【特別企画】

「……ここまで育ったか、ガンダム」。JR東日本ガンダム スタンプラリーに見る、円熟したガンダム文化

65駅制覇でもらえるガンプラも2年前とは見違えるクオリティ!

1月9日~2月27日開催

 すでに1月9日からスタートしているのでご存知の方も大勢いらっしゃるはずだが、《JR東日本 機動戦士ガンダム スタンプラリー「あなたならできるわ。」》が猛烈におもしろい。こちらは2月27日まで開催されている。

 その内容を要約すると、山手線を中心としたJR東日本における各路線駅の改札口を抜けたところに設置されたキャラクタースタンプを特製スタンプ帳に押していき、9駅達成でオリジナルステッカーが入手でき、全65駅を達成すると、山手線E235系をイメージしたカラーリングによる1/144 RX-78-2 E235 ガンダム JR東日本専用機Ver.のガンプラがもらえる……というもの(ちなみにベースキットには、BANDAI SPIRITS ホビー事業部が「プラモデル組み立て体験会」専用に開発した非売品のRX-78-2 ガンダム 組立体験会Ver.が採用された)。

 じつはこのガンダム スタンプラリーは今回で二度目となり、前回は2018年1月9日~2月27日に実施されている。そしてその際も基本的な内容はほぼ同一で、全65駅を制覇すると1/144 RX-78-2 ガンダム JR東日本 E235系Ver.のガンプラがもらえるという特典もいっしょであった(もっともこのときのベースキットは、税別価格300円のファーストグレードモデルである点が異なっていた)。

 だがしかし、今回は「前回とは明らかに異なる一種異様な盛り上がりを見せている」のだ。本稿ではその盛り上がりを筆者なりに分析・紹介していきたい。

スタンプラリーのスタンプ帳は、該当駅のスタンプ設置場近くで無料配布されている。ちなみに現時点で筆者がゲットしたスタンプは、シャア専用ズゴッグ(いつもよく飲みに行く高円寺駅)、キュベレイ(歯科の治療でたびたび訪れる飯田橋駅)、ジオング(飯田橋駅から帰宅途中に立ち寄った新宿駅)の3点のみ

JR東日本職員による「ポジティブな悪ノリ」が各所で大炸裂

 もちろん、全65駅を制覇し、このキャンペーンでしか入手できない特製ガンプラをゲットすることだけを目的に据えた猛者もたくさんいることだろう(ちなみにその場合、各駅ごとに改札を抜けないとスタンプが押せないため、東京都区内フリーエリアで何度でも乗り降りが可能な都区内パス=760円を買うのが得策だ。もっとも、千葉県と埼玉県の駅に設置されたスタンプには対応できないのだが)。

 ただし、ストレートに言ってしまうと今回は65駅制覇に目標を据えなくとも、試しに数駅だけスタンプを押しに行ってみるだけでも「……JR東日本の職員さんたち、(よい意味で)ダメだなあ~」と思わずニヤついてしまうこと必至なのである。

 どういうことかと言うと──たとえば西荻窪駅のスタンプ置き場にはパラス・アテネの手作りハリボテ模型が展示されていたり(当然ながら西荻窪駅のスタンプはパラス・アテネ)、池袋駅(スタンプはνガンダム)では劇場映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のラストシーンを再現したガンプラを使った巨大ディオラマが設置されていたり、明らかに「やりすぎ」なのだ。

 そこまで振り切っているのはさすがに特例だとしても、スタンプに準じたガンダム劇中の名台詞入りポスターが各駅に貼られていたり、結構手の込んだ立体的な手作りPOPがスタンプ台の脇に展示されていたり、「……アナタたちどんだけガンダム好きなんだよっ!」とJR東日本職員たちに対しツッコまずにはおれない状態と言える。

東京駅のスタンプはカイ・シデンだが、東京駅にはカイの搭乗機であるガンキャノンのスタンプが四ツ谷駅に設置されている旨を促すポスターが。また、飯田橋駅のスタンプはキュベレイであり、キュベレイを搭乗機とするハマーン・カーンのスタンプが十条駅にある旨を促すポスターが貼られている(キャッチコピーにおける上から目線口調が、ちゃんとハマーン様調になっているところが笑える)。おそらくこれらのポスターはガンダムの版権元であるサンライズから製作を依頼されたわけではなく、JR東日本職員たちの「ポジティブな悪ノリ」によるものだろう

 もちろん、ガンダムがすでに老若男女を問わない日本における最高のサブカルチャーコンテンツであることに疑いの余地はないわけで、JR東日本職員たちまでをも巻き込んだこうした盛り上がりはあるところまでは予想できたはずだ。

 が、今回が前回と異なる点は、SNS(主にTwitter)でこうした情報をテクニカルに発信する人が2年前と比べて大幅に増えたがゆえ、Twitterでの情報を追いかけていくだけでも爆笑必至なのが大きな違いとなっている。

 というのも、Twitterへの投稿テキストも「誰がそこまで上手いことを書けと言った!」というような気の利いたものが多く、「視点のずらし」を駆使した博識の披露、もしくはちょっとしたガンダム大喜利状態で、プロのフリーライターであるぼくでも少なからず感心させられてしまうところがある。

 そして、もちろんこれには(どこのどなたかは存ぜぬが)担当プランナーの思惑がピタリと的中した感も見て取れる。スタンプラリー該当タイトルを『機動戦士ガンダム』('79年作品/U.C.0079 一年戦争)、『機動戦士Zガンダム』('85年作品/U.C.0087 グリプス戦役)、『機動戦士ガンダムZZ』('86年作品/U.C.0089 ネオ・ジオン戦争)、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』('88年作品/U.C.0093 シャアの反乱)『機動戦士ガンダムUC』('10年作品/U.C.0096 ラプラス事変)という濃いめのガンダム&ガンプラオタクが好む宇宙世紀シリーズの5つだけに限定し、今回に関しては宇宙世紀シリーズ外タイトルにおける美少年キャラ好きのガノタ(=ガンダムオタクの略称)女子を意図的に排除したことが成功に繋がったのだろう。

