インタビュー
「テクモ・アーケードゲーム・クロニクル」インタビュー
難航を極めたサウンド収録。独自ツールの開発や解析を執念で続けて見事に克服!
(2014/6/6 21:20)
難航を極めたサウンド収録。独自ツールの開発や解析を執念で続けて見事に克服!
――サウンドや映像の収録をご担当されたのはINHのみなさんですね?
八木氏: はい。まずは収録したいゲームの基板をそろえられるかどうかを相談するところから始めました。
池田氏: 弊社所有の基板と、コーエーテクモさんからお借りした基板とを併用して収録を行ないました。基板をひととおり集めたところでまず問題になったのが、旧テクモ製のアーケードゲームには、いわゆる「サウンドテスト」モードが実装されていなかったことでした。
――サウンドテストがないということは、たとえばBGMを収録する場合はプレイしながら他のSE(効果音)が鳴らないようなパターンを作ったりして、もの凄く手間がかかったのではないでしょうか?
池田氏: 以前に趣味でテクモの基板を持っている人から、「自分で録音するのは難しくて鬼門になっているゲームがある」という話は聞いていました。ですから、最初にこのお話をいただいたときは、もし収録がいろいろな都合で不可能になった曲があった場合は、もう正直に「ゴメンナサイ」と言うしかない、と思っていました。弊社の川島と技術検証を何度も重ねた結果、お陰様でこの3年間で飛躍的に収録環境を向上させることができたんですよ。
川島氏: 実は、今回のテクモ基板のサウンドを収録するにあたり、今までにない技術を新たに開発しました。
池田氏: そういえば、途中で技術開発のために「PC-98を買ってこい」とか言ったりもしましたね(笑)。この新技術を使って収録した第1弾が、まさに「テクモ・アーケードゲーム・クロニクル」なんです。
川島氏: 初めはプレイの途中でゲームの進行を無理やりストップさせて録音していたのですが、この方法ではスケジュール的にとても間に合わないことがわかったんです。「じゃあどうしようか」と考えているうちに、ほとんどの基板がZ80というCPUを使用していましたから、Z80シミュレーターを自作して、サウンド関係を制御したうえで収録する方法を思いつきました。シミュレーターの制作にあたり、基板に詳しい方からアドバイスをいろいろといただけたので、本当に助かりました。
――それは素晴らしいアイデアですね! これで万事解決しました、と……。
川島氏: いいえ、いざやってみたら、この方法だけでは収録できないゲームもあったんですよ(笑)。自分はプログラムの知識がまったくありませんでしたから、そこでZ80のアセンブラやマシン語を勉強してROMの解析を始めることにしたんです。
池田氏: 自分たちで疑似的なZ80のサウンドシミュレーターみたいなものを作り、片っ端から番地(アドレス)を叩いて音が鳴るものを探したりしたんです。番地(アドレス)を叩いたら、「スーパーピンボールアクション」(※)みたいに全部の音が入っているものもあれば、どこにどう使われているのかもわからない音が入っている基板もあったりしたのですが、とにかく片っ端から全部録りまくりました。
自分は1980年代のゲームの内容は何度も遊んだことがあるので、よくわかっているつもりでしたが、90年代以降はワンコインクリアまでやったことがないゲームが多かったので曲など、すべてはわかりませんし、知っている曲でもどの場面で流れるのかも記憶違いの可能性もあったりするので、ひとつずつ検証作業を進めていきました。もうこの作業が強烈にタイヘンでしたね……。
八木さんに元気よく「やります!」と言ったはいいけれど、「これどうしよう、もうマジで録れネェよ、『ジェミニウイング』(※)なんて収録するの、もう無理、ダメ」とかって何度思ったことか(笑)!
※「スーパーピンボールアクション」:いわゆるピンボールをビデオゲームとして遊べるようにした作品。1985年発売。
※「ジェミニウイング」:1987年に発売された縦スクロールシューティングゲーム。
川島氏: 「ジェミニウイング」はまだよかったほうかもしれませんね。私が1番厳しいなと思ったのは「雷牙」とか「忍者龍剣伝」、「雷軋斗(ライアット)」(※)に使用された基板の収録でした。
これらのゲームはもうどうにもならなかったので、最終的にはROMにその曲しか鳴らないデータを入れて1個ずつ書き換えながら収録しました。もうあと1、2カ月あれば、もしかしたらサウンドテストモードをなんとか自作できたかもしれませんが……。
※「雷牙」:1991年に発売された横スクロールシューティングゲーム。
※「雷軋斗(ライアット)」:1992年に海外でのみ発売された、主人公を操りマシンガンで敵と戦うアクションゲーム。
池田氏: 我々はそもそもゲーセンの店員ですし、実戦投入しながら並行して勉強する形でやっていたので、まあしかたがないですよね。でも、今回新しい技術を開発できたことで「歌って踊れるマルチな店員」みたいな領域にちょっと近づけたかなあと(笑)。
どうにかこうにかで全曲の収録に成功しましたし、「本当にこの仕事にチャレンジしてよかったなあ」と今となっては思います。
――最終的に、すべての収録が終わったのはいつ頃ですか?
