DSゲームレビュー

サスペンスに満ちたノベルと謎解きが融合!
極限の心理と奥深い謎を楽しめるサウンドノベル

「極限脱出 9時間9人9の扉」

  • ジャンル:脱出×サスペンス
  • 発売元:株式会社スパイク
  • 開発元:株式会社チュンソフト
  • 価格:5,040円
  • プラットフォーム:ニンテンドーDS
  • 発売日:発売中(12月10日発売)
  • プレイ人数:1人
  • CEROレーティング:C(15歳以上対象)


 目覚めるとそこは見知らぬ場所。腕には数字が表示されたバングル。9人の男女、1から9までの数字が書かれた扉、制限時間は9時間。生死をかけた運命のゲーム「ノナリーゲーム」が始まる……

 「極限脱出 9時間9人9の扉」はチュンソフトが開発を行なったサウンドノベルと脱出ゲームを融合したアドベンチャーゲーム。イシイジロウ氏がプロデューサーとして関わり、新たに戦力に加わった打越鋼太郎氏がシナリオとディレクションに携わった、チュンソフトによる最新テキストアドベンチャーだ。謎に満ちた物語、歯ごたえのある脱出パズル、戦慄を覚えるようなサスペンスが展開される。

 なお公式サイトではFlash体験版がプレイできるので、まずはそちらを触ってみるのもいいだろう。体験版では本作のパズル要素である“脱出パート”がプレイできる。それでは、本作の魅力を紹介していこう。

【プロローグ】

 主人公は大学に通う青年、名前は淳平。平凡な毎日を過ごしていた彼だったが、本人すら予期しない大いなる陰謀に巻き込まれることになった。

 ある日目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋。辺りを見回しても、見慣れた光景は何処にもない。そして、最も気になったのは、扉に真っ赤な塗料で描かれた「5」の文字だった。閉じこめられた密室で呆然としながらも、頭の中では、この場所から脱出するための手段について、思考が始まっていた。

 目覚める前の最後の記憶を辿ると、そこにガスマスクを付けた謎の男の顔が浮かび上がった。自宅に戻った淳平を襲い、この場所まで連れてきたであろう人物だ。記憶をなくす前、その人物はこう言った。

これからおまえにはゲームをしてもらう。
【ノナリーゲーム】――。
生死をかけた運命の……ゲームだ。

 謎の男に連れてこられ、そして閉じこめられた謎の場所。そこは見知らぬ豪華客船だった。ここから脱出するには、「ノナリーゲーム」に勝ち抜かなければならない。そして、この場所に閉じこめられたのは淳平をはじめとした9人の人物。9時間以内に脱出しなければ、彼らは全て死ぬことになる……。それが、「0(ゼロ)」が仕掛けてきたゲーム。

 プレーヤーは主人公の淳平となり、様々な局面で自らの行動を選択し、また劇中に示される数々の謎に立ち向かいながら、生き残りをかけ、豪華客船からの脱出を試みる。




■ 異常な状況、生命の危機、制限時間、そして疑心暗鬼。緊張感溢れるストーリー

従来のサウンドノベル形式に近い「ノベルパート」。上画面で会話が、下画面には全体の描写がテキスト表示される
パズルを解き部屋から脱出する「脱出パート」。アドベンチャーゲームのように各所を調べ、ギミックを解いていく

 本作は、2つの要素が融合した形のゲームになっている。文章表現と絵や音でサウンドノベルを展開する「ノベルパート」と、封鎖された空間から脱出して先へと進む「脱出パート」だ。ノベルパートでシナリオを読み進め、選択肢によって分岐していくサウンドノベルの魅力と、脱出パートで室内を探索して使える物を見つけ仕掛けを解いていくパズルの魅力が楽しめるというわけだ。

 舞台は豪華な大型客船だ。ゼロと名乗る謎の人物に連れてこられた淳平たち9人の人物は、「ノナリーゲーム」という命を賭けた奇妙なゲームに参加することになる。数字が描かれた複数のナンバリングドアを抜けて9と書かれた扉を探し、脱出する。制限時間は9時間。時間内に脱出できなければ、全員死ぬことになる……。

 物語は非常に多くの謎に包まれている。なぜこの豪華客船に連れてこられたのか? 他の人物たちは何者なのか? 集められたメンバーに理由はあるのか? なぜノナリーゲームをさせられるのか? そもそも、ノナリーゲームとは何なのか? そして、ゼロとは何者なのか……?

