インタビュー

「ハースストーン」リードデザイナー ベン・ブロード氏インタビュー

45枚の新カードがもたらすゲームバランスの変化について聞いた

7月28日~7月31日開催



会場:Shanghai New International Expo Center

 米Blizzard Entertainmentは既報の通り、中国上海で「ハースストーン」の新しいアドベンチャー「ワン・ナイト・イン・カラザン」を発表した。発表会場には「ハースストーン」のコアメンバーの1人でリードデザイナーを務めるベン・ブロード氏が登場し、新しいアドベンチャーの魅力について紹介すると共に、中国の「ハースストーン」コミュニティの質問にも応じていた。

 発表会はChinaJoy会場にもライブ中継されたほか、中国語と英語での中継も行なわれるなど、モバイル向けのカードゲームの新規コンテンツ発表会としては並外れた規模感で実施され、「ハースストーン」のグローバルでの盛り上がりぶりを実感することができた。本稿では、発表会後に実施された「ハースストーン」メディアインタビューの模様をお届けしたい。

【「ワン・ナイト・イン・カラザン」 シネマティック・トレーラー】

「Warcraft」に深く絡む“カラザン”をモチーフにした新アドベンチャー

「ハースストーン」リードデザイナーのベン・ブロード氏
「ワン・ナイト・イン・カラザン」
盛大に開催された発表会
発表会には「ハースストーン」の熱心なファンも招かれていた

――ベン・ブロードさんのこれまでのキャリアを教えてください。

ブロード氏:「ハースストーン」のリードデザイナーを担当していて、すべてのデザインの責任者です。「ハースストーン」のチームに加入したのは8年前で、オリジナルのデザイナーの2人のうちの1人です。それ以前は「Warcraft III」と「World of Warcraft」のQAを行なっていた。

――2015年の11月以来、8カ月ぶりの新しいアドベンチャーになりますが、抱負を教えて下さい。

ブロード氏:前回のアドベンチャーはそこまで「Warcraft」に縛られたアドベンチャーではなかったが、「カラザン」は「WoW」でもっともアイコニックなシグネチャとなるような要素で、それをモチーフにしています。「ハースストーン」のカラザンは、オリジナルとはとは少し違ったトーンで開発していて、「ハースストーン」にフィットし、より馴染ませた形で実装しています。

――前回のアドベンチャーから8カ月空いた理由は?

ブロード氏:前回のアドベンチャーを開発したチームは、リリース後にエキスパンションを担当していたためです。

――今回、中国で発表した理由は?

ブロード氏:ひとつの理由は常に新しいことにチャレンジしていきたいということ。そして8月11日のリリースを踏まえて、その近くで大きなイベントを探したときにChinaJoyが大きなイベントだったので、ChinaJoyに合わせて発表するのは影響力があると思いました。

――今回のモチーフであるカラザンについてもう少し詳しく教えて下さい。

ブロード氏:「Warcraft Movie」はもう見てくれたましたか? あの映画に登場する魔法使いのメディヴが住んでいる石の塔がカラザンです。メディヴはこの世界でもっとも強力な魔法使いで塔はマジックパワーに包まれています。「Warcraft」のメディヴは塔に引きこもってしまっていますが、「ハースストーン」のカラザンは、その前の時代設定ですので、メディヴがカラザンでパーティーを開いていた頃の様子を「ハースストーン」の世界観にフィットする形で描いています。

――「Warcraft」のカラザンとはトーンを変えたということですが、そのように変えたのかと、その理由は?

ブロード氏:「WoW」や「Warcraft Movie」のカラザンは、ゴーストが住んでいて暗くて気持ち悪いイメージですが、「ハースストーン」 では過去に遡って、楽しい空間だった頃の雰囲気を再現しています。

――そのカラザンに潜むボスとはどういう存在ですか?

