インタビュー

iOS版「フォートナイト」が復活するまで。Epic Games CEO ティム・スウィーニー氏インタビュー

“我々が求めているのは特別扱いではない”

【iOS版「Epic Games Store」】

2025年後半 リリース予定

Epic Games CEO ティム・スウィーニー氏

 皆さんはiOSのApp Storeから「フォートナイト」が消えた日の出来事を覚えているだろうか。それは2020年8月に起きた事件で、当時iOS版「フォートナイト」をプレイしていた方は寝耳に水だっただろうし、この出来事をきっかけに別のプラットフォームへ引っ越したという方も多いだろう。

 あれから長い年月が経ち、遂に日本でも2025年にiOS版「フォートナイト」が帰ってくることが明かされた。どうして「フォートナイト」はiOSに帰ってくることができたのか、この4年間で何が起きたのか、新生iOS版「フォートナイト」はどうやってダウンロードするのか。本稿ではEpic Games CEOであるティム・スウィーニー氏への合同インタビューの模様をお届けしていく。

まずはAndroid/iOS版「フォートナイト」が消えた要因をおさらい

 まず全ての発端となった出来事について振り返っていこう。iOSユーザーであれば普通の事だと思うが、iPhoneでアプリをダウンロードするときは「App Store」を使うのが一般的だ。むしろApp Store以外を使ってアプリをインストールすることは不可能に近い。

 一方のアプリ開発者は、App Storeで有料アイテムを配信する際に“手数料”がかかる。これはApp Storeで有料アプリを購入する時のみならず、ゲーム内アイテムを購入する際にも発生し、その手数料は“売上高の30%”となかなか高額だ。つまりガチャを引くときに10,000円を課金すると、その30%にあたる3,000円をAppleが徴収し、残りの7,000円をアプリ開発者が貰うことになる。

iOS端末は基本的にApp Storeのみでしかアプリをインストールできない

 この手数料にNoを突き付けたのがEpic Gamesだった。2020年8月、同社は「フォートナイト」にApp Storeを介さない課金システム「Epic ディレクトペイメント」を導入。これはApp Storeを介して購入する時と比較して「V-Bucks」を最大20%オフで購入でき、ユーザーにとってありがたい施策のように思われた。

 だが、Appleはこれを規約違反と見なし、App Storeから「フォートナイト」を削除。さらにインストール済みのユーザーに対してアップデートを配布できないようにする強硬手段に出たのだ。AndroidデバイスでGoogleが提供している「Google Play Store」でも規約違反として配信停止となってしまった。

 Epic Gamesはこれに即日対応し、カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に訴状を提出。AppleやGoogleの動きを予見していた上で「Epic ディレクトペイメント」を導入したのだった。以降にあった各国の法的な動きについては公式サイト「Free Fortnite FAQ」が詳しい。

□「Free Fortnite FAQ」のページ

Epic Gamesが「フォートナイト」に導入した「Epic ディレクトペイメント」

 この動きに真っ先に反応したのがヨーロッパ連合(EU)だった。EUでは、AppleやGoogle、Amazon、Meta、Microsoftといった“ビッグ・テック”による地位の濫用を規制し、競争を促す「デジタル規制法(DMA)」を施行し、この中でストアや支払いシステムといった特定サービスを強制的に利用させることを禁止した。

 Appleは「DMA」に対応せざるを得ず、まずはEU圏内でApp Store以外のサードパーティストアを導入し、アプリをダウンロードできるようになる「サイドロード」を可能にした。導入方法としては、Appleが承認したマーケットプレイスアプリをブラウザからダウンロードし、そこからアプリをダウンロードする流れになる。

 この流れに日本も追従し、2024年6月12日に「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」が成立した。公布の日から1年6月を超えない範囲でこの法律が施行される予定で、将来的に日本でもiOS端末の「サイドロード」が義務化される形だ。

EUの「DMA」によって、iOS端末のサイドロードが事実上義務化された

 「DMA」でサイドロードが解禁されたことで、Epic GamesはPCゲーマーにお馴染みのストア「Epic Games Store」をiOS向けに配信開始。現在はEUのみでダウンロード可能だが、将来的には日本でもダウンロードが可能になる。

 Androidデバイスではもともとサイドロードが解禁されており、公式サイトから「フォートナイト」をダウンロード可能だったのだが、今回改めてAndroid向けに「Epic Games Store」を配信。こちらは日本でも利用可能で「フォートナイト」や「Rocket League」のみならず、モバイル向けでは初登場となる「Fall Guys」をダウンロード可能だ。

