【特別企画】
「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」ファーストインプレッション
2022年8月5日 00:00
徐々に見えてくるゲームのルール。しかし謎はますます深くなっていく
「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」はかなり独特な味のあるゲームだ。明確なゲームの目的がわかりにくいし、一見何をして良いかわからないこともあり、プレーヤーをかなり戸惑わす。
しかしそこをあえて深刻に考えなくて良いのだ。本作には、推理小説のようにひとつまたひとつと謎が解かれていく楽しみがある。このゲームがプレーヤーをどう導いていくか、その奇妙な導線そのものを味わうのも本作の楽しさだ。プレイをしていて不意にこのポイントに気づくことができる。
吊り下げられて殺された男は労働関係の対立で殺されたようだ。ホテルから遠くないところに工場があるが、ストライキの真っ最中で入り口は労働者が集まっているし、ドアは工場側の責任者が入り口を封鎖している。体力に自信があればこの責任者をノックアウトできそうだが、今回の主人公にはとてもそんな力はない。
本作では基本は会話で物事を解決していく。この会話は他人とだけでなく、自分の内なる声とも行っていく。様々な声に耳を傾ける中で主人公は新たな考え「フェミニズム」や、「共産主義」など、新しく生まれた思考を「思考キャビネット」のスロットに入れることで会話の選択肢が広がっていく。頑として入口を開けない責任者は、彼の思想に理解を示すことで通行できるようにしてくれる。
しかしメリットばかりではないようだ。「浮浪刑事」という思考はスロットに入れておくととにかく色んな人に金をせびる選択肢が出る。主人公をどんな思想を持ったキャラクターとしていくか、そこでストーリーや展開も変わっていくようである。
また「タスク」も最初は見逃してしまいがちな要素だ。「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」では、「どう先に進もう、何をやろう」という意思を持って闇雲に動いても事態が進展しないと感じる部分がある。こういうときこそジャーナルに溜まった「タスク」を見なおすことで指針が見えてくる。タスクはなくした物を見つけたり、手に入れたものを改めてチェックしたり、新たに得た情報を他のキャラクターに話すだけで進むものもある。
タスクをクリアすると経験値が得られる。得た経験値でスキルを伸ばしていけばより困難な状況にも対応できる。「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」では焦りは禁物だ。目の前のことに囚われなければ序盤から移動できる場所は多く、話ができるキャラクターも多い。「殺人事件を解決しろ」という大目標だけでなく、この世界に何が起きているか、自分はどんな役割を果たしていくかといった世界の歩き方そのものに関心を持つことで様々なアプローチができる事に気づかされるのだ。
もう1つ「日本語化の意義」について触れたい。本作の音声は英語で、テキストを日本語化しているが、この翻訳のおかげでこの奇妙なゲームの魅力が充分に味わえる。クセの強い世界観に、状況説明やスキル判定も人格が異なるスキル自身がプレーヤーに語りかけるというシステムで、テキストの役割が非常に大きい。
各キャラクターのエキセントリックな会話、人格の違いによる解釈、記憶喪失で飲んだくれ、ディスコミュージックとカラオケ好きという奇妙極まりない主人公の人格など、支離滅裂ともいえるその混沌な雰囲気をそのまま日本語化してくれたスタッフの作業量と情熱には改めて頭が下がる。
「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」は奇妙で、刺激的で、楽しい作品である。筆者もまだ本作の入口に立ったばかりだ。ぜひ手に取り、主人公自身が謎だらけという訳のわからない浮遊感を味わって欲しい。この物語の先に何があるのか、のめり込んでゲームを進めたくなるだろう。
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