川島氏: 今年の3月までかかりましたね。
八木氏: その後、私が内容のチェックをしたのですが、そこで曲がいくつか足りないことに気が付きました。例えば、「テクモカップ」(※)はオフェンスとディフェンスの場面とでそれぞれ曲が変わる仕様になっていて、画面の上側に行くと自然の流れでBGMのイントロが始まって、曲が変わる仕組みになっているのですが、実はディフェンスの曲が単にアドレスを叩いても出てこないことがわかったんです。
※「テクモカップ」:1985年発売のサッカーゲーム。2人対戦が可能で、トラックボールで選手を動かすことでも有名。
川島氏: このゲームだけは、曲のデータがオフェンス側とディフェンス側とではっきり分かれていないんです。1曲の中で、画面の上に行くと途中からディフェンス側の曲を流すような仕組みになっていて、言わば「トラックを飛ばす」みたいな処理になっているんですよ。ですから、サウンドテストでROMの番地を叩いて再生した場合は曲の頭からしか流れず、あとの部分の曲が流れてくれないんです。
八木氏: 何だかもうイジメみたいな仕組みですよね(笑)。自分は昔あったGMOレーベルの「テクモ・ゲーム・ミュージック」のCDを何度も聞いていたので知っていたので、何かの拍子で今までに聞いたことがないフレーズがあることに気付くことができたんです。
それでいざ調べたら、どうやらこれはディフェンス側の曲だろうということがわかったんです。そこで、知らない曲があることを川島さんに連絡をしまして、「これってゲーム中に何もしないで放っておけば流れるハズだから、放置プレイすればできるハズですよ」とお伝えしました。
川島氏: 八木さんのアドバイスのおかげで無事収録することができました。ただし、そのまま放置していると、周りの選手たちがボールに集まるせいでSEが鳴ってしまうので、キックオフ直後にほんのちょっとだけ味方の選手を動かす微妙なテクニックをマスターすることが必要でした(笑)。
池田氏: ホントにいろいろなノウハウが詰まっていますよね。最新のテクノロジーと、昔ながらの「弾避けのパターン作りを融合させたぞ」みたいな(笑)。
八木氏: 今回はテクモOBの増子さんにも曲の内容を全部チェックしていただきました。実は昔のGMOのCDでは若干収録ミスがあったらしいのですが、「今回はINHさんに音質のいいものを収録をしていただきましたからもう安心してください、大丈夫ですよ」と胸を張ってお伝えすることができましたね。
――CDには、過去に家庭用の移植ソフトなどでは収録されなかった版権曲も入っているとお聞きしましたが?
八木氏: はい。「ボンジャック」に使用された「りんごの森の子猫たち」(※アニメ『スプーンおばさん」のテーマ曲)とビートルズの「Lady Madonna」、ほかにも洋楽の版権曲2曲分の許諾を取って収録しました。本当に自信を持って、どのゲームの曲も全部この商品に入っているぞと言えるものができました!
――旧テクモブランドのアーケードゲームの曲が本作にすべて収録してあるのでしょうか?
八木氏: いいえ、申し訳ありませんが全部は入っていません。「1980年代のタイトルは全部入れたいな」という思いはありましたが、さらに1990年代のタイトルも全部入れるとなると、ディスクの量がもう膨大になってしまいますので、一部のゲームについては泣く泣く収録をあきらめました。
それでも、ディスクには、ほぼ発売された順番に沿ってきれいに並べて収録ができましたし、またSEもほとんど全部入れてあります。特に、初期のテーカン時代のゲームは「SEも含めて曲だ」という思いがありましたので、SEについても1つずつ録れるものはすべて収録しました。
買っていただいたみなさんが自分の好きな曲だけを集めてループさせるとか、あとはもうお好きなように聞いてくださいという準備はしっかりできたと自負しています。おそらく、今回収録したゲームの曲を全部聞いたことがある人は誰もいないと思います。
さらに、「雷軋斗(ライアット)」や「BACK FIRE」(※)のようなレアなタイトルもINHさんから収録ができるよというお話をいただけましたし、それならば、とできるだけのことはやったつもりです。
※「BACK FIRE」:1897年に登場した横スクロールシューティング。日本国内では未発売。