2019年7月25日 00:00
突然だが、読者の皆さまは「任天堂」と聞いて、まず何を思い浮かべるだろうか。マリオ?それともゼルダ?確かに、いずれも言わずと知れた世界的に有名なゲームタイトルだが、筆者がいの一番に思い浮かべるのは他でもない、「ファイアーエムブレム」である。
「シミュレーションロールプレイングゲーム(SRPG)」のジャンルを確立させた草分け的な作品である本シリーズは、自軍と敵軍が交互にユニット(キャラクター)を動かす「ターン制」のシミュレーションゲームに、クラスチェンジや経験値によるキャラクターの成長などのRPG要素を取り入れたことで、これまで数多くのプレーヤーに好評を博してきた。
1990年にファミコンで発売されたシリーズ第1作「暗黒竜と光の剣」以降、一部コラボ作品の例外はあるものの、基本的なSRPGのシステムと西洋の中世を思わせる剣と魔法の世界観をベースに、結婚システムなどの新しい要素にも挑戦し続けてきた「ファイアーエムブレム」。その最新作である「ファイアーエムブレム 風花雪月」が、12年ぶりの据え置き機に対応した完全新作として、このたび7月26日に発売される。今回のプレイレポートでは、ゲームの序盤をプレイして感じた「シリーズ過去作から継承され進化した部分」と、「本作特有の新要素」を中心にお伝えしていきたい。
三つの国と三つの学級が織りなす、二部構成の緻密なシナリオ
本作の舞台となる「フォドラ」の大地には三つの大国が存在し、あまたの戦乱を経て、「セイロス聖教会」のもと、互いに均衡を保っていた。だが、そんな仮初の平和の裏では、今日も戦の火種が燻り続ける……。女神が与えし「紋章」の力に翻弄される人間同士の争いに、剣や魔法、竜といった人外の存在が彩りを加え、さらには「士官学校編」と「戦争編」の二部構成を柱とする本作は、シリーズ伝統の西洋中世を彷彿とさせる世界観を受け継ぎつつも、過去作以上に濃密で重厚な展開が予想される。
戦場における若者を中心としたドラマはシリーズのお家芸でもあるが、本作の特徴は何と言っても主人公が「教師」であることだ。過去作でも、軍師として部隊を率いる、などの設定はあった。だが教師となると、また別の重みが増してくる。戦ともなれば、味方が命を落とすこともあるだろう。しかし、しかしである。教師ですよ?「生徒を教え、見守り、育てる」立場ですよ!?余計に死なせられませんわ!というわけで、生徒たちを導く第一部の士官学校編だけで、かわいい教え子を絶対に死なせないマンと化した主人公(筆者)の背筋は伸びきった。
教師という大任だけでも身が引き締まる思いだが、そこに輪をかけて筆者を悶絶させたのが、三つの学級から1つを選び担任するシステムに、「士官学校編」と5年後の「戦争編」から成る二部構成の設定だ。三つの学級の級長は、三国の将来の指導者。これは、すなわち選ばなかった2人の級長たちとは、やがて敵対し合う関係になるということ。5年後には敵同士って……第二部で苦悩するのが目に見えているのに、交流を深めろと!? まさに天国と地獄……。この辺りで一度、筆者の脳内はオーバーヒートした。
本作のシナリオ、設定の巧さは、まさにここにある。どの学級を選択した場合でも、他の二学級も同じ学校の生徒、仲間だ。それが5年後には異なる正義を掲げ、国同士で争い、互いに剣を交えることになるという。学級の三択と二部構成の化学反応によって、「昨日の戦友(とも)は今日の敵」を地でいく展開が生まれ、従来以上に戦争の重みが表現されていると感じた。
ところで、本作のタイトルにもある「風花雪月」とは、中国語で「美しい自然の風景」を謳った言葉で、日本語の「花鳥風月」と相通じるものがある。それを象徴するかのように、本作では1年を12の節(月)に分け、各節の始まりには美麗な風景画と季節のナレーションが入る。
だが、自然とは目に映る美しさだけでなく、時に厳しさも併せ持つ。季節が移り変わるように、平和な学校生活は終わりを告げ、かつての級友たちも昔のままではいられない。シリーズ屈指の切なさと儚さをも予感させる本作は、校内の交流などの平和な側面だけでなく、陰りを見せる人々の姿や要所で響く戦乱の足音をも克明に描写しており、カジュアルを好む層にも、骨太な展開を求める層にも訴求できるシナリオとなっている。
基本の形はそのままに、更なる高みに達した「戦闘パート」
・新要素「騎士団」の導入!
