【特別企画】

大人のためのゲーミングDIY講座 パートII

ゲームボーイアドバンスの反射型TFT液晶をバックライト付きIPS液晶に交換してみた

【IPS液晶交換用キット】

価格:7,480円(税込)

 2001年3月21日に発売された「ゲームボーイアドバンス」は、初代ゲームボーイシリーズの完全な後継機として登場した携帯ゲーム機であり、長らく愛された製品でもある。例えば、「逆転裁判」シリーズの初出は、ゲームボーイアドバンスである。

 ゲームボーイアドバンスは、バックライトがない反射型TFT液晶を採用していることが特徴だ。反射型液晶は周囲の光を利用して表示するため、屋外などの明るい場所では比較的見やすいのだが、室内ではかなり暗く、見にくくなってしまう。液晶の表示品質に対する不満が多かったためか、上位機種として2003年2月14日に登場した「ゲームボーイアドバンスSP」ではフロントライトが搭載され、2005年9月13日に登場した小型モデル「ゲームボーイミクロ」ではバックライトが搭載され、視認性が向上している。

 このゲームボーイアドバンスの反射型TFT液晶を、最新のバックライト付きIPS液晶に交換するキットが以前から海外通販などで販売されていたのだが、姉妹誌AKIBA PC Hotline!でも記事になっていたように、最近、秋葉原のショップでも販売されるようになり、日本での入手性が向上したので、早速挑戦してみることにした。

 最初に比較写真を挙げておくが、その差は歴然だ。IPS液晶のIPSとは、In Plane Switchingの略で、液晶分子を画面に対して平行に回転させることで表示をおこなう仕組みであり、色が鮮やかで視野角が広いことが特徴だ。

【ゲームボーイアドバンス(反射型TFT液晶)】
任天堂が2001年3月21日に発売した「ゲームボーイアドバンス」
ゲームボーイアドバンスの液晶は、バックライトがない反射型TFT液晶で、今のバックライト付き液晶に比べると、暗くコントラストが低い

【ゲームボーイアドバンス(バックライト付きIPS液晶)】
IPS液晶に交換後のゲームボーイアドバンスの画面。明るくコントラストも高くなり、視認性は格段に向上する

【バックライト付きIPS液晶に換装したGBAで「ミスタードリラー」をプレイする】

初めての人でも落ち着いてやれば大丈夫! IPS液晶への交換手順

 ゲームボーイアドバンスの反射型TFT液晶をIPS液晶に交換するには、ゲームボーイアドバンス本体とIPS液晶交換用キット、いくつかの工具が必要になる。IPS液晶交換用キットは、秋葉原の店舗で税込み7,480円で購入した。工具は、SwitchのJoy-Conを分解したときにも使った特殊なY字ドライバーと通常のプラスドライバー、平刃の彫刻刀、ピンセットなどを用意すればOKだ。

 IPS液晶交換用キットには、液晶本体と制御用基板の他に、液晶カバーや両面テープなど、交換に必要なパーツが一式付属しているが、交換手順の説明書などは一切ついていない。当然のことながら、ゲームボーイアドバンスの液晶を交換する作業は、メーカー保証外の行為であり(とはいえ、現存するゲームボーイアドバンスのメーカー保証期間はすでに終了しているが)、失敗して壊れても、すべてユーザーの自己責任となることに注意して欲しい。

【IPS液晶交換用キット】
筆者が購入したIPS液晶交換用キットに含まれていたパーツ。赤い線は3本付属していたが、液晶輝度の制御機能を使わない場合は不要だ
IPS液晶制御用基板。下にあるフレキは両端に端子が出ているが、ピン数が異なる
IPS液晶制御用基板の裏側

 では、早速、交換手順を解説する。まず、電池やカートリッジを外し、底面ケースを固定しているネジを外す。底面ケースを固定しているネジは全部で7本あるが、そのうち6本は特殊なY字ネジなので、Y字ドライバーが必要になる。残りの1本は、電池ボックスの中にあるのだが、そのネジだけ通常のプラスねじなので、プラスドライバーで外す。7本のネジをすべて外したら、底面ケースを持ち上げて外せばよい。

