インタビュー

ガシャポンから20cmの胸像が! 「インテグレートモデル マジンガーZ」誕生秘話

アイディアマン誉田氏が切り開くカプセルトイのさらなる進化

5月発売予定

価格:500円(税込)全3種

 マジンガーZの胸像。映画「劇場版 マジンガーZ / INFINITY」に登場したマジンガーZを、全高約20cmで再現。そのサイズならではの緻密なメカ描写、大迫力のディテール表現された胸像が、「カプセルトイである」と聞いて驚かない人はいないだろう。それはバンダイベンダー事業部が5月に発売するカプセルトイ「インテグレートモデル マジンガーZ」である。1つ500円(税込)で全3種が用意される。

 3体で展開する「インテグレートモデル マジンガーZ」は、1つのカプセルからもしっかりとしたモデルが作り上げられ、3つ揃えると内部メカの描写まで楽しめる非常に豪華なカプセルトイである。この商品を開発したのはバンダイベンダー事業部の誉田恒之氏。

「インテグレートモデル マジンガーZ」は、3つのカプセルトイを合体させることで巨大な胸像となる

 カプセルから出たパーツを組み上げるとリアルなザクの頭部モデルができあがる「エクシードモデル ザクヘッド(以下、「ザクヘッド」)」を開発した方だといえば、納得する人はいるかも知れない。今回、誉田氏は「ザクヘッド」のアイディアを発展させ、カプセルトイとは思えない大きなモデル、を作り出すのに成功したのだ。弊誌では誉田氏は「だんごむし」の際にインタビューを行なっている。今回は2度目のインタビューとなる。

 ごろりと出てくるカプセルが、魔法のように大きな胸像のモデルになる。今回は誉田氏に、「インテグレートモデル マジンガーZ」を開発した経緯と魅力を語ってもらった。さらに彼の新商品「すずめばち」も語ってもらった。カプセルトイの歴史を塗り変え続けるアイディアマンの驚くべき発想をお楽しみ頂きたい。

3つのカプセルトイを合体させると、約20cmのマジンガーZの胸像が完成する。これがカプセルトイだというのが驚きだ
バンダイベンダー事業部の誉田恒之氏

カプセルトイとしての斬新さと、かつてない大きさでの表現

 まず聞いてみたのは「マジンガーZ」にした理由だ。誉田氏は「カプセルトイでマジンガーZは長い期間商品化していなかった」という。マジンガーZはメインユーザーの対象年齢が比較すると高めで、作り込んだのを出さないと手に取ってもらえない。そこで「ザクヘッド」の次なる展開として、マジンガーZのカプセルヘッドの企画を考えたという。

 「ザクヘッドは頭だけのモデルでしたが、マジンガーZの場合、頭だけだとしっくりこない。ちょっともの足りないんですね。胸のブレストファイヤーまで再現したいと思うようになったんです。しかしそうなると、カプセルに入らないんですよ(笑)」と誉田氏は語った。それなら3つのカプセルにわければ良いじゃないか、その代わりとんでもなく大きなものにしよう、というのが、「インテグレートモデル マジンガーZ」のスタートとのこと。

 3つのカプセルを揃えるのが前提の「インテグレートモデル マジンガーZ」だが、1つ1つのカプセルは単体でも遊べるようになっている。1つのカプセルはマジンガーZの外部装甲でモデルとしての見栄えもきちんとしている。1つはマジンガーZの内部メカのモデル。そして3つ目がコクピットとなるVTOL(垂直離着陸機)のホバーパイルダーと基地風のディスプレイであり、1つ1つがきちんとしたモデルだ。

【3つそれぞれも魅力的】
外装パーツ
インナーフレーム
ホバーパイルダー。3つのカプセルはそれぞれ独立した商品として飾ることも可能

 3つ揃えることで、メカ内部がきちんと再現された、凄まじいディテール表現が行なわれたマジンガーZの胸像が完成する。1982年のTVアニメ「マジンガーZ」でのマジンガーは現代の我々から見るとシンプルな姿だが、メカデザイナーの柳瀬敬之氏がアレンジした「劇場版 マジンガーZ / INFINITY」版のマジンガーは装甲が分割され、身体が動くと装甲も動くという機構も考えられている(商品は無可動)。

