【特別企画】
痛みを伴いながら世界を救うために戦い続ける「D.Gray-man」コミックス1巻発売から19周年
キャラクターたちの気持ちが強く伝わるダークファンタジー
2023年10月4日 00:00
- 【「D.Gray-man」コミックス1巻】
- 2004年10月1日 発売
星野桂氏が描くダークファンタジー漫画「D.Gray-man」が本日10月4日でコミックス1巻発売から19周年を迎えた。
本作は2004年から週刊少年ジャンプで連載開始され、休載を挟みながら現在もジャンプSQ.RISEにて連載中の作品だ。
19世紀末が舞台となる本作の世界では「千年伯爵」が世界終焉の計画を進めるため世界中に「機械」、「魂」、「悲劇」を材料にした悪性兵器「AKUMA(アクマ)」を造りばら撒いていた。その「AKUMA」を破壊して世界滅亡を防ぐために主人公でエクソシストの「アレン・ウォーカー」たちが世界中を飛び回り、戦いを繰り広げていくというものだ。
「D.Gray-man」は登場キャラクターたちの痛みを伴うヒューマンドラマとなっている。本作は千年伯爵vsエクソシストたちのバトルもさることながら、千年伯爵を倒すために進むエクソシストたち姿や周りの人たちが傷つき、時には命を落としていく場面が描かれる。その仲間を失う時、失った時の仲間を思うエクソシストたちの気持ちがダイレクトに伝わってくる。その辛さがとてもリアルに描かれているのが本作の魅力だと思う。
世界滅亡を防ぐために戦っていく少年たち
本作の舞台は仮想19世紀末の世界となっている。イギリスや中国、日本といった様々な場所が登場する。
この作の世界では千年伯爵が世界滅亡を目指しており、その人類を標的にした悪性兵器「AKUMA」を世界中で造っていた。AKUMAは「機械」と「魂」と「悲劇」を材料にして造られている。千年伯爵が大切な人を失った人の悲しみに付け込んで、大切な人の魂を呼び寄せ機械に乗り移らせる。その機械が大切な人を失った人間を乗っ取ってAKUMAは完成する。その為、AKUMAは普段は人間として人の中に紛れ込んでいる。AKUMAは空腹に似た殺人衝動を持っているため、定期的に人を殺していく。
そんな千年伯爵とAKUMAたちに立ち向かい世界の終焉を防ぐために設立されたのが「黒の教団」だ。黒の教団には千年伯爵やAKUMAたちと戦うエクソシストたちと、エクソシストたちを支える各部署のメンバーによって成り立っている。戦いの最前線に立つエクソシストたちは唯一AKUMAを破壊することができる神の結晶「イノセンス」を武器として使っている。イノセンスを使うためにはイノセンス自体に選ばれる必要があるため、エクソシストは非常に貴重な存在となっている。
本作の主人公であるアレン・ウォーカーもイノセンスに選ばれたエクソシストとして、AKUMAたちと戦っている。しかし、アレンには養父からの呪いを受け、AKUMAにされた人たちの魂が見える。その為アクマを倒すというよりもアクマになった人の魂を助けたいという思いが強い。それにより少し暴走しがちだが、真っ直ぐ信念に向かって進んでいく少年だ。そんなアレンとエクソシストたち、そして黒の教団の各部署の人たちが一丸となって千年伯爵の計画を阻止するために奔走する。
また、千年伯爵の仲間をして人類最古の使徒の遺伝子を持つ人間「ノアの一族」がアレンたちに立ちはだかる。AKUMAを壊して人類とAKUMAの魂を救いたいアレンは敵として立ちはだかる人間に戸惑いながら立ち向かっていくというものだ。
そんな本作には主人公のアレンの他にもたくさんのキャラクターたちが登場する。そんな中でもアレンと行動を共にするキャラクターや敵として登場するキャラクターたちを紹介したい。
アレン・ウォーカー
本作の主人公。15歳ぐらいの年齢。白髪で左目にAKUMAの呪いを受けた跡がある。また、生まれつき左腕にイノセンスが寄生しているため左腕が少し変わった形をしている。物語当初は少し線の細いイメージがあったが、物語が進むにつれて逞しくなっていった。神田やラビとは同世代の子どものようなじゃれ合いを見せる。
神田(かんだ)ユウ
黒の教団本部でアレンが一番最初に出会ったエクソシスト。18歳の黒髪長身で美形キャラクター。刀の形をしたイノセンスを使用している。一見クールだが、かなり性格が短気でキレやすい上、まわりに対して感情を推し量らないので反感も買いやすい。この性格が原因でアレンとも何度もいがみ合う関係性だが、それが逆に年相応に見える。
リナリー・リー
神田と同様、黒の教団でアレンが出会うエクソシストの1人。16歳、黒髪ツインテールの美少女。足に纏うタイプのイノセンス選ばれている。幼少期から黒の教団内で生活しているため、黒の教団の仲間を家族のように思っているため非常に仲間思いな性格。ただ、幼少期に黒の教団自体には辛い思い出もある。
