【特別企画】
「僕のヒーローアカデミア」9周年! 20人のクラスメートなど多彩なキャラクターをしっかりと印象づける“学園もの”のヒーローストーリー!
2023年11月4日 00:00
- 【「僕のヒーローアカデミア」コミックス1巻】
- 2014年11月4日 発売
GAME Watchでは○周年などをきっかけに、様々な作品を取り上げその魅力を再確認する企画を行なっている。2023年11月4日は週間少年ジャンプのマンガ「僕のヒーローアカデミア」のコミックス1巻が発売されてから、9周年になる。さらにコミックスの最新刊である39巻もつい先日11月2日に発売された。この機会に「僕のヒーローアカデミア(ヒロアカ)」の魅力を語ってみようと思う。
キャラクター、物語、作画、エピソードの展開など「ヒロアカ」は優れたマンガとして様々な語るべきポイントがある。今回はあえて「多数のキャラクターを描く見事さ」にフォーカスしたい。さらにフィギュア文化の中での「ヒロアカ」の存在感も紹介しよう。
クラスメート20人がしっかりとわかる、魅力的なキャラクター造型に注目
筆者はフィギュアの紹介から「ヒロアカ」に入った。悪役である「死柄木弔(しがらきとむら)」のフィギュアの記事を書くときにキャラクターの背景を調べた際、彼の設定に強く興味を惹かれたのだ。死柄木弔は凄惨な過去を持ち、絶対的なヒーローである「オールマイト」に対して歪んだ思いを持っている。それは主人公「緑谷出久(通称:デク)」と対極の位置にいると言える。
それまで「ヒロアカ」は気になっていたが触れては来なかった。この死柄木弔の設定を調べたことで興味を持ち、アニメを見てどっぷりはまってしまったのである。まだアニメ化していない原作も読み、外伝の「ヴィジランテ-僕のヒーローアカデミアILLEGALS」まで集めてしまった。現在はコミックの最新刊を心待ちにしている状況だ。
「ヒロアカ」は"個性"と呼ばれることとなる特殊能力を万人が持つ世界が舞台となる。かつて世界は特殊能力を持つ人々の戦いで荒廃したが、特殊能力で人々と秩序を守る「ヒーロー」が現われたことで平和を取り戻す。ヒーローはその資格を厳密に規定され、ヒーローを育てる最高峰の学校として「雄英高校」は多くの人の憧れとなった。
主人公・緑谷出久(デク)は現代には珍しい"無個性"の人間だった。特使能力を持たないというのは彼にとって大きな負い目だったが、完全無欠のヒーロー・オールマイトへの憧れは誰にも負けない。そんな彼がオールマイトにヒーローとしての資質を見いだされ、彼の力を受け継ぐこととなる。
オールマイトは「ワン・フォー・オール」という力を持っていた。それはこれまで幾人ものヒーロー達に受け継がれてきた力だった。オールマイトは過去の戦いで重傷を負っており、一命は取り留めたものの全盛期の力は限られた時間しか出せなくなっていた。彼は後継者としてデクにその力を託した。
しかしオールマイトの大きな力をいきなり与えられたデクは本気でパンチを出せば腕が骨折してしまうなど力を使いこなせない。それでもデクは雄英高校の試験を突破、最高のヒーローを目指す仲間達と切磋琢磨する日々を過ごす。しかし、時同じくして強大な悪の力も活動をしようとしていた……。
「ヒロアカ」はすがすがしいほどに王道な"少年マンガ"といえる。個性的で印象的なキャラクター、最初は不器用で力も弱い少年が様々な戦いを経て成長し、強大な悪に立ち向かう。彼を支えるのは同じように成長してきた仲間達と、彼等を応援する大人達。大ゴマでの必殺技や、成長と共に変わっていくコスチュームなど"お約束"を詰め込んでいる。その上で「ヒロアカ」はとても感心させられた点がある。それは「クラスメイト20人が、すべてちゃんと記憶に残る」というところだ。
少年マンガの基本はバトルである。ゲストキャラの敵キャラに対し、主人公と仲間数人が奮戦、より強大な敵に立ち向かう。スポーツものと同じだ。キャラクターが少ないほど物語はシンプルに、エピソードも濃くできる。結果、多くのキャラクターが登場するスポーツものだと、敵チームメンバーはもちろん、味方メンバーすら描き分けや掘り下げが成されない作品もあったりする。
その中で「ヒロアカ」は"学園もの"としてきちんとクラスメートを印象的に演出している。ヒーローを生み出す最高の学校としてバトル要素を融合させ、授業の実技や、体育祭での障害物競走や、騎馬戦によるチーム戦、強化合宿などでデクが所属する1年A組はもちろん、B組の20名すら印象づけていく。急に1キャラクターにスポットが当たるエピソードを入れるわけではなく、イベントでキャラクターを印象づけた後、学校での生活や、何気ないやりとりでその印象を厚くしていくのだ。