 この5タイトルならば、ガンプラブーム直撃世代は劇中の名台詞が簡単に思い出せる(もしくはネット検索すればいくらでもすぐに見つかる)のも強力な武器となっている。

ちなみに全65駅における最大の難関は渋谷駅。スタンプ設置場所は埼京線のホームを上ったところにある新南改札で、普段から渋谷駅を利用している人もなかなか使わない改札口だけに、迷いまくってスタンプを発見できない人が続出。しかも、新南改札へ誘導するための手作りポスター(ガンダムの名台詞パロディ入り)が渋谷の地下街に計30枚も貼られていたり、いたるところに巨大な文字で「フォウ」と巨大な文字がプリントアウトされた紙が貼られていたり(フォウ=渋谷駅で押せるスタンプであるフォウ・ムラサメのこと)、ガンダムのことをまったく知らない人からすると「もう、何がなんだか……」状態な街と化している

 つまり「そうしたカテゴライズ分けにて企画を組めるほどガンダムワールドはいまなお拡充の一途を辿っている」とも言え、すでにアラフィフに属するぼくからすれば、この記事の題名に冠したように「……ここまで育ったか、ガンダム」と感じずにはいられないのだ。

全65駅制覇でもらえるガンプラの「クオリティアップ」に驚く

 さらに言うと、全65駅を制覇することでゲットできる特製ガンプラが、2年前のそれと比べた際に格段に格好よくカラーリングデザインされている旨も特筆しておくべきだろう。

 2年前のガンダム スタンプラリーでもらえた1/144 RX-78-2 ガンダムも山手線E235系がカラーリングモチーフであったのだが、それは元のRX-78-2 ガンダムで青&赤であった部分が山手線カラーの緑色にほぼ置換されただけのモデルで、正直な話、「……あ~」的な仕上がり以上でも以下でもなかった。ちなみにこれまでにもRX-78-2 ガンダムのガンプラはセブンイレブンやANAなど数多くの有名企業キャンペーンに合わせ特別カラーリング仕様に仕立て上げられてきたが、ぶっちゃけそのどれもが「……あ~」的なものでしかなかったのだが、今回のそれはこれまでとは別格のクオリティとなっているのだ。

 脇腹、胸ダクト、つま先、関節部分にダークグレーを配した以外は山手線グリーン1色に染め上げられ、しかもE235系塗装の特徴である黒いドット状グラデーションのデカールを肩アーマーと脛に配したあたり、相当にハードエッジで優れたカラーリングデザインとして仕上げられている。

 その決定的な事実は、かつて『ガンダム・センチネル』なる企画でゼネラルプロデューサー兼総監督を務め、フリーライターであると同時にグラフィックデザイナーでもあり、数年前には某ロボットアニメのカラーリングデザイナーをも務めた経歴を有するぼくが自信を持って商業媒体を通じて語るのだから、できることならば少しでも信用していただけるとありがたく思う(またまたぶっちゃけて言ってしまうと、ガンプラをとっくの昔に卒業している身であるにも関わらず、今回の1/144 RX-78-2 E235 ガンダム JR東日本専用機Ver.はコレクターズアイテムとしてかなり真剣にほしい!)。

全65駅を制覇することでもらえる、1/144 RX-78-2 E235 ガンダム JR東日本専用機Ver.(JR東日本のガンダムスタンプラリー専用Webサイトより)と、実車の山手線E235系。ぼくは旅客機好きで鉄成分は薄い人間なのだが、山手線E235系はそのデビュー時に「……カッコイイ!」と思わず一目惚れしてしまった存在(先頭車両にはいわゆる「顔」が存在せず、目なし魚的なデザインなのがCOOL。緑色と黒の切り替え部分に、ドットによるグラデーションを用いているのもCOOL!)。今回のスタンプラリーの景品である1/144 RX-78-2 E235 ガンダム JR東日本専用機Ver.では、この山手線E235系のデザインアイデンティティがじつに的確に落とし込まれている旨がわかるはずだ

 ちなみに、ぼくはフリーライターであるがゆえ自宅兼仕事場に引きこもっている日が多く、しかも電車を利用する際は地下鉄ベースなので全65駅制覇どころか9駅達成でゲットできるオリジナルステッカーさえも入手できそうにないのだが、今回のガンダム スタンプラリーは最終日までTwitter検索を使いエゴサーチし続けてみようと考えている。

 というのも、Ingressのミッションデーのように「全65駅スタンプを徒歩のみでゲットする」というトンデモな人も現われてきており、今回の事象はラストシーンまで目が離せない状態に突入しつつあるためだ。

 「まだ間に合うのでいまからでも絶対に全65駅を制覇すべき!」みたいな無茶なことを言うつもりはさすがにないが、ガノタを自称するような人は、最終日までTwitterでガンダム スタンプラリー情報を追いかけることをぜひともオススメしておきたい。

 最後の最後で、予想もしていなかったビックリするような事態が生ずるかもしれない──そう期待してしまうほど、今回のガンダム スタンプラリーはある意味無駄なほどにエキサイティングなのである。

今回の記事化にあたり、渋谷駅や東京駅でのデジカメ画像を提供してくれた友人のOL(それほど重度のガノタ属性ではないが、LINEでガンダムのスタンプを購入してしまうぐらいにはガノタ)は、「とりあえずスタンプ9個を目指します。楽勝!」とのこと。会社発給の通勤用定期券、有効活用してるなあ……