【特別企画】

「ゴールデンカムイ」連載開始9周年! アイヌ文化について学べる、笑いと興奮の冒険活劇

地球沸騰の時代に本作を通じて持続可能性社会について考える

【ゴールデンカムイ】

2014年8月21日 連載開始

 今年6月にTVアニメ4期が終了し、物語のラストを飾る最終第5期の製作も決定した「ゴールデンカムイ」。

 野田サトル氏による原作は、2014年8月21日に週刊ヤングジャンプで連載が始まり、2022年4月28日発売号で完結、同年7月19日にコミックス最終31巻が発売された。

 本作を通じてアイヌ文化が再注目されるきっかけとなり、大英博物館「マンガ展」での展示など様々なコラボレーション企画が展開され、マンガ大賞2016大賞ほか多数のマンガ賞を受賞した。傑作コミック「ゴールデンカムイ」が連載開始9周年を迎えるにあたって、改めてその魅力を紹介したい。

【【漫画】『ゴールデンカムイ』TVアニメ化決定特報モーションコミック【ヤングジャンプ連載】】

「マンガ大賞2016」大賞を受賞した傑作長編のストーリー

 舞台は日露戦争後、1907年の北海道。

 日露戦争で旧日本陸軍が前近代的な集団密集突撃を繰り返し、多数の死傷者を出した旅順要塞攻防戦で「不死身の杉元」と称された主人公・杉元佐一は砂金を求めて北海道小樽に渡る。

 そこで知り合った男から、北海道の先住民・アイヌの隠し金塊とその所在地を暗号化した刺青の話を聞きつける。アイヌを抑圧する和人(日本人)に抵抗するための軍資金として集められた金塊を巡って殺し合いがあり、独り占めしようとした人物「のっぺら坊」は網走収容所に収監され、金塊の場所を死刑囚の身体に刺青として記したというのだ。

 その話を語った刺青を入れられた脱獄囚はヒグマに襲われて死亡。杉元佐一もヒグマと対峙するが、アイヌの少女アシリパによって窮地を救われる。

 殺されたアイヌの中に自身の父がいたと語るアシリパと共に行動することになった杉元佐一は、金塊を狙う北海道駐屯の陸軍第七師団所属の狙撃の名手・尾形百之助に狙われるも撃退、脱獄王・白石由竹と出逢う。

 白石由竹、アシリパと共に他の刺青を捜す杉元佐一は、幕末を駆け抜けた新撰組の鬼の副長・土方歳三が率いる一派、鶴見篤四郎中尉が率いる第七師団と、時に闘い、時に連携しながら北海道を移動。道中、のっぺら坊がアシリパの父・ウイルクだと聞かされた杉元佐一は、確かめるためにアシリパを伴い、土方歳三と協力として網走監獄に侵入を試みる。

 網走監獄でアシリパと別れた杉元佐一は、鶴見篤四郎中尉の指示でアシリパを追い、樺太へ渡る。国境を越え、ウイルクの足跡を辿り、彼女と再会した杉元佐一は、鶴見篤四郎中尉を裏切って逃走。杉元佐一、アシリパに加え、ウイルクが関わっていたロシアの反政府勢力も土方歳三一派に協力、第七師団と金塊を巡って最終決戦が始まるのだった。

主要登場キャラクター

・杉元佐一
 本作の主人公。銃弾を受け、爆風に吹き飛ばされても即座に戦場に舞い戻ることから「不死身」と呼ばれた。金塊争奪においても、銃創、刺傷を数知れず受けたが、致命傷には至らず。当初は元恋人の治療費のために金塊を捜すが、次第に相棒であるアシリパのために奔走するようになる。

・アシリパ (正式な表記はリが小書き片仮名)
 ヒロイン。母は小樽、父は樺太のアイヌ。父譲りの濃紺の瞳が特徴。行方不明の父との関わりから金塊を追う。名前の由来はアイヌ語で「未来」。幼少期から父に狩猟の技術とアイヌの文化を教えられた。毒の付いた弓やマキリと呼ばれる短剣で、何度も窮地を脱する。アイヌの料理で杉元佐一他登場人物の胃を虜にした。殺人は地獄へ落ちる行ないとして忌避する。

