インタビュー
ヒーローはいかにして生まれるか?「Vainglory」アートディレクターCarlo Arellano氏インタビュー
2018年2月7日 12:00
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Super Evil Megacorp(SEM)は2017年12月、シンガポールのカランシアターにて世界大会を開催した。世界大会ではNAよりワイルドカード枠で世界大会に出場したチーム「Tribe」が優勝をさらうなど白熱の試合が繰り広げられたが、その裏では会場を訪れたSuper Evil Megacorpのスタッフに話を聞く機内にも恵まれた。
そこでは「Vainglory」のアートやデザインといったゲームの"見た目"を預かるアートディレクターのCarlo Arellano氏にインタビューをすることもできたので、今回はその模様をお伝えしたい。
"イラスト"と"メカニクス"が相互に影響し合ってヒーローが生まれる!
――はじめに、自己紹介をお願いします。
Carlo氏:Super Evil Megacorpのアートディレクターをしています。「Vainglory」の"見た目"をディレクションしていて、それが高品質であることを保証するのが私の仕事です。実際にキャラクターの絵を描いたりもしています。
――どのような経歴でSEMに?
Carlo氏:もともとテーマパークなどエンターテイメント系のデザインや映画の衣装のデザインをしていまして、映画業界をやめてからゲーム業界に入り、BlizzardやInsomniac Gamesで「ゴッド・オブ・ウォー」、「ラチェット&クランク」、「レジスタンス」などのゲームに携わりました。
「Vainglory」に携わるようになったのは、SEMの共同出資者の1人が私の作品を見てくれて、私のスタイルが面白くて、さらに、世界中で楽しまれるようなゲームのデザインをもたらしてくれると思ってくれたからです。
――「Vainglory」の世界観を作る上で大事にしていることはなんですか?
Carlo氏:大事にしているのは東洋と西洋の組み合わせです。私自身も人生においていずれの影響も受けてきました。例えば「スター・ウォーズ」も好きですし、河森正治氏(編注:「マクロス」や「アクエリオン」シリーズを担当するクリエイター)のデザインも大好きです。
「Vainglory」をご覧いただくとわかるかと思うのですが、ボードゲームのような作りをしていて、キャラクターはMarvelと日本の格闘ゲームを合わせたようなキャラクターです。また、私は元カプコンの西村キヌさん、あきまんさんやBENGUSさんを尊敬しています
――日本のクリエイターの影響もあるのですね。
そうですね。大学時代には「ストリートファイターII」をよくプレイしてましたし(笑)。
――新しいヒーローを作る時はデザインかスキルなどのメカニクス、どちらが先に決まるのでしょうか?
Carlo氏:キャラクターのデザインは自然に生まれてくるので、先にキャラクターのメカニクスがあって、それに私がインスピレーションを受けてデザインすることもありますし、私が絵を描いてからゲームデザイナーがそのメカニクスを考えてくれることもあります。
私は「リンゴ」というヒーローが好きなのですが、「リンゴ」はまずスキルのキットがありました。はじめは西洋的な、サーカスのナイフを投げるキャラクターだったのですが、私はそれを見て、「三船敏郎が銃を持っている」というインスピレーションを受けたんですね。そして「リンゴ(Ringo)」は英語の名前ですが、「Vainglory」は最初iOSでリリースされましたので、日本のユーザーに面白がってもらえればという思いもこめて、"Apple"と日本語の"リンゴ"をかけて「リンゴ」にしました。
――他に印象的なヒーローはいますか?
Carlo氏:あとは「グレイヴ」ですね。もともとはバーバリアンが大きな斧を持っているようなキャラクターだったのですが、それだとありきたりだなと思ったんです。
若い時に見た「片腕カンフー対空とぶギロチン」というカンフー映画の登場人物に、ギロチンを持っている目が見えないお坊さんがいました。それにインスピレーションを受けて、「グレイヴ」の目が見えないユキヒョウのキャラクターと、さらにエンジンがついた斧というデザインを思いつきました。そしてそのデザインがゲームプレイデザイナーを逆にインスパイアして、Aスキル「アフターバーン」が敵を吹き飛ばすというものになりました。
――「グレイヴ」といえば、「ロナ」も同じ斧を使うヒーローですが、コンセプトを決める時に悩んだりしたことは?
