【特別企画】
NLP(自動言語処理)版「ポートピア連続殺人事件」体験レポート
「SQUARE ENIX AI Tech Preview: THE PORTOPIA SERIAL MURDER CASE」
2023年4月21日 13:00
- 【SQUARE ENIX AI Tech Preview: THE PORTOPIA SERIAL MURDER CASE】
- 4月24日配信
- 価格:無料
スクウェア・エニックスは4月24日に、NLPアドベンチャー「SQUARE ENIX AI Tech Preview: THE PORTOPIA SERIAL MURDER CASE」(以下、THE PORTOPIA SERIAL MURDER CASE)をSteamにて無償公開する。そのタイトルからわかる通り、旧エニックスが1983年にリリースしたアドベンチャーゲーム「ポートピア連続殺人事件」を題材に、AI技術の「NLP(Natural Language Processing:自然言語処理)」を導入し、プレイヤーによる“自由なテキスト入力への対応”を実現したテクニカルデモタイトルとなる。
そのリリースにあたり、本作の開発を手がけた同社AI部のAIリサーチャー森友亮氏が研究・提示するジャンル「NLPアドベンチャー」についてのプレゼンテーションとともに本作の体験会が実施された。40年の時を経て、NLPの導入とともに現代風のフォーマットで提案された「ポートピア連続殺人事件」の体験レポートを本稿にてお届けしていこう。
また、ゲームデザイナーの堀井雄二氏からのコメントもいただいているので、合わせて掲載する。
Steam「SQUARE ENIX AI Tech Preview: THE PORTOPIA SERIAL MURDER CASE」のページ
どうも みなさん、こんにちは
堀井です。
2023 年も春にさしかかり、みなさんいかがお過ごしでしょうか。
このたび、スクウェア・エニックスで研究している AI 技術の題材として、「ポートピア連続殺人事件」を扱うというお話を頂きました。
PC-6001 で「ポートピア連続殺人事件」が発売されたのが 1983 年ですから、もう今年で 40 年を数えます。
はじめは PC から始まった「ポートピア連続殺人事件」も、ファミコンや携帯電話等に移植され、多くの人に楽しんでもらってきました。PC 版では、部下のヤスに自由に命令をするコマンド入力方式でしたが、言葉捜しが難しく進化の過程で、あらかじめ用意した言葉から選んでヤスに命令する、コマンド選択方式に改良していきました。
しかしコンピュターの AI 技術も、かなり進化してきました。
今なら、自由な言葉で命令をするコマンド入力方式にもどしても、AI が命令を理解して事件を解決に持っていけるのではないか?
そんなわけで、今回の研究は PC 版「ポートピア連続殺人事件」のように自由な言葉でヤスに命令を出す仕組みで、AI が命令された文章を判断することで自由な会話をしながら物語が進行するとのことです。
捜査を進展させる質問は何なのか、推理する体験がどのようになるのか、僕も楽しみです。
是非みなさんも、神戸で起きた事件をヤスとともに解決に導いてください。
堀井雄二でした。
「ポートピア連続殺人事件」のコマンド入力式のゲームゲームシステムにNLPを導入。コマンドの自由なテキスト入力を実現した
「ポートピア連続殺人事件」は、堀井雄二氏の手により、今から40年前の1983年にPCでリリースされた、神戸を舞台とする連続殺人事件を描いた推理アドベンチャーゲームだ。プレイヤーは刑事となって、相棒の「ヤス(真野康彦)」に対して「ゲンバ イケ」、「アリバイ キケ」、「ツクエ シラベロ」といった指示をキーボードから入力して推理を進めていく、いわゆる「コマンド入力式」に則ったゲームデザインであった。
当初のアドベンチャーゲームというジャンルは、テキスト主体のストーリーテリングにおいて、プレイヤーがゲーム内で行動をするための「コマンド」を入力することで物語が進む仕組みで作られていた。その入力方法は大まかに分けて2つあり、その一つが上記の「コマンド入力式」だ。これはアドベンチャーゲーム黎明期のスタイルで、キーボードで正しい言葉で行動のためのコマンドを入力することで、ゲーム中のキャラクターが行動を起こしてゲームが進むというものだ。
そしてもう一つは「コマンド選択式」で、こちらはゲーム画面のメニューに表示された選択肢からコマンドを選ぶことでゲームを進めていくスタイル。同じ堀井雄二氏制作の推理アドベンチャー「オホーツクに消ゆ」(1984年)で採用され、「ポートピア連続殺人事件」が1985年にファミリーコンピュータで発売されたときも導入された馴染み深いもので、以降のアドベンチャーゲームでも一般的なシステムとなった。