 謎は多いものの彼らにじっくりと考えている余裕はない。9時間以内に脱出しなければ死が待っているからだ。ただそれはストーリー中の時間経過であって、プレーヤーに時間制限がされるわけではないので、じっくりと取り組める。

 生命の危険と異常な状況。緊張状態の中で焦りが生まれ、疑心暗鬼にもなる。グラフィックスはアニメテイストでコミカルな演出もあるが、会話や心理状態の描写等の表現はシリアスで緊張感に満ちている(ただ、遊んでいる側の心がほぐれるような笑いどころもほどよく織り込まれている)。

 もうひとつ彼らを追い詰める物がある。それは手首にはめられたバングルだ。バングルには1~9のいずれかの番号が表示されている。これは、ナンバリングドアをくぐり抜けるために必要な装置で、普通に外すことはできない。外せるときは、脱出できた時か、身に付けている人物の命が失われた時だ。

 バングルを使い、ナンバリングドアを開けるためには、重要なルールに従わなければならない。それは、例えば4番のドアなら、「3人~5人までのバングルで認証させて、バングルの“数字根”が4にならないと、ドアを開くことはできない」というものだ。数字根とは数字を全て足し、結果の数値の数字をさらに全て足していき、最終的に得られる1桁の数字のこと。例えば、1番と5番と7番の人物なら1+5+7で「13」になり、そこから10の位の「1」と1の位の「3」を足す。これで数字根は「4」になるので、4番のドアを通過できるというわけだ。ちなみにこのルールを守らないと、そこにも壮絶な死が待っている……。

 もちろん、数字根に関係しない番号の人物はドアを通ることができない。先がどうなっているかわからない以上、残るメンバーを置き去りにしてしまう結果になるかもしれない。誰と一緒にどのナンバリングドアを進むのか。他のメンバーと話し合うなかでどの扉に進むかの選択肢が現われ、そこが大きな分岐点になるわけだ。もちろん、その後の物語の展開も大きく変わっていく。


バングルとナンバリングドア。9人の人物はそれぞれに番号が割り当てられたバングルを身につけている。ナンバリングドアの仕掛けは、3人以上のバングルで認証させて、数字根(3人の数字を合計し、さらに10の位と1の位を足す数字)をドアの数字と一致させなければならない。誰とどのドアへ進んでいくのか。重要な分岐も出現する
ノナリーゲームに参加させられることになった9人の人物。みな外見も性格的にも、非常に個性的だ
主人公淳平の幼馴染み、コードネーム紫こと茜。淳平は彼女を守ることを第一に考える

 各キャラクターはなかなか現実離れした個性的な外観をしていて、一癖も二癖もあるメンバーだ。彼らはみなゼロに素性を知られることを恐れ、バングルのナンバーを模したコードネームで呼び合う。1番は一宮、2番はニルス、3番はサンタ、4番は四葉、5番は主人公の淳平で、6番は紫、7番はセブン、8番は八代、9番はとある事情から9番の男や鳥の巣頭の男と呼ばれることになる。

 この中で淳平と紫は、小学校の時の同級生で幼馴染みだ。なぜこのような状況で再会することになったのかはプレイしてのお楽しみだが、淳平は昔ひそかに想いを寄せていた彼女を守ること、一緒に脱出することを第一に考えることになる。

 ゲームのテンポや物語の進行は非常にスムーズで、他の人物との会話もテンポがいい。DSの上画面にはキャラクターのグラフィックスと共に会話等が、タッチスクリーン側には情景描写等のテキストが主に表示される作りで、上下で描写を補完しあうようなスタイルになっているのも面白い。

 操作はタッチペンのみで手軽に遊べる作り。場面の切り替わり等のリズムもいいので、際限なくどんどんと読み進めたくなる。このあたりはサウンドノベルに手慣れたチュンソフトならではというところだ。