【底面ケースを外す】
ゲームボーイアドバンスの裏面。ここから攻略を開始する
まず、電池やカートリッジを外す
改造に必要な工具。上がデザインナイフだが、デザインナイフよりも、平刃の彫刻刀を使ったほうが楽だった。ドライバーは、特殊なY字ドライバーと通常のプラスドライバーが必要
Y字ドライバーを使って、底面ケースを固定している6本のY字ネジを外す
電池ボックスの中にあるネジも外す。こちらは通常のプラスネジだ
底面の7本のネジをすべて外せば、底面ケースを取り外すことができる。底面ケースを取り外すと、このように基板が見える。今のSwitchなどに比べると実装密度は低い

 次に、基板を固定しているプラスネジ(左右1本ずつ)を外し、基板と液晶を繋いでいるフレキのコネクタのロック(左右の茶色の部分)をピンセットなどを使って解除する。慣れてる人なら指の爪でやってもいいだろう。茶色の部分を上にスライドさせればロックが解除できる。フレキを外したり、基板を外したりする前に、必ずこのロックを解除しておくこと。

 また、ゲームボーイアドバンスには初期型と後期型があり、このコネクタのピン数が異なる。初期型は40ピンだが、今回改造した後期型は32ピンである。どちらのタイプでも、同じIPS液晶交換用キットで対応できるが、ここで基板のシルク印刷を確認しておくとよいだろう。フレキを外側にずらして外したら、基板を持ち上げて外せばよい。基板には大きなチップが2つ搭載されているが、中央がARMベースの32bit CPUで、その右側が256KB RAM(筆者が改造した製品では富士通製)である。

【基板を取り外す】
次に、基板を固定しているプラスネジ(左右1本ずつ)を外す
基板と液晶を繋いでいるフレキのコネクタのロックをピンセットなどを使って解除する。ピンセットがつまんでいる茶色の部分を上にスライドさせれば解除できる
コネクタのロックが解除された状態。また、このときにコネクタの右下の数字を確認しておくとよい。この基板は32(32ピン)だが、初期型のゲームボーイアドバンスは40になっている
このように、フレキを外側にずらしていき、コネクタから外す
フレキが外れたら、基板をそのまま持ち上げれば、ケースから分離できる
基板の表側(ボタンや液晶側)。CPUやメモリが見える
中央のチップがARMベースの32bit CPU。右側が富士通製の256KB RAMである

 続いて、上面ケースから、元の液晶を取り外す作業だ。液晶は両面テープで接着されているため、ネジなどはない。やや強引ではあるが、ケースの両側を持って、雑巾を絞るようにねじったり、反対にねじったりすることを繰り返すと、液晶が浮いてくる。液晶が浮いてきたら、指などを入れて液晶を取り外す。

 オリジナルの反射型TFT液晶と交換するIPS液晶を比べると、解像度は同じだが、IPS液晶のほうが表示サイズがわずかに大きい。そのため、上面ケースを加工する必要があるのだ。

【上面ケースから液晶を取り外す】
上面ケースには、液晶が接着されている(保護用スポンジの下が液晶)
ケースの両側を持って、雑巾を絞るようにねじる。逆にねじったりを繰り返すと、液晶が浮いてくる
液晶が浮いてきたら、指などを入れて液晶を取り外す
液晶比較。左がオリジナルの反射型TFT液晶。右が交換するIPS液晶。実は表示サイズがIPS液晶の方がわずかに大きい

 ゲームボーイアドバンスのIPS液晶への交換作業の中で、一番大変で時間のかかる作業が、この上面ケースの加工だ。まず、液晶の額縁部分に貼られている黒い両面テープを剥がす。次に、液晶カバーを外す。液晶カバーも両面テープで貼られているので、裏側から指でぐいぐい押して取り外す。

