【特別企画】
全軍突撃! サルーイン! 熱情の律動! サガ尽くしの3時間だった「KENJI ITO The 30th Anniversary Concert」レポート
2021年2月1日 11:43
- 2021年1月30日開催
作曲家 伊藤賢治氏が今年で作曲活動30周年を迎えるにあたり、2021年1月30日に記念ライブが開催された。伊藤氏は1990年にスクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社し「サガ」シリーズをはじめとした同社の数々のゲーム音楽を手掛け、後に独立し様々な楽曲を提供しており、バトル曲を筆頭とした疾走感溢れるリズムに横たわる情緒的かつ繊細なメロディは「イトケン節」と呼ばれ、ゲームファンからは「イトケン」の愛称で親しまれている。
本公演はスクウェア・エニックスのサポートの下、伊藤氏の代表作とも言える「サガ」シリーズから23曲がチョイスされ、伊藤氏とゆかりのあるメンバー・ゲストでバンド形式で編成、3時間にわたって演奏された。また昨今の情勢を鑑み、公演形式はオンラインイベントとなった。
「KENJI ITO The 30th Anniversary Concert~supported by SQUARE ENIX~」のセットリストならびに出演者は以下の通り。
【KENJI ITO The 30th Anniversary Concert~supported by SQUARE ENIX~ セットリスト】
1:安らぎの大地 -Piano Solo-(Sa・Ga2 秘宝伝説、1990年)
2:必殺の一撃~死闘の果てにメドレー(Sa・Ga2 秘宝伝説、1990年)
3:バトル1メドレー(ロマンシング サ・ガ シリーズ、1992年)
4:全軍突撃!(インペリアル サガ、2015年)
5:下水道(ロマンシング サ・ガ、1992年)
6:いざゆけ!怪傑ロビン(インペリアル サガ、1995年)
7:胸に刻んで(サガ スカーレット グレイス、2016年)
8:砕かれし星(サガ スカーレット グレイス、2016年)
9:ポドールイ(ロマンシング サ・ガ 3、1995年)
10:ALONE(サガ フロンティア、1997年)
11:冥魔・堕されしものども(サガ スカーレット グレイス、2016年)
12:怒闘(魔界塔士Sa・Ga、1990年、植松伸夫作曲)
13:ロマサガRSバトルメドレー(ロマンシング サガ リ・ユニバース、2018年)
(「頂を目指して」~「Grave Battle」~「戦士と共に-Polka-」)
14:臨戦態勢!~サガスカキャラバトルメドレー(サガ スカーレット グレイス、2016年)
(「花びらを踏みしめて~ウルピナバトル~「翔遼乱承!~レオナルドバトル~「血の滾り~タリアバトル」~「罪を背負う者~バルマンテバトル」)
15:四魔貴族バトルメドレー(ロマンシング サ・ガ 3、1995年)
16:ラストバトル(ロマンシング サ・ガ 2、1993年)
17:ラストバトル(ロマンシング サ・ガ 3、1995年)
18:決戦!サルーイン-Final Battle with Saruin(ロマンシング サガ -ミンストレルソング-、2005年)
19:七英雄バトル(ロマンシング サ・ガ 2、1993年)
20:邪聖の旋律(ロマンシング サガ -ミンストレルソング-、2005年)
21:Battle#4(サガ フロンティア、1997年)
22:熱情の律動(ロマンシング サガ -ミンストレルソング-、2005年)
23:オープニングタイトル-Piano Solo-(ロマンシング サ・ガ、1992年)
<出演者(敬称略)>
伊藤賢治 (Keyboard)
寺前甲 (Guitar)
上倉紀行 (Guitar & Keyboard)
榎本敦 (Bass)
岡島俊治 (Drums)
和田貴史 (Manipulator)
土屋玲子 (Violin)
MIZ (Violin)
宮崎大介 (Guitar)
※スペシャルゲスト
杉田 智和 (Voice Actor)
KENN (Voice Actor)
清塚 信也 (Piano)※映像出演
野々村 彩乃(Vocal)
弘田 佳孝 (Cello)
成田 勤 (Guitar)
岸川 恭子 (Vocal)
「Sa・Ga2 秘宝伝説」から幕を開けたイトケンワールド
開幕は伊藤氏のピアノソロ「安らぎの大地」から始まった。この曲は伊藤氏のデビュー曲とも言えるものであり、音楽生活30年を振り返る上でのトップバッターに相応しい入り方であった。落ち着いた入りから一転、「必殺の一撃」が始まり「死闘の果てに」と繋がっていく。伊藤氏のライブを見てきたファンであれば「あぁ、いつものイトケンだ」と思わんばかりのロックベースにシンセサイザーが乗る構成で展開されていった。以降しばしば出てくるが、キーボードとギターが織りなすメロディのハモりが心地よく胸に響く。