 背中には背骨風のデザインもあり、胸像として360度どこから見ても見応えのあるモデルとなっている。3つ揃えた場合は、半身の装甲を取り除くことで、TVアニメ版で印象深かった、「内部透視図」風のレイアウトにもできる。この内部メカのデザインは「インテグレートモデル マジンガーZ」のために新たに設定したもの。この大きさのマジンガーZのモデルはほとんどないため、独自の魅力を発揮する商品になったと誉田氏は語った。

 改めて商品を見てみるとその豪華さには惚れ惚れとさせられる。外装パーツはふんだんにクリアパーツが使われ、装甲部分とのコントラストを成している。強い印象を残すブレストファイヤーだけでなく、目や耳部分もクリアパーツだ。これらは組み合わせたとき内部の機構が透けて見えるのだ。

【内部メカを見れる!】
半分だけ装甲を外したカットモデルにもできる

 内部パーツは胸のブレストファイヤーがキラキラと反射して目が引きつけられる。他にも金色の内部機構は豪華なイメージだ。ホバーパイルダーはちゃんとファンの部分まで可動。コクピットのキャノピーも開き、コクピットには兜甲児が座る。これらは部品状態で塗装も施されており、ユーザーは組み立てるだけでこのクオリティを手にできる。シールなどはない。特にブレストファイヤーの内部機構のキラキラとした輝きは必見である。これはホットスタンプといわれる箔の転写にて行なわれている。

 そしてカプセルの状態も驚異的だ。とても完成図が想像できない。カプセルのサイズは直径約7.6cm。ガシャポンマシンで搬出できる最大のサイズではあるが、ここから出てきた部品を組み立てるとビックサイズの胸像になるのは信じられない。誉田氏は「カプセルとしてのカッコ良さにもこだわった」と語る。カプセルの表面から腕の付け根や胸の部分が見えるようになっており、球形のメカの部品のようにも見える。メカの部品としても重要な"コア(核)"と呼びたくなる雰囲気だ。

 「『これがどうしてマジンガーZになるんだろう?』そう思いながらカプセルを眺める。そういうお客さんの姿を想像してカプセルとなった形にもこだわりました」と誉田氏は語った。さらに「大きな部品もあるためカプセルに収めるには色々な工夫が必要です。まず大きな部品をカプセルの外側に配置することで、細かい部品を内側に入れ、何とかカプセル状にすることができたんです」とのこと。本当に色々なことを考えているのがわかる。

 そしてこのカプセルを分解して組み立てていく。カプセルの外側パーツの一部は台座となっており、他の部分も胸像の"芯"の役割となっている。この芯にパーツを貼り付けるように組み上げていくことで胸像モデルが完成するのである。3つ目のホバーパイルダーの台座となる基地部分は、3つのモデルを合体させたときの胸像の基部となるのも楽しい演出である。今回は手で触れることができなかったが、早く自分で組んでみたいと強く思った。

【このカプセルが胸像に】
このカプセルから胸像モデルが展開する

いかに丸くしていくかの苦闘、カプセル時のデザインにもこだわる

 「『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』のマジンガーZでいくこと」、「3つのガシャポン商品を合体させると胸像になること」、「高さ20cmの大きな胸像であること」この3つのコンセプトは比較的早くに決まり、胸像の試作品も完成し、完成型のデザインはほぼほぼ決定した。しかしこれを「カプセル状に丸くする」というのが大きな課題となった。誉田氏はここに大苦戦することとなる。

 誉田氏が開発に苦労した「だんごむし」は2年というカプセルトイでも長い開発期間だが、「インテグレートモデル マジンガーZ」はそれを上回る3年という開発期間がかかっている。「何度も何度も検討しました。分解して貼り付けてどう球状にしていけばいいか、ここが一番苦労しました」と誉田氏は語る。

 とにかく球体にならなかった。どうにか丸い形にしても、1パーツか2パーツ余ってしまう。本当にギリギリまで仕様を詰め、設計を検討してそうなっているので、再検討してもどうしてもパーツが余る。設計上はできたと思っても、実際に試作品を打ちだし、誉田氏自身の手で丸く組んでも入らないパーツが出てくる。

【カプセルデザインのこだわり】
カプセル状態のデザインもこだわりがある

 しかもそれを3つのカプセルにしなくてはならないのだ。外装はできても、内部メカニックが丸くならない、といった形で本当にこの設計は苦労したとのこと。想定より遙かに時間がかかり、開発は遅れに遅れることになった。「最後にようやく丸くできたときはうれしいと言うよりも、これでようやく商品にできると安心しましたね」と誉田氏は語った。

