レビュー
「アサシン クリード ミラージュ」レビュー
気づかれないことこそ至高、ステルスに全振りした“原点”のプレイ再び
2023年10月5日 10:01
- 【アサシン クリード ミラージュ】
- 10月5日 発売
- 価格:
- 通常版 6,600円
- デラックスエディション 7,920円
- CEROレーティング:Z(18才以上のみ対象)
「アサシン クリード」シリーズ15周年目の記念作である「アサシン クリード ミラージュ」が10月5日に発売された。
本作の注目点は「原点回帰」というキーワード。15年という年月と、無数のスピンアウトを経て、神の世界まで壮大に広がった世界観と、歴代タイトルが生み出してきた新システムを前提として、どのように初期作の面白さを再構築するか、というところが、特に初期から本作を遊び続けている人たちは気になるはずだ。このレビューでは、そういった視点で本作のシステムや物語を紹介したい。
なお、ネタバレは最小限に留めているが、それでも知りたくないという方は気を付けてほしい。
旧作オマージュの難しさに挑戦した15周年記念作品
ゲームでも漫画でも映画でも、長く続くシリーズの初期作は伝説の作品として語られているものだ。だが、実際に遊んでみると、「あれ? こんなもの?」と思うこともある。
その作品が出た当時には実写と見まがわんばかりだと思っていたグラフィックスは、今見るとそこまででもなかったり、しびれるほど革新的だったシステムも、その後定番化したせいで、もはや遊びつくされた感があったりと、時代が過ぎた後で、古いものの新しさそれが登場した当時と同じように体験するのは難しい。
では、ゲームの中で温故知新を感じるにはどうすればいいのか? 「アサシン クリード ミラージュ」の開発陣は、そんな難しいテーマにこの作品で正面から挑んでいる。
まだまだ前半をプレイしただけだが、今のところ確かにその試みは一部は大成功しているように思える。初期の「アサシン クリード」はアクションゲームといいながら、アクション自体は単純でむしろパルクールや暗殺シーンのかっこよさに比重が置かれていた。とりあえずカウンターボタンを押しておけば勝ててしまうという、バトルシステムの単純さは「簡単すぎる」という批判も呼んだが、その敷居の低さは女性ファンを含む多くの人を引き付けた。
それがシリーズを重ねるごとにだんだんと使える武器種が増えていき、キャラビルドの多様性が増し、オープンワールド化で冒険の自由度が増し、船や狩りなどの新たな要素が追加されて遊びの幅も広くなっていった。それはアクションゲームとしては正しい進化だったのかもしれないが、進化の中で「アサクリ」らしさは薄れていった。
武器種が増えることでヒドゥンブレードを使う機会が減り、多彩なスキルやビルドでゴリ押しできるようになると戦闘のパズル性はなくなり、オープンワールドになったことで、都市にいるよりも野山を駆け回っている時間の方が長くなっていった。
「ミラージュ」では、そういった「らしさ」を作る要素1つ1つが丁寧に再構築されている。ここからそれを1つずつ見ていこう。
砂漠や遺跡もある、壮大な9世紀のバグダッドが舞台
まずは舞台だ。今作では9世紀のバグダッドが物語の舞台になる。十字軍時代のエルサレムを舞台にした「アサシン クリード」以来の中東地域だ。都市1つといっても、アッバース朝の首都であり、100万人以上が暮らしていた当時の世界最大の都市なのだから、前作までのオープンワールドと比べても、広さで見劣りはしない。
ゲームではバグダッドを周辺の農耕地なども合わせた1つのエリアとして見ており、中には砂漠や、衛星都市、湖や遺跡などたっぷりと冒険できる場所がある。
バグダッドは、チグリス川の川沿いに王都として作られた円形の城塞都市から始まり、集まった人たちが城塞都市を取り囲むように市街地を拡張して巨大な都市に成長していった。ゲームではその構造が再現されており、街は高い城壁に守られた王宮を中心に、職人の工房やバザール、貴族の住宅や港などが広がる。
染料で革を染めている工房では流れ出した染料が川を半分染めていたり、現代でもこの地方の特産品であるオリーブ石鹸を作る工房に詰みあがった石鹸、バザールに並ぶ絨毯など、当時の人たちに思いを馳せながら観光気分で歩き回っても楽しい。
この物語の傍ら観光地を巡るという要素だけは、初代から今作までひたすら強化されながらも一貫して追加されている。最近では失われた古代の都や、神々の住む場所などファンタジー要素の強い場所も多数登場しているが、「ミラージュ」では今のところ、そういった要素は今のところ風景としては見当たらない。ただ、本作は物語的には「オリジンズ」から続くシリーズの延長線上にあるので、今後登場してくる可能性は高いかもしれない。
また、本作では初代「アサシン クリード」の雰囲気を再現したカラープロファイルで遊べるフィルターが用意されている。初代の、全体的に青白く幻想的な雰囲気が好きな人ならぜひオプション画面のスクリーン設定にある「クラシックカラーフィルター」をオンにしてプレイしてみて欲しい。
バシムの抱えている心の闇を探ることが物語のもう1つの目的に
本作の主人公バシムは、バグダッドで生まれ育った都会っ子。今はバグダッドの少し郊外にあるアンバールという小地区に暮らしている。識字率の低いこの時代に幼いころから本を読むのが好きだったというインテリで、かつては建築家の息子として裕福な家庭に暮らしていたが、今はアンバールでコソ泥をして暮らしている。
言葉の端々から、バシムの父親は正しい人間だったが、不遇の中で亡くなったとわかる。バシムは正義を貫くことができない社会に不満を抱き、自分と同じように見捨てられ、社会の最底辺で生きる子供たちを救いたいと考えている。
根は真面目で友達思いだが、思春期の真っ盛りで、親友のネハルや仕事をくれるデルヴィスには、素直な自分を見せられずにいる。なんとか今の状況を変えたいと思っており、「隠れし者」たちの仲間になることで、変えられるのではないかと期待している。
縁あってその夢は叶うが、代わりにバシムは大きな代償を支払うことになってしまう。その悲しみを胸に秘めたままバシムは「隠れし者」としての修行を詰み、ついに一人前になって再びバグダッドに巣くう悪と対峙すべく行動を開始する。
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