インタビュー
本物のダンゴムシの比率こそが最適解! カプセルトイ「だんごむし」
企画者を惚れ込ませ、ダンゴムシ博士にしてしまったその魅力に迫る!!
2018年6月6日 17:00
「何だこれ!」、商品が発表されると瞬く間に話題を集めたカプセルトイ「だんごむし」。カプセル自販機に500円硬貨を入れ、ハンドルを回すと、ゴロンと丸まったダンゴムシが出てくる衝撃、そして広げると14cmにもなる。巨大で、キモくて、強いインパクトがあり、ちょっとだけかわいらしさを感じさせるこの商品は、発表と同時に、大きな反響を生み出した。
本商品はザクの頭になるカプセルトイ「ザクヘッド」を手がけたバンダイ ベンダー事業部の誉田恒之氏の企画商品だ。「だんごむし」は2年もの開発期間がかかり、しかも誉田氏は虫が苦手。企画者自身が「ちょっと気持ち悪い」と思いながら、開発を進めていったという。
しかし2年の開発は彼に大きな変化を与え、その溢れる「ダンゴムシ知識」が、本商品をついに発売まで導いた。技術的な困難、構造改良の苦闘、そして本商品を販売させるための営業的な会社との戦い。全てに勝利し、“ダンゴムシ博士”となった誉田氏の、その想いと、実際の素晴らしい商品、そしてダンゴムシの知識を紹介していきたい。
ダンゴムシ殻の比率への研究が、世界初の完全変形フィギュアを生み出した!
カプセルトイ「だんごむし」が生まれた経緯は、最初はほんの“思いつき”だったと誉田氏は語った。同じくカプセルトイ「ザクヘッド」は、できるだけカプセル容器を使わず、大きなものをというアイディアを突き詰めての企画だったが、「だんごむし」も同じように、カプセルの容器という“商品でないもの”を使わずに、大きく、楽しいトイをユーザーに届けたいという所から、丸い形状の何かを作れないか、というところがスタートだという。
「この企画がスタートする2016年頃は、2017年2月に発売される「ザクヘッド」の企画スタートとほぼ同時期なのですが、ベンダーマシンから出てくる丸いもの、というものを考えているときに、娘が小学生だった頃にダンゴムシを集めていた事を思い出したんです。この時期はザクヘッドをいかに丸くしてベンダーマシンにそのまま入れようか悩んでいたのですが、『それならば、このダンゴムシが丸いままマシンから出てくるならばどうだろう』と思ったわけです。その風景はとてもインパクトがあるし、面白い。それにダンゴムシってほとんどの人が子供の頃に遊んだことがあると思うので、これは行けるんじゃないかと思いました」と誉田氏は語った。
「ダンゴムシフィギュアをカプセルレスで出す、これはすごく面白いぞ」と誉田氏は思った。しかしものすごい“壁”にぶち当たる。試作品を作ったものの、その構造の複雑さ、設計の難しさに直面することとなる。「丸くできない」のである。内部で部品同士が引っかかり、どうしても丸くできない。「クの字」にするのが精一杯なのである。
「ダンゴムシって、実は体の内部が伸び縮みする、“特殊体質”とも言える生き物なんです。内部で伸び縮みすることで丸くなってるんです。これが樹脂では再現できない。この技術的な問題で、開発が何度も行き詰まるのです。カプセルトイ『だんごむし』は2年もの開発期間がかかっていますが、もちろん2年間かかりきりになっているわけではなく、他を進めながらこちらも進めていたのです。一旦はこの問題のため、『無理かな』とも思い、何度も企画が立ち消えそうになりました」。
しかし他の企画を進めながら誉田氏はチャレンジを続けていた。丸くしようとしても内部がぶつかる、それを避けようとすると広がったときに隙間だらけになってしまう。誉田氏はヒントを求めて過去にダンゴムシをモチーフとした例がないかも調べてみたが、誉田氏の目指す“解法”とは異なるアプローチだった。過去の商品を参考にできない、ということを実感したという。
