レビュー

「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者・うしろに立つ少女」レビュー

高校を舞台にした殺人事件を解決していく「うしろに立つ少女」

 「うしろに立つ少女」は河原で発見された女子高生の絞殺死体の調査を依頼された主人公が、その事件を解決していくストーリーで、「消えた後継者」の2年前の世界を描いている。

 場面は、本当の両親を探すために家出をした主人公が、街で警察官に職務質問をかけられ、逃げている時からスタート。その時に主人公を助けてくれたのが空木俊介だ。それを縁に空木探偵事務所で助手として働くことになる。

警官に追われている主人公を助けたのが空木だった
ひとまず空木の家に泊まることに

 殺されてしまった丑三津高校1年生の「小島洋子」は、同じ高校に在学する「橘あゆみ」の親友だった。そう、ここであゆみちゃんも登場する。洋子はあゆみと立ち上げたサークル「探偵クラブ」で、学校に伝わる怪談「うしろの少女」について調べていた。その怪談とは「夜一人で学校にいると、後ろから誰かの呼ぶ声がする。振り返ると、そこには血染めの少女が立っている」というものだ。その話は15年前に「浅川しのぶ」という在校生が行方不明になった頃から広まったという。

丑三津高校に伝わる怪談「うしろの少女」
殺された小島洋子
小島洋子の親友だった橘あゆみ
丑三津高校の生徒が15年前に行方不明になったことが分かる
一通り捜査が終わったら推理をしてみよう
あゆみに「少女がうしろに立っている」と告げた洋子

 その一方、空木俊介はまもなく時効を迎える15年前の殺人事件を調べていた。被害者は「金田源治郎」。金田は違法な高利貸を営んでおり、恨みを持つ人はたくさんいた。しかし有力な被疑者と思われる「内田輝彦」は事件後に自殺体として発見され、事件は迷宮入りしていた。また源治郎が殺された当時、しのぶは金田のひとり息子である「五郎」と関係しており、五郎の帰りを五郎の家で待っていたため、犯行現場にいた可能性もあった。そしてしのぶは行方不明に。しのぶがいなくなった時、家の前を黒い車が通り過ぎるのを五郎は見ていた。源治郎の事件と、しのぶの行方不明は関係あるのだろうか……。

15年前の事件を追う俊介
しのぶが源治郎殺害の現場にいた可能性が
2つの事件に関わるようにみえるしのぶの失踪

 「うしろに立つ少女」は「消えた後継者」が好評であったことから作られたのだが、第1作の2年前の事件を描くという、今であればスピンオフ作品のような形となっているのが興味深い。事件の経過を見せていくだけでなく、主人公がたどってきた道や、あゆみとの関係がどのように作り上げられていくのかがわかる作りになっているのだ。1作目をプレイしたのであれば、ぜひともプレイしたくなる。ニクいね任天堂。

 こうして2作は関わり合っているのだが、プレイする順番は必ずしも「消えた後継者」→「うしろに立つ少女」である必要はない。「うしろに立つ少女」からプレイしたとしても「消えた後継者」は十分に楽しめる。

 「うしろに立つ少女」のボイスキャストだが、「消えた後継者」と同じく主人公を緒方恵美さんが、橘あゆみを皆口裕子さんが演じる。本作で印象に残ったのはやはり、校長の「浦辺忠志」を演じた大塚明夫さんだ。大塚明夫さんも言わずとしれた名声優。その大スターをあまりセリフのない校長で起用するのかー! と筆者は思ってしまった。しかし、だからこそ重要キャラとして校長が印象づけられているとも言える。また主人公の緒方恵美さんの演技も忘れてはならない。「消えた後継者」の2年前が舞台ということもあり、若干若めにボイスを変えている。

