インタビュー

eスポーツ観戦の未来がここに!? 「World of Tanks AR」体験レポート

手元のスマートデバイスから、自由な視点で「WoT」の戦車バトルを観戦できる!

【World of Tanks AR】

参考出展のみ

Wargaming.netブース

 Wargaming.netといえば、昔も今も「World of Tanks」のメーカーだ。今年のGamescomでも、最大規模のエリアを使ってPC版「World of Tanks」を出展していたが、今年は過去最大規模のメジャーアップデート「World of Tanks 1.0」の実装直後ということで、ポーランド戦車ツリー&マップ、フランスホイール戦車、そしてミンスクマップと比較的小粒の発表に留まった。

【ポーランド戦車&新マップStudzianka】
多くは計画案をベースとしたポーランド戦車。ソ連譲りの硬い砲塔と大口径の主砲が特徴となっている

【フランスホイール車輌】
フランスツリーに新たに導入される“ホイール版バットチャット”と言いたくなるような新型ホイール車輌

【ミンスクマップ】
開発拠点のあるミンスクだからとはいえ、あまりのクオリティの高さに衝撃を受ける

 むしろ目立っていたのは今回新たに発表されたARコンテンツ「World of Tanks AR」だ。Wargaming.netは、昨年、地球上に2輌しか現存していないドイツの自走砲シュトルムティーガーをARで丸ごと再現するアトラクションを、イギリスのボービントン戦車博物館で特別展示していたが、そのスペシャルプロジェクトチームの最新作だ。プロジェクトを主導しているのはWargaming.netだが、実際の開発そのものは、旧「World of Tanks」のゲームエンジンBig Worldを手がけたBig Worldが担当している。

【「World of Tanks AR」スペシャルプロジェクトチーム】
左がBig WorldシニアエンジニアのLuke Ledwich氏、右が「World of Tanks AR」Special Projects LeadのMatt Daly氏。Daly氏は昨年ボービントンで取材を受けたことを覚えていてくれた

 その内容というのは、「World of Tanks 1.0」のバトルの映像を、フラットなテーブル状にARで描くというもの。そこで描かれた映像は、当然戦車だけでなく、フィールドや建物、エフェクト、すべて。「WoT」の映像そのものをARで丸ごと表現するという大胆な試みだ。

 この「World of Tanks AR」はWargaming.netブースにも参考出展されていた。ブース中央に2つのテーブルが置かれ、表面に作戦地図のようなイラストが描かれている。それぞれのテーブルには、今回の主役である太いケーブルで繋がれたiPadが置かれている。体験者がiPadを手にして、テーブルの特定の位置にカーソルを合わせるという初期化プロセスを済ませた上でiPadの画面を眺めているとテーブルがいつしか戦場となり、迫力の戦車バトルが始まっていく……。

【「World of Tanks AR」キーイメージ】

【World of Tanks AR Spectate】

 筆者が最初に見たのはパリのマップだが、そのシンボルであるエッフェル塔が地中からニョキニョキ伸びてきて、その後に戦車バトルがスタートした。体験者はテーブルの周りを自由に動き回ることができ、自ら動いて視点を変えたり、寄ったり引いたりすることで、戦車が手に触れられるような距離まで近づくことができる。これはおもしろい。

 仕組みはこうだ。iPadの太いケーブルは、テーブルの下にあるハイエンドPCに繋がっており、初期化プロセスがデモのスタートボタンになっている。スタートに合わせてあらかじめ用意されたリアルタイムデモのレンダリングが開始され、手に持っているiPadの向き、位置に合わせてその映像がiPad上に映し出されるという寸法だ。

【デモンストレーション】
この風景がiPadを通して見ると……
こうなる。テーブルの奥はそのまま見えていることに注目
デモオフの状態
こちらがオン。テーブル全域に映像が描かれる

 有線にしているのは、iPadではそもそも「World of Tanks 1.0」をレンダリングしきれるマシンパワーがないのと、ネットワークの帯域が不足するためだという。技術的にはやや無理目のことをしており、少なくともここ1~2年の間で、このARプロジェクトが、たとえば「World of Tanks 1.x」の基本機能としてビルトインされたり、単体アプリとなって配信されたりすることはないという。現時点では、あくまで「WoT」の未来に向けた実験のひとつに留まる。

 ではどういう未来が考えられるのだろう? 個人的にすぐピンときたのは休止したまま今も模索が続く「WoT」の公式プロリーグ「Wargaming.net League」の観戦ツールだ。実はWargaming.netは、数年前にVRで「Wargaming.net League」を神の視点から観戦させるというデモを行なっていたことがある。発想そのものはおもしろいが、当然のことながら解像感がまったく足りず、ビジュアルも気持ちもモヤモヤしたデモだったという記憶があるが、「World of Tanks AR」は、PC版と同等の解像度で表示でき、かつ自らの動きに合わせて自由に視点変更や拡大縮小が行なえる。

 今回のデモでは目一杯引いても、特定の地点しか映し出されていなかったが、作り方によってはマップ全体を描いて、まさに神の視点から試合を眺めるということも可能だろう。そうなれば、せわしなく変わるカメラにイライラすることなく、常に神の視点から戦場全体を眺めたり、戦局を左右するポイントだけを観戦し続けるということも可能になる。何より、eスポーツ観戦がインタラクティブになるわけだ。巧く作り込めばeスポーツの分野に“観戦革命”を起こせるテクノロジーだと思う。

 Daly氏に率直にその可能性について尋ねると「そう言う可能性もあるだろう」と否定しなかった。ただ、Daly氏自身は、トヨタやソニー、フランステレコムなどで、VRやARを使った一般向けのデモを作ってきた経歴を持っており、このスペシャルプロジェクトを、ゲーム向けに煮詰めていくというよりは、また視点の異なる新たなプロジェクトを立ち上げて行くのだろうなと感じた。Daly氏率いるスペシャルプロジェクトチームの今後の作品と、「World of Tanks」の今後に引き続き注目していきたいところだ。

【WGLの未来はこうなる?】
デモは3種類用意され、戦車バトルをまさに好きな位置から覗くことができる。非常にエキサイティングだ