【特別企画】

新生・蒼天・紅蓮・そして……? 「FINAL FANTASY XIV ORCHESTRA CONCERT 2019 - 交響組曲エオルゼア-」コンサートレポート

9月21日、22日開催

会場:パシフィコ横浜 国立大ホール

 2019年7月2日に最新拡張パッケージ「漆黒のヴィランズ」がリリースされ、更なる盛り上がりを見せているMMORPG「FINAL FANTASY XIV」(以下、「FFXIV」)。シンフォニック・オーケストラコンサートが2019年9月21日と22日の2日にわたってパシフィコ横浜で行われた。

 「FFXIV」の音楽公演というと、2019年3月に開催された「FINAL FANTASY XIV ファンフェスティバル 2019 in TOKYO」での「スペシャルライブ・ピアノ」や、「スペシャルライブ・THE PRIMALS」が記憶に新しい(参考記事が、今回は数ある「FFXIV」のBGMの中からもうひとつの顔とも言える、交響組曲を中心にチョイス。オーケストラ編成で演奏される形式の「交響組曲エオルゼア」として2017年9月以来2回目の公演となった。

会場内に展示されていたウェルカムボード。今回のセットリストの中から「FFXIV」各スタッフイチ推しの曲がコメントされていた

 「FINAL FANTASY XIV ORCHESTRA CONCERT 2019 - 交響組曲エオルゼア-」のセットリストならびに出演者は以下の通り。

【交響組曲エオルゼア セットリスト】
【第1部 新生/蒼天編】
・希望の都
・静穏の森
・究極幻想
・Heavensward
・英傑 ~ナイツ・オブ・ラウンド討滅戦~
・Dragonsong
・銀鱗と鋼鉄
・クリスタルタワーメドレー

【第2部 紅蓮編】
・我らが支配圏
・鬨の声
・Revolutions
・塩と苦難の歌 ~ギラバニア湖畔地帯:昼~
・紅の嵐
・月読命之唄
・開けられた玉手箱 ~海底宮殿 紫水宮~
・空より現れし者 ~次元の狭間オメガ:アルファ編~

【アンコール】
・そして世界へ
・龍の尾 ~神龍討滅戦~

【アンコール2(Secret) 漆黒編】
・砕けぬ思い ~ハーデス討滅戦~

【出演者(敬称略)】
・栗田博文(指揮)
・東京フィルハーモニー交響楽団(演奏)
・二期会合唱団(コーラス)
・スーザン・キャロウェイ(Vocal) ※スペシャルゲスト
・吉田直樹(MC)
・祖堅正慶(MC)

 指揮者は1回目の「FINALFANTASY XIV ORCHESTRA CONCERT 2017 -交響組曲エオルゼア-」に引き続いて栗田博文氏。演奏も引き続き東京フィルハーモニー交響楽団。そして「FFXIV」サウンドに欠かせないコーラスとして二期会合唱団というフルアライアンスであり、更には事前公開セットリストを見たファンには瞬時に予想できたであろうスーザン・キャロウェイ氏をスペシャルゲストに迎えるという錚々たる顔ぶれ。そして「FFXIV」プロデューサー兼ディレクター吉田直樹氏と「FFXIV」サウンドディレクター、コンポーザー祖堅正慶氏がMCというエオルゼア連合軍がどのような「FFXIV」ワールドを繰り広げてくれるのかが見どころとなった。

初っ端からクライマックスの新生/蒼天編

 公演が始まり、まずは観客であり「FFXIV」プレイヤーである光の戦士(通称ヒカセン)達の緊張をほぐすかのように始まったのはウルダハ都市内BGMである「希望の都」だ。冒険序盤でログインすると真っ先に耳にすることが多かったであろうこの曲をウェルカムミュージックとして持ってくるのは流石と言う他無い。ステージ中央のスクリーンにはウルダハ都市内の風景と指揮者演奏者が交互に映し出され、否が応でも「FFXIV」のコンサートが始まったということを強く意識させる演出である。

 ウェルカムミュージックが終わり大きな拍手が鳴り響く中、吉田氏が挨拶のためフォーマルないでたちで登場、更なる拍手を以て迎えられた。自己紹介後にヒカセンの緊張をさらにほぐすべく、「今回オーケストラコンサート初めての人は頭に若葉マーク、何度もコンサート参加経験のあるベテランの方はタンク役としてみんなを引っ張り、ヒーラーで「FFXIV」をプレイしている方は近くで(感極まって)泣いている方に寄り添って一緒に泣いてください。そしてDPSでプレイしている皆さんは拍手という名の最大火力を出してください!」と、お馴染みとなっている「FFXIV」コンサートならではの導入トークが繰り広げられた。