 ちょっと気になるとすれば、シリアスなシーンと、コミカルなやり取りのギャップが少々大きいと感じられるかもしれないこと。登場人物たちが、極限状態が限界に達して発狂してしまうのではというぐらいのシーンもある一方で、軽いジョークやダジャレを飛ばすシーンもけっこうある(緊張状態だからこそ明るく振る舞っているという解釈もできなくはないが)。

 筆者はお堅い流れだけでずっと進行していくよりもありがたいと感じたが、良いか悪いかは別にして、好みがわかれるところではあるかもしれない。そういう硬軟を入り混ぜたテイストだということは知っておいてもらいたい。


みな極限状態に追い込まれていき、言い争いや疑心暗鬼の心までも芽生え始めてしまう


■ パズル要素の「脱出パート」は自分で気づくためのフォローもしっかりとされた丁寧な作り

冒頭シーンからいきなりの危機。密閉されている空間からなんとか脱出する「脱出パート」
気になる場所を調べて使えそうな物を探す。この画面ではコルクボードに貼られているメモに赤い文字で「アオ」と書かれているが……

 本作最大の特徴はサウンドノベル部分の「ノベルパート」以外に「脱出パート」があることだ。淳平が目を覚まして室内から脱出する冒頭部分を例に、どんな内容になっているかを解説していこう。

 物語の始まりは突然の危機から始まる。主人公の淳平はごく普通の大学生だ。だが、彼が目覚めると、そこはまったく見慣れない場所だった。大きな爆発が響く。ほどなくして独特の丸い形をした窓が突き破られ、密閉された空間に大量の水が流れ込んできた。どこにも逃げ場はない。唯一ある扉には奇妙な装置が付けられ、「5」の文字が真っ赤な塗料で大きく描かれていた……。

 ここから脱出パートが始まる。脱出パートでの基本は室内のいろんな物をタッチして調べることだ。室内を移動して画面を切り替え、気になった部分にタッチする。その場所に何か使えそうな物があれば入手できる。アイテムは3D表示になっていて、裏側を見てみたり、詳しく調べてみたり、他のアイテムと組み合わせることもできる。

 アイテムを使う時は、十字ボタンの上を押してアイテムのアイコンを表示させてから、使う対象をタッチする。アイコンを表示させることでアイテムを手に持っている状態になるわけだ。

 さて、淳平が目覚めた部屋には、ストーブとその上にポット。洗面台の上に写真とメモが貼られたコルクボード。ベッドの上にはカギの掛かった青いトランクがあり、壁に布のようなものが掛けられた場所、スライドの仕切りで閉じられたクローゼットのような場所がある。あとは、「5」のナンバリングドアとドアのロックをしている装置だ。

 これらの場所を調べ、使えそうな物を手に入れていく。部屋の全体が見たい時はカメラマークをタッチするかXボタンで上面図と視点の向きを見ることができる。空間全体の把握や遮られていて見えない場所を把握するのに便利だ。

 ある程度調べていくと、赤い文字で「アオ」と書かれたメモが見つかる。そして別の物からは、「ア、イ、ウ=11、12、13 ア、カ、サ=11、21、31」というヒントも見つけ出せる。ここまでくると勘の良い人はもうわかると思うが、ここにも一癖すでに入れられていることに気をつけたいところ。単純なように見えて、一考を要するバランスを持ちつつ謎は作り出されている。

 謎解きには一癖ひねりが加えられているところが多いのだが、それもちゃんとわかるよう,、ゲーム中でヒントが示される。一緒に行動しているメンバーからも助言をもらえるなど、自力で気づけるよう配慮がされているのだ。こうした配慮はパズルにおいて当然と言えば当然なのだが、ここがしっかりとケアされていないパズルは辛いものだ。

 本作ではナンバリングドアに関するところや、上に挙げた謎解きからも感じられると思うが、数字を使ったギミックが非常に多い。合計して導き出す数字根や、10進数、16進数といったものだ。馴染みのない進数(記数法)を使ったパズルもあるとなると、ちょっと気後れしてしまうかもしれないが、解説はしっかりとされているので、落ち着いて理解していけば問題ない。


パズルは数字を使ったものが多いが、他にも色んな種類がある。進数を使ったパズルは馴染みがない方もいると思うが、解説が丁寧なほか、そばにいる人物からのヒントももらえる。難易度のバランスはほどよい歯ごたえだ

