「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」レビュー

ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド

大自然で感じる冒険の喜び! 「何かがありそう」で満ち溢れる魅惑の世界

ジャンル:
  • アクション/アドベンチャー
発売元:
  • 任天堂
開発元:
  • 任天堂
プラットフォーム:
  • Wii U
  • Nintendo Switch
価格:
6,800円(税別)
 
9,980円(税別)
( COLLECTOR'S EDITION)
発売日:
2017年3月3日

 「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(以下「BotW」)において、大きな要素となっているのは「自然との対峙」だ。広すぎるとすら思える草原、切り立つ山々、そしてところどころで出くわす謎の遺跡の数々……。

 リンクはこの世界に文字通り丸裸のまま、それもたった1人で放り出される。それはとても孤独だが、同時に1歩踏み出すたびに発見がある、驚きに満ち溢れた冒険が待ち受けていることも意味している。フィールドを駆け回ってみればわかるが、一見何もないようなに感じられる場所でも実際には様々な仕掛けや遊びが隠されていて、辺りをウロつくだけでも相当な時間を費やし、楽しむことができる。

 「BotW」をプレイしていてひしひしと感じるのは、「BotW」の構成が、こうした大自然の中で育まれる「冒険の喜び」を生み出すことに常に注力しているということ。1つ1つのシステムに驚くほど特殊なものがあるわけではないが、未知の領域に踏み出していく勇気、何が飛び出すかわからないスリル、そしてその先に待ち受ける試練といった、そういった感情の部分も含めてとても丁寧に作られており、それがプレイ体験としての「冒険の喜び」となって返ってきているように思う。

 そこで本稿では、「BotW」がなぜ「冒険の喜び」を感じずにはいられないか、いくつかのポイントに着目して述べていきたい。

【ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド 3rd トレーラー】
本稿では、あえてストーリー部分にはほとんど触れていない。これから始めるという方は、ぜひリンクと一緒に、驚きに満ちた旅を経験していただきたい

「野生の息吹」が緻密に描かれる大自然

ひとたび歩けば、様々な生物に出会う。画面では、サギとリスが見えている
狩猟すれば、動物は素材アイテムの「肉」に変化する

 「BotW」は、シリーズ作の中でも特に静かなゲームだ。「ゼルダの伝説」と言えば有名なあのメインテーマだが、本作はフィールドでメインテーマが流れることはない。戦闘時や、特定の条件下ではBGMが流れ出すが、基本的には静謐な時間が流れる中で、草木が風に揺れ、鳥たちはさえずり、時折遠くで馬の嘶きが聞こえるといったように、自然の環境音が響くのみだ。

 この静けさと環境音のコントラストは、フィールド上に何があるかをわかりやすくするためという以上に、“生きている自然”を強調するためのように思う。激しい雨が打ち付けるときがあれば、風の音だけが聞こえる夜もある。メインテーマが鳴らずとも、自然は常に音を発している。移動するに連れて刻々と変わる環境音こそが、冒険を楽しむ上でのBGMになっている。

 加えて、これら大自然の生物たちはすべてがシステムと密接に結びついている。本作には「料理」システムがあり、肉や魚などの素材を一緒に調理することで、体力の回復などを行なう料理アイテムや、移動速度上昇などの付加効果をメインとした薬を入手できるのだが、これらの素材は主に自然から調達することとなる。

 たとえば肉は、フィールド上にいるシカやトリなどの動物を倒すことで手に入り、魚は川で泳ぐ魚を直接捕まえる。虫は草むらなどに隠れていることがあり、キノコは岩や木の陰に自生しているといった具合。

 この素材集めのシステムで上手いなと思うのは、手続きが「近づいて取る」だけと驚くほど簡単なこと。動物や敵などは倒して素材に変化させてからアイテムを獲得する必要があるが、魚や草など、そのままで素材になるアイテムは近づいてAボタンを押せば良い。

 ただ虫や魚は物音に敏感なので、静かに近づく必要がある。ただ歩いていたら獲得できるのではなく、捕まえるという意志を持って行動しないとなかなか捕まえられない。とはいえ、素材集めにありがちな釣り竿や虫取り網も必要ないので、いちいち装備を持ち替えるような煩わしさがないのは非常に大きい。

