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生きていたシンラのDNA! Genvidが目指す“ゲームプレイ配信2.0”の世界
より自由で柔軟なゲーム観戦を実現。プレーヤーと視聴者のインタラクションも可能に
2017年3月4日 19:41
“スーパーコンピューターゲーミング”というコンセプトを引っさげ、クラウド時代にふさわしいゲームプラットフォームの立ち上げを目指して2014年に設立されたシンラ・テクノロジー。残念ながらそのビジョンは実現にいたらず、資金調達の困難から2016年1月に解散となったことは記憶に新しい。
だが、その遺伝子は生きていた。シンラ・テクノロジーの主要メンバーは昨年夏に新たな会社、Genvid Technologiesを立ち上げており、得意のビデオストリーミングの技術を活かして新たなソリューションを実現しようとしている。その成果が今回、GDC 2017のセッション「Creating Revolutionaly Interactive Game Streams: A Technical Primer」にて披露された。
Genvid Technologiesを率いるのは、シンラ・テクノロジーでビジネス担当SVPを勤めていたJacob Navok氏。COOには同じく“元シンラ”のChris Cataldi氏、CTOも同じく“元シンラ”のFabien Ninoles氏という布陣。現在はモントリオールに開発拠点、ニューヨークに営業拠点を置いてサービスの開発を進めているという。なお、シンラ・テクノロジーのプレジデントを勤めた和田洋一氏はメンターとしてGenvidを後見しているとのことで、今回のセッションに先立って挨拶を行なった。
そのなかで和田氏は、Genvidはゲーム文化の変化に対応し、ゲームプレーヤーだけでなくゲームビューワーにフォーカスして、そのマネタイズのための技術的根拠を提案するリーディングカンパニーであると紹介。また、「私はスクウェア・エニックスを経営している間、いくつもの製品を出してきましたが、世に出したのはゲームタイトルだけではありません。Genvid のスタッフも、スクエニの生み出した自信作だと思っています」と、愛情たっぷりに応援の言葉を述べている。
さて、そんなGenvidが提供しようとしているものについてご紹介しよう。
ゲーム観戦に革命?Genvidが目指す、次世代のゲームプレイ動画配信システム
シンラのDNAを受け継ぐGenvidは、ゲームプレイ動画配信の新たな仕組みの実現に取り組んでいる。
最近ではPCやゲーム機で簡単にゲームプレイ動画の配信ができるようになり、TwitchやYouTube、ニコニコ動画などさまざまな動画配信サービスで配信・視聴の双方が楽しまれている。e-Sportsも、大きな大会となればひとつの試合を数百万人が視聴するような人気コンテンツとなっており、その市場は急速に成長中だ。いまでは自分でゲームをプレイするよりも人が遊んでいるのを見るほうが楽しい、という人も珍しくないのではないだろうか。
とはいえ、現在の動画配信システムは、ゲームのインタラクティブメディアとしての側面を十分に活かすものとはなっていない。動画はあくまで動画であって、視聴者側は基本的に見ていることしかできないし、相互のインタラクションといってもせいぜいはテキストチャットくらいである。
e-Sportsの観戦もそうだ。動画ベースの配信では端末を選ばず見ることができて手軽だが、試合のどこを映すかは配信元のコントロールのみに任されており、視聴者自身が見たいところを見るようなことができない。プレーヤーの主観視点を追うだけでは何が起きているかわかりにくかったり、肝心の場面を見逃したり、注目選手の動きを十分に追えなかったりなど、もどかしい思いをすることも少なくない。
「Dota2」など一部のe-Sportsタイトルでは進行中あるいは記録されたゲームセッションに観戦者として参加し、各種データを閲覧したり、視点を切り替えながら自由なアングルで視聴できるといったインタラクティブな観戦機能があって、よりディープに試合を楽しめる。だがこの場合は、視聴側の端末でゲーム本体を動作させる必要がある。つまり、「Dota2」の試合をインタラクティブ観戦するためには、「Dota2」をプレイできるPCが必要だ。これでは視聴環境が限られ、既存のユーザー以外に楽しさを伝えるのがなかなか難しい。
ゲームプレイの視聴で理想となるのは、動画ならではの手軽さと、観戦用ゲームクライアントの機能性を両立することだ。それを実現しようというのが今回紹介されたGenvidの技術である。
Genvidのシステムを組み込んだゲームでは、プレイ動画の視聴者側でざっくりと以下のようなことが可能となる。
・好みに合わせてカメラ視点を切り替える
・ゲーム中の様々な情報を閲覧する
・プレーヤーやゲーム世界に対して様々な操作を行なう
例えば対戦型のFPSゲームであれば、好みのプレーヤーの視点を選んで視聴することができれば便利である。ときには戦況を把握するため、カメラを切り替えて俯瞰視点でフィールド全体を眺めたいということもある。Genvidではそれが可能だ。
さらにはリアルスポーツのデータ放送のように、各プレーヤーのプロフィール、武器や残弾数といったステータス、キルデス比など各種スタッツを即座に確認できれば、試合をもっと深く理解できるだろう。Genvidではそれもできる。
e-Sportsの試合では、何らかの形で各選手に応援の気持ちを伝えたいこともあるだろう。身内でのゲームプレイ動画配信であれば、初見エリアで迷っているプレーヤーに対して、行くべき方向を教えてあげることができれば、見る側もゆるくゲームに参加できる感じで楽しみが増す。Genvidはそれも可能にする。