本作「THE PORTOPIA SERIAL MURDER CASE」で注力されているのは、その原点である前者のコマンド入力式である。コマンドをプレイヤーの言葉で入力する仕組みは、「当人の想像力の数だけ選択肢がある」と言えるほど自由度が高いという利点があるが、ゲームは全ての入力を認識できるわけではなかったため、取るべき行動が分かったとしても、開発者によって設定された正確な文字列を入力しなければ「モウイチドニュウリョクシテクダサイ」、「ソレハデキマセン」などと素っ気なく返されてしまうことがあった。
入力の自由度の高さに対して進行の自由度が低いという点はコマンド入力式のアドベンチャーゲームの弱点であり、同様のゲームを当時触った経験がある筆者も、“行動すべきことはわかるのに言葉が当てはまらない”という言葉探しに悩まされたことを思い出した。
そんなコマンド入力式の弱点を現代のNLPの技術で解消しようというのが、今回リリースされるこの「THE PORTOPIA SERIAL MURDER CASE」である。原作の「ポートピア連続殺人事件」の当時のシナリオをベースに、NLPを導入した本作は、開発陣が神戸ロケで撮影したという実写の風景をバックに、ヤスとの対話形式のインターフェイスが設けられ、プレイヤーの入力文(=コマンド)をゲーム側がある程度までくみ取って理解し、正確な文字列でなくても意味が正しければシナリオが進行するというデザインが施されている。
例えばその場所で聞き込みをしたいときに、「聞き込みをしろ」と「話を聞け」のどちらでもヤスは聞き込みをしてくれる。容疑者を呼んで取り調べをする際、被害者の「山川耕造」について尋ねるとき、「耕造について聞け」という入力の他、「耕造はどんな人物か」と聞いても正しい返答が返ってくる、といった具合だ。
ポイントなのは、オリジナルの「ポートピア連続殺人事件」のシナリオは可能な限り残していて、現代では理解しにくい1983年当時の常識に関してもあえて改変やアレンジを加えずに作られているとうこと。例えば当時は携帯電話がなかったため、電話をかけるには電話がある場所に行かなければならない。また喫茶店のマッチや市外局番など、今ではあまり見られない小道具や状況の演出もあえてそのまま残してある。
これは「NLPを導入してコマンド入力式アドベンチャーゲームの本来のポテンシャルを引き出す」というコンセプトに基づいたもので、これにより新技術の導入によって今から40年前にリリースされたアドベンチャーゲームがどう変わったのがが認識できるというわけである。
さらに今回試遊させてもらったバージョンには、製品版として配信される内容には含まれていない、NLG(Natural Language Generation:自動言語生成)による返答の要素も入っていた。コマンド入力時に正解とは違うワードを入力した場合、ヤスがその内容に則った自然な答えを雑談的に返してくれるというもので、前述の「モウイチドニュウリョクシテクダサイ」という素っ気ない返しを避けるための機能である。
ただしこの機能は、NLGによって想定外の危険な返答が出てしまう恐れがあることを鑑み、今回リリースされる製品版からは外されている。開発陣もゲームへのNLG導入は大きな課題として捉えていて、単純に倫理的な設定をするだけでは、フィクション上の明確な悪や反社会的存在に対しても倫理的な返答が反映されてしまい、シナリオが破綻してしまう可能性もある。そのバランス設定なども含め、現在も検証が進められているとのことだ。
実際にコマンド入力を試してみると、若干発展途上な印象はあるものの、感触は悪くない。上に挙げた程度の言葉の違いは理解してくれるようで、当時の言葉探しを経験している筆者にとっては大きな進化を感じられた。経験上どうしても簡素な言葉で入れてしまっていたが、セリフ的なワードを入力して進める楽しみ方も成立するのではないだろうか。
キーボードでの文字入力がPC黎明期の40年前と比較してある程度常識的となった現在なら、コマンド入力式アドベンチャーのハードルもそれほど高いものではなくなった。今回配信されるテックプレビューは、原作に沿って最後までプレイすることができ、コマンド探しはNLPがフォローしてくれる。ヤスをはじめ新たに描き起こされた登場人物のイラストや実写の背景は、かつてを知るプレイヤーも新鮮に感じられるはずだ。そして本作のタイトルと同じぐらい有名な犯人のことを知っていたとしても、事件解決に至るまでの過程やその動機などを改めて味わってみるのもいい機会である。
昔ながらのアドベンチャーゲームのシステムに一石を投じる今回のプロジェクト。今後もAI並びにNLPの研究は今後も続いていくそう。さらに発展した技術がどのように発展していくのか、その動向にも注目していきたい。