レビュー

「Meta Quest 3」レビュー

“MR時代”に目を向けたVRヘッドセット。Quest 2から性能・装着感が大幅進化!

【Meta Quest 3】

10月10日 発売

価格  128GB:74,800円

512GB:96,800円

 コロナ禍に大きく躍進したスタンドアロン型VRヘッドセットのMeta Quest 2。6DoFを実現するセンサーや高解像度・最大120Hzまでサポートするディスプレイを備え、本格的なVR体験をリーズナブルな価格で提供するハードウェアとして、VR普及の一翼を担った。

 今年はプレイステーション 5用のPlayStation VR2が発売されたほか、Apple初のARヘッドセット・Apple Vision Proが発表されるなど、VR・AR業界が再燃している。そんな年に“VR界のパイオニア”の旧Oculusを率いるMetaが黙っているはずがない。Metaの最新VRヘッドセットMeta Quest 3が本日10月10日に発売される。

 Meta Quest 3は、前モデルのMeta Quest 2をブラッシュアップしただけではない。上位モデルであるMeta Quest Proの機能を取り込みつつ、VRのみならずMRにも目を向けた新時代のVRヘッドセットだ。そこで本稿ではMeta Quest 3を発売前に体験させていただいたため、レビューをお届け。VRヘッドセットとして大幅パワーアップした本機の魅力をお伝えしたい。

【ひろげよう、キミごと世界を。 Meta Quest 3】
スペック比較表(本体)Meta Quest 3Meta Quest 2
SoCSnapdragon XR2 Gen2Snapdragon XR2
解像度2,064×2,208(単眼)1,832×1,920(単眼)
リフレッシュレート120Hz(テスト機能使用時)120Hz(テスト機能使用時)
RAM8GB6GB
ストレージ128GB or 512GB128GB or 256GB
重さ515g503g
トラッキング6DoFサポート6DoFサポート
オーディオスピーカー、マイク内蔵(3.5mmイヤホンジャック対応)スピーカー、マイク内蔵(3.5mmイヤホンジャック対応)
充電端子(充電時間)USB Type-C(約2.3時間でフル充電)USB Type-C(約2.5時間でフル充電)
IPD(瞳孔間距離)調整可(58mm~71mm)調整可(3段階)

薄い本体で装着感アップ! 眼鏡ユーザーにも優しいQuest 3

 まずはMeta Questシリーズについて、軽くおさらいしておきたい。Meta Questシリーズは、Oculus VRによって開発された「Oculus Quest」を源流としており、初代「Oculus Quest(現:Meta Quest)」は2019年5月に発売。当時はまだ珍しい“スタンドアロン型VR”として人気を博した。

 初代Questから約1年半が経った2020年10月に「Oculus Quest 2(現:Meta Quest 2)」が登場。先ほども述べたように、大幅な性能向上を果たしながら、当時37,180円というVRデバイスとしてはリーズナブルな価格で販売され、コロナ禍のステイホームも合わさって販売台数を大きく伸ばした。

 そして、2022年1月にMetaが「Oculus」ブランドの廃止を発表し、新たに「Meta」ブランドへ移行。2022年10月に初の製品として上位モデル「Meta Quest Pro」を発売した。なお本稿ではここから、初代Quest、Quest 2、Quest 3と記述する。

2019年に発売された初代Quest。当時はまだ珍しいスタンドアロン型VRであった
2020年発売のQuest 2。リーズナブルな価格で本格的なVR体験が可能となる
2022年に発売されたQuest Pro。初の“上位モデル”として、視線検知や表情トラッキングなども搭載されている
Oculus時代を含む、これまでのMetaのVRヘッドセットたち

 Quest 3は、Metaが手掛けるメインストリーム向けVRヘッドセットとしては約3年ぶりの製品となる。初代QuestからQuest 2までは約1年半だったことを考えると、倍に近い期間がかかっている。

 最初に開封していくが、まず小さくなった箱に驚く。Quest 2の時は横長の箱だったが、Quest 3では正方形に近く、幅が大幅に短縮されている。家電量販店で買って電車で帰っても、全く邪魔にならないサイズだ。中を開けてみると、VR本体とコントローラー2本がギッシリと詰まっていて、スペースを節約している。

Quest 3のパッケージ。非常にコンパクトで持ち帰りやすい
Quest 2(Oculus時代のもの)と比較。二回り以上小さくなっている
早速開封。VR本体とコントローラーがギッシリ詰まっている
内容物。VR本体とコントローラー2本に加え、充電器、USBケーブル、説明書など必要十分なものが入っている

