インタビュー

「テクモ・アーケードゲーム・クロニクル」インタビュー

スーパープレイ映像、サウンドコンポーザー座談会、そしてデータディスクも必見!

スーパープレイ映像、サウンドコンポーザー座談会、そしてデータディスクも必見!

――スーパープレイを収録したDVDはどのような内容になっていますか?

八木氏: 「スターフォース」と「アルゴスの戦士」(※)の2タイトルを収録しています。収録はINHさんにお願いして、ハイスコアラーの方もいっしょに探していただきました。

※「アルゴスの戦士」:鎖のついた盾を、ヨーヨーのように使用して敵にぶつけて倒していくアクションゲーム。1986年発売。

池田氏: 「アルゴスの戦士」のプレーヤーは全国トップのスコアラーさんで、このゲームのある所にこの男ありと言いますか、まるで「アルゴスの」“戦士”そのものみたいな方なんですよ(笑)。

 「スターフォース」はやり込んでいる人がたくさんいるので誰が1番上手なのかは正確にわからないのですが、今回お願いした方はたまたま最近始めて1,000万点を達成したという、ちょっと変わった方なんです。

八木氏: どちらも見ごたえはたくさんありますよ。「アルゴスの戦士」ですと、たとえば17面でボーナス得点を繰り返し稼いでいる場面を見るだけでも本当にびっくりしますし、
 「スターフォース」でも際どい場面をうまくすり抜けたり、見ていて凄いなと思う弾避けのシーンが入っていますので必見です。

池田氏: 「スターフォース」を担当したTZW-ART?さんは元々映像制作を趣味としている方なので、いろいろと上手な見せ方をしていただけましたね。ACU-AZUKI-H.SさんとACU-AZUKI-KZSさんの「アルゴスの戦士」も、「この人たち、残像を避けてる!」みたいな衝撃的な場面も入っていたりして、どちらもしっかりとしたクオリティの映像になったと思います。

八木氏: 本当はほかのタイトルのスーパープレイも取っておきたかったんですよ。でも、そうするともうキリがなくなってしまうので、今回のところはテクモ作品の中でも特にメジャーな2タイトルに絞りました。

池田氏: 今後、またこのような機会があればぜひ収録のお手伝いをしたいですね。「ソロモンの鍵」とか「テクモカップ」とか、いまだに上手なプレーヤーがいますし。「テクモカップ」では、シュートをわざとポストに当ててその跳ね返りをまたシュートしてゴールを決めたりするツワモノがいたりしますので(笑)。

※「ソロモンの鍵」:1986年に発売された、テクモを代表するアクションパズルゲームの名作。

――スーパープレイの収録場所はミカドさんの店内だったのでしょうか?

池田氏: そうです。しかも、収録時もちゃんと100円を入れたうえでプレイしていただきました(笑)。「いつもと同じようにお金を使ってプレイしたほうが気合が入る」とみなさんおっしゃっていましたよ。

――あ、わかります! フリープレイとか無敵設定とかにすると、逆に緊張感がなくなってイージーミスを連発しちゃったりするんですよね……。

池田氏: これは私個人の考えですが、今の若い人は当時のゲームのスーパープレイがどんなものかを多分知らないと思うんですよ。攻略パターンやテクニックも、ゲームの資料と同じで保存すべき価値があるというのが持論なんです。

八木氏: いまだにあれだけの反射神経で敵の攻撃を避けられるのはスゴイなあと思いましたね。「オッサンになると目が疲れちゃうのによくできるなあ」って本当に感動しました。それから、「スターフォース」みたいな古いゲームを久々に遊んだ場合は、たとえば100万点ボーナスの隠し場所ってどこだったのかをもう忘れちゃいますよね? でも、これさえあればすぐに思い出せますよ。

池田氏: もういいトシこいた30~40歳にもなるオッサンたちが、「この間、20年ぶりに遊んだら新しいパターンができたんだよ!」とかって目を輝かせて今でも話すんですよ。

 「お前ら、子どもかよ!!」って思わずツッコミたくなるんですけど、何だか話を聞いているこっちまでテンションが上がるんですよね。ぜひみなさんもDVDを見ながらそんな楽しさを味わっていただければと思います。(一同笑)

