【特別企画】

脱力系主人公がシャーマンの頂点を目指してユルく頑張る「シャーマンキング」は連載開始から25周年

【シャーマンキング】

1998年7月13日 連載開始

「シャーマンキング」コミックス1巻

 1998年7月13日発売の週刊少年ジャンプ1998年31号にて連載をスタートした「シャーマンキング」は、本日で連載開始から25周年を迎えた。

 シャーマンキングは武井宏之氏によるファンタジー作品だ。霊能力者(シャーマン)の能力を持つ主人公の麻倉葉(あさくらよう)がシャーマンの頂点「シャーマンキング」になるために「シャーマンファイト」というシャーマンたちの大会に身を投じていく。

 本作は1998年から2004年まで集英社の週刊少年ジャンプにて連載されたのち、2018年から講談社の少年マガジンエッジに移籍している。

 本作の魅力は主人公の麻倉葉と出会って仲良くなったシャーマンたちとの成長物語だ。もちろん霊能力者(シャーマン)が霊の力を借りて戦うシャーマンファイトも魅力ではあるが、何より10代の少年たちの精神的な成長を見ていくのが楽しい。特に脱力系の性格である葉は大きく成長するほか、性格上あまりハラハラすることは無いが、冷静に自身を分析しながらも普通の人のように心が揺れて成長していくのが見えるのがいい。

 また、本作ではファンタジーとバトルが融合しているため少し用語が特殊だが、小難しく考えなくても楽しめる作品となっている。これは葉の性格と小山田まん太というキャラクターの存在が大きい。葉の性格のおかげで全体的に深刻になりすぎず、シャーマンではない小山田まん太の視点で描かれているため未体験の世界を小山田まん太と一緒に読者が体験しているような感覚で読み進められる。

葉とまん太、2人の出会いがお互いの新しい世界を切り開く

 本作の最初の舞台は東京にあるふんばりヶ丘という場所だ。小山田まん太が塾の帰り道に通った墓地で偶然主人公の麻倉葉と出会うところから始まる。麻倉葉は日本有数の霊能力者(シャーマン)の家系の出身で、来るシャーマンの頂点(シャーマンキング)を決める大会(シャーマンファイト)に出場するために仲間になってくれる霊(持霊:もちれい)を探して東京にやってきた。葉の友達となったまん太は、葉を通じてさまざまなシャーマンたちの戦いを目撃していく。

 シャーマンたちの戦いはシャーマン同士が持霊の能力を体に窶(やつ)したり、媒体に憑依させることで戦う。本作では体に窶すことを「憑依合体」と呼んでいる。また、シャーマンファイト中は持霊の思い入れの品などに憑依させて持霊自体を具現化させる「オーバーソウル」という強力な力を使って戦っていく。

 本作で出てくるシャーマンたちはたくさんいるが、その中でも序盤に出てくる主要なキャラクターたちを紹介したい。

麻倉葉(あさくらよう)
 ユルい性格で「楽して生きたい」が信条の中学2年生の脱力系男子。仲間になってくれる霊(持霊)を見つけるために東京へとやってきた。日本有数のシャーマンの家系に生まれてシャーマンキングを目指す。音楽が好き。

麻倉葉(あさくらよう)

阿弥陀丸(あみだまる)
 ふんばりヶ丘の墓地にある首塚に祀られていた室町時代の伝説の侍。地元の不良に首塚を壊されたことで葉に力を貸すようになり、その後死亡時の心残りを葉に果たしてもらったことで葉の持霊となる。

阿弥陀丸(あみだまる)

小山田まん太(おやまだまんた)
 思ったことが口から出てしまう本作のツッコミ役。葉と出会うことで幽霊が見えるようになるが、本作に登場する主要人物の中ではシャーマンの基礎知識がない一般人の立ち位置として登場する人物。愛読書は広辞苑のような分厚い書物「万辞苑」。

小山田まん太(おやまだまんた)

恐山アンナ(きょうやまあんな)
 葉の許嫁。本作最恐の女性だが、同時に深い愛情の持ち主。日本古来のシャーマン「イタコ」として降霊術の口寄せを得意としている。

恐山アンナ(きょうやまあんな)

道蓮(たおれん)
 葉と同じく「シャーマンキング」を目指す中国出身の少年。プライドが非常に高く短気な性格。序盤は阿弥陀丸を葉から奪おうとするが、何度も葉と対峙していくことでシャーマンとしてのライバル、友人へと変化していく。

道蓮(たおれん)

馬孫(ばそん)
 道家につかえる中国武人の霊で蓮の持霊。無口な青年だが、忠誠心が強い。

馬孫(ばそん)

ユルく生きるが信条の少年が少しずつ精神的に成長していく物語

 本作の主人公の麻倉葉はユルく楽していきたいという信条と「なんとかなる」が口癖。中学2年生の割に気の抜けた脱力系の性格の持ち主だ。

 ただ、自分が立ち向かわなくてはいけない運命にはしっかりと向き合い、実直に立ち向かっていく芯の強さも持ち合わせている。また、幽霊であろうと1人の人間として見ており、相手を尊重する気持ちが強い優しい性格でもある。

 このタイプの性格の主人公は当時のジャンプにはあまりいなかったように感じるが、読んでいた当時の筆者はむしろ葉に親近感があったように思う。年齢も1つ程度しか違わない主人公が持つ気負い過ぎないユルい性格がより中学生のようでリアルに感じていた。そんな彼が東京に出てきてさまざまな人たちと出会っていくことで、身体的にというより精神的に成長していくことが本作の魅力だと思う。

 もちろんシャーマン同士が持霊の能力を使ってバチバチに戦う「シャーマンファイト」もおもしろい。ただ、それ以上に葉が精神的に揺れることで力の配分を間違って負けてしまったり、強くなるために覚悟を決めて苦手な特訓に立ち向かう決意をしたりと、人間としての成長を見るのが楽しい。仲間同士の切磋琢磨という感じはあまり感じないが、だからこそ1人の人間が自分で考えて成長していく姿をしっかり描いていている。

また、葉のユルい性格のおかげかシャーマン同士のバトルの間でも、物語が重くなりすぎず読みやすくなっているのも嬉しい

 そして本作で重要なキャラクターである小山田まん太の存在も大きい。本作の主人公は麻倉葉だが、視点は小山田まん太からの視点で描かれていることが多く、彼の目線を通してシャーマンとは何か、霊や精霊、シャーマンファイトとは何かが解説されている。彼の存在が本作の世界をより良く知る重要な立ち位置になっている。現代社会を舞台に非日常的なファンタジーが描かれているからこそ、一般人寄りの感覚を持つ彼の存在が読者と作品の世界の間を取り持ってくれて、本作の世界観を読み取りやすくなっている。

 本作は連載が終了後、続編や外伝なども数多く連載されており、他のキャラクターたちの視点などでよりこの世界を楽しめるようになっている。連載当初の出版社からは移籍してしまったが、作品の中身自体は変わらずに読めるのも嬉しい。気になった方はぜひ手に取って読んでみてほしい。

麻倉葉の息子である麻倉花を主人公とした「シャーマンキングFLOWERS」も後に連載
こちらは2024年1月よりTVアニメの放送も予定されている