しばらくの休止し、新しい構造を思いつくと再開すると言うことを繰り返した。そうした中で、ヒンジ部分で折れ曲がるだけでなく、ヒンジ部分に隙間を持たせることで伸び縮みができないだろうか? 誉田氏はそう考え、伸縮性を持たせる設計を考えた。動きに“余裕”を持たせ、さらにヒンジ部分の位置の調整も行なった。この調整は3Dデータのデータ上では限界がある。試作品の立体物を作り、その試作品を動かし手で触ってみて調整を行なっていった。
カプセルトイは、店頭で販売する大人向けアクションフィギュアと異なり、コストの問題が非常にシビアである。構造や伸縮性などを優先しても、使える素材は限られるし、製造工程もできるだけシンプルにしなくてはいけない。企画・設計はコストの問題にもきちんと向き合わねばならない。カプセルトイ「だんごむし」は、3種類の樹脂で作られているが、その素材も吟味したという。
製造、検討は全て中国の工場内で行ない、誉田氏はその試作品を見て改良のアイディアを出す。こういった工程は、誉田氏が実際に中国の工場で開発を行っていた経験も活きているとのことだ。そういった試行錯誤を繰り返した上で、今回、販売できるまで仕様を突き詰めることができた。設計に関しては5種類もの試作品を経て、2年もの時間がかかったが、今回のおもちゃショーを前に発表までこぎ着けたのである。
時間がかかったのにはもう1つ理由がある。誉田氏自身が「虫が苦手」というところで、「虫の気持ち悪さ」をデフォルメすることで軽減したためだ。実際のダンゴムシは足にびっしり細かい毛が生えているし、裏側のモールドももっともっと生物的だ。実際そういう3Dモデルも作ってみたが、やはり気持ち悪い。そこで誉田氏は、ダンゴムシらしいリアルさを感じさせながらも、ディテールを減らし、生理的嫌悪感の少ないバランスを追求し、“かわいらしさ”も感じさせるものにしたという。
それでも実際に見るとやはり充分虫っぽく、実際の虫の腹部を見ているような感覚がある。腹部分や口部分もきちんとモールドがあり、リアルさがあって、筆者も虫が苦手なため、やっぱりキモイ。しかし複雑な部品構造や、改めてダンゴムシの自然の設計の巧みさを実感させられて感心してしまう。ちなみに、ダンゴムシは分類的には昆虫ではなく、エビや蟹などの甲殻類に属する。便宜上虫を例えに出しているが、昆虫ではないのである。
実際に実物を触ってみると、内部機構はもちろん、外部の“殻”の部分の見事さに驚かされる。殻の大きさは各パーツで異なり、その比率は忠実にダンゴムシを再現しているのがわかる。丸めると綺麗に殻が全身を覆うところにもう一度驚かされる。自然ってスゴイ、進化ってスゴイ、ダンゴムシをこのように設計した“生命”ってスゴイと、畏怖に近い感情が呼び起こされる。そのダンゴムシの殻の比率が再現されている見事な設計を指摘すると、誉田氏はうれしそうに笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、本物のダンゴムシも殻のサイズは1枚1枚違うんです。その大きさの比率はちゃんと決まっています。1枚目から短くなっていって、4枚目が1番短い。そうしないと丸まったときに干渉してしまう。こういったことはダンゴムシを徹底的に研究して得られたデータです。実際のダンゴムシと同じ比率なんです」。
実際に誉田氏にカプセルトイ「だんごむし」を丸めてもらった。このプロセスもダンゴムシそのままだという。まず、脚を内側に畳んでいく、そして体を丸め、最後に触覚を殻の中に入れ、ピンの部分をくっつけると丸まる。この丸める様子は動画で撮影したので、ぜひ見て欲しい。
