【特別企画】
「CS:GO」のeスポーツ観戦を劇的に進化させたGenvid Technologies
“インタラクティブ・ストリーミング”が実現するクラウドゲームの未来
2019年7月12日 21:00
- 【GTMF2019 TOKYO】
- 7月12日開催
- 会場:秋葉原UDX(東京会場)
世間の高い期待とは裏腹になかなか立ち上がらないクラウドゲームだが、クラウドゲームを下支えするテクノロジーはすでにゲームファンの間でしっかり根付きつつある。それがもっとも顕著なのがeスポーツ観戦の分野だ。
Twitchが2017年が提供を開始した拡張機能「Extensions」によってサードパーティーは、ゲーム配信に“インタラクティブ・ストリーミング”機能を盛り込むことが可能となった。
代表的な例は「オーバーウォッチ」のプロリーグ「Overwatch League」だろう。14.99ドルでオールアクセスパスを購入することで、視聴者はTwitchの「コマンドセンター」を通じて、好きな選手の視点で試合を観戦したり、マルチビューで観戦したり、自身のロールだけを視聴したりなど、視聴者側で視点をチョイスしてeスポーツ観戦が楽しめる。
このストリームに対して直接インタラクトできる“インタラクティブ・ストリーミング”の分野でメキメキと頭角を現しつつあるのが、Genvid Technologiesである。Genvidには、同社立ち上げ直後の2017年にGDCで取材を行なっている(参考記事)が、そのビジョンは創業以来一貫してまったく変わっていない。
スクウェア・エニックスのクラウドゲーム部門として2014年から2016年にかけて活動したシンラ・テクノロジーの元スタッフを中核メンバーに、シンラ・テクノロジー プレジデントで前スクウェア・エニックス代表取締役社長の和田洋一氏をアドバイザーに招きつつ、世界中からエンジニアを集めて、ニューヨークやモントリオールなど北米を拠点に活動を行なっている。
本稿では、Genvidが7月12日に東京秋葉原で開かれたGTMF 2019で披露した、「CS:GO」をはじめとした、最新のGenvidの実装事例をご紹介したい。
GTMF 2019で行なわれた講演「インタラクティブ・ストリーミングとメディアの未来」のセッションスピーカーを務めたのは、Genvidの日本法人でビジネスマネージャを務めるジョンソン 裕子氏。
Genvidでは、ゲームとメディアの中間に位置する存在としてインタラクティブ・ストリーミングがあり、それをエンターテインメントの新たなカテゴリーとして位置づけ、ゲームにおける新たなマネタイズの1手段として、大きなビジネスの柱としている。Genvidが提供するインタラクティブ・ストリーミング用のAPIをコンテンツに組み込むことで、コンテンツそのものの魅力や売上をブーストさせることができるというわけだ。
ジョンソン氏は、自社の紹介が終わった後、おもしろいマトリクスを見せてくれた。横軸が「プレイ」、「参加」、「視聴」とコンテンツへの向き合い方の度合いを示し、縦軸が「フィジカル」、「デジタル」とコンテンツカテゴリを示している。
フィジカルとは要するに通常のスポーツを指しており、サッカーをプレイする(プレイ)、NFLを観戦しに行く(参加)、TVでスポーツ観戦する(視聴)となるが、デジタルにおいては、ゲームをプレイする(プレイ)、Twitchで配信を観る(視聴)はあるのに、「参加」がない。ここを埋める存在がGenvidだという。
ジョンソン氏はさっそくデモに入り、Genvidのインタラクティブストリーミングテクノロジーを実装したコンテンツを次々に見せてくれた。最初に披露したのが「CS:GO」の配信映像だ。「CS:GO」では、プロ大会の配信において、昨年からTwitchのExtensionを使ったインタラクティブ・ストリーミングサービスを不定期に提供しているが、そのテクノロジーをGenvidが提供していることを初めて知った。
「CS:GO」のプロ大会におけるインタラクティブ・ストリーミングサービスは、その先駆的存在である「Overwatch League」よりも遙かに高機能で、20年前の「CS 1.6」の時代から絶え間なく進化してきた「CS」の観戦をさらに一段も二段も引き上げている。現時点ではライブ配信のみで、録画配信には対応していないのが玉に瑕で、筆者のような“欧米配信は後からビデオをゆっくり観る派”だと厳しいが、Genvid COOのChris Cataldi氏によれば、録画へのインタラクティブストリーミングにも今後対応予定だという。
