【特集】

7月18日から「蒼穹のファフナー」シリーズを毎日2話見よう!【夏休み特集】

「命の使い道」を考えさせられる、ロボット交わる人間ドラマ

【蒼穹のファフナー】

第1期:全26話

RIGHT OF LEFT:再生時間56分

HEAVEN AND EARTH:再生時間94分

EXODUS:全26話

THE BEYOND:全12話

BEHIND THE LINE:再生時間54分

 アニメシリーズ「蒼穹のファフナー」を見よう。7月18日から、できれば毎日2話。お盆が近づいているから。筆者にとって、「蒼穹のファフナー」はお盆に両親の実家やお墓を訪れ、自分の今の目標や故人との思い出を語らうような気分になるアニメだ。

 「蒼穹のファフナー」シリーズはdアニメストア、プライムビデオのアニメタイムズまたはdアニメストア for Prime Videoでは最終作「BEHIND THE LINE」以外を月額料金のみで見られ、バンダイチャンネルでは第1期と「THE BEYOND」が見放題、それ以外がレンタルとなっている。

 「蒼穹のファフナー」が初めて放送されたのは2004年のこと。監督は羽原信義氏、シリーズ構成は山野辺一記氏で、後半が冲方 丁氏だ。キャラクターデザインが平井久司氏という点は、同時期に「機動戦士ガンダムSEED」シリーズや「スクライド」が放送されていたり、「無限のリヴァイアス」、「鉄のラインバレル」などをご存じの方であればピンとくると思う。氏のデザインは現代的でありながら写実的な面も持ち合わせ、様々な人相の描き分けが美しい。

 シリーズは第1期、2005年放送「RIGHT OF LEFT」、2010年の劇場アニメ「HEAVEN AND EARTH」、2015年のTVアニメ「EXODUS」、2019~2021年公開のOVA「THE BEYOND」、そして2023年のOVA「BEHIND THE LINE」と、約20年にわたって根気強く復活し放送してきた作品群となる。筆者は2015年に「EXODUS」が放送されることを知ったときには「どうして今!?」と驚いたし、「THE BEYOND」は製作発表から第1回の劇場上映までの3年を祈るように待っていた。

 どうして20年も楽しめたのか? その理由は登場人物たちの生き方にある。アニメの舞台は近未来、未知の生命体「フェストゥム」によって世界のほとんどが滅ぼされた中で、「竜宮島」(たつみやじま)という島を乗せた巨大艦で平和に生きる少年少女が主人公だ。彼ら彼女らは巨大ロボット「ファフナー」を駆り、島を守るために命懸けで戦う。ここまで話すと、2000年代に流行ったロボットが関わる青春群像劇のように見える。

 だが、そこに関わってくる「大人」たちの存在が非常に大きい影響を与える。竜宮島が平和を語る箱船となる以前、フェストゥムとの核戦争の影響で子供を授かる能力を奪われた大人たちは、人工子宮と遺伝子操作を用いた子供を育てた。それが竜宮島の子供たちであり、かりそめの「日本は平和である」という記憶を持たされている。それを知っている大人たちは、子供たちの親として「平和」を見せる鏡となり、島を守るために戦う背中を見せる戦士となり、同じく島を守る戦士となった子供たちを支えている。

 竜宮島の人々はほぼ全員が巨大艦「アルヴィス」のクルーだ。いざフェストゥムと戦うことになれば、どんな仕事に就いていても命を懸けて戦う。「1人でも多く生き残らせよう」、「少しでも先へ命を受け継ごう」と、あらゆる手を使って誰かを残すこと、「自分の命の使い方」を考えている。これはシリーズを通して竜宮島の人々の行動の根底にあり、これを体現する生き様が「蒼穹のファフナー」シリーズの魅力だと思う。

できれば公開順に見てほしい

 アニメ第1期では思春期の子供たちがメインに描かれる。ネットやゲームで彼らの成長ぶりを知っている方からすれば少々もどかしいシーンもあるが、それは彼らがまだ「平和」がどこかにあると信じていた名残だ。様々な犠牲の果てに成長していく姿は、形容しがたい胸のざわめきを感じさせる。

 そこから、公開順に「RIGHT OF LEFT」を見てほしい。これは過去編で、TVアニメ特別編として放送されたもので、ここから第1期1話につながるものもある。まだファフナーの技術が確立しておらず、フェストゥム1体を倒すのに多大な犠牲を強いていた頃の話を描く。

 次の劇場版「HEAVEN AND EARTH」は第1期の終了からしばらく後の話を描く。第2期「EXODUS」に登場するファフナーやキャラクターもいるので、ぜひ見ておいてほしい。竜宮島の人々の関係性の変化にも注目。