進化を遂げたのは、シナリオ面だけではない。マス目状に区切られたマップで、味方のユニットを動かして進軍する「ターン制」をベースに、本作は過去作と比べても戦闘システムに劇的な革命が起きた。
中でも取り上げたいのは、新要素の「騎士団」だ。各ユニットに配備できる騎士団は、ユニットの能力を底上げするほか、戦闘中に「計略」の使用を可能にする。複数マスへの攻撃や仲間の回復に加え、マップの地形に影響を与える計略まであるため、従来より戦闘の幅がグググッと広がった。ただし、計略自体の命中率は低めで、使用回数も限られる。計略を乱用すれば戦闘も楽々、というものでもなく、かなり絶妙なゲームバランスに仕上がっている。
騎士団の存在は、ビジュアル面の向上にも貢献している。従来の1対1の戦闘アニメーションも緊張感あるものだったが、戦として考えると、やや物足りなさがあったのも事実だ。本作では、そこにも鋭くメスが入った。まず、マップ画面で「+」ボタンを押してズームインしていくと、敵味方ともに大勢の兵士が表示されるようになり、特に味方の騎士団は種類によってビジュアルも変わってくる。戦闘に入る前、ユニットを動かしている段階でも臨場感がダンチ(死語)だ!次に、戦闘アニメーションにも騎士団が映るため、特に計略を使用した際には多くの兵士が入り乱れ、一気に戦らしさが増す。戦闘システムの基本はそのままに、表現の仕方を変えただけで、ここまで感触が大きく変わるのかと驚いた。
・異形の存在「魔獣」との死闘を、騎士団と共に乗り越えよう!
本作では人間のみならず、魔獣という名の脅威とも戦う場面がある。これまでもシリーズの作品には竜や魔物が登場してきたが、正直いずれも人間のバリエーション違いの域を出ていなかったように思う。だが本作の魔獣はシナリオ上重要な役割を担っており、戦闘においても多くの新要素を引っ提げて登場した。マップ上では、たった1体で複数のマスを占め、可視化できるほど強力な「障壁」を身に纏う。強力かつ広範囲に及ぶ攻撃手段と複数のHPストックを持ち、さらには、ストックが減ると使用してくる技もあるなど、強敵にふさわしい存在感を見せつける。
この強大な存在に打ち勝つためには、同じく新要素の計略や戦技の活用がポイントになってくる。1人1人はちっぽけな存在でも、騎士団と共に計略を仕掛ければ魔獣の注意を引くことができ、障壁を壊しやすくなる。また、計略は連携することが可能で、連携するユニット数や後述の支援レベルに応じて威力と命中率が上がる。もちろん計略の連携は魔獣戦に限らず使用が可能だが、そもそも計略の命中率が低めに設定されているのは、対魔獣戦での連携を想定したものでは?と勘繰りたくなるほど絶妙な仕組みだ。
このように、新要素の騎士団は戦闘の幅を広げ、ビジュアル面を向上させただけでなく、魔獣への対抗手段としても活躍するなど、かなり綿密に練られたシステムであることがわかるだろう。特に魔獣との戦闘は、どのユニットで攻め、どのユニットでかく乱するのか迷うこと自体が楽しく、SRPGの戦略性の面白みが際立つ作りとなっている。読者の皆さまにも、ぜひとも体感していただきたい新要素だ。
・遊びの幅を広げた「クラスチェンジ」システム
「ファイアーエムブレム」を語るうえで避けては通れないクラスチェンジシステムも、本作で進化を遂げた。従来のシリーズ作品では、クラスチェンジを行なうとユニットのレベルが1に戻り、元のクラスに戻れず、使用できる武器が変わることもあった。だが、本作におけるクラスである「兵種」は、チェンジしてもレベルが変わらない、一度チェンジしてしまえばいつでも変更可能など、かなりフレキシブルなシステムに変更された。
これは極端に言えば、守備力の高いアーマーナイトの敵が多いマップで、味方全員を魔法が使えるメイジにして挑むことも理論上は可能!ということだ。逆に、味方を初級の兵種で固めて進めることもできるので、敢えて難易度の高いプレイに挑みたい方の需要をも満たしており、かなり遊びの幅が広がっている。
過去最大規模の交流が楽しめる「士官学校パート」を遊び尽くせ!
・休日は生徒とリア充ライフ?それとも戦闘に明け暮れる?
ここからは、いよいよ本作の最大にして最高(注:主観)の要素である「士官学校パート」を紹介させていただこう。シナリオも洗練され、戦闘システムもなるほど、確かに目覚ましい進化を遂げた。だが、敢えて言おう。「ファイアーエムブレム」において、キャラクターの育成や交流要素こそが筆者の大好物なのだ!