 モバイル版「Epic Games Store」は現在Epic Gamesタイトルのみ配信されているが、今後はサードパーティタイトルも配信可能になる予定。Epic Games Storeによって、ゲームやゲーム内アイテムをより安く購入できる未来がやってくるだろう。

現在はEU圏内でのみ利用できるiOS版「Epic Games Store」。将来的には日本でも利用可能になる

 またEpic Gamesは「フォートナイト」、「Fall Guys」、「Rocket League」の3つのゲームについて、他社が提供するサードパーティストア「AltStore」や「Aptoide」でも配信すると発表。「Epic Games Store」で独占的に配信するのではなく、他社のマーケットプレイスとも連携していくと明かした。

 改めてここからはEpic Games CEOのティム・スウィーニー氏、Epic Games Store ゼネラルマネージャーのスティーブ・アリソン氏、AltStore 共同創業者のシェーン・ギル氏、ラリー・テストゥ氏、Aptoide CEOのパウロ・トゥリゼントス氏の合同インタビューをお届けしたい。

他社のサードパーティストアとの連携も発表

“我々が求めているのは特別扱いではない”

――まず我々ゲーマーは「Epic Games Store」をどこからダウンロードすればいいのでしょうか?

スティーブ氏:(Epic Games Store GM)Android/iOS共にEpic Games Storeのブラウザからアプリをダウンロードできます。ですがAndroidでは12ステップ、iOSでは15ステップの段階を踏まなければなりません。

ティム氏:(Epic Games CEO)iOSの15ステップというのはその通りです。特に一部のステップでは行き止まり的なページもあって、ユーザーが「あれ?どこで間違ったのかな?」と正しく進む方法を探さなければならないような段階があります。

 これは明らかに意図的に設計されているものです。皆さんがご存知の通り、Appleはわかりやすい革新的なUIで多くの実績を残してきましたが、サードパーティのマーケットプレイスを導入するステップはこれに反するもので、とても意地悪なUIです。

――このインストール方法が簡単になることはあり得るのでしょうか?

ティム氏:この面倒なフローを改善するためには、まだいくつか法的な問題が残っています。これはアメリカで行なわれている「Epic Games vs Google」裁判の結果、そして欧州委員会が行なっているAppleの調査の結果に大きく影響されます。

 現状、Appleのやっていることは明らかに「DMA」に違反していると考えていて、これが認定されればAppleもやり方を変えて、App Storeと同様の使い勝手になると考えています。我々が望んでいるのは“特別扱い”ではなく、同じ土俵で公平に戦う。ただそれだけなんです。

――日本では2024年6月に「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」が成立しました。この法律によって、日本でもモバイル版「Epic Games Store」が展開されるという解釈でよかったでしょうか?

ティム氏:AppleとGoogleは、少なくともEUにおいて関係規制を遵守してきませんでした。我々はこれについて、悪意をもって遵守しなかったのだと考えています。日本においても法律を遵守しない不誠実な対応をとる可能性もありますが、これ以上続けると大きな罰則を受けることになると、AppleとGoogleはきちんと理解しなければならないと思います。そうでなければ、きちんとした競争は生まれませんから。

パウロ氏:(Aptoide CEO)我々サードパーティストアが連携しているように、規制当局もお互い情報交換をして連携しています。私自身、日本の法律はEUの法律でカバーしきれていない部分も対応している印象を受けます。こういう時は、競争よりもお互いに連携してやっていく方がいいですから。

 我々はデベロッパーと連携して、より良い関係で大きな変革を起こしたいのです。これは規制当局側も同じで、そうした意味で6月に成立した日本の法律は、EUの法律よりも良いと思いますし今後にも期待しています。

遂に実現したiOSでのサイドロード。だがダウンロードには全15ステップもあり、“意地悪なUI”に仕上がっているという

――PC版Epic Games Storeはゲームの無料配布、クーポンによる割引、ポイント制度などお得にゲームを購入できるストアという印象です。こうした施策はモバイル版でも実施予定ですか?

スティーブ氏:もちろんです。PC版でやっていることは、モバイル版でもやって盛り上げたいと考えています。またPC版で集めたリワードをモバイル版で利用できますし、その逆も可能です。

――PC版Epic Games Storeはサードパーティタイトルの独占配信も行なわれていますが、これはモバイル版でも行っていく方針でしょうか?

ティム氏:2018年に行なったほどの規模ではありませんが、「Epicファーストランプログラム」はモバイル版でもやっていきたいと思っていますし、我々が行なっている施策についてデベロッパーからも良い感触を得ています。デベロッパーと協力して進めていきたいと考えています。

6カ月の独占期間中は手数料がなく、デベロッパーが100%の収益を得られる「Epicファーストランプログラム」

――今回登場するモバイル版「フォートナイト」や「Fall Guys」、「Rocket League」は、既存のPC版などとの同期やクロスプレイはできますか?

