インタビュー

「『Vainglory』はこだわりこそが全て。」SEMグローバル・パブリッシングジェネラルマネージャーTaewon Yun氏インタビュー

【「5V5モード」アーリーアクセス】

1月30日~ 実施中

 Super Evil Megacorpは、Android/iOS用MOBA「Vainglory」において、新モードとして「5V5モード」を実装する。

 これまで3V3ルールのモバイル向けMOBAとして展開してきた「Vainglory」だが、新モードではゲームの参加人数の変更に伴ってマップも変更されるほか、ゲームシステムも根本から大きく変更されることになり、現在は「ゴールデンチケット」を所持するプレーヤーに対してアーリーアクセスを行なっている段階だ。

 時期は前後するが先に行なわれたメディア向けの事前発表の際、弊誌ではSuper Evil MegacorpグローバルパブリッシングジェネラルマネージャーのTaewon Yun氏にインタビューをする機会に恵まれた。本稿ではこの模様をお伝えしたい。

「モバイルでコアゲーム」を実現するべく開発された「Vaignlory」

Super Evil Megacorpグローバル・パブリッシングジェネラルマネージャーのTaewon Yun氏

――はじめに、自己紹介をお願いします。

Taewon氏:グローバルパブリッシングのジェネラルマネージャーをしています。「Vainglry」のプロモーションやe-Sports分野の展開など、ゲームの開発以外の側面を担当しています。

――そもそも「Vainglory」はどのようにして生まれたタイトルなのでしょうか?

Taewon氏:私たちはモバイルのコアゲームを作りたかったんです。PCやコンソールを超えるクオリティのゲームを作りたいと思って「Vainglory」を開発しました。ゲームに採用されている「Evil Engine」も自社で開発していまして、私たちは自分たちのことをテクノロジーの会社だと考えています。私自身もBlizzardやWargamingに在籍していた経験がありますし、会社の中心メンバーはPCゲーム業界の出身者が多いです。

 また、私たちは今後モバイル、スマートフォンやタブレットこそがメインのゲーム機になっていくと思っています。「Vainglory」ではMOBAを作ろうと思ったわけではなく、コアなゲームを探求したらMOBAになったという感じですね。

――日本ではMOBAジャンルはまだまだ主流のゲームジャンルとは言えない状況にあります。「Vainglory」はローンチのかなり早い段階から日本で「Vainglory」を展開していましたが、それは何故ですか?

Taewon氏:日本にはローンチ前から数は少ないながらも熱心なファンがいることを発見したので、そういったコミュニティが既に存在するのであればちゃんと日本でリリースしたいなと思いました。その後に日本で「Vainglory」がこんなに成長するとは思わなかったですし、今は世界的に見ても日本は大事なコミュニティになっています。ちなみに「Vainglory」をローンチした当初、そもそもMOBA自体が主流ではありませんでした。その主流ではないものを作るということに私たちは慣れています(笑)。

 e-Sportsでも同じことが言えます。「Vainglory」のe-Sportsが始まったときも、「モバイルでe-Sportsなんてできるわけないじゃないか」と笑われたこともありました。しかし、モバイルがコアゲームにとって自然なプラットフォームであるように、e-Sportsにとっても自然なプラットフォームがモバイルだと思っています。

――モバイルのプラットフォームにこだわる理由はどのようなところに?

Taewon氏:モバイル端末を持っている人の数はコンソールやPCなど、他のプラットフォームの合計台数よりも遥かに多いので、可能性は無限大だと思っています。また、新しいゲームプラットフォームが登場すると初めはカジュアルなゲームが出てきて、徐々にコアなゲームが出てくるという流れが昔から繰り返されていますので、私たちはモバイルでコアゲームを作っていきたいと思います。

――日本におけるe-Sportsについてはどう捉えていますか?

Taewon氏:よく日本のe-Sportsは遅れていて、韓国をやアメリカなど他国のほうが進んでいると言われていますが、決してそうではないと思います。e-Sportsの持続的なエコシステム(編注:原義の「生態系」になぞらえた産業構造を指す)が成り立っているところはまだありません。だからどの国もまだスタート地点にいると思います。

 日本が有利なのは韓国やアメリカのように様々な間違いを重ねてこなかった分、これから良い環境にしていけると思っています。

――間違いと言いますと?

Taewon氏:例えばe-Sportsの歴史が長い韓国でいうと、イベントは催しごととして"キラキラしたもの"を作って、それが成功したら終わりだと思っていた側面がありました。今後その流れが続いていくにはどうしたらいいかということを誰も考えなかったのです。今も韓国ではとても華やかなe-Sportsのイベントには特化していて、そういった意味では進んでいると言えるのですが、これからどうしていくかというビジョンをきちんと考えている人はあまりいません。まだエコシステムにはなりきっていないなと思っています。

――「Vainglory」プレーヤーの年齢層はどのような分布になっているのでしょうか。

Taewon氏:国によって若干違いますが、比較的若いプレーヤーが多いというのはどこでも大体同じですね。若い世代はモバイルのゲームに小さいころから慣れ親しんできているので、モバイルでコアゲームというのもすんなり受け入れてくれたのではないかと思います。

 逆にもう少し上の世代、PCだったりコンソールに親しんだゲーマーはやはりモバイルのゲームに少し抵抗があるようです。「モバイルはゲームじゃないよね」なんて言われたこともありますし(笑)。今度の「5V5モード」はそういった人たちに向けたメッセージでもあります。

――以前発表されたSamsung DeXへの対応はPC展開の布石なのでしょうか?