ここでステージの全景が映し出されたが、ステージ後方中央にドラムの岡島俊治氏、その両側をベースの榎本敦氏、マニピュレータの和田貴史氏が固めており、ステージ中段は両端を寺前甲氏、宮崎大介氏のツインギターが展開、中央に向かいギター/キーボード二刀流の上倉紀行氏、後に登場するバイオリンの土屋玲子氏とMIZ氏、そして最前方中央にキーボード伊藤氏が鎮座するという、「ロマンシング サガ リ・ユニバース(以下ロマサガRS)」で言うところの「デザートランス(※)」のような陣形である。
※デザートランス:伊藤氏のポジションに全強化がかかり、なおかつターゲットされる陣形
ここで伊藤氏からの開演挨拶があったが、多数の曲を披露するため話もそこそこにすぐに次のフェーズへ。「ロマンシング サ・ガ」(以降「ロマサガ」)1・2・3のバトル1メドレーである。ここからはバイオリニストの土屋玲子氏とMIZ氏が登場、音にステージに艶が加わった。ロマサガ1・2・3のバトル1だが、原曲的に見ても、ロマサガ1のバトル1を1ループしてロマサガ2のバトル1に、ロマサガ2のバトル1も同様にロマサガ3のバトル1へそのまま繋げても何の違和感も無い、メドレーにうってつけの3曲である。しかもソロパートを終えてロマサガ1のリメイク作品である「ロマンシング サガ -ミンストレルソング-(以降「ミンサガ」)」のバトル1に回帰するという歴代ロマサガファンにはたまらないメドレーである。
次の「全軍突撃」もツインギターのハモリイントロから入り、バイオリンのしっとりとしたメロディを伊藤氏がロマサガ1・2のフレーズで受け継ぐという序盤からイトケン節大爆発である。寺前氏と上倉氏のソロのハモリ含めた掛け合いも息が合っており最高の出だしと言えよう。
そして皆さんお待ちかねの「下水道」。初見の方だとセットリスト中で異彩を放っているように見えるこの曲、今までに幾度となく披露されてきているが、ロマサガ1版とミンサガ版を混ぜ合わせたものをベースにFunk調の味付けがされた「Re:BirthII-閃-」バージョンとなり、原曲のやや暗く閉鎖的なイメージから「明るく開かれた下水道」に昇華されていると言えよう。
スペシャルゲストが続々登場!トークコーナー
もう序盤だけでお腹いっぱいになりそうだが、まだまだ時間は残っており、演者はもとより視聴者の残りLP(ロマサガ用語でライフポイントの略、0になると復活できなくなる)が懸念される中、曲間トーク中に突如乱入する謎の声。そのまま「いざゆけ!怪傑ロビン」へなだれ込む。「インペリアル サガ」をプレイした方であればピンと来たであろう。怪傑ロビンの決め口上(イトケン30周年バージョン)も曲中に披露され、もしや?という空気の中、演奏後に登場したのは果たして声優の杉田智和氏とKENN氏であった。完全にサプライズである。「インペリアル サガ」で杉田氏は怪傑ロビン(偽)を、KENN氏は怪傑ロビンの声を当てており、「いざゆけ!怪傑ロビン」も歌っている。今回は残念ながら歌入りではなかったが、両名に「サガシリーズ」の想い等をトークコーナーでガッツリ語ってもらった。
その後伊藤氏とは10年来の親交を持つ上倉氏も登場、さらにはピアニストの清塚信也氏も映像出演で伊藤氏に向けてコメントし、短いながらも濃厚な一幕となった。
バトルだけじゃない!バラードを中心とした中盤戦
ここからは一旦落ち着いたフェーズに入り、「サガ スカーレット グレイス」のエンディングテーマである「胸に刻んで」が演奏された。ここでソプラノ歌手である野々村彩乃氏が登場、原曲でも野々村氏が担当しており、今回も朗々とした歌声を響かせた。その声量たるや画面越しでも十二分に伝わってきた。続いて同タイトルを進化させつつ他プラットフォームへ展開した「サガ スカーレット グレイス 緋色の野望」のオープニングテーマである「砕かれし星」を披露。両曲とも原曲はオーケストラであり本公演向けにバラード調に編曲されているがその雰囲気は少しも損なわれることは無かった。
伊藤氏と野々村氏のトークを挟んで続いて登場したのは作曲家でありベーシストでもある弘田佳孝氏。今回はチェロを引っ提げての参戦である。「ポドールイ」と「ALONE」の物静かな曲が続く。2つのバイオリンにチェロが加わることにより、弦パートが厚みを増す。両翼のギターもアコースティックに持ち替え、完全にしんみりとさせてきているモードである。特に「ALONE」での土屋氏→MIZ氏→弘田氏の弦楽器ソロリレーはしんみりポイントの高いシーンであった。
長すぎるラストスパート! バトルしっぱなしの後半戦
伊藤氏と弘田氏とのトークが終わり、ここから早くもラストスパート。次のスペシャルゲストである作曲家の成田勤氏をギターに迎えて疾走し始めるは「サガ スカーレット グレイス」から「冥魔・堕されしものども」である。バリバリのロック調でありながら主旋律をバイオリンに任せるイトケン節が炸裂。その中でも中盤のベース榎本敦氏のソロが光っていた。続いては「魔界塔士Sa・Ga」からラストバトルである「怒闘」。「怒闘」は作曲家植松伸夫氏によるものだが、ロマサガRS用に伊藤氏がアレンジ、成田氏がマニピュレートしており、そのアレンジバージョンをサプライズとして選曲された形となった。Bメロのギターとバイオリンが相互に演奏しあう部分は流石としか言いようがない。