 上面ケースの加工作業は、2つに大別できる。1つめは、出っ張りを削る作業だ。下の写真で赤色の線で囲んだ部分の出っ張りを、デザインナイフや平刃の彫刻刀で削っていく。指を切らないように注意すること。実際にやってみると、刃が斜めになっているデザインナイフよりも平刃の彫刻刀のほうが作業がしやすかった。またSELECTボタンの部分の出っ張りもくりぬく必要がある。2つめは、液晶が見える窓を広げる作業だ。写真で黄色の線で囲んだ部分(2辺)を、短辺は約2mm、長辺は約1mm削って広げるのだが、なかなか根気がいる作業だ。

 筆者は不器用なので、窓の縁が少しガタガタになってしまったが、仕上がりにこだわる人はヤスリなどを使えば、より綺麗にできるだろう。また、海外通販サイトでは、IPS液晶のサイズに合わせたゲームボーイアドバンスの上面ケースも売られていることがある。手間をかけたくない人は、そうしたケースを利用するのもいいだろう。

【上面ケースの加工】
液晶を取り外した上面ケース。額縁部分に貼られている黒いものは液晶固定用の両面テープである
この両面テープはもう使わないので外して捨てる
液晶カバーも両面テープで貼られているので、裏側からぐいぐい押して取り外す
液晶カバーが浮いてきたら、指を入れて液晶カバーを取り外す
液晶カバーを取り外したところ
右がIPS液晶交換用キットに付属していた液晶カバー。右がオリジナルの液晶カバー。窓の部分が少し広くなっていることがわかる
液晶サイズがわずかに違うため、上面ケースを削る加工が必要になる。これは加工前の上面ケース
赤色で囲んだ部分の出っ張りを削り、黄色で囲った部分を削って窓を広げる
この出っ張りをデザインナイフや平刃の彫刻刀で削る
最初デザインナイフでやっていたが、平刃の彫刻刀を使う方が楽だった
この窓を広げる作業が一番大変だ。こちら側の短辺を約2mm、下側の長辺を約1mm削る
SELECTボタンの部分の出っ張りをくりぬく
加工が完了した上面ケース。仕上がりにこだわる人はヤスリなどで仕上げればもっと綺麗にできるだろう

 上面ケースの加工が終わったら、いよいよIPS液晶の取り付けだ。IPS液晶交換用キットに付属している両面テープの黄色い剥離紙を剥がして、上面ケースに貼り付ける。両面テープの中央部分を取り外して、内側の剥離紙も剥がす。IPS液晶の表面には保護シートが貼られているので、左上のピンクの部分をつまんで、保護シートを剥がす。

 続いて、IPS液晶を本体ケースに取り付ける。取り付けの際には、傾いたりしないように注意すること。IPS液晶を取り付けたら、液晶制御用基板をその上に乗せる。液晶の右下から出ている小さなフレキを指で折り曲げて、そのコネクタを液晶制御用基板のコネクタに押し込んで接続する。正しく接続されたら、指を離しても外れることはない。

 コネクタの接続が終わったら、IPS液晶交換用キットに付属していたスポンジをこのように液晶と液晶制御用基板の間にいれる。前述したように、ゲームボーイアドバンスには初期型と後期型があり、基板と液晶を接続するフレキのピン数が異なる。初期型は40ピンなので、上に見えているるフレキをそのまま基板に接続すればよいが、今回改造したゲームボーイアドバンスは後期型なので、下に見えているフレキの32ピン側を折り返して接続する必要がある。やり方はいろいろあるだろうが、フレキの40ピン側を下側に折り返して、その下で32ピン側を上側に折り返すのが楽そうだ。

 フレキの準備ができたら、基板を乗せて、フレキをコネクタに押し込む。平行に奥まで押し込んだら、左右のロック機構を押し込んで、ロックする。なお、IPS液晶交換用キットに付属している3本の赤いリード線を液晶のフレキと本体基板に半田付けすることで、SELECTボタン+LRボタンによってバックライト輝度を10段階に調整できるようになるのだが、今回はその作業は省略した。その場合、バックライト輝度は中央値で固定となるのだが、実用はあまり問題はない。