・白石由竹
 脱獄王の異名をとるギャグメーカー。戦闘力は低いが身体が柔らかく、関節を自在に外して常人には不可能な隙間を通れる。身体を含め身近なあらゆる場所に小道具を隠し持って窮地を脱する。棄てられた寺で育ち、ふとしたきっかけで全国の刑務所を脱獄して巡ることになった。金塊目当てで杉元佐一、アシリパと行動を共にするうちに仲間意識が芽生える。

・ソフィア・ゴールデンハンド
 ロシアの富裕層出身の反政府勢力指導者。アシリパの父・ウイルクと行動を共にしていた。皇帝暗殺に関わり、樺太で収監される。

・谷垣源次郎
 秋田のマタギ出身の兵士。狙撃の名手で、旧式の狩猟用「村田銃」を愛用する。

・土方歳三
 幕末に猛威を奮った警察機構「新撰組」で鬼と呼ばれた副長。幕末に函館で戦死したと伝わっていたが、密かに網走に幽閉されていた。幕末から愛用の名刀「和泉兼定」に加え、ウインチェスターM1892カービン銃を使用する。

・鶴見篤四郎
 陸軍中尉。日露戦争で第七師団の小隊長を務め、頭部に重傷を負い脳を損傷した。情報将校として開戦前から暗躍、人心掌握術に優れる。部隊を掌握して私兵化し、金塊を追う。ボーチャードピストルを愛用する。

・尾形百之助
 陸軍上等兵。狙撃の名手で、殺傷能力の低い30年式小銃でも一発必中の腕を誇る。第七師団長の婚外子で、行動に謎が多い。

アイヌ文化のifを描くストーリーが魅力の本作

 筆者の思う本作の最大の魅力は、主にアシリパによって紹介される様々なアイヌの文化や思想である。

 日本の先住民族でありながら、海外の先住民族・少数民族に比べて明らかにフィクション・ノンフィクション問わず題材となることが少なかった。様々な物に神(カムイ)が宿るという思想、獲物に感謝を献げる、収穫し過ぎない、自然の循環を大事にする精神性など、現代にあっても色褪せないアイヌの伝統的文化に触れられることは、本作の大きな魅力だ。

 マンガゆえの誇張もあるが、アイヌ文化の素晴らしさに興味を抱く大きなきっかけとして、本作に対する評価は揺るがない。

 また、土方歳三による「蝦夷共和国」の夢再び、というロマン溢れるストーリーも、江戸幕府に殉じた佐幕派・会津出身の筆者としては見逃せない魅力だ。

 幕末、北海道へ転戦し、蝦夷共和国樹立を宣言した旧幕府勢力にあって、新撰組・土方歳三の名は一際大きい。史実では箱館戦争で戦死を遂げているが、生き延びて、樺太も含むアイヌ他少数民族の理想郷を実現させようとする土方歳三の姿は、歴史のifストーリーとしてとても魅力的だ。

 土方歳三に味方する新撰組・永倉新八は史実でも1915年まで生きており、虚実入り交じった展開が、よりストーリーに厚みを持たせている。

 アイヌ文化と北海道の独立というテーマの融合は重厚なテーマではあるが、マンガらしいユーモアやパロディが随所に散りばめられ、実在、創作問わず魅力的なキャラクター、銃器マニアも納得の戦闘描写やアクションで展開していくストーリーが「ゴールデンカムイ」傑作たる所以である。

個性溢れる魅力的なキャラクターも本作の特徴

 本稿執筆にあたって、改めて1巻から読み直してみたが、長さを感じさせずに31巻、爽快感溢れるラストまで一気に通読できた。

 有史以来の酷暑を記録し地球沸騰と呼ばれる時代、「ゴールデンカムイ」を読むと、文明のあり方や持続可能性について考えるきっかけとなるだろう。TVアニメ最終章や実写映画と今後も続く「ゴールデンカムイ」ワールドに期待したい。

本作のアイヌ語監修者による公式解説本「アイヌ文化で読み解く『ゴールデンカムイ』」も販売されている
【『ゴールデンカムイ』連載完結記念PV 「THE SNOW COMIC」【漫画】】