 「ザクヘッド」の時はカプセル用の補助パーツがあった。「インテグレートモデル マジンガーZ」はそこから一歩進み、カプセルの外郭を成しているものが胸の部分の中心であり、台座であり、内部フレームとなる。ここに様々なパーツを貼り付ける様に組み立てていくことでマジンガーZが完成するのである。

 今回の設計は大きな発想の転換を促した。そして今後の発展の余地がある。「ザクヘッド」はザクのバリエーションから、ガンダム、ドムなどに発展しているが、「インテグレートモデル マジンガーZ」も同様に発展していく可能性はある。しかし誉田氏は「ザクヘッド」以降はシリーズを他の開発者に任せ、自身は「だんごむし」、「インテグレートモデル マジンガーZ」と革新的な商品に挑戦し続けている。"新しい世界を切り開く"という方向性を好む企画者なのだ。

 「基本的にこう言う商品がある程度軌道に乗ったらそれ以降はそのシリーズを他の人に任せて、自分はどんどん新しいことをしています」と誉田氏は語った。新しいものを作るのは方法論が全くなく、時間がかかる。しかしそれが楽しいという。

 組み上がった状態での誉田氏のお気に入りは「遊びごたえ」。特にホバーパイルダーはファンが回り、コクピットハッチが開き、兜甲児が中に座っている。これだけの大きさのモデルを組み立てる機会はあまりない。大きいモデルは部品も大きいためギミックも多く仕込める。内部パーツ、外部パーツの細かい表現など、全高約20cmの胸像ならではの表現を多く詰め込んでいるところを見て欲しいと誉田氏は語った。

 前述したようにマジンガーZは、人気のあるキャラクターではあるが、ファンの年齢層は高く、作りこんだ商品でないと簡単に手に取ってはくれない。彼らの興味を惹くようにするにははっきりと強い印象を与える必要がある。そしてそういうものならば価格帯が多少高くても満足してもらえる。

 「インテグレートモデル マジンガーZ」は全高約20cmというサイズ、3つのガシャポンにに分けたからこそできる圧倒的なディテールの密度、クリアパーツなどの素材感と、非常にリッチな胸像であり、これが3つのガシャポンカプセルから形成されるという大きな驚きがある。これならばマジンガーZを好きな年輩のユーザーに加え、若い世代にもこの仕様と迫力で興味を持ってもらえるだろうと誉田氏は考えている。

【巨大サイズだからできる表現】
このサイズだからこそできる表現、マジンガーZのファンにとって、要チェックのアイテムだ

 本商品の情報そのものはすでに発表されているが、誉田氏を驚かせたのは国内以上に海外の反響が大きかったこと。特にアジアの反応が大きかったという。問い合わせもかなりあったという。今年の東京おもちゃショーが中止になったため、出展して目の前で反応を見れないのは残念だが、購入したユーザーのSNSの広がりは期待しているとのこと。「ザクヘッド」もユーザーが様々に手を加えたが、「インテグレートモデル マジンガーZ」もユーザーが改造したり自分なりの楽しさを追求して欲しいと思っているという。

 「やはりこの商品の最大のウリは"サイズ感"だとおもいます。直径約7.6cmのカプセルから、全高約20cmの胸像ができあがるその衝撃を味わって欲しいです。ここで切り開いたフォーマットが今後どのようなキャラクターに発展していくかも楽しんで欲しいと思います。そのスタートがきちんとできた商品になりました」と誉田氏は語った。

 「ザクヘッド」や「だんごむし」はその人気にユーザーが殺到し、発売後しばらくは入手できなくなってしまった。「インテグレートモデル マジンガーZ」もその可能性はあるが、「ザクヘッド」や「だんごむし」でその経験は積んでおり、積極的な再生産の態勢は用意していくとのことで、最初に手に入れられなかった人も待ってもらえれば購入できるようにしていきたいとのことだ。

誉田氏最新作は「すずめばち」! ガシャポンマシン新規格で可能性は広がる

 その誉田氏の開発商品で6月に発売を予定しているのが「すずめばち」である。「だんごむし」、「かめ」、「カニ」と筐体の中から丸いまま出てきて展開するとリアルな生き物の姿になるヒットシリーズは、誉田氏の手がける商品として代表的なものだ。

