【特別企画】

従来比2倍の性能を実現した「GeForce RTX 30シリーズ」詳報

ゲーム配信を便利にするNVIDIA Broadcastやゲーマーの悩みの種「遅延」を削減するNVIDIA Reflexも提供

9月2日発表(日本時間)

 半導体メーカーのNVIDIA(エヌビディア)は、ゲーミングPC向けのビデオカードの市場シェア約78%(2020年第2四半期、Jon Peddie Research調べ)を占めるGeForceシリーズの最新作となる「GeForce RTX 30シリーズ」(ジーフォース・アールティエックス・サーティ・シリーズ)を、9月1日(米国時間)に発表した。GeForce RTX 30シリーズはAmpere(アンペア)の開発コードネームで開発されてきたNVIDIAの新しいGPUアーキテクチャに基づいており、前世代となるTuring(チューリン)ベースの「GeForce RTX 20シリーズ」に比較して、性能が2倍になっていることが大きな特徴となる。

 そうした半導体ベースの強化に加えて、ゲームのデータが置いてあるSSD(PCの内蔵フラッシュメモリのこと)からCPUを経由しないでゲームのデータをGPUに読み込むRTX IO(アールティエックスアイオー)、ゲームの遅延を最小限にする機能となるNVIDIA Reflex(エヌビディアリフレックス)、ゲーム配信時にノイズ抑制や背景の調整などをGPUを利用して行なうNVIDIA Broadcast(エヌビディアブロードキャスト)、さらにはHDMI 2.1に対応することで8Kディスプレイに接続してゲームをプレイする機能などが用意されており、ゲーマーがゲームをより快適に楽しむことができる機能も追加されている。

【GeForce RTX 30シリーズ】
NVIDIAが発表したGeForce RTX 30シリーズ、GeForce RTX 3090、GeForce RTX 3080、GeForce RTX 3070の3つの製品ラインナップが用意されている

RTX 20シリーズと同じ3つの演算装置を搭載したGeForce RTX 30シリーズ

GeForce RTX 3080を手にもつNVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏

 今回NVIDIAが発表したGeForce RTX 30シリーズは、NVIDIAがAmpereの開発コードネームで開発してきた最新のGPUアーキテクチャ(アーキテクチャ=仕組みのこと)に基づいた製品となる。NVIDIAは、そうした1つのGPUの仕組みを開発し、そこから内部の構造を伸縮することで複数の製品へと展開する戦略をここ数年続けている。Ampereも同様で、まずスーパーコンピュータ向けの製品がNVIDIA A100 GPUとして5月に発表されており、今回のGeForce RTX 30シリーズはそれに次ぐAmpereアーキテクチャに基づいた製品となる。

GeForce RTX 20シリーズでは一番左のシェーダーに加えて、右2つのRTコア(レイトレーシング用)とTensorコア(AI)が追加された

 今回発表されたGeForce RTX 30シリーズは、NVIDIAが2018年に発表したGeForce RTX 20シリーズ(Turing)の成功をさらに推し進めるものとなる。GeForce RTX 20シリーズでは、以下のような3種類の演算用のハードウェアを内蔵していた。

(1)シェーダユニット(従来型の3D描画用のエンジン)
(2)RTコア(リアルタイム・レイトレーシング用のエンジン)
(3)Tensorコア(AI用のエンジン)

 NVIDIAはGeForce RTX 20シリーズにおいて、従来からGPUが持ってきたシェーダユニット(NVIDIAがCUDAコアと呼んでいるエンジンから構成される描画エンジンのこと)に加えて、リアルタイム・レイトレーシングと呼ばれる影や映り込みの動きを物理的に計算して描画していく機能をハードウェアで行なうRTコア、そしてAIの処理をハードウェアで行なうTensor(テンサー)コアの2つのハードウェアを追加した。

 RTコアやTensorコアの追加により、従来のGPUに比べてより写真品質に近い描画をリアルタイムに行なうことが可能になるほか、NVIDIAが提供するDLSS 2.0(ディーエルエスエスツーポイントオー)と呼ばれるAIを利用した描画向上機能を利用すると、同じ解像度でもより高い品質で描画し、フレームレート(1秒間に表示できるフレームの数のこと、このフレームレートが高ければ高いほど、高速にゲームで表示できることを意味する)を引き上げる効果がある。

