【特別企画】
それが100になった時、少年は……。超能力を持つ主人公の成長と葛藤を描く「モブサイコ100」はコミックス1巻発売から11周年!
2023年11月16日 00:00
- 【「モブサイコ100」コミックス1巻】
- 2012年11月16日 発売
Webコミック界の黎明期に革命を起こし「ワンパンマン」をはじめ、独特な作画から醸し出される絶妙なテンポ感のあるギャグとしっかりとしたストーリー展開で多くのファンを魅了し続ける漫画家ONE氏の青春超能力バトル漫画「モブサイコ100」が、コミックス1巻発売から本日で11周年を迎える。
「モブサイコ100」は2012年4月18日からウェブコミック配信サイト「裏サンデー」にて連載が開始された。その後2014年12月よりコミックアプリ「マンガワン」にて連載の後、2017年12月で完結。発売されているコミックスの累計発行部数は2016年時点で120万部を突破している人気漫画だ。
また、2016年にはBONES(ボンズ)によりシーズン1~3に渡り、原作に沿って完結までが丁寧にアニメ化されている。映像・音楽などの全てのクオリティの高さも相まって瞬く間に幅広い層に広がりを見せた本作は、人気アニメとしての地位も確立した。また、アニメ化のみならず、実写ドラマ化や2.5次元舞台化、原画展、コラボカフェなど、その後も作品の人気の勢いは止まることなく、現在もなお幅広くメディアミックス展開が行なわれている。
超能力や異能力がぶつかり合う少年漫画的なバトルアクションシーンやギャグシーンはもちろん魅力的だが、筆者が考える本作最大の見所はなんといっても、独特な作画に対してギャップのあるメッセージ性の強いセリフと、心の葛藤や成長が見られるヒューマンドラマだ。
空気が読めない、見た目も普通で地味な学生生活を送る主人公の影山茂夫(通称モブ)には、唯一「超能力」という特出した個性があった。
幼い頃のトラウマを抱えながら個性的な能力に悩んでいたモブは、ある日「霊とか相談所」の扉を叩いた。そこで出会った自称霊能力者の霊幻新隆に「力の使い方を教えてやる」とそそのかされたモブは、時給300円で除霊アシスタントとしてバイトをすることになる。
しかし、霊幻の呼び出しはいつも突然で簡単な除霊ばかり。日々淡々と除霊作業をこなしていたモブだったが「このままでいいのか?」とふと疑問を抱くようになる。
覚悟を決めたモブは、超能力に頼らず、好きな女の子に振り向いてもらうために「肉体改造部」に入部するが、超能力を必要としない生活を送ろうと奮起すればするほど、降りかかってくるあらゆる災難。本来の不器用な自分とは不釣り合いの超強力な超能力を持ったモブの感情が掻き乱され、募っていく。
そしてそれが「100」になった時、感情は爆発する……
物語の大枠としては、悪徳宗教団体や世界征服を目論む秘密組織と戦う正統派な展開で進んでいき、その果てに主人公モブ自身の心が大きく成長するという少年漫画の王道の展開だ。主人公は超能力以外はごく普通。だからこそ主人公の感情の揺れ動きが読者にも身近に感じられるような描写になっていて、読み進めるうちに前向きになれるようなすっきりとしたストーリーになっている。
「ワンパンマン」同様に、はじめから強い主人公が誰よりも現実的な問題に立ち向かって生きているというギャップも面白い。さらに、シリアスとギャグの融合によって生まれる原作者ONE氏独自の世界観は唯一無二と言えるだろう。
今回はそんなONE氏の名作「モブサイコ100」の魅力を、作中に登場する印象的なセリフと共に紹介していきたい。また、以降はネタバレも含むので苦手な方は要注意だ。
リアルな既視感。個性あふれる魅力的なキャラクター達
本作には、主人公モブをはじめ、二面性を持っていたり、個性的なキャラクター達が多数登場する。笑わせられたり感動させられたりハラハラさせられたり、キャラクターが繰り広げるドラマには終始引き込まれっぱなしになる。
・ 影山茂夫(通称モブ)
本作の主人公。超能力を持っているが空気が読めず運動神経も悪い地味な少年。
霊幻の元で除霊アシスタントとしてバイトしているが、本当は幼馴染のツボミちゃんと付き合って青春を謳歌したいという男子中学生らしい願望を持っている。
ある日他校との不良同士の喧嘩に巻き込まれ、最強と言われていた花沢に超能力を使って勝ってしまったことから「白Tポイズン」の異名を持つようになる。普段のモブは穏やかで、自分とは真逆の弟の律のことを心から尊敬している優しいお兄ちゃんでもあるが、感情が100%まで高ぶると、ビジュアルが一変しやや攻撃的な口調になる(そこがギャップあってかっこいい)。