――スーパースィープのネット通販で「テクモ・アーケードゲーム・クロニクル」を購入すると、特典として追加ディスクがもらえるそうですね。

八木氏: はい。弊社の「SWEEP RECORDSHOP」か特約店でご購入いただきますと、先着購入特典として幻の11枚目のディスク「『ボンジャック』EXTREME MOVIE DVD」がついてきます。

池田氏: 「ボンジャック」のプレイ映像の収録も弊社で担当しました。こちらのプレーヤーの腕もメチャクチャうまいので、ぜひご覧になることをオススメします。もうあまりのうまさに、「「ボンジャック』ってこんなに簡単なゲームだったっけ」と勘違いしてしまうほどです。

――それからDVDには、数々の名曲を世に送り出したコンポーザーを集めた座談会も収録されているとのことですが?

八木氏: そうです。坂本さん、増子さんをはじめ総勢7名の方にお集まりいただきました。

――ズバリ、座談会の見どころや聞きどころは?

八木氏: 全部ですね(笑)。全般的に、坂本さんや増子さんが「当時はこんなバカなことをやってたよね~」などと言いつつペースメーカーになっているのですが、個人的には「ソロモンの鍵」の曲を作った蓮舎通治さんのお話に注目していただきたいですね。とにかく熱いスピリットの持ち主で、いいお話をたくさんしていただいたんですよ。

 実は「ソロモンの鍵」の曲の中でエンディングテーマだけはメタルユーキさん(※)が作曲したのですが、蓮舎さんがエンディングだけはどうしてもイメージがわかなかったのでメタルユーキさんが以前から温めていた曲がピッタリだったのでこれを使うことにしたんだそうです。クライマックスの部分の曲は当然自分で作りたいと思うところなのに、「ゲームの曲というものは、その場面ごとに1番合ったものが使われるべきだ」という信念をお持ちで、後悔するどころか今でも正しい判断だったと信じているとおっしゃったのは本当に素晴らしいなと思いました。

※メタルユーキ:元テクモの斎藤幹雄氏の通称。「ジェミニウイング」、「忍者龍剣伝」などの作曲を担当。

――座談会の収録時間はどのぐらいですか?

八木氏: 2時間半以上ですね。こちらも本当にボリューム満点で、各ゲームごとに細かい部分にまでたくさんお話をしていただけましたし、今回初めて明らかになったエピソードもたくさん入っています。

 坂本さんいわく、「SENJYO」の時代はまず音を鳴らすことが最優先で、その次に実機でちゃんと鳴るかどうかを確認する必要があったので、曲を作れるようになるまでの準備だけでも大変だったそうです。曲を作ってから実際に流せるようになるまでの道のりがとにかく長くて、昔はハード面でのご苦労が本当に多かったんだなあってお話を聞いていて思いましたね。坂本さんは、本来なら曲を作る人であってハードをいじる人ではないハズなのになあと……。

――データディスクにはどんなデータが入っているのでしょうか?

八木氏: 企画書や仕様書、インストカードや店頭で配布された小冊子、フライヤーなどありとあらゆるものが入っています。ロゴが入ってない手書きのポスター原画とか、今となってはすごく珍しいものも可能な限り入れていまして、2千点に及ぶ程、収録されています。

 原画のスキャンと編集は、私とパッケージデザインをお願いした有限会社スプロケさんとで手分けしてやりました。スプロケさんはすごくセンスがよくて、パッケージを開封したときにジムダ・スデギ(※)が出てくる素敵なデザインを作ってくださったんですよ。

※ジムダ・スデギ:「スターフォース」に登場するキャラクターの一種。縦のラインに15個連続で破壊すると8万点の隠しボーナスが入ることで当時のプレーヤー間で有名になった。

原尾氏: 私と八木さんとで収録データのチェック作業をしたのですが、ホントにもうタイヘンでした(笑)。膨大な資料がこのCDに入っていますので、たとえば「スターフォース」がお好きな方であれば、ゲームが完成するまでにどのようなプロセスを経て出来上がったのかがわかるようになっているのですごく楽しめますよ。

 手書きのマップデザインや、企画当初の名前は「デススター」という名前でロゴデザインも製品版とは全然違っていたりするのもわかりますし、とても価値があるものが出来上がったと思います。