【NVIDIA GPUの世代毎の機能やソフトウェアの対応】

 今回発表されたGeForce RTX 30シリーズは、そうしたGeForce RTX 20シリーズの3つのエンジン(シェーダユニット、RTコア、Tensorコア)という仕組みの大枠は継続しており、それぞれの性能を大きく引き上げていることが最大の特徴となる。ただし、チップの製造に利用される製造技術は12nmという世代から8nmというより新しい世代の技術へと変更されている。この製造技術の世代は数字が小さければ小さいほど、より高密度で性能が高く、消費電力が少ないチップが製造できることを意味しており、今回のGeForce RTX 30シリーズでもそのメリットが性能向上に活用されている。

前世代に比べて性能が倍になったとNVIDIAはアピール、今後をそれを利用するゲームタイトルの登場が期待される

GeForce RTX 30シリーズでは3つの演算器すべてで性能が強化されている。シェーダーは2.7倍、RTコア1.7倍、Tensorコアは2.7倍

 NVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏は「前世代と比較すると、シェーダユニットは2.7倍、RTコアは1.7倍、Tensorコアは2.7倍の性能を発揮する」と述べ、それぞれ内部構造の改良などによりそれぞれの性能を引き上げたことが、GeForce RTX 30シリーズの大きな特徴であり、GeForce RTX 30は20シリーズに比較して性能では2倍、電力効率は約1.9倍になっていると強調した。

GeForce RTX 30シリーズは性能は2倍に、電力効率は1.9倍になっている

 この性能が2倍になったことの意味は、今後それを利用して今よりももっとリアルなゲームなどが登場する可能性があることを意味している。ゲームパブリッシャーは、ハードウェア側の性能が引き上げられると、それを利用するようなゲームタイトルを開発してくる。そこにリアルタイム・レイトレーシングのような新しい描画技術を活用していくと、実際に現実世界に近い描画ができるゲームタイトルがどんどん増えていく可能性がでてくる。実際、今回の発表の中でNVIDIAはPC版「フォートナイト」がリアルタイム・レイトレーシングに対応したことを発表しており、今後もそうしたタイトルが増えてくるとなると、ゲーマーにとってもよりリアルなゲームを、さらに高解像度でプレイできるようになるのだ。

 また、新しいビデオメモリ(GPUのデータを展開しておくメモリ)として、G6X(GDDR6X)と呼ばれるGDDR6の改良版を採用していることも併せて明らかにされた。従来のGDDR6ではピン辺りの帯域が14~16Gbpsだったのに対して、GDDR6Xでは19~21Gbpsに高められており、メモリ全体の帯域幅を大きく引き上げることが可能になる。この結果として後述するGeForce RTX 3080のメモリ帯域幅は760GB/秒となっており、前世代となるGeForce RTX 2080 Tiの616GB/秒に比較して約23%ほど引き上げられている。

GDDR6Xという新しいメモリに対応。GPUの性能のボトルネックはメモリであることが多いので、これも性能向上に貢献している

 現代のGPUは、メモリからのデータ読み込みが性能のボトルネックになってしまっている場合が少なくないので、メモリの帯域幅が引き上げられることは、実際のゲームプレイ時の性能が大きく引き上げられる可能性があることを意味する。

 この他にも、GPUに内蔵されている動画デコーダ(動画を読み込んで画面に表示するためのハードウェア)も、従来製品の第4世代から第5世代へと強化されており、新しくAV1コーデックに対応している。これにより、AV1コーデックの圧縮率が高い8K HDRに対応した動画をインターネット経由で再生したりが可能になる。今後、NetflixやAmazon Primeなどの動画配信サービスがそうしたAV1コーデックの8K動画に対応すると、PCでそうした高解像度で高圧縮率の動画をインターネット越しに楽しむことができる。