 続いては開演直後の興奮を一旦落ち着かせるような、黒衣森BGMでお馴染みの「静穏の森」である。これもまた序盤でよく耳にしたBGMであり、「FFXIV」ワールドに早々に引き込まれたヒカセン達をしっとりとした演奏で落ち着かせた。落ち着いたのも束の間、早々に新生編クライマックスの「究極幻想」である。ここからはコーラスも加わり、100人を優に超える大演奏団に圧倒されることになった。スクリーン上に流れるのはもちろんアルテマウェポン戦だ。

 そして再度登場した吉田氏がサウンドディレクターの祖堅氏を招いた。祖堅氏は吉田氏同様ビシっとしたフォーマルな装いでの登場だが、胸のワンポイントにモーグリのぬいぐるみを付けているあたり茶目っ気を感じる。祖堅氏は3階席の奥までびっしり埋まった会場の雰囲気に緊張していると挨拶しつつも、リングアナウンサーよろしく出演者の紹介を行った。

フォーマルにキメてきた祖堅氏(写真左)と吉田氏(写真右)だが、口を開くといつものエンターテイナーの片鱗を覗かせた。
東京フィルハーモニー交響楽団、二期会合唱団のフルアライアンス編成を指揮者である栗田氏が束ねる

 次なるは蒼天編に入り、OPの「Heavensward」、ナイツ・オブ・ラウンド戦「英傑」、そして「Dragonsong」の3曲である。まず「Heavensward」では女性ソロボーカルを忠実に再現。これから始まる戦いの厳しさを想起させた。「英傑」では男性合唱団を中心に、ヒットをふんだんに使った管弦楽が覆いかぶさりナイツ・オブ・ラウンドの圧倒的な戦力と蒼天クライマックスの雰囲気を重厚に醸し出した。

 「英傑」の演奏が終わると、真紅のドレスに身を包んだ歌手のスーザン・キャロウェイ氏が登場。スーザン氏は前回の「FINAL FANTASY XIV ファンフェスティバル 2019 in TOKYO」スペシャルライブでも登場、「Dragonsong」をはじめとしその美声を惜しげもなく披露しており、今回も引き続いての登場となった。

 前回はKeiko氏のピアノ伴奏での「Dragonsong」だったが、今回はゲストピアニストとして出ていたKeiko氏のピアノに加え、コーラスと管弦楽が加わった原曲バージョンとなり、さらにはスクリーンには蒼天ストーリーのカットシーン(パパリモやイゼル、そしてオルシュファンのあのシーン)がこれでもかと流れ、会場のあちこちでこらえきれずにすすり泣くような声が上がった。

「Dragonsong」のワンシーン。スーザン氏の歌声に加えて一連のカットシーンにヒカセン達の涙腺は崩壊した(筆者も崩壊しました)

 第1部の最後は吉田氏が是非コンサートで聴きたいと熱望したオメガVS神龍のカットシーンBGMである「銀鱗と鋼鉄」、「漆黒のヴィランズ」クリア者にも聴いてほしいという「クリスタルタワーメドレー」を演奏。「銀鱗と鋼鉄」ではFF史上激突したことのなかった2強を「FFXIV」で敢えてぶつけたという製作者泣かせのシーンだが、オメガと神龍お互いの小手調べから切り札同士のぶつかり合いまでを徐々に盛り上げていく曲を忠実以上に再現。

 そして最後にクリスタルタワー・シルクスの塔BGMを中心とした「クリスタワーメドレー」が演奏された。一見してシルクスの塔BGMのように見受けられるが、中間にFFIIIフィールドBGMである「悠久の風」が入り、その後パワーアップしたシルクスの塔BGMに戻るというメドレー形式となっていた。また、FFIIIの通常戦闘BGMやプレリュードのフレーズなども要所に入っており、新旧ファンを満足させる1曲であった。演奏が終わると割れるような拍手で第1部の幕が閉じた。