 Quest 3を最初に持った感想は「とにかく薄い」こと。本体の半分は接顔クッションが占めており、SoCやディスプレイを搭載したハードウェア部分が大幅に薄くなっている。これは、VRヘッドセットの要となる光学系に“パンケーキレンズ”を採用したことで、光学系が大幅に短縮されており、結果として本体の薄さに繋がっているのだ。このパンケーキレンズは、Quest ProやスタンドアロンVRのライバルモデル「PICO 4」でも採用されている。Metaのメインストリーム向けVRヘッドセットでも、満を持しての採用となった。

 Quest 2と比較すると真っ白な本体はそのままに、さらに丸みを帯びたデザインになった。USB Type-C端子やヘッドフォン端子、電源ボタンの位置なども変更されるなど、細かなところも少しずつ変更されている。Quest 2ユーザーが買い替える場合、少し慣れが必要だ。

Quest 3本体。真っ白な筐体でシンプルなデザインだ
Quest 2と比較。元々丸いデザインだが、Quest 3はさらに丸みを帯びている
ヘッドバンドを取った状態のQuest 3(左)とQuest 2(右)だ。左側面にはUSB Type-Cと電源ボタンがある
こちらは右側面。イヤホンジャック端子が右側へ変更されている
Quest 3の下側。左から音量ボタン、別売りの充電ドック用端子、IPD調整用ダイヤル(後述)だ

 またQuest 3では、オプションとして付属していた眼鏡スペーサーが廃止され、同等の機能が接顔クッションに内蔵された。レンズ前から目までの奥行きを4段階で調整でき、サイズの大きい眼鏡などとの干渉を防いでいる。また、クッション部分の開口部も若干広がったほか、クッションが柔らかくなったことで眼鏡を入れやすくなった。

 Quest 2はこの点が不便で、筆者は眼鏡スペーサーのほか、別売りのフィットパックを購入するなど工夫を凝らしていた。一方、PlayStation VR2はシリコン製のクッションで柔らかく、開口部がとても広いため、眼鏡ユーザーにとてもやさしい設計となっていた。Quest 3は最高とまではいかないが、眼鏡ユーザーも無理のない状態で装着可能だ。

 加えて、瞳孔間距離(IPD)の無段階調整機能が復活。これは目と目の距離にあわせてレンズ間を調整する機能で、初代Questは無段階で調整できたのだが、Quest 2は3段階に簡略化されていた。調整幅は58mm~71mmで、適正なIPDにするとVR酔いの防止に繋がるので、この機能の復活は歓迎したい。

 なお、純正のアクセサリーとして「Meta Quest 3用Zenni VR度付きレンズ」もラインナップされている。どうしてもQuest 3に合う眼鏡がないという方などは、こちらも検討してみてほしい。

奥行きの調整機能を接顔クッションに内蔵。ボタンを押しながら4段階で調整できる。こちらは一番近い状態
一番遠い状態。1.5cmほど調整できる
IPDの無段階調整機能が復活。こちらは一番狭い状態
こちらが一番広い状態。適正な位置へ調整することで、VR酔いの防止に繋がる
Quest 3は眼鏡ユーザーにも優しい設計だが、別売りで「Zenni VR度付きレンズ」が用意されている

 実際に着用してみると、Quest 3の着け心地の良さに驚く。実はQuest 3の重量は515gと、Quest 2(503g)から微増しているのだが、体感ではQuest 3の方が軽く感じるのだ。

 これは本体の薄さから来るもの。Quest 2では、ヘッドセット本体が厚かったことから重心が体より前になり、首が下がり気味になってしまっていた。一方のQuest 3は、本体が薄いため重心が人に近く、首が下がりにくい。

 VRは体を動かすハードなゲームも多い。首が疲れてくると、ゲームのやる気も削がれるため、この改良は非常に大きい。筆者は「VR本体が薄くなったところで……」と最初は思っていたのだが、想像以上の違いがある。

接顔クッションを外した状態。右側のQuest 3の薄さが際立つが、これが装着感の向上に繋がっている

 Quest 3に付属する「Meta Quest Touch Plus コントローラー」は、Quest 2に付属していた「Meta Quest 2 Touch コントローラー」から操作性はそのまま、各所をブラッシュアップしている。

 まずデザインから見ていくと、Touchコントローラーにあったリング部分が、Touch Plus コントローラーではなくなり、スッキリした見た目になっている。従来のTouchコントローラーは、このリング同士が衝突して現実に引き戻されることも多かったため、リングが無くなったことは改良ポイントの1つだ。