「最初はインパクトのあるネタとしてダンゴムシを選んだんですが、そのギミックを実現するためにダンゴムシを研究すればするほどダンゴムシという存在に惹かれていきました。ダンゴムシが丸まるために必要な部品の構成は、本当にちゃんと理由がある。改めて自然のすごさ、ダンゴムシを忠実に再現するのが一番の解決法だと気づきました」と誉田氏は語った。
驚くべき青いダンゴムシの秘密! 3種のラインナップはこうして生まれた
構造上の難しさに加え、誉田氏の前に立ちはだかったもう1つの壁が「商品化への道」だった。「ダンゴムシのフィギュアを500円のカプセルトイで売りたい」というのは、メーカーとしてはかなり無茶な意見なのだ。500円サイズというのは、カプセルトイでは最高級の商品であり、コストもかかる。しかもダンゴムシは特撮ヒーローやロボットのようなキャラクター性もないし、猫や犬のような“売れ線”でもない。他の人達が難色を示すことは、必然だった。
企画を通すには売り上げ目標も高くしなくてはならない。これまでの商品のような普通のプレゼンをしても、絶対に他の人を説得できない。そこで誉田氏は社内プレゼンに臨むにあたり、「ダンゴムシの素晴らしさ」をまずとことんまで語る、という作戦を実行した。
「ゾウリムシとダンゴムシの違い」を最初にプロジェクターに映し出し、「何故ダンゴムシは丸くなることができるのか? それは特別な体の構造があるからだ」とダンゴムシの構造の魅力を語り、それをカプセルトイで実現するのにいかに苦労したかを語った。その変形を実現できたのは“世界で初めて”であり、商品化すればヒットすると言うことを大いに語った。しかし「ダンゴムシと商品の凄さはわかるけど……やっぱり無理じゃない?」という反応が返ってきたという。
「そこはもう、粘って粘って、みんなからOKがもらえる様に『じゃあとにかくやってみようよ』と言ってもらえる様にとことんまで粘ってとにかく通しました。社内で通すのは、本当に苦労しました。構造の問題を実現するよりも大変だったかもしれません」と誉田氏は語った。
今回のカプセルトイ「だんごむし」の面白さのもう1つの点は、「14cmという大きさ」にある。リアルな虫の姿をしたダンゴムシが14cmという巨大なフィギュアになっているのは、ものすごいインパクトがある。14cmというのは、カプセルマシンから出せるカプセルが、直径7.4cmという大きさからの逆算である。
そしてやはりインパクトを大事にしたかったので、できるだけ大きくしたかった。偶然から生まれた数字であるが、ダンゴムシの平均的な大きさが1.4cmで、ちょうど10倍にあたるのだ。「例えば会社の机の上にこっそりと置いておくと、ものすごく強いインパクトを生む。そういう楽しみ方をしてもらいたいと思ってます」と誉田氏は語った。
そして実際にカプセルトイ「だんごむし」の発表は、ユーザー間にものすごいインパクトを与えた。弊誌で取り上げたニュース記事も他のゲームニュースを抑えてトップを飾り続け、拡散し続けている。「ある程度話題を集めてくれるとは思ったのですが……予想以上ですね。カプセルマシンから巨大なダンゴムシが出てくるというのは、話題を集める自信はありました。しかしこれほどとは思わなかったので、とてもありがたいです」。
「もちろんユーザー様側の変化、というのも背景としてはあります。ちょっと前までは200円のカプセル商品しか売れなかったのですが、昨今では500円の商品でも価値を認め、購入してくれるお客様が増えた。カプセルトイという固定概念に囚われず、凝ったトイとして、アクションフィギュアなどと同じ感覚で購入してくれるユーザー様が増えている。『ザクヘッド』も同様でしたが、そういうお客様の増加が、この企画を実現させてくれたという面もあります。だからこそコストが掛けられるカプセルトイ『だんごむし』は一般的なトイを作る気持ちで、ユーザー様に驚きを持ってもらえる様に、妥協せず開発しています」と誉田氏はコメントした。