 「元々は虫が大嫌いだったが、だんごむしを商品化するために調べていって専門的な知識を得た」という誉田氏。今では様々な生物に興味を持ち、文献を調べ標本を集め、その標本を置くスペースに家族からクレームが来るほど生き物の生態を調べ、その商品化のためのアイディアを練っている誉田氏の新作が「すずめばち」なのだ。

 これまで丸のままカプセルから出てきて展開すると生き物の姿になるという「生き物」シリーズだったが、「すずめばち」は組み立てることで20cm近くの大きなハチのフィギュアになるという展開方式だ。誉田氏はその後もこの方式でリアルな生き物フィギュアを展開していく予定だという。

 「すずめばち」の試作品も見ることができた。こちらも非常に大きく、大迫力だ。「オオスズメバチ」、「キイロスズメバチ」、「クロスズメバチ」の3種が発売される。オオすずめばちは20cm近い大迫力で、他のフィギュアも15cmを越える大型サイズだ。こちらもやはりカプセルに収まるとはとても思えない。

【誉田氏の新作「すずめばち」】
手に持つとその大きさ、ディテールの細かさがわかる。これが500円のカプセルトイフィギュアというのが驚きだ
初期ラインナップは3種類。「オオスズメバチ」、「クロスズメバチ」、「キイロスズメバチ」

 これらもものすごくリッチなフィギュアだ。羽や複眼はクリアパーツ、足はもちろんお腹の部分は実際の虫同様複数のパーツを重ねて本物同様に可動する。スズメバチの恐ろしさを象徴する針もお尻の先端から出てくる。日本に住んでいるオオスズメバチは世界的にも最も大きく、凶暴さでも恐れられているのだ。フィギュアにするとその恐ろしさが実感できる。大顎の内部の舌もきちんと造形され、カプセルフィギュアの常識を塗り替えるクオリティを実現できたと誉田氏はいう。クリアパーツでできた羽は翅脈(しみゃく)まで本物と同様のディテールを再現している。

 「すずめばち」は去年試作品を展示し、大きな反響があったという。「怖さ」と「カッコ良さ」を持つモチーフとして、期待されている実感を持った。「これを開発するため、私は1年間スズメバチの勉強をしました。色々勉強しているとすごく面白いんですよ」と誉田氏は語った。日本には17種類ものスズメバチがいるとのこと。これらもドンドン商品化したいと強い意欲も見せた。聞いていて楽しくなるのめり込みぶりである。

 「すずめばち」は、「だんごむし」、「かめ」の様には丸くならない。その代わり半球型の「スタンド」と「支柱」が付属しており、これを使うことで空中で飛行しているすずめばちを再現した。このスタンドはカプセルの外側となり、内部に組み立て式のパーツを入れることができる。ガシャポンはカプセル部分が商品と関係ないコストとなる。その余計なコストをなくしたいという思想は「すずめばち」でも貫かれている。

 今後の展開として誉田氏が大きく期待しているのは「ガシャポンマシンの発展」である。これまで直径7.6cmがカプセルの限界サイズだったが、新しいマシンでは8.1cmまでのサイズにできるという。設定料金も今までの500円(税込)を超えられるということで、企画の幅が大きく広がることとなる。

 また、これまでを考えると、「とにかく丸くするというのにこだわりすぎて、結果として時間がかかりすぎ、手がける商品が少なくなってしまっている。これからはもう少し違ったアプローチも考えたいです」と誉田氏は語った。ベンダー事業部としての戦略も注目して欲しいとのことだ。

 ユーザーへのメッセージとして誉田氏は「『インテグレートモデル マジンガーZ』はとにかく今までにないサイズ感を是非手に取って確かめてください。カプセルトイ/カプセルレス技術の最先端を見て欲しいと思っています。マジンガーZのファンでない人にも興味深い商品となったと思います」と語りかけた。

カプセルトイ業界の最先端を提示し続ける誉田氏。今後の商品も注目したい

 本当に誉田氏のインタビューはいつもワクワクさせてくれる。実は誉田氏は開発者としても波瀾万丈で、様々な部門で才能を発揮しながら「それでも開発者でいたい」と実力で開発の最先端に居続ける人物なのだ。彼が手がける商品と共に、誉田氏の開発者としての歩みも機会があれば取り上げたいと思う。改めて世間を驚かせる人物のエネルギーに圧倒されたインタビューだった。