このようにGenvidはプレーヤーとビューワーの相互に高度なインタラクティブ性を提供するが、視聴者側にゲームクライアントは不要だ。動画が再生できるブラウザーがあればよく、PC、ゲーム機、スマホ等で区別なく利用できる。従来の動画配信と、ゲーム内観戦機能の良いとこ取りをしたような仕組みといえる。“ゲームプレイ配信2.0”と呼ぶにふさわしい。
技術仕様を見てみよう。Genvidのシステムは、大別して2つのコンポーネントから構成されている。動画ストリームを出力するゲームサーバーと、ブラウザベースの視聴用インターフェイスだ。
Genvidを組み込んだゲームサーバーでは、実行中のゲームセッションを任意のカメラ数でレンダリングし、異なる視点の動画ストリームを複数同時に出力できる。ビューワー側では、視聴するストリームを任意に切り替えることで、インタラクティブなマルチカメラ視聴ができるという形だ。
また、このゲームサーバーはゲームの進行に合わせて様々なメタデータ(各プレーヤーのステータスや、スコア等、なんでも)も配信できる。視聴者側のシステムはHTML5+JavaScriptで構成されており、受信した動画と各種データを使って、各種情報がオーバーレイされた観戦画面を表示。オーバーレイ情報のビューワー側の制御となるので、表示をON/OFFしたり、項目を切り替えたりといった操作も可能だ。
同様に、ビューワー上のインターフェイスを通じてゲームサーバーにコマンドを送ることができるので、視聴者側からゲームやプレーヤーに対してインタラクションを行なうこともできる。ビューワー側のインターフェイスのデザインや、どういった制御を組み込むかはゲーム開発者の自由だ。
このセッションでは、Epic Gamesの「Unreal Tournament」にGenvidシステムを組み込んだものを使ったデモが披露され、上述のような仕様が実現していることを確認できた。ビューワー側からは追跡するプレーヤーを切り替えたり、バードビューに移行するなど自由に視点を変えることが可能だ。さらに、ビューワー側に用意されたインターフェイスを使って、任意のプレーヤーに「いいね!」を送ることができる。たくさんの応援を受けたプレーヤーの頭上には火の玉のアイコンが表示され、その様子はゲーム内のプレーヤーだけでなく他の視聴者にも伝わる。この例ではごくゆるい形ではあるが、視聴者もゲームに参加できるというわけだ。
まずはインディーゲームへの組み込みでスタート。2つの発展方向性
Genvidのセッションでは上記の例のほか、2つのインディーゲームでの採用が報告された。ひとつは中国Directive Gamesが開発中のVR対戦ゲーム「Super Kaiju」。これはOculus Rift/SteamVRのクロスプラットフォーム対戦が可能なVRバトルゲームで、これにGenvidを組み込むことでYouTube Liveを通じたプレイ動画配信を組み合わせ、“トリプル・クロスプラットフォームプレイ”を実現。
VRゲームの動画配信では通常、プレーヤーの主観視点を狭い視野角でしか伝えることしかできず、視聴者側には状況や迫力が伝わりにくい傾向があるが、Genvidを使ったシステムでは主観視点だけでなく第三者視点での観戦も可能であり、プレイの様子をわかりやすく楽しむことができる。将来ありうるVR-eスポーツのようなものには必ず求められる機能になるかもしれない。
もうひとつの採用例として、Edge Case Gamesが手がけるF2Pの宇宙戦闘ゲーム「Fractured Space」。本作はすでにSteamで配信中だが、Genvidを組み込んだバージョンを近く投入するようだ。本作ではGenvidの機能を利用して参加プレーヤーの様々な戦術情報を閲覧したり、視聴するエリアを切り替えることができるようである。
Genvidはこのように、まずは各種インディー系のオンラインゲームにプレイ動画配信の拡張機能として組み込むことで、その機能や収益性を実証していくつもりだ。
その後の発展の方向としては、大別して2種類が考えられる。
ひとつは、1つのゲームセッションを非常に多くの視聴者が観戦するシチュエーションに活用すること。e-Sports大会の観戦システムに使うようなイメージだ。この場合はゲームサーバー側に強力なインフラが必要となるが、界隈で人気のタイトルとコラボできれば技術的ハードルは高くなく、大きなスケールで実現ができる。
もうひとつは、個人のゲームプレイ配信をせいぜい数人が視聴するといった、草の根のシチュエーションに広げていくことだ。この場合は、カメラ切り替えなどよりは視聴者対プレーヤーのインタラクション機能が面白い部分になるだろう。視聴者が重要アイテムをハイライトしてパズルのヒントを与えたり、迷路の出口を教えてあげたりといった使い方だ。
この場合は、個人のゲーム環境が配信元となるため、Genvidシステムはゲームクライアントに組み込むことになる。タイトル・バイ・タイトルで対応を増やしていくためには大変な労力がかかりそうだが、NVIDIAの「Shadowplay」や、AMDの「ReLive」のように標準的なGPU支援型動画配信機能とコラボレーションできれば一気にスケールできるかもできない。
Genvidによる“ゲームプレイ配信2.0”へのチャレンジはまだはじまったばかり。対応ゲームが実際に遊べる・視聴できるようになるまではもうしばらく時間が必要とのことだが、実現すれば間違いなく、私達のゲームへの関わりかたはさらに広がる。楽しみである。