 この徹底ぶりはシリーズおなじみの「妖精」でさえ直接捕獲できることにも表われていて、そのおかげで、どんな状況でも素材を見つけた瞬間に即確保できる。ここをシンプルにすることで、冗長になりがちな素材集めのかったるさがすべて吹き飛んでおり、「素材を獲得してどうするか」というその後の展開に集中できるのは、細かいことだが重要に感じられた。

様々な素材を組み合わせることで、料理や薬を作り出せる「料理」システム。最大5個まで組み合わせ可能で、作っておけばおくほど冒険上かなり役立つので、何ができあがるのか楽しんで取り組める要素

プレーヤーがゲーム開始直後に向かう場所からの風景。美しい景色の中に、禍々しい違和感を覚える場所がある

 そして面白いのは、そうした生物たちの存在感が、プレイを通して徐々に増してくるということ。ゲーム開始直後は、特に虫や魚は環境を彩る程度の存在なので、あまり注意が払われることはない。しかしプレイを進めて、「近づけば実際に捕まえられる」ということがわかってくると、その存在は途端に大きなものとなっていく。ともすれば見逃してしまいがちな生物たちをどんどん身近に感じるようになり、山道を行く間にも、森を進んでいる間にも、様々な生命を見つけ、その存在に触れることとなる。

 一見ただの草原でも、そこにはたくさんの生命が蠢いている。こうした多様な生命との密接な関わりを感じること=「野生の息吹(ブレス オブ ザ ワイルド)」がしっかりゲームの中で描かれていることで、生きている世界としての真実味が増し、プレーヤーは身近な昆虫や動物に興味を持ち、行ったことのない場所に繰り出す少年少女に立ち返ることができる。

 舞台となるハイラルの地は「厄災」に1度負けた世界だが、それでもひとたびフィールドを移動すれば、生物たちはなおも逞しく暮らしていることがわかる。生物たちが暮らす世界は、そこだけを切り取れば平和であり、何より美しい。しかし「厄災」は一時的に力を押さえられているだけで、世界はすぐにでも失われる危機に瀕している。

 無論本作はゲームなので、「厄災」を無視してフィールドを駆け回っていても良い。ただこの「厄災」は、フィールド上からチラチラ見える位置にあり、平和でのどかな世界の違和感としてゲーム開始直後からプレーヤーの視界に入り続ける。

 加えて、プレイを続けていると、時折「赤い月」が現われることがある。「赤い月」では、世界が不気味な赤に染まり、これまで倒してきた魔物たちが復活してしまう。「厄災」を打ち倒すまで延々と続くことになるこの現象も、プレーヤーに世界の危機を意識させている。「いつかは戦わなければならない」という「運命」をリンクと共に感じながら、冒険を続けていくことになるのだ。

場所が変われば、登場する動物も変化する
草を刈るとバッタが登場することも
魚や虫は、取ろうという意識がないとなかなか確保できない

「何かがありそう」で満ち溢れるフィールド

高い場所から周囲の風景を見渡す。「あそこに行けば何かがあるのでは」という予感に従うのが大事

 そうした「野生の息吹」が至るところに感じられる「BotW」では、「発見の連続」が常に起こる。

 フィールドには素材となるアイテムや生物が多く蠢いているだけでなく、「ボコブリン」をはじめとした敵キャラクター、埋まった宝箱、破壊すると宝石アイテムが出てくる特殊な岩、またいかにも仕掛けがありそうに配置された地形など、少しフィールドを歩くだけでそうした出会いがいくらでもある。

 たとえばそこら辺の木によくなっている「リンゴ」を取るにしても、ついでに木に登ってみれば「トリのタマゴ」が落ちていることがある。「タマゴ」を取って得した気分になっていると、そこから見る風景の中に「ゼルダ」にありがちな「爆弾で壊せそうな岩」があり、実際に爆破してみると中から宝箱が出てくる……といったように、プレーヤーの興味を惹くできごとが連続していく。

