3Dゲームファンのためのグラフィックス講座
西川善司の3Dゲームファンのための「プレイステーション 4」グラフィックス」講座(前編) ~キャラクター表現品質が飛躍する)
(2013/3/7 00:00)
PS4世代のゲームグラフィックスはこうなる(2)~キャラクター表現品質が飛躍する
見た目にわかりやすい「ベース表現の引き上げ」としては、もうひとつ事例を挙げるならば「人物表現の進化」ということになるだろう。
この部分がわかりやすい具体例として挙げるのは、ここでも前出の「Agni's Philosophy」になる。「Agni's Philosophy」の見どころは多いが、やはり、なんといっても際立っているのはキャラクター表現である。
とくに顔面や人肌の表現は、PS3世代とは比較にならないほど進化しており、オフラインレンダリング(プリレンダー)グラフィックスに見紛うほどのレベルに達している。このレベルのキャラクター表現はPS4世代では1つの基準となるだろう。
人肌は、半透明材質の皮膚が多層に重なった構造となっている。人肌にあたった入射光のうち、表皮の脂質で約6%が鏡面反射し、残りの約94%は皮下に浸透して散乱し、さらに再び表皮から出射する。この約94%の現象を皮下散乱(Subskin Scattering)と呼び、この概念を一般化した現象を表面下散乱(Subsurface Scattering)と呼んでいる。
この表面下散乱は、3Dゲームグラフィックスでリアルタイムに実践するのは難しいとされてきたが、「Agni's Philosophy」を見てもわかるように、PS4世代では可能になりそうなのだ。といっても、これは、GPUの進化だけでなく、シェーダー技術の進化も連動して実現が可能になったものだ。
Agni's Philosophyが採用していたこの表面下散乱実践技法は、スペインのサラゴサ大学を経て、現在Activision Blizzardに籍を置いているJorge Jimenez氏が開発したScreen Space Subsurface Scattering(SSSS)技法になる。
人間の人肌に白色光をあてたときに、人肌から染み出てくる光の分布を、白色光を照射した点から遠方に向かって赤緑青(RGB)の3原色の濃淡分布を事前に取得しておく。これは「反射率拡散プロファイル」(Reflectance Diffusion Profile、以下、RDP)と呼ばれるデータだ。
SSSSでは、まず、人肌に対し、PS3世代でもごく一般的に用いられているような普通の拡散反射ライティングを行なう。続いて、このレンダリング結果を、RDPで畳み込み演算を行なうようにしてボカす。レンダリング結果を一様にボカしてしまうと不自然になるので、視点から見て近い位置は大きくボカし、遠い位置は小さくぼかすような適応型処理を行なう。この遠近判別にはレンダリング結果の奥行きの遠近が記録されている深度バッファの内容を参照する。
フォトレタッチソフトのボカしフィルタを適用するような画像処理感覚で表面下散乱を実践するから“Screen Sapce” Subsurface Scatteringというネーミングがなされているのだ。
この手法が強力なのは、画面座標系(Screen Space)で表面下散乱を実践するため、画面内にキャラクターが10人いようが、100人いようが、ほぼ固定負荷で表面下散乱を実践できるところにある。
すでに、この手法は、同じく今回のPS4発表会でPS4対応が表明されたEPIC GAMESの「Unreal Engine4」にも採用されていることが明らかとなっている。
確証はないが、今回のPS4発表会で公開された「inFAMOUS: Second Son」でも同系の技術でキャラクター表現が実践されているとみられる。
この他、髪の毛の表現も大きく進化する要素だと予測される。PS3世代では短冊が頭皮に刺さったような髪の毛の表現か、あるいは短髪ヘアが主流だったが、PS4世代では、ビジュアル系ミュージシャンのような長短の毛髪が混在するようなヘアスタイルや、そもそも表現が難しかった「髪型」の表現も進むとみられている。この辺りも詳細は後編で触れる。
キャラクター表現に関しては「見た目」だけでなく、「動き」も重要になる。PS3世代のゲームグラフィックスでは、モーションキャプチャ技術の実用化が成熟し、キャプチャしたモーションを3Dモデルのキャラクターに適用した限りではリアルに動くが、動的なシーンへの適応したモーション制御や、複数のモーションパーツを連続かつスムーズに繋いた場合には不自然さが露呈する場合があった。PS4世代のゲームグラフィックスはこの部分も進化するとみられる。この点についても後編に譲るとする。