「クリスタルタワーメドレー」でのワンシーン。「漆黒のヴィランズ」をクリアしたヒカセンは「あっ……」となったであろう

エンターテイナーは健在であった!紅蓮編

 休憩を挟んで第2部が始まろうとしていたが、これまでの「FFXIV」イベントに足を運んでいたヒカセン達はとある疑問が浮かんでいたに違いない。『果たしてあの吉田氏と祖堅氏はこのままフォーマルな進行でこのイベントを終わらせるつもりなのだろうか?』と。その疑問は第2部開始と共に雲散霧消することになる。

 登場するや否や「帝国式敬礼」を披露する吉田氏・祖堅氏の両名。事前公開セットリストの通り、第2部最初の曲は帝国BGMの「我らが支配圏」なので何ら不思議な事ではないが、ただならぬ雰囲気にざわつくヒカセン達。無言を貫いたまま困惑する吉田氏をステージ奥へ引っ張っていく祖堅氏、その先は不自然にぽっかり2人分空いている男性コーラス席であった。意図を悟ったヒカセン達が爆笑を交えた拍手を巻き起こす。真剣な面持ちで楽譜を手にコーラスに混じる吉田氏と祖堅氏。演奏中もカメラが両名をアップで映し出し、完全にしてやられた恰好となった。やはり稀代のエンターテイナーである吉田氏・祖堅氏はオーケストラコンサートの中にあっても健在だったと言わざるを得ない。演奏が終わるとその場で両名は再び帝国敬礼を行い、壇上から去っていった。ややもすると忘れがちなので敢えて述べるがこの両名、「ゲームプロデューサー兼ディレクターとサウンドディレクター」である。

ヒカセンお待ちかねの吉田氏、祖堅氏のサプライズ。文字にすると冗談のようだが、実際にやってのけた両名に脱帽である

 何事もなかったかのように紅蓮編インスタンスダンジョンなどのボスBGMである「鬨の声」が続く。紅蓮シリーズの中で一番聴いた曲ではなかろうか。原曲に忠実な展開と思いきや、短いループを飽きることなく聴かせるために2周目の出だしを変えたりと随所に工夫が見受けられた。次の「Revolutions」はオーケストラ編成、いわゆる原曲バージョンでの公開は初となり、1部に続いてスーザン氏が登場し、朗々たる歌声を響かせた。演奏後にスーザン氏は「今日このコンサートに参加できて光栄です。この先もこの場に立ち続けられることを祈っています。」とコメントしていたが、「FFXIV」サウンドにスーザン氏はなくてはならない存在になっているのは明らかであり、ヒカセン達も最大火力のDPS(拍手)をスーザン氏へ贈っていた。

 紅蓮編後半は、こちらも吉田氏が是非にと熱望した「塩と苦難の歌」、クガネBGMの「紅の嵐」、ヨツユの一連のBGM「月読命之唄」、インスタンスダンジョン紫水宮BGMの「開けられた玉手箱」の4曲が続けて演奏された。「紅の嵐」ではメインパートして尺八奏者が中央に登場し、見事な演奏を披露した。尺八特有の震える音は心まで震わされる感覚に陥った。そのまま尺八はいちパートとして残り、「月読命之唄」へと続く。「月読命之唄」は穏やかなヤンサ昼BGMである「父の誇り」から始まり転調して「狂える月夜」の悲劇的な進行へ、そして最後の見せ場である「月下彼岸花」へつなぐという、端的に言ってしまえば「ヨツユメドレー」である。スクリーンにもヨツユ関連のカットシーンが流れ、彼女の悲劇的な人生の一幕を垣間見ることが出来た。

「月読命之唄」のワンシーン。紅蓮編涙腺崩壊ポイントのひとつである

 しんみりしてしまった会場の雰囲気を吹き飛ばすかのごとく、今度はステージ中央に音符のような電子楽器を引っ提げて祖堅氏が登場。これはオタマトーンといって、音符の棒のような部分を押さえて音を出すトイ楽器の一種である。見た目にも可愛らしいオタマトーンを試し弾きするが、見事なまでのコミカルな音に会場から笑いが漏れる。そのまま「開けられた玉手箱」が始まる。

 静謐かつ穏やかな進行にメインパートとして祖堅氏withオタマトーンが務めるのだが、これが面白いくらいに溶け込まない。序盤はそのあまりの浮きっぷりに会場から笑いが起きる。クラシックコンサートで演奏中に笑いが起きるという状況は余り記憶にないが、これぞ「FFXIV」のイベントと言うべきか。浮いてしまう理由は2つ考えられる。音階が原曲にアジャストできていないことと、オタマトーンの電子音がそもそもオーケストラ編成の音に馴染んでいないからだ。

