新たに高校生キャラクターも登場し、U-17W杯へ挑むストーリーになっているのだが、「テニプリ」で見せてくれた展開を遥かに凌ぐ必殺技の数々が箍が外れたかのように次々と飛び出してくる。