・ 霊幻新隆
「霊とか相談所」を経営する自称霊能力者。霊能力はないが、優れた洞察力と話術で顧客の依頼をそれっぽく解決している。周りには霊能力がないことを隠し、モブのことを時給300円で雇い、全ての除霊作業はそれとなく理由をつけて全てモブにやらせている。霊幻には「ソルトスプラッシュ」(粗塩を霊に向かって投げつける技)をはじめとする必殺技が数多く存在するが、対人間以外は全く効果がない。
・ エクボ
宗教団体(笑)(読み:かっこわらい)の教祖で、実体は上級悪霊。
しかし集会に居たモブによって団体そのもが解体されてしまう。モブの力を利用し、いつか体を乗っ取って世界の「神」になることを目論んでいるが、モブの信用を得ようとするあまり普段は面倒見の良いお節介なおじさんとなんら変わりないどこか愛らしいキャラクター。モブや霊幻と共に行動している。
・ 影山律
モブの弟。ルックスもよく、成績優秀で運動神経も抜群、おまけに生徒会という兄とは真逆の個性を持っている。兄弟仲は良く、兄であるモブに異常に優しいが、それにはモブの力の暴走を防ぐため、できるだけ刺激しないようにという意図もあった。しかしモブの超能力には嫉妬心を抱く二面性もある。ある日とある事件に巻き込まれて以降、眠っていた律の超能力が目覚めた。
・ 花沢輝気
黒酢中の年。通称「テル」モブと同じく超能力を持ち、自分は特別だと思い込んでいた少年だったがモブの圧倒的な力をみて自分が思い上がっていただけだと気づく。それからはモブをリスペクトしライバルとして意識するようになる。プライドをへし折られたのにも関わらず、前向きに凡人である自分を受け入れ、さらにそこから成長していこうとするテルがかっこいい。超能力を使う時なぜか内股になる。
・ 鈴木ショウ
超能力結社「爪」のボスの息子。元々は父親の元で組織の一員として優秀な幹部を見つけるために動いていたが、実は父親の計画を阻止するため暗躍している。強力な超能力者ではあるが父親よりは弱い。律と自分の環境が似ているため律とはよく話し信頼を置いている。律の家族を守る、父親とは異なりまともな心優しい少年。
【敵サイドのキャラクター】
・ 鈴木統一郎(超能力結社「爪」のボス)
48歳、通称「ボス」。世界中から優れた超能力者を集めて20年にわたり資金を蓄えついに世界に対して宣戦布告を行なう。総理大臣を誘拐するなど大胆なやり方で世界を破壊し、全てを支配しようとする男。
・ 最上啓示
生前、世界一有名だった霊能力者。自分の力を他人のために使っていたが、そのせいで母親が亡くなってしまうという不遇な男。以後は自分のために力を使っていた。死後「世直し」をするため最強の悪霊となってしまった。
【その他のキャラクター】
・ 高嶺ツボミ
塩中に通うモブの幼馴染で意中の女の子。学校一の美女でかなりモテるが気が強く、ちょっと癖のあるキャラクター。モブには興味なさそうに見えるが、以外とこっそり応援している。しかしモブのことを恋愛対象としては見ていない。
・ 郷田武蔵(塩中肉体改造部/部長)
突然入部希望したモブをすんなりと受け入れ、モブが貧血で倒れたり、窮地に陥った時なんの疑いもなく助けてくれる人格者集団の部長。熱血漢で中学生とは思えない仕上がった精神と肉体。まさにモブの目指している先にいるような人物だ。
心を打たれる作画とストーリー。ギャップの引力がすごい。
マンガでまず読者の目に飛び込んでくるのはなんといっても作画だろう。
本作のストーリーの魅力をより引き立てているのは紛れもなく、ONE氏の個性的で独特な作画だと筆者は考える。
例えるならば、学校の休み時間に教室の隅で1人黙々と自由帳に描き進めたようなタッチで、本当にONE氏の情熱や世界やメッセージがそのままマンガになっているように見える。筆者は初めて本作のページを開いた際、このストレートさにまず心を打たれた。いわゆる誰もが想像する商業マンガの作画のイメージとは異なり、線の強弱はごくシンプル、人物デッサンもかなり独特である意味とても味がある。
だが、バトルシーンの描写は動きや迫力がわかりやすく伝わってきて、まるで小さい頃にマンガやアニメを見て妄想したようなバトルシーンがあの頃のままのテンションで描かれているようでなんだかワクワクする。