 前者については前回のファンフェスライブでオタマトーン演奏を披露した際、「音階を絶妙にずらしたままメロディを弾き続ける」という器用な真似をしていた祖堅氏の演奏手腕を考えると今回も同様の可能性が高い。後者に関してはこのミスマッチそのものがエンターテイメントと言えるであろう。演奏後に登場した吉田氏から祖堅氏へ「そろそろWikipediaにオタマトーン奏者と書かれるんじゃないの?」と茶化される一幕もあった。(※果たして2019年9月22日現在、祖堅氏のWikipediaの職業欄には「オタマトーン奏者」と記載されている)

オタマトーン奏者の地位を盤石なものにしつつある祖堅氏の演奏

 紅蓮編の締めとして、オメガアルファ編BGMの「空より現れし者」。吉田氏は締めくくりの曲なので最大限のDPS(拍手)をと言ったが、演奏者側も最大DPSを出してきた。まさに音と音との真剣勝負である。高揚感を残したまま演奏が終わると、高DPSの拍手が会場を包んだ。

サプライズに次ぐサプライズのアンコール!

 そのDPSという名の拍手はとどまるところを知らず、一旦降壇した指揮の栗田氏が舞台袖から顔を覗かせる度にアンコールを求める拍手が一層強まった。その拍手に応えるがごとくアンコール「そして世界へ」が始まった。このBGMはストーリーの締めで良く使われており、原曲の「ファイナルファンタジーのテーマ」もFFファンには非常に馴染みあるものとなっており本公演を締めくくるに相応しい曲と言えよう。

 ああ、これで終わりかな?という雰囲気が漂う中、演奏を終えても動こうとしない演奏者達。新生編のラスボスBGM「究極幻想」、蒼天編のラスボスBGM「英傑」ときたら、紅蓮編のラスボスが残っているではないか。神龍BGM「龍の尾」が文字通りラスボスとして登場した。

 今度こそ終わりだろう。スタンディングオベーションをしながら、「ブラボー!」と賛辞を送りながら皆そう思ったに違いない。でももしかしたら……そんな淡い希望があったかもしれない。万雷の拍手の中、それを汲み取ったかのように栗田氏が人差し指を立てながら戻ってきた。もう1曲?何だろう?そんなヒカセン達を待っていたのはスクリーンに映し出された「SHADOWBRINGERS」。そう、漆黒のヴィランズのタイトルロゴであった。

 その瞬間尋常ではない歓声と悲鳴に近い絶叫で会場内が埋め尽くされた。そして続いて映し出された「INVINCIBLE ~ハーデス討滅戦~」の曲名で歓声が最高潮に達した。まさかまさかの漆黒編ラスボスの登場である。もしかすると漆黒編の1曲くらいはと期待していたかもしれないが、ラスボスを持ってくると予測できたヒカセンは皆無だったのではなかろうか。また、公演を通してこれら悲喜こもごもの感動的なまでの演出を見事に表現しきった演奏者達、それらをまとめ上げた指揮者の手腕の高さに惜しみない賛辞を贈りたい。

どこまでも楽しめること請け合いな「FFXIV」イベント!

 最後の演目を終えると改めてのスタンディングオベーションの中、出演者が全員登場しカーテンコールとなった。ここで限られた時間ながらも写真撮影タイム。ヒカセン達はこの感動の時間を少しでも形に残すべく、思い思いに撮影をしていた。会場を後にするヒカセン達は興奮気味に今回の公演についての感想を述べあったり、2次会場へと連れだって向かうオフ会メンバーも見受けられた。

 今後の「FFXIV」ミュージックイベントについても、漆黒のヴィランズをはじめとした曲がまだまだ残っているし、パッチで曲も順次追加されていくことになるだろうから大いに期待が持てるところだが、吉田氏・祖堅氏をはじめとする「FFXIV」制作チームもいかにファンに楽しんでもらうかを常に考え、日々切磋琢磨していることだろう。今回のレポートをご覧いただいて興味を持たれたヒカセン方は次回のイベントへ是非とも足を運んではいかがだろうか。

全ての演目を終え、スタンディングオベーションに応える出演者一同。3階席までぎっしり埋まったヒカセン達から鉄板掛け声の「ブラボー!」の他にも「ヨシダー!」や「ありがとう!」といった歓声が飛び交った