Taewon氏:私たちは先ほど申し上げたように、モバイルは最大のプラットフォームになるだろうと信じているので、今はモバイルにフォーカスしています。ですので、特にPCで展開する予定はないです。Samsung DeXとの協業については、製品を実際に見たときに、Samsung DeXの商品としてのビジョン、ただの"PCのようなモノ"ではなく、モバイルがPCに変わるものになるだろうというビジョンのもとに作られているものだと感じたので、そこに共感して「Vainglory」を対応させました。

 日本ではあまり知られていないんですが、実はGoogleのChromebookにも対応していまして、Chromebookでは「Vainglory」をキーボード操作でも、タッチ操作でもプレイできます。GoogleもSamsungもモバイルが世界の主流になるだろうというビジョンを持っているので、それに共感してお手伝いしたという形です。

技術がやりたいことに追いついた!こだわりが盛り込まれた「5V5モード」

――5V5モードの発表後、ユーザーの反応はいかがですか?

Taewon氏:「なんでもっと早くやってくれなかったんだ!」という感じで、今すぐ実装して欲しいという反応が多くありました(笑)。今はこうしてメディアさんや一部の方にお見せしているのですが、その反応もとてもポジティブです。

――5V5モードは「Vainglory」の立ち上げ段階から構想していたものですか?

Taewon氏:はじめから計画に入っていたわけではないのですが、いつか作る日がくるだろうとは思っていました。ゲーム開発では昨日まで不可能だと思っていたことが今日から可能になるということもありまして、今がまさにその時ですね。

 ユーザーさんからは今のマップをそのまま発展させてリファインすればいいんじゃないかという意見もありましたが、それだと私たちが実現したい、PCに劣らないような5V5のゲームにはならなかったので、テクノロジーが追い付くまでは開発を開始しなかったんです。フリーカメラもそうですし、特に「戦場の霧」は処理が追い付かないということでPCでも実装していないゲームが多いのですが、私たちはそれを可能にできたことが嬉しいですね。

キャラクターの視野を制限する「戦場の霧」。"キャラクターの周囲だけ見える"という処理が重く、技術的に実現が難しい部分

――技術的にはかなりリッチなものになっているということですね。逆にそうなってくると遊べる端末が限定されてしまう恐れもあるのでは?

Taewon氏:仰る通り、それもあって「5V5モード」の開発を待つ必要がありました。今はゲームデザインやグラフィックス周りの制作ももうすぐ完了するという段階なのですが、デバイスへの最適化をリリースまでに進めていかないといけません。正直、今「3V3モード」がギリギリ遊べているという端末だと5V5モードのプレイは難しいかもしれないです。ただ、もちろんできるだけ多くの方にプレイしていただきたいので、「沢山のスマートフォンで遊べるようにしてください」とテクニカルのチームと日々交渉していています。

 1つ面白いのが、ゲームエンジンを「5V5モード」に向けて効率化を図ったところ、副次効果で3V3モードの動作もかなり軽くなったんです。なので、3V3はより多くの端末でプレイできるようになりました(笑)。

――5人対5人のルールというと、MOBAの同一ジャンルとして「Dota 2」や「League of Legends」があります。これらのタイトルとの差別化はどう図っていきますか?

Taewon氏:例えばひとくちにRPGといっても様々なタイトルがあるように、MOBAでも3つのレーンがあるから同じゲームとは言えないと思います。「Vainglory」に関してはこだわりこそが全てだと思っていて、例えばオブジェクティブ、ドラゴンなどの様々な目標物があったり、中立のモンスターがバフを与えてくれるといった要素もありますし、「ボスミニオン」という周りのミニオンを強化するミニオンなどもいます。あとはマップの中央にある川の流れに沿って歩くと早く移動することができたりと様々な要素を盛り込んでいますし、どの目標物を獲得するかという色々な戦術を取れるので、ある意味ではPCのMOBAよりも奥深いゲームになっているのではないかと思います。

 また、「5V5モード」ではドラゴンが味方になってレーンをプッシュしてくれるという要素もありまして、それによって5人対5人のルールでありながら、他のタイトルより短い20分程度の試合時間を実現しました。ただし、試合が他のMOBAタイトルに比べて短いからといってMOBAの主要な機能は失っていないと考えています。

 あとは大きなところでいうと視界の仕組みですね。ゲームにおいて視界は大事なポイントで、「3V3モード」では「スカウトトラップ」という地雷のような、踏んだら爆発する視界のシステムがあるのですが、それが「5V5モード」ではなくなって、新たに「スカウトカメラ」という監視カメラのような形をした視界アイテムが導入されます。「スカウトカメラ」は他の「スカウトカメラ」にしか見えないので、相手がどこにスカウトカメラを置いたのか、逆に自分はどこに隠すべきなのかというのを考えることも重要になってきます。

川では上り、下りで移動速度が変化する
新たな視界アイテム「スカウトカメラ」

――最後に、日本のユーザーにメッセージをお願いします。

Taewon氏:今「Vainglory」をプレイして、活発に活動してくださっている日本のコミュニティは世界でも本当に特別なコミュニティです。そうした人たちにそれこそ一生プレイし続けてもらえるようなゲームを作っていきたいと思っています。

 私たちは一生懸命5V5モードを開発してきて、私たち自身がプレイしたくなるようなゲームを作ってきました。もし「Vainglory」をプレイしたことがなかったり、モバイルのゲームを敬遠している人たちには、あえて「Vainglory」をプレイしていただきたいと思っています。本当にそういう人たちのために「Vainglory」の5V5モードを作りました。

――本日はありがとうございました。