 ストーリーの進め方は「消えた後継者」とほぼ変わらない。コマンドに詰まったらとりあえず総当たりすれば進めていける。途中でヒントとなる言葉を入力しなければならないシーンがあるのだが、「消えた後継者」がその答えを文字を選んで入力するのに対して、「うしろに立つ少女」では選択肢を選べばよくなっているので、多少はプレイしやすいだろうか。こちらも章ごとでストーリーは分けられており、プレイ時間もだいたい1時間半くらいと似たような感じだ。

リメイクならではの機能も満載

 「消えた後継者」と「うしろに立つ少女」ともにリメイク作品なので、オリジナルにはない機能が盛り込まれている。まず挙げられるのはあらすじを確認できること。プレイを中断して再び遊ぼうと思ったとき、ストーリーを忘れてしまうこともあるだろう(特に筆者のような世代になれば)。あらすじの確認を選ぶと、皆口さんの声でこれまでのストーリーを振り返ってくれる。

データをロードして始めると、これまでのあらすじを確認できる

 もう1つは「手帳」だ。事件を解決していく中で、これまでの証言や人物関係などを参照できるようになっている。コマンドに困ったときはこの「手帳」からこれまでの事件を振り返り、考えていくことも重要だろう。

人物関係と、その人にまつわる情報を整理してみられる「手帳」

 またオリジナルファンとしての楽しみはこのほかにもある。BGMをNintendo Switchバージョンか、オリジナルのファミコン版音源かを選んで設定することができるのだ。「うしろに立つ少女」の場合はスーパーファミコン版の音源も選ぶことが可能だ。また筆者は特にそうしたいとも思わなかったが、主人公の声を消したいと思ったときには音声をオフにもできる。なおクリアしたあとは劇中に流れる音楽を選んで聴くこともできるようになっている。

 また、表示される文字も「標準」と「レトロ」が選べ、レトロにするとスーパーファミコンのようなフォントに変わる。

BGMや適すとのフォントを変更できる
こちらがオリジナルフォント
こちらがレトロフォント

 こうしたシステム面だけでなく、キャラなどが“動く”のもポイントの1つだ。天地の家を訪ねていると、その前にあるエレベーターが動いて人を運んでいるし、崖の上からあゆみちゃんは手を振るし、他のキャラも驚いたりするときにはもちろん顔が変わるし、キャラが複数いたとき、特定のキャラを「呼ぶ」と、それまで話を聞いていたキャラの立ちしぐさも変化する。こうした演出が入ることで、キャラクターがすぐそこで演じているかのような気にさせてくれる。

エレベーターから人が降りてきたりする

テキストアドベンチャーの良作が今よみがえる

 「ファミコン探偵倶楽部」の2作をプレイしたわけだが、前にも述べたようにほどよく忘れており、「あーそうそう」と思い出しながらプレイできたのはよかったのかもしれない。昔読んだ本を読み返すような感じで、改めてその面白さに触れることができた。あとはやはり、Nintendo Switchという最新のプラットフォームであったのも大きい。オリジナルと比べようのないグラフィックスの進化は没入感を高めてくれたし、それぞれのキャラクターがしゃべることでストーリーの深みが増した。やっぱりねえ、あゆみちゃんがいいんですよあゆみちゃんが。その声を聴いているだけですべての謎が解けそうだ、と言ったら言いすぎか。

 ファミコン時代のミステリーアドベンチャーは「ポートピア殺人事件」からはじまり「オホーツクに消ゆ」、「探偵 神宮寺三郎」シリーズなどなど名作があるが、その中でも「ファミコン探偵倶楽部」は特にハマったタイトルの1つだ。ミステリーではないが、そのほかには「新・鬼ヶ島」もテキストアドベンチャーとしては名作だと思っている。

 30年の時を経て復活した「ファミコン探偵倶楽部」。その当時にプレイしたことのある人には、当時を思い出しながらぜひともプレイしてほしいし、本作に触れたことがない人にとっても、そのストーリーと展開は今でもなお新しいものがあるだろう。今のような時代状況では、どこかに出かけてリフレッシュすることもなかなか難しい。そうしたときの過ごし方の1つとして、本作をプレイするのはいかがだろうか。