 実は増子さんは、「スターフォース」ではサウンド以外に実はグラフィックデザインも担当しているんですよ。キャラクターの絵を鉛筆だけできれいに描いた、増子さん直筆の開発資料がまだ弊社内に残っていましたので、今回のデータディスクにもちゃんと収録しておきました。当時の開発者のみなさんは、万能というかもう天才だなと思いましたね。

八木氏: 私もそう思います。曲も作れて絵も上手に描けて、さらにゲームの企画までもができる人たちが当時たくさん集まっていたなんて、本当にスゴイ時代だったんだなあとあらためて痛感しました。

原尾氏: 1980年代当時の年齢で、下は15,6歳から上は20代前半ぐらいまでのみなさんが青春をかけて作った作品には、その頃のほとばしる情熱が今にも浮かび上がってくるようなパワーがあるんです。少々値は張りますが、座談会とデータディスクの2枚を見るだけでも十分に価値はあると思いますよ。

 それから、データディスクはオールドゲーム好きの方だけでなくて、将来ゲーム開発者を目指している方にもぜひ見ていただきたいですね。当時まだ若者だった面々が、ときにはハンダコテを片手に、仕組みがよくわからないハードまで作っていたんです。音を作る以前の、音を鳴らす為のハードからですよ。

 この試行錯誤の資料をご覧になれば、先輩方のモノ作りへの情熱の凄まじさがきっとおわかりになると思います。このパワーがあったからこそ、ゲーム業界がここまで発展したんだなあと私もデータを見ながら本当に感動しました。

 つまり、この商品は単なるCDボックスではないんですよ。テクモの歴史がこの中にぎっしりと詰め込まれた、まさに開発者たちの青春の記録なんです!

八木氏: ファンの方ですと、メーカーさんの開発の雰囲気は中々知る機会は無いですけど、これを見ていただければその様子がきっと伝わるのではないでしょうか。昔のアーケードゲーム業界は、ヘッドハンティングを防止するなどの理由で誰が何のゲームを作ったのかを隠す傾向にありましたから、今回収録したデータは当時の門外不出、まさに秘蔵中の秘蔵の資料ばかりで、もしこの機会がなければ2度とこの世に出てくることはなかったかもしれませんよ。

原尾氏: 当時はまだコンピュータが1人1台の時代ではなかったので、先輩が優先だったそうです。後輩は、とにかく、紙の上で仕様とプログラムを詰め、頭の中で何度もコーディングを重ねて、空いた一瞬を見計らってそれをコンピュータにぶつけたそうです。

 メディアは8インチのフロッピーディスクを使っていたそうで、繰り返し使っているうちにどんどん劣化していくみたいな話もあったらしいです。

八木氏: これだけの資料が残っているだけでも本当に素晴らしいことだと思いますね。

――まだまだ楽しいお話が尽きませんが、そろそろお時間が迫ってまいりました。名残惜しいですが、最後にお1人ずつ読者のみなさんにメッセージをお願いします。

八木氏: とにかくボリュームがハンパじゃないです。データディスク1枚だけでも、個々のデータをじっくり見ていたらおそらく見終わるまで1カ月ぐらいかかるのではないでしょうか。こういう作品は作る手間も時間もすごくかかりますし、情熱や熱意に加えて運もないと実現しないと思うんです。

 多分、今から10あるいは20年前には不可能だったことが、ここにいらっしゃるみなさんのおかげでついに実現できたので嬉しかったですね。時間はかかりましたが、あきらめなければいつかきっと商品化できると信じて続けていて本当によかったです。

 実は私、今でもほぼ毎日ゲーセンに通っていまして、もしゲームをやりたくなくなったらこの業界は終わりだとすら思っているんです。この仕事をしている間も、自分はゲーセン、アーケードゲームが本当に好きなんだということにまた気づかされましたね。

 何らかの形で昔の作品を残したいという強い気持ちがみなさんにまだ残っていて、だからこそ協力をしてくださったのだと思います。そんなみなさんの情熱の集大成を、ぜひ本作を通じて共有していただきたいなあと思っています。

 本作を見て、あらためて「アーケードサイコー!」ともし思われた方は、またゲーセンに足を運んでください。数は少ないですが、ミカドさんなどまだ何軒か古いアーケードゲームを愛しているお店が残っていますからね!