本作は主人公が教師ということもあり、これまでのシリーズ作品と比較しても、キャラクターの育成に「これでもか!」というほど力が入っている。既述のように、本作は12の節(月)を1年としており、各月末に控える出来事(課題出撃)に向けて準備を進めることになる。平日は「教育」に勤しみ、週末になれば自由行動が可能だ。修道院内を「散策」して人々と交流し、どの生徒と仲を深めるか策を練るもよし!生徒たちを引き連れ、脇目も振らずに「フリー戦闘」で経験を積みまくるもよし!と、週末の過ごし方はプレーヤーの裁量に委ねられている。
修道院内を歩き回るだけでも色々な出逢いや発見があり、交流の中で「支援値」が上がることもある。「支援」は特定のユニット同士の友好関係を示す、シリーズお馴染みの概念であり、本作では士官学校での交流や、戦闘中の連携などで支援値が蓄積される。この値が一定のレベルに達すると、ユニット同士の「支援会話」を見ることができ、「支援レベル」が上昇する。支援レベルは戦闘においてプラスの影響を与えるほか、シリーズの過去作では、支援レベルが最大に達したユニット同士で結婚イベントが発生することもあった。今回はプレイ範囲が限定的だったため、残念ながらイベントの有無までは確認できていない。製品版でどうなるか、乞うご期待だ。
・平日の「教育」で「技能」を向上し、生徒の才能を伸ばしまくれ!
楽しい週末を過ごした後は、勉学に励むことも大事だ。週明けになると平日の過ごし方について指導内容を決めることができ、生徒ごとに技能を指定して行なう「個別指導」や、ランダムの「おまかせ指導」などの選択肢がある。技能には「剣術」や「馬術」など様々な種類があり、兵種によってクラスチェンジの条件となる技能は異なる。面倒な場合はおまかせ指導を選んでも大きな支障はないが、ぜひ読者の皆さまには一度でもいいので、個別指導を試してみてほしい。なんというか、「先生ってこんな気持ちだったのかな……」がリアルに体験できるのだ。
基本的には生徒の得意な技能を伸ばすことが、兵種合格への近道だ。しかし、時には心を鬼にして、生徒の苦手な技能を伸ばしてあげることもまた、教師の務め!上達が遅くとも、根気強く指導していけば、いずれ「才能開花」して苦手が得意に変わり、新たなスキルや技を覚えることもある。そう、まるで生徒自身さえ気づかなかった可能性に気づかせるのが、教師の真の役割では?と言わんばかりだ。
また、初めのうちは指導レベルが低いため、個別指導は1人しかできないが、生徒たちと交流して、自身も知識を増やしていくうちに指導レベルが上がり、指導できる人数も増えてくる。新米教師が少しずつ生徒の信頼を勝ち得て、人として成長していく過程が妙にリアル!キャラクター育成に、教育のリアリティをここまで落とし込んだうえで、尚且つゲームとしての面白さを失わないとは……もはや奇跡とも言えるバランスに、筆者はそっと手を合わせて天を仰いだ。
どんな遊び方も許容する待望のシリーズ最新作は、掛け値なしの最高傑作の予感!
シナリオ、戦闘、そして育成、交流と、あらゆる面において進化を感じられる本作だが、その根底にあるのは「自由な遊び方」の追求だ。イベントシーンはもちろん、なんと月末の課題出撃までのイベントを一気にスキップする機能もあるので、とにかく戦闘を楽しみたい方は散策を一切やらずとも物語を進められる。シリーズ初期の「戦闘→準備→戦闘」の繰り返しで進行した作品が好きなプレーヤーは、ストイックに戦略シミュレーションだけを楽しむこともできる、というわけだ。反対に、キャラクターとの交流を楽しみたいが戦闘は苦手、という方には、マップでの行動を1手単位で巻き戻す救済措置も用意されており、また平日の指導で技能が伸ばせるので、従来よりも戦闘以外での育成手段が充実している。
「ファイアーエムブレム」ほどの長いシリーズともなると、多様化するプレーヤーの要望をどこまで叶えられるのかが、大きな課題となってくるだろう。その意味で、本作はひとつの答えを提示したとも言える。戦闘に明け暮れても、交流に勤しんでも物語が進むよう、遊び方はプレーヤーの裁量に委ねられ、それぞれが理想とする「ファイアーエムブレム」の形が、ここにはある。
今回プレイできた範囲では、まだまだ物語には多くの謎が隠されており、特に戦争編における他学級の生徒だった者たちとの関係性など、先の展開が気になって仕方がなかった。しばらくシリーズ作品から離れていた方や、アプリでしか遊んだことがないという方にも、これが令和初の「ファイアーエムブレム」だ!と胸を誇って紹介できる本作。シリーズの集大成とも言うべき進化を遂げた超大作「風花雪月」を、ぜひこれからの季節の移ろいと共に、じっくり楽しんでみてほしい。
© 2019 Nintendo / INTELLIGENT SYSTEMS Co-developed by KOEI TECMO GAMES CO., LTD.