もちろん物語の縦軸はデクの成長物語だ。幼なじみであり、ライバルである「爆豪勝己」、ヒロインの「麗日お茶子」、強力な力を持つ「轟焦凍」など印象の強いキャラクターはいるし、強烈な個性を持つ"ヴィラン"も現われる。縦軸で物語を引っ張りながらも、クラスメートの描写という横軸も手を抜かず、読んでいくと「1年A組」をしっかり読者が認識でき、自分もクラスの一員になったような気持ちになれるのだ。
これはかなり下準備が必要な作業だったと思う。キャラクター20人をしっかり設定するというのはもちろんだが、物語として大きくなっていくスケールや、増えていくその他のキャラクターと対比し、クラスメートである20人を脱落させずに描写し、繰り返し読者に印象づけるというのは、独特のバランス感覚が求められる。
そしてその丁寧なクラスメートの描写が33巻でクライマックスを迎えるのだ。強大な敵と対峙できる唯一の力を持つほどに成長したデク。しかしだからこそ敵に狙われ、他の人達への被害を避けるために孤立せざるを得ない。そんな状況に陥ったヒーローを救えるものがいるのか? クラスメートである1年A組はデクと共にいることを選んでくれるのだ。
正直、筆者の学校生活では「クラスメート」というのは意識したことはなかった。チームとか団体への帰属意識というのもキライである。しかしこの「僕のヒーローアカデミア」での丁寧に描かれたクラスメートの仲間としての想い、強大な悪を前にしても繋いだ手を離さない絆、というのは非常に素晴らしいと思う。ひねくれた筆者の心も熱くさせる、物語としての素晴らしさがある。
それは孤高のヒーロー、皆の幸せを自分を犠牲にして進む類型的なヒーロー像を打ち破る、本作ならではのヒーローであり、彼が所属する「ヒーローアカデミア」の姿だ。クラスメートをきちんと描く、「僕のヒーローアカデミア」というタイトルをしっかり実感できるこの物語表現は要チェックだ。キャラクター描写、ストーリーテリングの手法の上でも参考になる作品だと思う。
作り手の様々な思いが込められた多彩な「ヒロアカ」フィギュア
そんな「ヒロアカ」は様々なフィギュアも発売されている。ここからはいくつか魅力的なフィギュア商品を紹介していこう。アニメでの最新エピソードを元に立体化されているのがコトブキヤの「ARTFX J 緑谷出久 黒デク Ver.」だ。エピソードを知っているファンにはグッと来る造型で、カッコイイのに哀しい雰囲気が魅力的だ。地味で弱い雰囲気だったデクがこんなに強く禍々しい姿に……という印象も生まれる。
セガも「ヒロアカ」のフィギュアにかなり力を入れている。セガのフィギュア「僕のヒーローアカデミア フィギュア トガヒミコ」はヴィランの1人「トガヒミコ」をモチーフとしている。トガは恐ろしさとかわいらしさを併せ持つ複雑なキャラクターだ。自由奔放に生きているように見えながら、世界との折り合いに悩み苦しんでいるという、現代社会にも通じる問題点を提起するキャラクターであり、その笑顔や造型に原型師やメーカーの力量が問われるユニークな商品と言えるだろう。フィギュアの笑顔はちょっとエグい表現になっているが、そこが良いのだ。
グッドスマイルカンパニーの「POP UP PARADE 死柄木弔」はまさに筆者が「ヒロアカ」にはまるきっかけとなったフィギュア。「POP UP PARADE」はスケールや塗装を抑えることで低価格化を実現、様々なモチーフをフィギュア化することをモチーフとしたブランドだ。他社ではフィギュア化しないモチーフをフィギュアにしてくれるブランドなので、「ヒロアカ」ファン以外もチェックして欲しい。
もう1つ、海洋堂の「アメイジング・ヤマグチ 相澤消太」もオススメしたい。1年A組担任である相澤先生の個性は「抹消」。見たものの個性を発動させなくすることができる。この能力で相手の個性を封じ、布を活用した格闘術で相手の動きを封じる。
アメイジング・ヤマグチは海洋堂のアクションフィギュアブランドで、従来のフィギュアの可動を大きく越える、コミックそのままのド派手なポーズがとれる関節設計となっている。もちろん他にも様々なメーカーが「ヒロアカ」フィギュアに挑戦している。コミックファンはもちろん、フィギュアで興味を持って「ヒロアカ」の世界に踏み込んでくるのも良いだろう。
マンガの「ヒロアカ」は既に最終章に突入し、最新刊である39巻ではいくつかのキャラクターの決着も描かれた。大団円に向け物語が大きく動き出している。これまでの伏線や、丁寧に描かれたキャラクター達の想いが結実しようとしている。
だからこそまだ「ヒロアカ」に触れていない人に、コミックスを読んだりアニメを見て欲しい。キャラクター達が、学校が、世界がどう描かれ、変化し、そして「ヒーローとは何か?」というテーマを繰り返し問いかける「ヒロアカ」の物語を味わって欲しいと思う。
(C)堀越耕平/集英社・僕のヒーローアカデミア製作委員会