そして“ラインナップ”もダンゴムシ博士となった誉田氏のこだわりに満ちている。カプセルトイ「だんごむし」のラインナップは全3種類。通常の「黒いだんごむし」に加えて、「青いだんごむし」、「白いだんごむし」がある。
「青いだんごむし」は実は“イリドウイルス”というウイルスに感染したダンゴムシで、青い鮮やかな色に体色が変化する。日本で初めて発見されたという。このイリドウィルスに感染してしまったダンゴムシは習性までもが変わってしまう。
普段のダンゴムシは暗いところ、影に隠れるのだが、ウィルスに感染すると光を求め、明るいところに出てくるようになる。そうなると鳥などの捕食者に見つかりやすくなる。補食されたダンゴムシは消化されてしまうが、ウィルスは死滅せず、フンなど排泄物に混じり広範囲にばらまかれることになる。ウィルスが感染範囲を広げるための習性を変化させてしまうのだ。
「白いだんごむし」は生物の突然変異で見られるアルビノ(白子)である。ダンゴムシブリーダーの中にはアルビノのダンゴムシを掛け合わせることで養殖し、販売をしている人もいるとのこと。色素のないアルビノであるため、ダンゴムシの目も赤くなる。「白いだんごむし」はこの特徴もきちんと再現している。どちらも誉田氏がダンゴムシ研究を進める上で得た知識だ。
この他にも「ダンゴムシは壁にぶつかると最初は右へ、次は左へ必ず曲がる」、「雨の日の後にブロック塀に集まるのは雨でコンクリートからしみ出した炭酸カリウムをエサにしているから」などなど、誉田氏のダンゴムシ知識は止まらなかった。イリドウィルスに感染すると赤く発色する場合もあったり、雌のダンゴムシは黄色い斑点があったりと、第2弾のためのカラーバリエーションも考えているという。
カプセルトイ「だんごむし」が、話題を集めた背景にはウェブ媒体との親和性もある。コストの掛けられないカプセルトイは以前は店頭での出会いが購入のきっかけだったが、現在は毎日更新されるウェブ媒体やSNSで情報が発信でき、ユーザーが商品情報に触れる機会が増している。また購入後のSNSでの“口コミ”も見逃せないところだという。
しかし一方で「入手できるか」も大きな問題である。ガシャポン公式サイト「ガシャポンワールド」では、ベンダーマシンの検索機能もあり、ここで家の近くのベンダーマシンも検索できるようになっている。
そしてもちろん、誉田氏のユニークな挑戦は止まらない。「ザクヘッド」、「だんごむし」だけではなく、まだ発表できない企画も進めている。今後の発表を待ちたいところだ。ユーザーの予想を上回り、驚いてもらえる商品を考えているという。
最後にユーザーに向けたメッセージとして、「お子さんなどにもこの『だんごむし』は喜んでもらえるリアルさがあります。お子さんと一緒にこの商品を手に取り、ダンゴムシの生態を調べて欲しいです」と誉田氏はユーザーに語りかけた。
話を聞いてますますカプセルトイ「だんごむし」の魅力がわいた。企画を聞いただけでインパクトがあるが、実際に触ってみると実際のダンゴムシの“進化の奇跡”ともいうべき構造の見事さに驚かされる。「体を丸める」というギミックの正解が、結局、「本物の再現」であり、企画者である誉田氏をダンゴムシ博士にしてしまうその自然界の奥深さにうならされた。
誉田氏の話を聞いているだけで楽しく、引き込まれる。こういった企画力、興味の対象に入れ込む熱意、そしてそれをきちんとしたアピールに繋げる能力があるからこそ、誉田氏はこのユニークな企画を実現させたのだとわかった。カプセルトイ「だんごむし」はおもちゃショーでも出展されている。一般日ではぜひバンダイブースでチェックしてみよう。
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