GeForce RTX 3090/3080/3070という3つのモデルを用意、9月17日より順次発売

新しいGeForce RTX 30シリーズは8K出力や8Kの動画再生に対応している

 今回NVIDIAはGeForce RTX 30シリーズには3つのSKUがあることを明らかにした。それがGeForce RTX 3090、GeForce RTX 3080、GeForce RTX 3070の3つだ。

【GeForce RTX 30シリーズの3つのSKUとそのスペック】

 スペック表を見ればわかるように、GeForce RTX 3090がシェーダユニットの演算器となるCUDAコアが一番多く、性能は最も高くなる。3080/3070はそれに比べて演算器が少なくなっており、3070に関してはメモリのバス幅も上位2つが384ビットなのに、256ビットに制限されている。こうしたことからも3070はRTX 30シリーズの中では廉価版の扱いになっていることがわかる。

GeForce RTX 3090は最上位モデルで、3つのスロットを消費し、奥行きも大きくなっている。9月24日に1,499ドルで販売が開始される。日本では229,800円という予価が示されている(出典:NVIDIA)

 ただし、コア数が多い3090と3080は処理能力が高いために、その分消費電力も増えてしまっている。GCP(Graphics Card Power)と呼ばれるビデオカード全体の電力としては3090が350W、3080が320Wとなり、その分冷却機能を大きくしないといけなくなっている。3080は2つのファンのうち1つのファンを内部に向けて放出するユニークなファン機構を備えているため、従来のGeForce RTX 20シリーズと同じ2スロットの幅になっているが、3090に関しては3スロットを占有する形になっているだけでなく、奥行きも313mmと従来のビデオカードよりも大きくなっており、従来のGeForce RTX 20シリーズに置き換えて設置する場合にはPC内部のスペースにはよく注意してから購入するようにしたい。

GeForce RTX 3080は売れ筋と考えられている製品。2スロットで長さはGeForce RTX 2080 Tiの266.74mmからやや長くなっている。9月17日に699ドルで販売開始予定、日本では109,800円という予価がアナウンスされている(出典:NVIDIA)
GeForce RTX 3070は30シリーズの中では一番の廉価版。10月に販売開始の計画で499ドル、日本では79,800円という予価になっている(出典:NVIDIA)
NVIDIAが公開した、3080と3070の性能と価格の位置づけ。3080はGeForce RTX 2080 SUPERと同じ価格で性能が倍に、3070はGeForce RTX 2070 SUPERと同じ性能で性能が向上している。3070でもGeForce RTX SUPERを性能で上回っている

 なお、補助電源コネクタ(ビデオカードに電源から直接接続する電源ケーブルのコネクタのこと)に関しては上位2つが2xPCIe 8ピン、3070が1xPCIe 8ピンとなっており、こちらは20シリーズに利用していた電源がそのまま使い回す事ができる可能性が高い。ただ、カード側の補助電源のコネクタは新しい12ピンの端子になっており、パッケージに12ピンから8ピン×2に変換するケーブルが付属してくる形になる。

 電源の奨励出力は3090と3080が750W、3070が650Wとなっており、置き換える場合には奨励されている電源容量よりも多くを供給できる電源供給ユニットであるかに注意したい。

 また、このGeForce RTX 30ではHDMI 2.1という最新のHDMIの規格に対応している。このHDMI 2.1では、新しく8K表示に対応しており、対応のHDMIケーブルとHDMI 2.1に対応した8Kモニター(既にLGなどから販売開始されている8Kテレビなど)を利用することで、1本のケーブルで8K表示を行なうことが可能になっている。このため、そうした8Kモニターを用意し、ゲームタイトル側が8Kに対応していれば、8Kでゲームをプレイすることができる。NVIDIAのGPUがHDMI 2.1に対応したことで、今後はPC用のモニターで8K表示に対応したものが徐々に登場すると考えられており、すぐそこまで8Kゲーム時代が近づいてきたということができるだろう。

 価格と発売日は、3080が一番最初に販売開始される計画で9月17日に699ドル(1ドル=106円換算で、74,094円/税別)、その次が3090で9月24日に1,499ドル(同、158,894円/税別)、3070に関しては10月に販売開始の計画で499ドル(同、52,894円)と発表されている。なお、日本のNVIDIAのサイトでは3090が229,800円より、3080が109,800円より、3070が79,800円よりという価格が既に明らかにされている。