川島氏: このお仕事をいただいたおかげで、収録のための技術的なノウハウをたくさん得られたのがとても嬉しかったですね。

 サウンドの解析をしていて特に凄いと思ったのがメタルユーキさんの曲で、基板に乗っている音源を全部使い切って作ってあったりしてどれもすごく凝っているんですよ。普通はFM音源をBGMに、PSGをSEに割り当てて作るハズなのに、メタルユーキさんの場合はFM音源もPSGも両方使ってBGMを作っているんです。

 プレイしながら聞いていると気がつかない部分にも、実はもの凄くこだわって作っていることにも注目しながらCDを聞いていただけると嬉しいです。

池田氏: 「ボンジャック」や「スターフォース」、「テクモカップ」、「アルゴスの戦士」などは、いまだにウチのミカドで売上がいいゲームばっかりなんですよね。いまだに人を引き寄せる何か強烈なパワーがあるみたいで、当時の開発の方々は本当にすごいゲームを作っていたんだなあってあらためて思いました。

 原尾さんたちといっしょにお仕事ができたのはもちろんですが、個人的には以前までケンカ状態だったハイスコアラーと仲直りできたのがもう嬉しくて嬉しくて(笑)。ちょっと嫌悪な関係になっていたのに、今回スーパープレイの収録をお願いすることになったので、じゃあ自分から頭を下げるしかないよなあと。お陰様で、この商品はプレーヤーとの友情や絆を深めるアイテムにもなりました(一同笑)。

原尾氏: 八木さんや池田さん、川島さんには本当に献身的にお仕事をしていただきました。コンポーザーのみなさんなど、今回ご協力をいただいた先輩方は、すでに会社をお辞めになった人たちばかりで本来ならもう別に関わらなくてもいいお立場なのに、嫌な顔ひとつせずに制作に協力していただけて本当にありがたかったですね。

 また、今回のお仕事をきっかけに、いろいろな方との間でレトロゲームを盛り上げる協力の輪が広がりました。たとえば9月発売予定の映画のDVD「ゲームセンターCX THE MOVIE 1986 マイティボンジャック」でも、本作や関連商品の宣伝協力をしていただいたり、ハムスターさんが配信しているプレイステーション 4のアーケードアーカイブス版「アルゴスの戦士」でも、移植再現度の高さを実現・実証することができたんですよ。

 1980年代の開発者やプレーヤーたちの青春が詰まった我々の自信作、「テクモ・アーケードゲーム・クロニクル」をぜひお買い求めいただき、みなさんも歴史の証人、伝道者になってください!

――本日はお忙しいところ、みなさんご参加ありがとういました。発売を楽しみにしています!


 実は、今回取材のためにお借りしたコーエーテクモのオフィスには、旧テーカン時代からの貴重な資料や筐体などが今なお大切に保管されており、コンポーザーの座談会の収録もここで行なわれたそうだ。

 筆者もみなさんのご厚意でいくつか拝見させていただいたが、お世辞抜きで、本当に誇張なしで体が震えるほどの衝撃を受けた。学生時代、図工や美術の授業で毎回ほぼ最低評価だった絵心ゼロの人間であっても驚いたのだから、ゲームに限らずCGデザイナーやグラフィッカーを志す方などは必ずや強烈なカルチャーショックを受けることだろう。テクモファンならずとも、機会があればぜひ本作の収録内容をご覧になっていただきたい。

【関連情報】

・「ゲームセンターCX THE MOVIE 1986 マイティボンジャック」
(c)2014 ハピネット/ガスコイン・カンパニー

 発売日:9月2日
 価格:5,800円(BD) /4,800円(DVD)

 今年の2月に公開された映画「ゲームセンターCX THE MOVIE 1986 マイティボンジャック」がBlu-rayおよびDVD版で9月2日に発売される。

□映画の公式サイト
http://www.gccx-movie.jp/

・「アーケードアーカイブス」
(C)1986 コーエーテクモゲームス All rights reserved.

 配信日:5月15日

 価格:823円

 5月15日よりハムスターが配信を開始した、PS4向けに移植したアーケードゲームの総称で、サービス開始初日より「アルゴス戦士」が配信されている。

□アーケードアーカイブス公式サイト
http://www.hamster.co.jp/arcadearchives/

(鴫原盛之)