 脱出パートのパズルの難易度は、ほどよいと感じるところから少し歯ごたえを感じる「中の上」ぐらい、と感じた。進数等の数字を使ったものに関しては得手不得手があると思うが、バランスが悪いと感じたほどのものは無かった。

 一般に現実には普通あり得ない凝った仕掛けが各部屋に施されているが、これら謎解きの仕掛けはゼロが準備してあったものと推測される。では、なぜこのような仕掛けをする必要があるのか? という疑問がわき上がるが、そこにもちゃんと理由はある。

 気になったのは、2周、3周と周回プレイする際、脱出パートも毎回同じようにプレイする必要があること。テキストは十字ボタンの右で速く進めることができるが、脱出パートのパズルは毎回解かなければならない。2回目以降は単純な作業となってしまうのが残念だ。ただ、実際にプレイしてみると、2周目以降は最初に挑んだ時に悩んだパズルもスイスイと解け、タイムアタックでもするかのような気分でプレイできたので、そこまでテンポが悪いとは感じなかった。

 重要なのは、“この作りに何か理由があるのか?”という疑問で、これについては“私も知らない”。私はエンディングをひと通り終えてからこのレビューを書いているが“それ以上の何か”があるのかは知らない。これについては、本作をプレイ済みの方や、チュンソフトのサウンドノベルファンの方は何のことかご理解いただけるかと思う。なぜそのような仕様になっているのか? もしこのまま終わりというのであれば、気になる部分はあるが、もしなにか用意されているのであれば……現時点で評価しきれないのがこのレビューの悩ましいところだ。



■ 雰囲気よし、遊びやすさよし、壮大なたくらみありのサウンドノベル

ゲーム中の人物ばかりか、プレーヤーまでも精神的に追い詰められるような感覚を覚えるテイストはとてもいい。謎が多く、それが明らかになっていく面白さもしっかりとしている。壮大かつ大胆な仕掛けに驚くこと間違いなし

 自分にとって、本作の1番の魅力はシナリオであり、その雰囲気と感じられた。サイコサスペンスのようなテイストで、素性のわからない9人の男女、静けさと不気味さに満ちた船内、シナリオ中にほのかに見えてくる謎の数々。犯人は、ゼロとは何者なのか? そうした全ての要素が、不気味で精神的な怖さを作り上げている。

 その不気味さは、チュンソフトの代表的なサウンドノベル作品「かまいたちの夜」の1作目を彷彿とさせるものがあった。限定された空間、疑心暗鬼、残酷な死。舞台もゲームシステムもテイストが異なる作品ではあるが、プレイ中の感触や巧みさに非常に似ているものが感じられた。

 BGMが及ぼす影響も大きい。こちらも「かまいたちの夜」を彷彿とさせるような、心に恐怖を染み渡らせてくるBGMが多く、ゾクゾクッとする。終盤ともなると場面が展開するたびに“衝撃的な場面が待ち受けているのでは”と先に進むのを躊躇してしまうほどだ。

 本作はマルチエンディングになっていて、1周プレイしただけでは、謎の全容解明はおろか、無事に脱出できるかすらも難しい。そこから、2周、3周と、いろんな分岐を読み進めていくうちに、じわり、じわりと、隠れていた謎が明らかになり、プレイ当初には考えもしなかった真相が見えてくる。その頃には「サイコサスペンス」の様だと感じられていたものがまったく別の物に、別の驚きへと変わっていた。

 ゲームの全体にわたって仕掛けられた壮大なたくらみも秀逸だ。まさか○○○○○○○○○○で、○が○○の○○を○○しているという○○○○にするとは。これを知った瞬間の驚きと興奮はすごかった。本作が気になってきた方にはぜひ体験してもらいたいと思う。

 グラフィックスのとっつきの良さ、プレイしやすい操作性。恐怖と謎に彩られたノベルと、脱出パズルの融合も見事で、まとまりがよく遊びがいのある本格ノベル作品になっている。この冬、じっくりと挑んでみるのに最適な作品だ。



(C)2009 CHUNSOFT

(2009年 12月 28日)

[Reported by 山村智美 ]