Carlo氏:「グレイヴ」はとても戦略的なんですよね。1人の相手を狙ったり、ちゃんとしたタイミングも見計らって攻撃するキャラクターなんですが、「ロナ」は竜巻のようなバーサーカーで、とにかく範囲内にいる相手を全て攻撃するというコンセプトです。全く違ったパーソナリティを持っているので、武器は同じでもキャラクターを作り分けるのは難しくはありませんでした。
――では最新のヒーロー「ヴァーリア」はいかがでしょうか。
Carlo氏:「ヴァーリア」はまずメカニクスから始まりました。雷を操るヒーローをもう何年も作りたいなと思っていまして、女神のような存在にしたいと思っていましたし、ヴァルキリーからもインスピレーションを受けています。
社内ではステッキだったり、武器を持ってほしいという要望もあったのですが、人間を超越したような存在にしたかったので雷を直接持つようなキャラクターにしようと思いました。
――スプラッシュアートはヒーローのイメージを最もよく表すイラストになると思いますが、制作の際はどんなことを意識していますか?
Carlo氏:1番大事なのはキャラクターの理想を語ることですね。このキャラクターのどこが強くてどのようなプレイスタイルなのか、そしてどういう風に面白いのか伝わるようにしています。
――「ヒーロースキン」はどのようなプロセスで作られるのですか?
Carlo氏:スキンに関しては私が考えることもありますし、社内の誰かが提案することもあります。いいアイデアだったら社内でも複数の人が賛同してくれますし、皆で決めています。
例えば「スカイ」は絶対に変身するスキンを作りたいと思っていました。若い時はよくアニメ「バブルガムクライシス」を見ていて、「エキゾスーツ」がバイクに変身したらすごくカッコいいだろうなと思ったんです。それが「走り屋スカイ」のスキンですね。大事なのはスキンを使って楽しいかということと、ゲーマーの夢をかなえてあげられるようなスキンかどうかということです。
――スキンで言うと、日本ではハイスクールシリーズや「サマービーチ・ケストレル」の人気が高いように感じます。
Carlo氏:ハイスクールのスキンは世界的にも人気のスキンのひとつです。特に私は「コシュカ」が気に入っていて、「コシュカ」というヒーロー自体、デザインがメカニクスに影響を及ぼしたヒーローでもあります。「コシュカ」というヒーローはもともと相手に突っ込んでいく"カンフーガール"だったんですけど、私はやっぱり"ネコミミ"のキャラクターが頭から離れなくて、猫のモチーフにしたところ相手に飛びついてクルクルと回って、またどこかに飛んでいくというスタイルになりました。
――「ヴァーリア」が登場したばかりではありますが、次はどんなヒーローが登場しますか?
Carlo氏:今何を開発しているかはお話しできませんが、伝説からインスピレーションを受けつつ、少し変わったことをやりたいなと思っています。例えば居合を使うヒーローだったり、炎を操るけれども「レザ」とは違う「魔術師」だったり、ミノタウロスのようなキャラクターだったり、やりたいことは沢山あるのですが、どれをやるとはお約束できません(笑)。
――これまでアイデアをなんらかの問題で実現できなかったことはありますか?
Carlo氏:実はあまり思いつかないです。何故かというと社内で「これは絶対にできない」とは言わないんです。例えそれが難しくても他にできることがあったり、常になにかしらの方法があるんですよね。
例えば「リンゴ」ですと、最初はナイフを投げるようなキャラクターだったのですが、その実現のためには3Dのナイフのレンダリングの技術が必要でした。当時はそれができなかったのですが、代わりに酔っぱらった浪人で、瓢箪からお酒を飲んで火を噴くようなキャラクターにして、結果としてその方が面白いコンセプトになりました。ちなみに、後にナイフのレンダリングの件も解決されて、それが「クラル」になりました。
――日本のファンコミュニティではイラストを描いたりといった活動が盛んです。ご覧になったことはありますか?
Carlo氏:ファンアートを見るのはすごく楽しいです。ファンアートを見ると、我々はコミュニティにいい影響を与えているんだなと感じられます。「Vainglory」は日本で話題になった初めてのMOBAだと聞きましたし、「キャサリン」のことを「キャサリン先輩」と呼んでいるユーザーがいたりと、日本のコミュニティの心を動かせたことはすごく嬉しいです。
――では最後に、日本のファンに向けてコメントをお願いします。
Carlo氏:5V5を是非楽しみにしていただきたいです。日本のプレーヤーの皆さんも5人チームになることでよりチームワークが磨かれると思いますし、戦術も広がってプレイもよりエキサイティングなものになると思います。
――本日はありがとうございました。
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