 そして筆者がマストで見てほしいのが「EXODUS」だ。「HEAVEN AND EARTH」からまたしばらく後の竜宮島でひとときの平和を味わい、また戦いへ身を投じる人々の姿が描かれる。シリーズの中でも強く「命の使い方」を考えさせられるのはこのシリーズだと思う。それだけ犠牲も多く、壮絶な戦いが描かれているともいえる。だが個人的に1番好きな「ファフナー」は? と聞かれたら、絶対に「EXODUS」だと答える。

 「EXODUS」は、シリーズの中でも時間軸が分かりやすく「夏」に近いのがポイントだ。わざわざ夏休み特集に本稿を執筆しているのはそれが理由なのだ。木々は青々と茂り、燦々と陽光が照りつける。ジワジワと蝉の鳴く声が聞こえ、肌にまとわりつくような暑気と湿度が煩わしい季節。竜宮島の人々にとって「EXODUS」は新たな可能性との出会いであったが、日本人である私たちにとっては故人に別れを告げる「お盆」の時期でもある。

 竜宮島は広島県の島嶼部や尾道市がモデルとされており、灯篭流しが行われる。現実の広島県尾道市では8月15日に灯篭流しを行う。竜宮島の人々も現実と同じく故人を思って灯篭を流し、それに合わせた祭りも催される。これが行われるのが「EXODUS」第17話「永訣の火」なのだ。筆者はこれに合わせて毎日2話、「ファフナー」を見て欲しいと言っている。ちなみに明確に8月15日が竜宮島の灯篭流しとは決まっていないが、そう思って見てほしい。そうすると作中の空気を今味わえるのだ。

日常の彩り豊かな景色も、美しい戦闘シーンも見られるのが「ファフナー」の魅力だ

 さて、そこから話は「THE BEYOND」へ移る。「EXODUS」の戦いが集束したのち、新たな存在へと生まれ変わったある登場人物を軸に話が進む。これはOVA(のちにTVアニメ化)で、「ファフナー」シリーズの時間軸の最後を描く。「EXODUS」からさらに数年後の世界で、大人になろうとしている竜宮島の子供たちの姿、フェストゥムとの激しい戦いに終止符を打とうとする人々の姿が描かれる。

 最後の最後、感情が落ち着いたころに見てほしいのが「BEHIND THE LINE」だ。時間軸としては「EXODUS」と「HEAVEN AND EARTH」の間のどこかを描いていると思う。2023年に公開されたこの映像は、「THE BEYOND」まで「ファフナー」シリーズを追いかけてきた筆者にとって最大のご褒美のような1時間だった。

忘れていけない「angela」というユニット、ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団の存在

 「蒼穹のファフナー」には、20年近くに及んだシリーズを支えてきてくれた存在がある。それが「angela」という音楽ユニットと、ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団だ。

 ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団は劇伴演奏を担当した。シリーズのほとんどの音楽が深みのあるオーケストラで構成されており、要所要所を、感情を大きくかき立てられる演奏で彩る。個人的に好きな曲は「反撃」(ナイトヘーレ開門として知られる)、「マークザイン出撃」、「マークザイン」の3曲。「戦闘」もいい。配信サイトでも公開されているが、映像を見る前より見た後の方が100倍楽しめるので、まずは映像を見てほしい。

 「angela」は劇中で使用される挿入歌、オープニング、エンディングほぼ全てを全シリーズで担当した豪傑のようなユニットだ。シリーズを経るごとにatsuko氏の声は迫力を増し、KATSU氏の描くビートは鬼のようなリズムを刻んでいった。

 特に「EXODUS」の挿入歌「その時、蒼穹へ」、「愛すること」はどんな制作陣より熱く「ファフナー」への愛を語る歌詞が描かれたと思うし、「THE BEYOND」で歌った「叫べ」は視聴当時震え上がった。「THE BEYOND」全巻発売後に行われたライブにも行った。9月に開催される全曲ライブも行くつもりだ。

 筆者は、アニメには作品を特徴づける劇伴やオープニング、エンディングがあってこそ輝くと思っている。そういう意味では「angela」はもちろん、劇伴を作曲した斉藤恒芳氏とそれを演奏したワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団は忘れてはならない大事な存在だと思う。

「EXODUS」第9話「英雄二人」から。「真壁一騎」、「皆城総士」による無双シーンで「その時、蒼穹へ」が歌われる
「愛すること」が歌われるシーン。このシーンは絶対に忘れてはいけない作中のターニングポイントとなる

 総じてロボットアニメとしてはもちろん、人間ドラマとしての趣が強く、登場人物たちの心情を暗に描くシーンも多く「群像劇」として非常に完成度が高いアニメだと思う。作中では人が世界に何らかの足跡を残すことを「祝福する」というが、「ファフナー」を見たあなたはどう世界を祝福するのだろうか。