3Dゲームファンのためのグラフィックス講座
西川善司の3Dゲームファンのための「プレイステーション 4」グラフィックス」講座(前編)
PS4のグラフィックス性能はPS3の8倍。PS4世代でゲームは数千万ポリゴン時代へ突入する!
(2013/3/7 00:00)
米国ニューヨークでプレイステーション 4(PS4)の発表が行なわれた。まだ、不確定な部分も多いようだが、当日の発表会で公開された情報や、筆者が取材を行なって得た情報等を元に、スペック周りの解釈を行ないつつ、グラフィックス視点でPS4世代のゲームがどうなっていくかまでを占ってみることにしたい。
【著者近影】
PS4のグラフィックス性能はPS3の約8倍!
まずは、当日発表されたPS4のスペック周りについて整理してみることにしたい。PS4のコアプロセッサとして採用されるのはAMDのAPUだ。APUとは「Accelerated Processing Unit」の略で、消費電力とパフォーマンスのバランスを最重要視して設計されたCPUとGPUを1チップに集約した統合型プロセッサだ。
ただ、AMDの現行APU製品にPS4と同スペックと同じものがあるわけではなく、AMDが2013年内にリリース予定のノートPC向けAPUである28nm製造プロセス世代の「Kabini」コア世代のテクノロジーをベースにしたカスタムAPUとなる。
PS4に採用されるCPUは、このKabiniコアAPUに搭載予定とされているJaguarコア世代の64ビットCPUで、これが8コア搭載される。今回の発表では動作クロックは未定となっているが、動作クロックは2GHz前後になると思われる。というのも、Jaguarコアは、電力対性能の効率部分に焦点を当てた設計であり、高クロックでの動作が想定されていないためだ。
GPUは、同じくAMDの新世代GPUコアアーキテクチャ「Graphics Core Next」(以下GCN)を採用するということが発表されている。今回の発表では、PS4のGPUは、このGCNが、コンピュートユニット(Compute Unit,以下CU)18基構成であると発表されている。GCN Compute Unitは、1基当たり32bit浮動小数点スカラプロセッサ(Stream Processor,以下SP)を16基一組として4組を内包する構造であるため、PS4のAPU全体では、16基×4組×18CU=1,152基のSPを搭載することになる。
SPの個数が1,152基というと、同世代GCNコアのAMD製GPU、RADEON HD7000系のRADEON HD 7850」(SP=1,024基)とRADEON HD 7870 (SP=1,280基)の中間のスペックと言うことになる。すでにAMD RADEONの最上位モデルには、RADEON HD7900系が存在する。そのトップエンドのRADEON HD7970がSPを2,048基搭載していることを考えると、PS4のグラフィックス性能は、その半分+αくらいをイメージすることができる。
今回発表された情報のなかには「PS4のGPUの性能は1.84TFLOPSである」というものがある。GCNコアであるという情報があるので、「SPが1,152基」、「GCNアーキテクチャではSPが1クロックで1積和算(2 Ops)を行なえる」という仮定の下に逆算すると
(1.84 TFLOPS÷2)÷1152=約800MHz
という動作クロックが導出できる。RADEON HD 7850が定格860MHzであることを考えるとリアルな値だ。
今回発表された情報では、PS4のメモリ容量は、8GBと発表された。これはCPUとGPUが共有する形で利用される、いわゆるUMA(Unified Memory Architecture)構成というヤツだが、ゲーム機では珍しい構成ではない。なお、PS3ではCPU用メインメモリが256MB、GPU用グラフィックスメモリが256MBと切り分けられていた。
メモリタイプはGDDR5と発表されている。メモリバス幅は非公開となっているが、256ビットとみられ、この値で仮定して、公開情報のメモリ帯域176GB/sからメモリ動作クロックを逆算すると
176GB/s÷(256bit÷8)=5.5GHz
という、昨今のGDDR5メモリのスペックらしいクロック値(データレート)が導出される。
多くの読者が気にする「PS3に対してどのくらいのグラフィックス性能が有るのか」という部分についても語っておこう。
まず、2005年当時の本連載のPS3スペック解説記事をあたると、SCEの公式スペック値には「PS3のグラフィックス性能は1.8TFLOPS」とある。今回発表されたPS4のグラフィックス性能値は1.84TFLOPSなので、ほとんど進化がないことになってしまう。
ただ、PS3の1.8TFLOPSは、Xbox 360との机上の性能値合戦の末にマーケティングサイドが「メガ大盛りにした値」なので、当時から信憑性には疑問符が付いていた。せっかくなので「PS4 GPU=1.84TFLOPS」の計算基準でPS3のGPUの性能値を再計算してみよう。
PS3のGPUであるRSXのベースアーキテクチャはNVIDIAのGPU、GeForce 7800 GTXであった。これは頂点シェーダが8基、ピクセルシェーダが24基あり、頂点シェーダには4way SIMD演算器が1基、ピクセルシェーダには4Way SIMD演算器が2基搭載されていた。各SIMD演算器は1クロックあたりの積和算(2ops)が可能なので、RSXの動作クロックが500MHzだったことを踏まえてFLOPS値を計算すると
頂点シェーダ:(4SIMD×2ops)×8基×500MHz=32 GFLOPS
ピクセルシェーダ:(4SIMD×2ops×2基)×24基×500MHz=192 GFLOPS
合計して224GFLOPSと言うことになる。PS4のGPUが1.84TFLOPSなので、
1.84TFLOPS÷0.224TFLOPS=約8.2
PS4のグラフィックス性能はPS3の約8倍強あるという推察ができる。
ちなみに、PS3のグラフィックスメモリ性能値は22.4GB/sだったので、
176GB/s÷22.4=約7.9
となり、グラフィックス性能と同じくらいの約8倍ほどに引き上げられていることがわかる。「PS4のグラフィックス性能はPS3の8倍」というのが、ひとまずの受け止め方でいいのではないだろうか。