ブロード氏:最初のレベルのボスは、魔法の力を持ったもので、銀の食器やマジックミラーとかで、メディヴがいなくなってクレイジーになってしまうという設定です。2つ目のレベルはオペラハウスです。「カラザン」の中でももっともシグネチャなステージで、オペラのオーナーは厳しい人で、3つのアクトに全員を参加させるというストーリーです。3つ目のレベルは、野獣や動物をテーマしたフロアで、キュレーターが野獣を管理するはずが反対に逃がしてしまって大暴れするというストーリーです。4つ目は塔のてっぺんにあるメディヴのプライベートエリアで、ネザースパイトという名のドラゴンやアーロンという名のゴーストなど大変強いボスが登場します。魔法の力でポータルを使って瞬間移動するギミックも用意しています。「Warcraft」でもダークポータルが重要なキーワードとして登場しますが、そこもモチーフのひとつになっています。

――今回の45枚の新カードのテーマ?

ブロード氏:カラザンのテーマを45枚の封じ込めています。たとえば、最初はチェスのナイト、オペラだとステージマネージャーのバーンズやグランドマザー、野獣のカード、塔に出現するモンスターなど、カラザンそのものがひとつの大きなテーマになっています。

――ブロードさんのオススメのカードは?

ブロード氏:オペラのステージにいるバーンズですね。彼の能力はデッキの中からランダムで1枚引っ張ってきて、攻撃とライフは1/1ですが、能力はそのまま活かせます。残り少なく強力なカードばかりのときにバーンズを使えば必ず1枚持ってこれるのでいいと思います。使い方に創造力を働かせられるカードで、新しい戦術のデッキの作りがいをもたらしてくれます。

――私はドロシーの仕組みが驚きました。攻撃とライフが0/10で、彼女が倒されると、ヒーローも100ダメージを食らって共倒れになっていましたよね。

ブロード氏:ドロシーが死ぬとヒーローも100ダメージを食らって死んでしまうので、それを防ぎながら戦っていくというものになっています。ドロシーはそれ以外にも固有の能力を持っていて、右側にミニオンを出すと挑発、左側に出すとチャージの能力が付与されます。その能力を活かしながらうまく相手のクローンを倒していく。このギミックは初めての試みです。

――これだけカードがあるとバランス調整が難しいと思いますが、どのようにバランスを取っているのですか?

ブロード氏:アドベンチャーによって新カードを投入する目的は、「ハースストーン」をどんどん新しくして、常にフレッシュな「ハースストーン」をユーザーに提供したいというのがあります。新カードの登場によって、様々な変化が起こると思いますが、うまく自分のデッキと組み合わせて楽しんでみて欲しいです。

――今回の45種類の新カードによって、ゲームバランスはどのように変化すると予測していますか?

ブロード氏:バランスの変化については色々考えているが、我々の予想が必ずしもあたるわけではないし、正直な所よくわかりません。デッキの良し悪しは一様には言えないし、相手のデッキによっても変わり、そのときの流行によっても変わっていくので予想するのは難しいです。

――バランスが変わることについて不満は出ないのか?

ブロード氏:確かに持っていた強いカードが弱くなってしまったという人もいるかもしれませんが、逆に持っていたそんなに強くないカードが強くなることもあるかも知れませんし、新しいカードを入れることでより楽しさが増えるのではないかと考えています。一時的に弱くなっても、また復活することもあります。

――アドベンチャーの全体の難易度は?

ブロード氏:みんなが楽しめるようなアドベンチャーなので、基本的には全員がクリアできるようにしていますが、ヒロイックモードはかなり難しいので、かなり強い人ではないとクリアできないと思います。

――アドベンチャーにおいて新カードの枚数が45枚なのは何故ですか?

ブロード氏:最初のアドベンチャーは30枚でした。内訳は9枚のクラスカードに、21枚のニュートラルカード、2つ目のアドベンチャーはバリエーションを出すために18枚のクラスカード、12枚のニュートラルカードにしたところ逆にバリエーションがでなかったので、3つ目のアドベンチャーでは、各クラス3枚ずつの27枚、18枚のニュートラルという45枚構成にしたところ上手く機能したので、今回も同じようにした。

――Blizzardがカードゲームに参入した理由とヒットした要因は?