 本作はオープンワールドで構成されており、どこで何をするかはプレーヤー次第だが、どこに行ってもこうした仕掛けが満載なので、フィールドの移動そのものがものすごく楽しい。たとえ何もなかったとしても、プレイ中は常に「何かありそう」と思えるので、ただの移動もほどよく緊張しながら楽しむことができる。そして実際、「ここに行く!」と決めて移動を開始してみれば、途中に気になるものがあってついつい寄り道……という経験が本作では数え切れないほどある。

水面に浮かぶ木の宝箱は、アイスメーカーの氷柱で押し上げると獲得できる
壁面に生えるキノコ。本作では壁面さえ立派なフィールドの1つとなっている

マップの至るところにいるコログ族。「怪しい場所」には必ず潜んでいる
いかにも何かありそうな場所だが……?

 フィールド上の「仕掛け」の中でも筆者が気に入っているのが、「コログ族」だ。この「コログ族」は、「発見」すると武器、盾、弓矢のポーチ数を増やせる「コログの実」を1つくれる木の精霊。普段は姿が見えないが、たとえば水面に浮かぶ葉っぱの輪に飛び込む、高い位置にポツンとある石ころを持ち上げるなど、「特定の場所」で「特定の行動」をすると姿を現わして「発見」となる。

 この「コログ族」は基本ノーヒントで、マップ全体の至るところにあり、さらに特定の目印がないというのがポイント。「あ、なんか怪しいな」と思ったら大抵コログ族の仕掛けで、ほかにも像へお供え物が1つだけ欠けていたり、近づくと消え、違う場所に出現する「花」が突然出てきたり、ほかにも様々なパターンがある。

 ただどこにあるかわからないので、「怪しさ」を感じたらとりあえず行ってちょっかいを出すというのがセオリーになるのだが、そうこうしていると「塔を起動して新しい地域の詳細マップもオープンしたいけど、今いるマップのここって行ってみたいかも……」という欲求が次々と生まれてくる。

 また実際に行ける場所についても「がんばりゲージ」(スタミナ)が続く限りは山に登ったり、川を泳いだりを自由に選べるのも大きい。気まぐれで山登りをはじめてみたり、その上から次の目的地を探してパラセーリングで滑空してみたり、「やりたいこと」は尽きることがなく、早い話がまったくメインストーリーが進まない。それほど、本作のフィールドには制限も無駄な場所もない(山の壁面でさえキノコが生えている!)。山でも川でも、どんな場所でもアクセス可能だし、どんな場所にも発見がある。

 生物たちの蠢きもそのひとつだが、そうした仕掛けがコツコツと積み重ねられていることで、マップ全体そのものが謎に満ち溢れたダンジョンとしてできあがっている。そうした細やかで丁寧な仕事が、結果として「あそこに行けば何かがありそう」というポジティブな予感を生み出し、「次はどこへ行こうか」という冒険心を大いにくすぐってくれる。

アクションを覚える度に輝きが増す世界

「しゃがむ」アクションを知ることで、初めて虫を捕まえられる
マップに点在する「祠」。覚えたアクションの“中間試験”的な存在

 こうした「世界が謎で溢れている感覚」は、プレイ直後すぐにわかる訳ではない。裸のまま何の知識もなく世界に放り出されるとは言いながら、示される目的地に従い、人々の話を聞いていくうちに、少しずつアクションや作法を学んでいく。

 本作には様々なアクションがあるが、筆者が印象深いのは「しゃがむ」。「しゃがむ」は姿勢を低くして静かに移動できる手段で、敵から見つかりにくくしたり、馬を捕まえるために静かに背後から近づいたりするときに使用する。

 筆者は最初この操作に気付いておらず、馬を捕まえるために初めて「しゃがむ」を使ったのだが、そうすると馬だけでなく、付近の虫やトカゲ、カエルも捕まえられるようになったほか、また寝ている敵や背中を見せている敵はしゃがんで近づくことでステルス攻撃の「ふいうち」ができるようになり、急に世界が広がった気がした。

 他にも木を切るのは「斧」だけだと思っていたが、敵との戦闘で大剣を振り回していたとき、たまたま木に当たると切り込みが入ったことで、「斧だけではなく両手持ちの剣でも木が倒せる」と気付くなど、住民に教えられたり自分で発見したりしながら、「こういうことができるんだ」ということを徐々に学んでいく。