具体的な内容としては、Valveが提供しているお馴染みの「CS:GO」の観戦画面。あそこに直にインタラクトできる。左上の小マップをより見やすいようにサイズを変えたり、左右に5人ずつ並ぶ選手をクリックすれば、リアルタイムでその選手の視点に変えたり、スタッツを確認したり、Clap(応援)することができる。そのほか、通常なら配信側が表示してくれないとみることができない、バードビューのマップ画面をいつでも呼び出してその視点から観戦できるなどなど、とにかく「あったらいいな」という機能がほぼすべて盛り込まれている。
おもしろいのは、視聴者側のインタラクションを配信側も専用のビューアを通じて確認できるところだ。たとえば、MIBRの至宝であるFalleN選手が決定的な場面でスナイプを決め、ラウンドを取ったシーンを想定すると、FalleN選手には有料無料様々なClap(応援)が入り、その状況を配信側もキャッチして、その情報を実況解説に役立てることができる。この情報の循環により、より興奮度の高い配信を楽しむことができるわけだ。逆に「CS:GO」名物(!?)の死体撃ち、その応酬といった出来事を、視聴者はどう感じているのか。これまでは会場の反応から察するしかなかったが、今後はより正確に把握することができるわけだ。
このインタラクティブ・ストリーミングサービスは、2018年9月のFACEIT、2019年3月のIntel Extreme Masters Katowice(IEM Katowice) 2019、そして6月のESPORTS CHAMPIONSHIP SERIES(ECS)の計3回導入されており、ECSでは5ドルの有料サービスとして提供されていた。「CS:GO」ファンならピンときたと思うが、つまりすでにESL(IEM)、FACEITという世界のメジャーなeスポーツ運営会社と繋がっており、今後、両社がホストする全大会/リーグでこのサービスが導入されるようなことになれば、巨大なビジネスになる可能性がある。
ジョンソン氏は、「CS:GO」以外にも、GDC 2019で披露した、国内オンラインゲーム界のレジェンドクリエイターである中嶋健吾氏が自作した「Space Sweeper」や、格闘ゲーム「CHKN」(Katapult)、TVドラマ「LOST」を彷彿とさせる無人島アドベンチャーゲーム「Project Eleusis」などを披露し、Genvidのテクノロジーがもたらすインタラクティブストリーミングの魅力について紹介した。
前出のCataldi COOによれば、Genvidのインタラクティブ・ストリーミングサービス向けのAPIはすでに30タイトルほどの実装実績があるという。ただ、GenvidのAPIを使っているかどうかをアナウンスする権利はメーカー側にあるということで、具体的なタイトルについては教えてもらえなかったが、一例としてチリのゲームメーカーAone Gamesが開発した格闘ゲーム「Omen of Sorrow」を紹介してくれた。
「Omen of Sorrow」は一見するオーソドックスな2D格闘ゲームだが、TwitchのExtensionsを解放しているプレーヤーの配信の場合、対戦相手の入力コマンドやキャラクターのヒットボックスをオーバーレイ表示できる。直接ゲームに介入するタイプではないが、観戦の魅力を高めてくれる機能だ。
これらは、ゲーム側のサーバーでも、Twitch側のサーバーでもなく、Genvidのサーバーで処理されており、プレーヤーの位置に応じて世界中に点在するGenvidのクラウドサーバーに接続して処理しているという。クラウドサービスはAmazonのAWSを使っているということだが、これらは立派なクラウドゲームだといえる。
ところで、Genvidの前身とも言えるシンラテクノロジーが手がけたクラウドゲームサービスがうまく立ち上がらなかった理由の1つがネットワークのレイテンシー(遅延)だとされる。
ジョンソン氏は、「Genvidがもたらすインタラクティブ性は素晴らしい。ただ遅延は痛いよね」という意見があることを率直に認めつつ、そのウィークポイントを克服するために、ライムライト・ネットワークスと協業し、インタラクティブ・ストリーミングに関する共同研究に着手したことを明らかにした。
ジョンソン氏は、あくまでまだ研究段階で、成果物や製品化されたものはないということだが、グローバルで高速なCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)を展開するライムライト・ネットワークスとの協業は、本格的かつ実用的なクラウドゲーム実現の第一歩としてその未来が楽しみなところだ。