【IPS液晶の取り付け】
IPS液晶交換用キットに付属している両面テープ
両面テープの黄色い剥離紙を剥がして、上面ケースに貼り付ける
両面テープの中央部分を取り外す
こちら側の剥離紙(3Mロゴがある)も剥がす
交換するIPS液晶。表面に保護シートが貼られているので、装着前に左上のピンクの部分から保護シートを剥がす
ピンクの部分をつまんで、保護シートを剥がす
IPS液晶を上面ケースに装着する。傾いたりしないように注意して取り付けよう
液晶制御用基板をこのように乗せる
液晶の右下から出ているフレキを折り曲げて、コネクタを液晶制御用基板のコネクタに押し込んで接続する(人差し指で押している部分)
フレキのコネクタが接続された状態(右下部分に注目)
IPS液晶交換用キットに付属していたスポンジをこのように液晶と液晶制御用基板の間にいれる。初期型と後期型で基板に接続するフレキのピン数が異なる。初期型は40ピンなので、この写真で上に見えているフレキをそのまま基板に接続すればよいが、今回改造したゲームボーイアドバンスは後期型なので、下に見えているフレキの32ピン側を折り返して接続する必要がある
フレキの40ピンのフレキを下側に折り返し、32ピン側を上側に折り返す
基板を乗せて、フレキをコネクタに押し込む。平行に奥まで押し込んだら、左右のロック機構を押し込んで、ロックする

 いよいよ最後のステップだ。上面ケースに、はまっていた十字ボタンやABボタンなどのパーツとゴム接点などをすべてはめたら、基板を乗せる。基板を2本のネジで固定したら、底面ケースと合体させ、7本のネジをすべて締めて、ケースを固定する。この状態で電池を入れて、動作を確認しておくとよいだろう。動作を確認したら、交換用キットに付属していた液晶カバーの剥離紙を外して、液晶カバーをはめこめば終了だ。

【ケースを合体して固定する】
上面ケースに十字ボタンなどのパーツをすべてはめてから、基板を固定する
基板を固定したら、7本のネジでケースを固定する
電池を入れて、動作を確認したら、交換用キットに付属していた液晶カバーの剥離紙を外して、液晶カバーをはめこむ

IPS液晶化の効果は絶大! 自分で改造したことで愛着も

 これでゲームボーイアドバンスのIPS液晶への交換作業はすべて完了だ。筆者の場合、写真を撮影しながらゆっくりやって2時間程度だったが、その大半は上面ケースの加工にかかった時間だ。バックライト輝度の調整機能が不要なら半田付け作業もいらないので、フレキを扱ったことがある人なら、難易度はそれほど高くはない。初めてトライするという方でも、フレキを乱暴に扱わないように気をつければ問題ないだろう。もちろん、繰り返しになるが、改造はメーカー保証外の行為であり、自己責任となることは頭に入れていただきたい。

 IPS液晶交換の表示品質だが、正直予想以上の素晴らしさであった。オリジナルの反射型TFT液晶では、明るい屋外ならともかく、屋内ではかなり暗く見にくくなっていたが、IPS液晶では、屋内でも屋外でも非常に見やすい。明るさとコントラストが向上しただけでなく、応答速度も高速になっている。また、IPS液晶はTFT液晶に比べて、視野角が広く、斜めから見てもコントラストが低下しないことが利点だ。実際に、斜め下や斜め横から見ても、表示品質がほとんど変わらない。

 ゲームボーイアドバンスは20年近く前の製品だが、「逆転裁判」シリーズや「ポケットモンスター エメラルド、ルビー、サファイア」など、人気ゲームが多数リリースされたプラットフォームであり、中古ソフト市場も賑わっている。乾電池2本で動作するお手軽さも含め、バリバリ現役の携帯ゲーム機だが、今回IPS液晶に交換したことで、さらに現役度が増したと言えるだろう。自分自身、この出来の良さに驚いているが、当時を知っている友人に見せると、きっと驚いてくれるだろう。自分で改造したことで、愛着もわく。筆者のようにゲームボーイアドバンスを死蔵させている人は、挑戦してみてはいかがだろうか。

【ついに完成!】
IPS液晶への交換作業が完了したゲームボーイアドバンス
IPS液晶なので視野角も広く、斜め下から見ても見やすい
こちらは右斜め横から見た様子