 これは他のアクションでも同様で、たとえば水面から氷柱を作り出す「アイスメーカー」は水面の足場になるだけでなく、敵の攻撃の防御壁になったり、檻を押し上げて塞がれた道を開いたり、ほかにも様々な応用方法がある。

 そして「ゼルダ」らしく、ゲームの攻略上もこうした「応用の発見」は不可欠で、特に試練の待つ「祠」や、ストーリーのキーとなる「神獣」はその集大成だ。「何かのアクションは何かに応用が効く」ことが普段から丁寧に繰り返され、また説明されていくので、プレーヤーも「こういうことができるのではないか」と色々と試したくなるし、実際に成功することも多い。ハイラル世界全体に謎が散りばめられているとすれば、数々のアクションは謎解きのプロセスの幅を広げる役割を持っていると言える。

 「この世界では何かを色々試していいんだ」と思わせる状況作りが、「BotW」の完成度の高さに繋がっていると思う。そうして「学び」や「発見」が幾度と繰り返されていくうちに、「BotW」での冒険は輝きを増していく。移動しては思いつきを試し、次の場所でも思いつきを試し、いつの間にか「BotW」世界にすっかりハマリ込んでいる自分に気づくのだ。

怪しい岩が置かれている。この岩には、どうやら「ビタロック」(動きを止め、その間に動力を蓄積できる)が効くようだが……

細かく丁寧に押し広げられたハイラルの世界

「登る」というアクションは移動手段である以上に、次の目的地を決める上で大事なアクション。本作では詳細マップでさえ情報が少ないので、「目視」が何よりもモノを言う。この仕組みが能動的なプレイを自然に誘っている
弓矢の装備変更画面。RZ、左ボタンを押しながら、さらに右スティックを倒さなくてはならない

 記事の冒頭でも述べたが、「BotW」では、これといって目立つような、作品のウリと言えるような大胆で新しいシステムが導入されているわけではない。オープンワールドという仕組みは特別ではないし、拠点の開放で徐々にマップに詳細が加わっていくシステムは、「アサシン クリード」シリーズをはじめとしたユービーアイソフトの一連の作品で見られる。

 ほかにも素材集めだったり料理システムだったり、過去他作品との類似点を上げればキリがないが、本稿でも繰り返し述べている通り、「BotW」についてはそうした構成要素の1つ1つの作り方が驚くほど丁寧だ。

 世界に住まう生物の描き方、マップ構成、アクションと謎解きの関わり方、そうしたものが細部に渡って作り込まれ、調整されていることで、すべてを総合した時に「BotW」は「BotW」であるとしか言いようのないゲームに仕上がっている。そして、そうした細やかさが広大な世界全体に渡って行き届いているのが、本作の突出した部分だと思う。

 かつて任天堂の開発者だった横井軍平氏が電卓の液晶からゲーム&ウオッチを生み出したように、既出のシステムを用いて任天堂が真に考える「面白いもの」を作り出すという実験が「BotW」なのではないか。「枯れた技術の水平思考」ならぬ、「枯れたシステムの水平思考」の実践が「BotW」として帰結したのではないか。そうとすら思えるほど、「BotW」の完成度は高い。

 強いて難点があるとすれば、アクションを詰め込みすぎて操作しづらい瞬間がある。たとえば弓に装備する矢を変更したい場合、1度RZボタンを押して(弓に装備を切り替えて)から、さらに十字ボタンの左を押しつつ(弓の変更は右)、右スティックを左右に倒す、という操作が必要となる。そのような感じで各ボタンに目一杯の操作が詰め込まれているので、すべてを瞬時に捌くにはかなりの慣れが必要だし、特に初心者には難易度が高いように思う。

 実際急場になると操作に混乱してしまうことが少なからずあるのだが、とはいえ、「BotW」の評価が変わるほどではない。筆者も絶賛プレイの途中なので、今日も「BotW」に仕込まれた、ワクワクするような壮大な仕掛けや謎と戯れていきたい。

【3月14日:編集部追記】
 記事中のアクション操作に関する記述について、より正確な表現へと修正いたしました。

「BotW」の世界では実に様々な出会いが待っている。心して楽しんでいただきたい