 また、振動モーターが触覚フィードバックに対応した「TruTouch可変ハプティクス」へ進化。以前のTouchコントローラーでは「振動しているな」と感じるだけだったが、より繊細な表現ができるようになった。

 「Quest Pro」に付属している「Quest Touch Proコントローラー」は、セルフトラッキングを行なう高度な技術が採用されているが、リングのないデザインやTruTouch可変ハプティクスなど、共通点も非常に多い。

右手用のTouch Plus コントローラー(手前)とTouch コントローラー(奥側)。リングがなくなりスッキリしたデザインに
左手用のTouch Plus コントローラー(手前)とTouch コントローラー(奥側)
なお、Touch Plus コントローラーも単3乾電池1本で駆動する。ボタンを押すだけで開く仕組みになり、電池の交換もしやすい

 このように「Quest 3」は、Quest Proで採用したものを応用しつつ、Quest 2の不満点を見事に解消している。このハードウェアから得られるVR体験はどのようなものなのか。次項からは、実際に使ってみた様子をレポートしていく。

筆者の手元にあるPC用VR「Oculus Rift」と、前モデル「Quest 2」と記念撮影。Riftの発売から約7年経ち、進化の速度を体感する

映像やサウンドの鮮明度が向上! MR的使用も実用性大なQuest 3

 ここからは、実際にQuest 3を使ってみた様子をレポート。Quest 2との比較も交えながら、どのような体験が得られるのか紹介していきたい。

 まずQuest 3を起動して感じたのは、ディスプレイの鮮明度が高くなったこと。Quest 2も必要十分だったのだが、Quest 3ではジャギーが減少して、細かい文字やモノが見やすくなっている。メニューUIは同一のため比較もしやすく、Quest 2ユーザーの方は、いち早くこの進化を実感するはずだ。

 これは、ディスプレイの解像度が上がり、光学系にパンケーキレンズを採用したことが大きく関わっている。Quest 3は片目あたりの解像度が2,064×2,208で、Quest 2(1,832×1,920)から約30%向上。実は解像度だけ見ると、PSVR2(2,000×2,040)より若干高いのだ。

Quest 3のホーム画面の様子。Quest 3とQuest 2で時計の見え方が違う。もちろん、Quest 3の方が鮮明に読める
2023年発売同士のQuest 3とPSVR2。実はQuest 3のほうが若干解像度が高い

 また、先述したようにQuest 3はパンケーキレンズを採用。Quest 2では、レンズに年輪のような模様が刻まれているフレネルレンズを採用していたが、この模様が反射することで解像感が失われる現象(ゴッドレイ)が発生する。

 一方のパンケーキレンズは、フレネルレンズのような模様がないため、より鮮明な映像を見ることが可能。そのためQuest 3の解像感は、筆者がこれまで被ってきたVRヘッドセットの中でもトップクラスだ。

 だがパンケーキレンズは構造上、ディスプレイの輝度が低下してみえる短所も抱えている。Quest 3は暗いというほどではないが、HDR対応ディスプレイを採用するPSVR2と比較すると見劣りするのは確かだ。

こちらはQuest 2のレンズ部分。年輪のような模様が特徴的なフレネルレンズを採用している
一方のQuest 3のレンズ部分。模様はなくスッキリとしたパンケーキレンズを採用した
PSVR2はフレネルレンズを採用。パンケーキレンズはディスプレイの輝度が低下して見える短所を抱えているので、現時点では一長一短のようだ

 Quest 3は、全てのQuest、Quest 2向けタイトルに対応する後方互換性を維持している。Meta Quest ストアで購入したゲームなどは全て引き継ぎできるため、ここは素直に嬉しい点だ。

 Meta Quest ストアでは「Beat Saber」などのVR定番タイトルのほか、「バイオハザード4」といった大作もラインナップ。これらはQuest 2でも充分にプレイできるが、Quest 3でプレイするとよりパワーアップする。

 Quest 3では、Qualcommと共同開発した「Snapdragon XR2 Gen2」を採用し、Quest 2からグラフィックス性能が2倍となった。現在リリースされているタイトルもだが、今後Quest 3でリリースされるタイトルのクオリティにも期待していきたい。

VRゲームの定番「Beat Saber」ももちろんプレイ可能。画像はQuest 3でプレイしたものだ
筆者が好きなVRゲーム「Blade & Sorcery: Nomad」も十分にプレイできる

 今回Quest 3を使用した中でも特に進化を感じたのはサウンド面だ。Quest 2の内蔵スピーカーはゲームプレイには充分だが、プライムビデオやNetflix、YouTubeなど、コンテンツ視聴には物足りなさを感じていた。