ラビ
この世で唯一裏歴史を記録する「ブックマン」と呼ばれる人物の弟子で後継者。赤髪眼帯の姿。黒の教団のエクソシストとして槌の形をしたイノセンスを使う。人懐っこく気さくな性格で、場の空気を明るくするムードメーカー的な存在も担う。
ミランダ・ロットー
アレンとリナリーが出向いた街で「同じ日が何度も来る」という奇怪な現象を引き起こしていた張本人。25歳でかなりのやせ型の女性。要領が悪く、100回仕事をクビになっているという経歴の持ち主。街にやってきたノアの一族「ロード」とアレンの戦いの際に時間に関するイノセンスの適合者であることが判明し、黒の教団へと再就職する。
アレイスター・クロウリー三世
アレンとラビが訪れた古城で出会ったAKUMAと住む吸血鬼のような男性。人の血を吸っているように見えて、飲めるのはAKUMAになった人の血のみという特性を持つ。その特性は寄生型のイノセンスが歯にあるためだが、本人は知らなかった。その事実を知ったクロウリーはアレンたちと行動を共にする。
千年伯爵(ノアの一族)
AKUMAの製造者であり、世界滅亡を計画している張本人。7000年以上前から人類史の裏で暗躍し続ける謎の怪人。容姿はエルフのような尖った耳を持つなど一見ファンタジーの怪人のよう。悲しみのどん底にいる人を漬け込む悪魔のような一面と底抜けに明るい性格の一面を持つ。
ロード・キャメロット(ノアの一族)
ノアの一族で「夢(ロード)」を司るノア。パンクなファッションを好む少女。人間が嫌いで、命を奪うことに躊躇はない。子ども的な無邪気な残酷さも持っている。アレンと最初に出会ったノアの一族。
痛みを伴いながら前に進む物語
本作の魅力はアレンを含む黒の教団のメンバーたちが、身体的だけでなく精神的にもダメージを受けながら前に進み続け、その使命感と人間の弱さを感じられるところだ。
使命のために前に進んでいこうとする中で失いたくない仲間を失った時のキャラクターたちが受ける心の傷はかなりリアルに描かれている。これはエクソシストだけではなく、黒の教団の他の各部署のキャラクターたちでも同様に描かれている。キャラクターたちそれぞれが互いにどう思っているか、関係性なども含めて失ったキャラクターについての感情が非常に明確に描かれる。その描かれ方が読んでいて非常にストレートに伝わってくるのが辛いが、キャラクターへの親近感が沸く。
本作では物語を通して世界中のいろいろなところにアレンたちが出向いていく。その道中で様々な出会いや別れのエピソードが出てくる。その中でも筆者は中国から日本の江戸までのエピソードが特別好きだ。
このストーリーでは黒の教団の協力者として一般の人たちも多く登場する。その協力者たちが日本に無事にエクソシストたちを渡すために船を出すのだが、その船が複数のAKUMAに襲われてしまう。船や乗員はミランダのイノセンスの力で時間が一定の時間まで巻き戻るようになっているため、致命傷を受けても戦い続けることができる。しかし、イノセンスの力が解けてしまうと受けたダメージは対象者に戻り命を落としてしまう。それでも協力者たちはエクソシストたちを日本に送り届けるために必死に体を張り続け、最後は船ごと海底へと沈んでいくというものだ。
このエピソードは最初に読んだときに少し衝撃を受けた。もちろん協力者たちはリスクは承知で船に乗っているのだろう。しかし、致命傷を受けたとわかった瞬間エクソシストたちの盾になりに行ったり、より前線に立って戦ったりと自分の命が尽きる前に少しでも役に立とうとする懸命な姿に驚いた。そしてエクソシストがそのリアクションを取っているという点も衝撃的だった。死ぬ前に少しでも役に立ちたいと思う人たちと、支えてくれる人たちを気遣って生きてほしいと思う気持ち、そして申し訳ないと思う気持ちが溢れていて、AKUMAとの戦いよりもそちらにとにかく感情を持っていかれたエピソードだ。
このようなエピソードが様々なところに入っており、黒の教団のエクソシストたちだけでなく、黒の教団の他のキャラクターたち、一般の人などいろいろなキャラクターたちの心の痛みを感じることができる。連載開始当初、筆者は大学生だったがどの立場の心の痛みもかなりダイレクトに感じていた。大学卒業間際の年末に読んだ上記のエピソードは今もしっかり印象に残っている。どの立場の痛みも感じられるのが本作のいいところだ。
本作は現在も連載が続いており、今後の展開が非常に楽しみな作品だ。現在28巻まで発売されているので、今から読んでも物語には追い付きやすいので、ぜひ興味がある方は手に取って読んでみてほしい。19周年おめでとうございます!
(C) 星野桂/集英社
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