伊藤氏と成田氏のトークが終わるとロマサガRSから「頂を目指して」~「Grave Battle」~「戦士と共に-Polka-」をメドレー形式で、さらには「サガスカキャラバトルメドレー」として花びらを踏みしめて~ウルピナバトル~「翔遼乱承!~レオナルドバトル~「血の滾り~タリアバトル」~「罪を背負う者~バルマンテバトル」の4キャラのバトル曲も同様にメドレー形式で演奏。メドレー2連発である。「戦士と共に-Polka-」ではギター兼バンドマスターの寺前氏の激しいソロから入り、バイオリンが引き継ぎ、伊藤氏へバトンタッチ。中盤の伊藤氏のキーボードソロも見ごたえがあった。メドレー最後の最後に力を振り絞るような岡島俊治氏のドラムソロで〆。
そして「四魔貴族バトルメドレー」、ギター寺前氏の泣くようなギターでイトケン節を奏でる。終盤のは寺前氏→上倉氏→宮崎氏→上倉氏のソロメドレーも圧巻であった。ここで終わるか?と思いきやそのままロマサガ2の「ラストバトル」へ続く。ここでの見どころのひとつは、ギターをかついだままキーボードでソロを担当した上倉氏のキーボード&ギターの二刀流である。ここでようやく終わりかなと思いきや掟破りのロマサガ3の「ラストバトル」へ。残りLP(特にドラム岡島氏とベース榎本氏)が気になるところだが、ここでも上倉氏のキーボードが光る。このロマサガ3のラストバトルアレンジには小さなサプライズがあり、ロマサガ1の「バトル2」がワンフレーズ入っている。歴代ロマサガファンにとっては感涙ものだろう。
一息ついたと思ったら残るラスボスの「決戦!サルーイン-Final Battle with Saruin」が登場。宮崎氏・上倉氏のソロを経て、伊藤氏と寺前氏のメロディハモリが見事に決まり、伊藤氏が左手を高々と上げ寺前氏に応える。ステージのボルテージも最高潮である。最終盤の伊藤氏のソロも炸裂し、最終決戦の幕が下りた。
まだまだバトルは続く!アンコール
本来の公演であればサルーインが終わった時点で演者が一旦退場するのだが、今回はオンラインライブなのでそのままアンコールが始まった。忘れてはいけないロマサガ2の「七英雄バトル」がアンコール先陣を切った。土屋氏とMIZ氏のツインバイオリンがメロディをしっとりと奏でる。伊藤氏が視線を送る中、間奏のソロ部分も阿吽の呼吸で両氏が務めあげる。続いてはミンサガから「邪聖の旋律」。原曲はオーケストラなのだが、ロック調にアレンジされた「Re:BirthII-閃-」バージョンでのお届けだ。前曲に引き続きメロディをバイオリンとギターが担当、ソロは上倉氏が今度はギターで披露した。
その後、最後のスペシャルゲストであるアーティストの岸川恭子氏が文字通り満を持して登場、岸川氏が登場した時点でお馴染みのファンだと「あの曲」の演奏が確定され、公演も大詰めという認識になるが、その前に岸川氏が参加している「サガ フロンティア」の「Battle#4」リアレンジ「Re:BirthII-連-」バージョンがトリ前として演奏された。バイオリンを両脇に従えた岸川氏のパワー溢れるボイスパフォーマンスに皆がぐいぐい引っ張られるように展開していった。
そして大トリはミンサガから「熱情の律動」。ギターもアコースティックに持ち替え準備万端である。ここでも岸川氏は原曲さながらの一度聴いたら忘れられないボイスパフォーマンスを発揮、ステージがイトケンワールドで満たされた。ループしたところで各メンバーにスポットがあたり、メンバー紹介よろしくソロを披露していく。4小節と短い時間ではあるが各々最後の力を振り絞り見事なソロパフォーマンスを披露した。
最後の演奏を終え、出演者全員の紹介を済ませたところで時間が結構残っていることに気付いた伊藤氏。粛々と進めすぎて思いのほか全曲目を早く終えてしまったようだ。オンラインイベントだったこともあり、伊藤氏もその独特の進行に若干戸惑っていたのはご愛敬である。
そこで伊藤氏の今後の展望、そして上倉氏を交えていくつかのエピソードを語ったところでエンディングの時間となり、開幕と同じように伊藤氏がピアノソロでロマサガの「オープニングタイトル」を手ずから披露し、本公演の締めくくりとした。本公演の様子はアーカイブされており、チケット購入者は2月2日23:59まで視聴が可能となっている。
伊藤氏は、今後も新しい事に挑戦していきたいと述べており、音楽生活30年を迎えてなおチャレンジし続ける姿勢を見せている。また新たな形の「イトケン節」を見せてくれる事に大いに期待したい。
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photo by nagare