キャラクターの心の動きが顕著に表れているシーンでは、表情が細やかに表現されており、少しゾッとするほど異様な状態が伝わってくる。
読んでいるうちに作画とストーリーのギャップが癖になりぐんぐんと「モブサイコ100」の世界に引き込まれていく。この作画だからこそ、より本作のエモーショナルを感じることができるのではないかと思う。まさに本作の魅力の一つだ。
特別な存在に憧れる能力者達。それぞれ本当の自分と向き合っていくヒューマンドラマとしての魅力
本作の最大の魅力であり、ストーリーの根幹となるのが主人公モブの心の揺れ動きと成長だ。過去のトラウマやコンプレックスを払拭するために生まれ変わろうと日々自分自身と戦い続けているモブは、自分のみならず様々なキャラクターに影響を与え、そして彼らもまた成長していく。特に主人公のモブと霊幻のセリフはいつでも心に置いておきたい様なセリフが多数登場する。ここではそんなキャラクター達の印象的なセリフをいくつかご紹介する。
・ 「とにかく、ケンカには使わない。それに、僕は超能力に頼った生き方はしたくない。自分の中の、他の魅力を探すんだ」 (影山茂夫/モブ コミックス2巻第14話)
モブにとっては「超能力は必要ないもの」なのだ。自分がなりたい自分になるため、日々地道な肉体改造部でトレーニングを積んで変わろうとする。偉大な人間だとか特別な存在だとか喧嘩に勝つとかそんなことはどうでもよくて、なりたい自分になるための現実的な努力をしている。あくまでも「自分の中の、他の魅力」という部分から、決して自分自身を諦めていないモブがかっこいい。モブの健気な姿には自然と感情移入して応援したくなってしまう。地味だけどまさに主人公だ。
・ 「相手に勝つことや貶めることばかりに執着するやつは大事なものを見失いがちだ。まずは自分に勝つことだ。その時になって初めて見える世界がある。」 (肉体改造部部長・郷田武蔵/コミックス3巻第23話)
肉体改造部の5キロのランニング中、入部したばかりでバテている鬼瓦に対して部長である郷田が言ったセリフ。セリフからわかる通り、中学生にして本作中唯一の人格者集団だ。相手の立場や人間性を一歳否定せず受け入れて、共に部活で汗を流して時には励ましてくれる肉体改造部のメンバー達。自分に勝つことを目標としているモブや鬼瓦にとって肉体改造部はまさにうってつけの環境だ。
他人との勝ち負けに執着していると、負の感情や自分じゃない他のものに執着して結果自分を見失ってしまうことにもなるだろう。運動不足の筆者も是非肉体改造部に入部して自分に勝つ(減量)という成功体験を得たいものだ……
・ 「やめとけモブ!お前が苦しくなるだけだ!!嫌な時はなぁ!逃げたっていいんだよ!」 (霊幻新隆/コミックス6巻第46話)
コミックスやアニメでこのシーンを見ている大体の人がこのセリフにジーンと来たのではないだろうか。爪との戦いで窮地に陥り、心の中で本当は誰も傷つけたくない気持ちとみんなを助けられるのは自分しかいないという使命感がぶつかり合うモブ。それを察した霊幻のこの一言は、モブへの愛情深さを感じるとても温かい言葉だ。結果的にその場を全て師匠に託したモブ。霊幻とモブの年齢や立場を超えた絆が熱いシーンだ。
立ち向かっていく覚悟があれば逃げる覚悟もある。嫌な時は逃げてもいい、辛い時にこんな言葉をかけられたらどれほど救われるだろうか。霊幻、胡散臭いけど本当にいい男過ぎると筆者は思った。
・ 「お前ら勘違いするな。どんなに特別な力があったって、人は人だぞ。」 (霊幻新隆/コミックス6巻第46話)
爪の幹部との戦いの最中、超能力を持っているから自分たちは特別で崇高な人間だと驕り高ぶっている「爪」の幹部メンバー達を諭す霊幻のセリフだ。
どんなに強力な力や個性があっても、そこに優劣は関係なく、みな1人の人間に変わりはないという霊幻の至極真っ当な言葉である。
・ 「より充実して生きるため。超能力よりも、要するに人間力を身に付けたいという訳何だろうが……いかにも恵まれた者の考えそうなことだ。」 (最上啓示/コミックス8巻第64話)
最上の手により超能力が使えない別の世界線へ引き摺り込まれたモブ。その様子を見て最上が放った一言だ。悪役のセリフだが何だか印象に残ってしまう。周りの人が理解してくれる環境だからこそ前向きに生きられるが、綺麗事だけでなくそうじゃない環境ももちろんあるだろう。このあとモブは「僕は幸せ者だ。もっと周りに感謝しよう。」と言っている。筆者はこのシーンでどちらにせよ今ある環境が当たり前ではないと考えさせられた。