ブロード氏:まず我々はカードゲームが好きで、とても楽しいものという想いはあったものの、たくさんのオーディエンスを惹き付けるものではないという判断もありました。というのは、カードゲームはルールが難しすぎて、多くの人が遊べなかったためで、我々は多くの人に愛されるカードゲームを作る自身があったので作りました。我々の哲学は「Easy to Learn、Hard to Master(簡単に遊べるが、マスターするのは難しい)」です。ユーザーはデッキを作って、決断をたくさんしなければならない難しいゲームになっていますが、ゲームそのものはチャーミングでわかりやすいところが受け入れられたのではないでしょうか。

――カラザンに登場するボスのヒーローパワーはどういったものを使いますか?

ブロード氏:それについてはまだアナウンスは出していません。先ほど紹介したクローンが100ダメージを与えるパワーを使うのと、シルバーウェアゴーレム、つまり、ナイフやフォークなど銀の食器たちがゴーレムになったボスですが、プレートを生み出せるパワーで、ミニオンに突撃とか色んな能力を付与します。

――ヒロイックモードではヒーローパワーはどうなりますか?

ブロード氏:それはまだアナウンスできません(笑)。プレーヤーは常にリリースしてからパズルを解くようにどうやって攻略するかを考えるのでその情報についてはリリースまで公開しない方針です。

――「カラザン」は、4つの区画を4週に分けて配信するのですか?

ブロード氏:一気に45枚出すよりは1週間ごとに出して、毎週新しさを感じて貰える方が楽しめると思ったからです。

――「ハースストーン」にはヒーローが9人しかいませんが、なぜ増やさないのですか?

ブロード氏:多ければいいというものでもないと思っています。10や11よりも9人がいいと思ったのは、ヒーローの強さやアイデンティティを示すのに丁度良いと思いました。たとえば、50人もヒーローがいたら、パックを引いても、自分のデッキに関係ないクラスカードがたくさん出て、それは嬉しくないと考えました。

――今後もヒーローは増やさない考えですか?

ブロード氏:その予定はありません。正確には新しいヒーローパワーを使うクラスは増えませんが、ヒーロースキンは増やしていますので見た目を変更することはできます。

――「カラザン」アドベンチャーの最大の魅力は?

ブロード氏:最大のポイントは45枚のカードによって、デッキやゲームバランスに変化を大きな与えるところです。

――日本市場の規模感や、プレーヤーの属性についてはどのような印象を持っているか?

ブロード氏:日本が世界で何番目の市場なのかは言えないが、「Starcraft 1」以来(編注、正確にはカプコンがリリースした「Warcraft III」以来だと思われる)の日本でBlizzardがリリースしたゲームで、そのことにとても興奮していますし、日本のゲームファンにも楽しんで貰える人だと思っています。

――「ハースストーン」の今後のアップデート計画を教えてください。

ブロード氏:我々は1年前などかなり前もって準備をはじめるので、同時に3つぐらい進行しています。デザインしたり、バランステストしたり、様々なプロセスがあるので同時に色々やっています。たとえば、イニシャルデザイン、ファイナルデザイン、最後の仕上げ、バランステスト、アニメ、エフェクトなどのビジュアルチーム、声優の声、音を担当するオーディオチームなどのチームがあり、イニシャルチームはかなり前もって動いています。

――「ハースストーン」のアドベンチャーというアップデートは、ビジネスモデルとして非常にユニークだと思いますが、ユーザーの利用率はどれぐらいですか?

ブロード氏:利用率のデータは持っていませんが、エキスパンションとアドベンチャーの両方をコンビネーションで楽しんでいる方が多いです。また、アドベンチャーは区画によって入手できるカードが変わるので、この区画だけ遊ぶという遊び方をする方もいます。

――日本のユーザーにメッセージをお願いします。

ブロード氏:「ハースストーン」をプレイしてくれてありがとう。日本でリリースしてとても協力的で積極的にプレイしてくれることを感謝しています。「カラザン」は「Warcraft Movie」などでももっともアイコニックな世界なので、ぜひ日本のユーザーさんにも楽しんでいただけることと思います。

――ありがとうございました。

【ベン・ブロード氏七変化】
写真撮影では1カット毎に、ディズニーキャラクターのようなポージングで撮影に応じてくれた