 だがQuest 3は、低音から高音まで満遍なく鳴っており、音の広がりや質感も向上している。筆者はゲームプレイのみならず、映画視聴などでQuest 2を活用していたため、この進化は非常にありがたい。また空間オーディオにも対応しているということで、今後の対応タイトルが楽しみだ。

Quest 2のスピーカー部分。開口部は1カ所だけ
Quest 3のスピーカーは、開口部が2カ所に設けられている。音の広がりはここから来ている可能性が高い

 さらに、Quest 3の目玉機能となるのがフルカラーパススルー。Quest 2のパススルー機能は、周囲の安全確認のために実装されていて映像もモノクロだったが、Quest 3では本体前面にRGBカメラが2基搭載され、周囲の様子をカラーで確認できるようになった。

 このRGBカメラがもたらすのが、MR(Mixed Reality、複合現実)の実現だ。これまでのVRヘッドセットは仮想空間内でゲームをプレイしていたが、Quest 3では現実世界を活かしたゲームプレイや様々なアプリを使用できる。

 Quest 3のディスプレイ越しに表示される現実世界はほとんど違和感なく、現実世界と同じ距離感で物を持ったり、PCやスマートフォンを操作できる。だが、細かい文字は読みにくい箇所があったり、画面上部の映像がグワンと歪むこともあるので、まだ万全の状態ではない。もちろん、これまでのような仮想空間内の広い家も選択でき、いつでも気軽に切り替えることができる。

 試しに小一時間ほど、Quest 3を装着した状態で日常生活を送ってみたが、大きな支障はなく、テレビを見たり、飲みものを飲むことができた。また、テレビの横にYouTubeを表示して、疑似的に2画面状態にもできるなど、活用方法は無限大だ。なお、MR機能を用いて日常生活を送る場合は、安全に十分注意して行なっていただきたい。

筆者の作業机の前でフルカラーパススルーを使用。Quest 3の操作パネルが浮かび上がっていて、未来を感じる
これまでのような仮想空間内の家にもワンタッチで切り替えられる

 今回は、Quest 3に最初からインストールされているMRゲーム「First Encounters」をプレイしてみた。宇宙船がとある惑星へ不時着したため、乗り込んでいた“モフモフな乗客たち”を救出するというシンプルなゲーム内容だが、家だったはずの場所が突き破られ、宇宙空間が見えるようになっていたり、いつの間にか壁の向こうが見知らぬ惑星になっていたりと、驚きの連続が待ち受けていた。

 本作をプレイする前に部屋のスキャンを行なうのだが、Quest 3には深度センサーが搭載されているため、部屋をぐるりと見渡したり、少し歩き回るだけでスキャンが完了する。難しい設定は一切なく、スムーズにMRを体験できるため、Quest 3を購入した方は一度体験してみてほしい。

部屋をスキャンしているときの様子。深度センサーを搭載しており、スピーカーのような突起物も認識している
Quest 3には、MR対応ゲーム「First Encounters」がプリインストール
宇宙船が不時着した後。天井に大きな穴が開いていた
いつのまにか、壁の向こうは見知らぬ惑星になっているなど、驚きの連続だ

“MR時代”に目を向けたQuest 3。価格は少し高めながらQuest 2からの乗り換えも検討したい!

 ここまでMetaの最新VRヘッドセット「Meta Quest 3」のレビューをお届けしてきた。約3年の時を経た次世代機として、Quest 2の不満点をほとんど解消しつつ、新たにMRを実現するなどQuest 3は大幅進化していた。筆者はQuest 2ユーザーとして、ハードウェアのブラッシュアップが非常に気に入っており、映像やサウンド、装着のしやすさなど、一度Quest 3を体験すると、Quest 2には戻ることができない。

 一方で、Quest 3は様々な面を強化したがゆえに、価格がQuest 2から上昇して74,800円からとなっている。VR入門機としては少々高いが、今後もQuest 2とQuest Proは併売されるので、VR入門機としてのQuest 2、MR入門機やQuest 2ユーザーの乗り換え先としてQuest 3、視線認識や表情トラッキングなど高度な技術を搭載したQuest Proと棲み分けはできている印象だ。

 また、Quest 3やQuest Proが対応しているMR機能には、非常に未来性を感じた。12月には「Xbox Cloud Gaming」がMeta Questに正式対応するため、現実世界でコントローラーを持ちながら、大画面でAAAタイトルをプレイできるようになる。MRが将来的にQuest 3や現実世界に何をもたらすのか、今後の動向に注目だ。