ティム氏:もちろんです。PCやMac、プレイステーション、Xbox、Nintendo Switch、Android、iOS、7つのプラットフォーム全てで同期やクロスプレイができますよ。

――過去にApp Store版「フォートナイト」をプレイしていたユーザーは、今回のモバイル版Epic Games Storeの「フォートナイト」へスムーズに移行できますか?

スティーブ氏:Epic Gamesアカウントを使えば、スムーズに移行できるようになっています。ぜひダウンロードして遊んでみてください。

――リリースに伴って、過去にApp Store版「フォートナイト」をプレイしていたユーザーに戻ってきてくれるような施策はありますか?

スティーブ氏:リリース時からゲーム内チャレンジやコスチューム、ツルハシといったエキサイティングな報酬を用意しています。また「Fall Guys」や「Rocket League」でも報酬を用意しているので楽しみにしていてください。

――「フォートナイト」などにモバイル版独自のコンテンツというのはあるのでしょうか?

ティム氏:プレーヤーがどのデバイスを使っても同じ体験を楽しめるようにするため、モバイル版だけの特別なコンテンツというのは用意していません。

モバイル版のリワード

――「フォートナイト」は子供のプレーヤーも多いですが、今回のモバイル版Epic Games Storeのダウンロードは子供には難しいのかなと感じました。これとは別に、モバイル版Epic Games Storeではペアレンタルコントロールの設定はできるのでしょうか?

ティム氏:AppleとGoogleがサードパーティストアのプロセスを難しくしているのは、私たちも本当に残念だと思っていますし、関係者の皆さんには失望しかないと思います。我々としては、与えられた環境の中でベストを尽くし、ユーザーにとって「私たちのストアは安全だよ」と説明するように努力しています。大事なのは、規制当局がAppleとGoogleによる意地悪なやり方を許すことがないようにしていくことだと考えています、

 ペアレンタルコントロールについては、私たちがAppleとGoogle以上の良い物を持っていると感じています。Epic Gamesアカウントに紐づき全てのプラットフォームに対応しているため、PCやSwitchで設定したペアレンタルコントロールは、モバイルでも適用されるようになっています。そういう意味では、親御さんも安心できる制度設計になっているのではと考えています。

与えられた環境の中でベストを尽くしたという今回のUI。確かに子供が操作するには不安な箇所があるだろう

――「AltStore」や「Aptoide」などサードパーティのストア同士がどうして連携することになったのでしょうか?また、お互いにとってどのような価値があり、どのようにユーザーを増やしていけるとお考えでしょうか?

ティム氏:Epic Gamesは色々な側面を持っていて、ゲームデベロッパーであり、Unreal Engineのデベロッパーであり、そしてEpic Games Storeを提供するプラットフォーマーでもあります。このうちゲームデベロッパーとして、我々はできるだけ多くのユーザーに「フォートナイト」といった私たちのコンテンツをより良い条件で提供したいと考えています。

 例えば、街中に行けば色々なお店があって、それぞれに個性が合って、それぞれが競い合っていますよね。私たちとしては、できるだけ多くのストアに自分たちのコンテンツを置いてもらいたいのです。まあ「App Store」や「Google Play Store」などあまりフェアではないストアには置きたくないですけどね。

ラリー氏:(AltStore 共同創業者)少し補足すると、「App Store」や「Google Play Store」はデフォルトのスキームで、ここからユーザーにスイッチさせるのは非常に難しいことだと思います。ですが、サードパーティのストアというのはやはり必要であり、我々は同じ立場で戦っていることを表明する意味もあります。AppleとGoogleは必ずしも我々の側に立っている訳ではないですからね。

――サードパーティのアプリを増やしていくには、アプリ開発者にどのようなメリットを提示していく必要があるとお考えでしょうか?

スティーブ氏:実は1月から売上トップ250のデベロッパーと協議を重ねていて、どのように進めていけばよいか話してきました。昨今のゲーム業界はレイオフも多く、収入的に厳しい立場に立たされていますが、そんな中で彼らのマージンが上がるということに、とても良い反応を示していただきました。

 Epic Games Storeの手数料は12%で、残りの88%はデベロッパーの売り上げとなりますし、デベロッパーは独自の支払いシステムも利用できます。我々はPC版「Epic Games Store」の規模を大きくしたという実績がありますし、デベロッパーの皆さんにもそれをわかって頂いています。モバイル版でも同じようなことをしていきたいです。

――ありがとうございました。