・ 「自分が考えてる以上に世の中にはいろんな人がいて、いろんな考え方がある。人の考え方に点数なんて誰も付けられないはずなんだ」 (影山茂夫/モブ コミックス12巻P78)
爪のボスとの戦いでボスが自らの能力に慢心し、世の中を自分の物差しでしか測れていない発言をした際にモブが返した言葉だ。家族や霊幻、エクボをはじめ、学校生活で関わる人々など、モブの周りにはいろんな人がいる。力に溺れて強者・弱者という関係性でしか人と関われない爪のボスとは視野の広さが違う。爪のボスはまさに大人なのに中身が子供の「こんな大人になりたくない」という集大成の様なキャラクターだ。社会で揉まれるほどこの言葉はいつでも心にとどめておきたいセリフだ。
ここでは筆者なりに印象に残ったセリフをいくつか紹介したが、これらはごく一部に過ぎない。漫画をパッと開いたページにすら何だか心にストンと落ちてくるようなセリフがある。それくらい常にどこかにメッセージが見られるのが本作最大の魅力だ。
インチキ霊能力者だが沼深く大人の魅力溢れる「霊幻新隆」
本作の主人公はもちろんモブなのだが、筆者はこの霊幻こそもう1人の主人公ではないかと思う。一通りの知識はあるが、実際の能力が伴わない残念な大人をキャラクターにしたような人物が霊幻だ。しかし彼の話術は、物事の本質を捉えていて簡潔でわかりやすく、読んでいるとこちらまで「なるほど……」と唸ってしまうほどの説得力がある。故に、本作で数々の名言を残しているのもダントツで霊幻だ。
「なぜお前がそいつらに合わせる必要がある? お前の人生の主役は、お前だろ?」
「人が持つ優れた力ってのは、超能力だけじゃないってことだよ」
「 空気が読めるのは常識と経験のあるやつだけ。」
「魅力の本質は人間味だ。いい奴になれ。」
また、モブの超能力を利用しているとはいえ、コミュニケーションを取る時はモブと同じ視点になって考えたり、的確なアドバイスを送り背中を押してあげたり、時には体を張って守ってくれる。ちゃんとモブに愛情を持って接し、なんだかんだ大人の行動を見せてくれる。とはいえ、基本的にはかなりモブに依存しているのも事実。大の大人が少年に依存してしまうほどの孤独を抱えている部分も、どことなく色気があって沼深さもある。
しかし、彼もまた自分のアイデンティティを求めて何者かになろうと必死で足掻く展開がある。
この霊幻のエピソードはバトルやアクションはなく、霊幻がただただ墓穴を掘ってしまうだけのリアルな内容になっていて霊幻推しの筆者は読んでいて少々辛いものがあったが、結果的に本来の何者でもない自分を受け入れるための大きな一歩を踏み出すストーリーだ。最後にモブが霊幻に対して「僕の師匠はいい奴だ。」と一言かけるシーンに、筆者は霊幻が孤独じゃなくてよかった、と号泣してしまった。
自宅やバーで過ごす霊幻など、プライベートな様子も描かれており、普段の「霊とか相談所」での雰囲気とは少し違った年相応の霊幻を垣間見ることもできる。表向きには胡散臭い霊幻だが、より彼のギャップと深みが増す貴重なエピソードになっていて、ここから最終話にかけての霊幻の心の成長も本作の見所だ。また、読者人気も高い霊幻にはスピンオフ作品も存在する。
是非実際にコミックスを読んで霊幻新隆の魅力を刮目して欲しい。
本作には、大人子供関わらず、本来の自分を見失い、妄想に生きているような所謂拗らせてしまっている状態のキャラクターが多数登場する。
そんなキャラクター達が、強力な超能力を持ちながらも、超能力に固執せずに現実的に自分と向き合っているモブと接触し、圧倒的な力の差と、そんな強大な力を持ちながらも地に足のついたモブという人間を見ることで、やっと本当の自分と向き合い受け入れていく様子にも心を動かされる。これは漫画の中の世界に限ったことではなく、現代にも通ずるものがありそうだ。
SNSやYouTubeが普及した今、色々な個性で活躍する人達を見ていると「何者かにならなければ」、「特別になりたい」と得体の知れない焦燥感に駆られる人も少なくないだろう。
本作のキャラクター達の成長や葛藤は現代に生きる人達にとっては最も身近なテーマではないかと筆者は思った。「モブサイコ100」は現在完結までの全16巻が好評発売中だ。ぜひ本作を読んで心に響くセリフに出会って欲しい。きっと誰かのセリフが心の支えになるだろう。
(C)ONE・小学館