遅延を低減するNVIDIA Reflexや配信時の利便性を向上させるNVIDIA Broadcastも同時に発表

【RTX IO】
RTX IOではCPUを経由せずにゲームデータを直接GPUに読み込むことができる

 NVIDIAは、GeForce RTX 30シリーズの発表に合わせて、ハードウェアのみならずソフトウェア関連の新機能もいくつか発表した。Microsoftと協力して実装されるRTX IOという新機能では、CPUを経由せずにゲームのデータを直接SSDからGPUへ読みこむことができる。従来の仕組みでは、データの多くは一度CPUを経由してGPUへと読み込まれるため、CPUとGPUの間の転送速度が足りなくて性能が向上しないということが起きていた。そこで、RTX IOではそれを直接SSDからGPUへ読み込めるようにすることで、そうした足かせをなくそうという仕組みだ。なお、GeForce RTX 30シリーズはPCI ExpressというGPUとPCを接続する拡張スロットの規格の最新版となるPCI Express Gen 4に対応しており、SSDもPCI Express Gen 4に対応することで、さらに性能を引き上げることができる。

ゲームプレイ時に発生する遅延(ゲーマーの入力から画面に反映されるまでの時間)を削減するNVIDIA Reflex
360Hzのリフレッシュレートに対応したG-SYNC対応ディスプレイが今秋に市場に投入される

 NVIDIA Reflexは遅延(レイテンシ)を削減する機能だ。例えば、ゲーマーがマウスを使ってクリックしてからゲームが応答して画面が動くまでの時間、そのことを日本語で遅延、英語でいうならレイテンシと呼んでいる。この遅延が大きければ大きいほど、ゲーマーは違和感を感じ、応答速度が重要になるゲームでは思うようにプレイできなくなってしまう。そこで、NVIDIA Reflexではシステム全体の性能を計測し、それに応じて設定を自動で変更することで、遅延をできるだけ小さくする。なお、このReflexは今回のRTX 30シリーズと同時に発表されたが、RTX 30シリーズ専用という訳ではなく、従来のRTX 20シリーズ、その前のGTX 10シリーズやGTX 9シリーズでも利用することができる。

NVIDIA Broadcastは以前のRTX Voiceの発展版で、ノイズ抑制だけでなく背景ぼかしなどの映像処理の機能も追加されている
GPUの処理能力を利用して背景を処理
自分だけを切り抜いてゲーム動画にマージして配信したりできる

 これに対してもう1つの新機能NVIDIA Broadcastは、RTX 20シリーズ以降で利用することができる。AIの機能を利用するので、AIのエンジンとなるTensorコアがGPUに内蔵されている必要があるためだ。このNVIDIA Broadcastは、以前はRTX Voiceとして提供されていたノイズ抑制機能の発展版で、配信時にマイクに入るノイズ音(キータイプの音やマウスのクリック音などのノイズ)を、AIを活用して抑制する機能が用意されている。RTX Broadcastではそれに加えて、配信者の背景をリアルタイムに変更する機能も用意されており、それらのAIによる処理を、Tensorコアを内蔵しているRTX 30/20シリーズのGPUを利用して処理する。これにより、ゲームプレイ動画の配信時などに、配信者を切り抜いてゲーム動画に重ね合わせて配信したり、配信時のノイズを最小限にしたりと、配信時の利便性が大きく向上する。

 なお、今回NVIDIAは、実際のゲームタイトルを利用したフレームレートのベンチマークデータなどは公開しなかった。このため、現時点では実際のゲームでどの程度の性能を発揮するのかはまだ不明。近年のNVIDIAはまず製品の概要を発表し、その後製品の発売までに詳細を発表するという手順で発表することが多い。その意味ではそうした実際のゲームタイトルでの性能データは、最初のGeForce RTX 30シリーズの製品が発売される9月17日までに発表される可能性が高く、今後のそうした追加情報のアップデートも要注目だ。