「ドラゴンクエストIX」市村プロデューサーが数字を披露して講演
レアな宝の地図は「プログラム的には30万分の1の確率だった」
スクウェア・エニックスのドラゴンクエストシリーズ プロデューサーの市村龍太郎氏。データを披露しながらどのように「ドラゴンクエストIX」の商品プロデュース、宣伝プロデュースを進めていったかを説明していった |
株式会社宣伝会議が11月26日、27日に開催したセミナー「宣伝会議 プロモーション&メディアフォーラム2010」において、株式会社スクウェア・エニックスのドラゴンクエストシリーズ プロデューサー・市村龍太郎氏が講演「~ドラゴンクエストIX 400万本への道~ 新規ユーザー開拓の突破口は『コミュニケーション』にあり!」を行なった。数々の貴重なデータを示しながらの講演で、興味深い内容だった。
市村氏は「ドラゴンクエストIX」について開口一番「コンセプトはたった2つ。『ずっと遊べる』と『みんなで遊べる』です。(プロデューサーとして)この2つを元に、作品の制作へもアプローチしプロモーションへもリンクさせた」と切り出した。市村氏はここで「3次元プロモーション戦略」として図を示しながら、どういったイメージでプロモーションを構築していったかを説明していった。
市村氏の「3次元プロモーション戦略」の縦軸(y)は「プレイ人口」で横軸(x)は「コミュニケーション」、そして奥行き(z)が「時間」となっている。プレイ人口という観点については、まず最初に従来のファンをしっかりと確保する。次に昔プレイした層を掘り起こす。最後に新規ユーザーの獲得とした。ちなみに市村氏のデータによれば従来のドラクエファンは198万人、昔プレイしていた層が140万人、そして新規顧客が65万人で「思ったより新規顧客を取り込めた(市村氏)」と、アプローチ通りの結果を出している。
市村氏は新規顧客の獲得が「1番大変」として、一見、遠回りにも見える大きな手を打ったという。それは「ドラゴンクエスト モンスターバトルロード」の投入で、「ドラクエのことは(子供は)みんな知らない。『ドラゴンクエストIX』を出してもすぐに欲しくはならない。長年すり込んでいかなければ。アニメや漫画といったマルチメディアなコンテンツを投入し展開するのが良いが、我々にはコンテンツがなかった。だからゲームを投入し、『ドラゴンクエストIX』とは別の商品からアプローチすることにした」と説明した。
これだけ大がかりに時間をかけて仕掛けられるのはやはり「ドラゴンクエスト」という大きなフランチャイズだからこそ打てる思い切った手と言えるが、「モンスターバトルロード」は年明けにはカードの出荷枚数が2億枚を突破するという人気ゲームに成長していくことになる。市村氏は「ドラクエ」の大きなアドバンテージとして「親が知っている」点を挙げている。親が知っているため子供にお金を与えてプレイさせる……そこから広がっていくという連鎖がピッタリはまったことになる。そしてこの“親子の繋がり”は「ドラゴンクエストIX」のマルチプレイのシステムにも受け継がれる。「ドラゴンクエストIX」における子供のユーザーは55万人で、さらに細かく見てみると「モンスターバトルロード」の50万人の想定ユーザーの内25万人が「ドラゴンクエストIX」を購入したというデータがあるという。狙った通りの展開というわけだ。
次にX軸の「時間」について。これはもちろんプレイ時間について。スクウェア・エニックスの和田洋一氏もことあるごとに言っているが、プレイ時間が長くなるとゲームを手放すことが無くなり中古市場に廻らなくなる。これは大きく、市村氏によれば「これまでのシリーズから比べて(中古市場に流れたのは)半分くらい」だという。ゲームに愛着を持たせると他の人に勧める傾向もあるため、いろいろなアイディアをゲーム内に投入していったという。「ドラゴンクエストIX」の平均プレイ時間は140時間で、これを400万人の平均としてかけあわせると5億5千万800時間……6万年にも達すると市村氏は笑いながら語った。クリアするとやめるゲームだったが、約半数のユーザーはクリア後も継続してプレイし続けているという。
最後にZ軸の「コミュニケーション」について。家族や友人といった小さなマルチプレーヤーの輪をまず作り、生活圏内へと広める工夫として「すれちがい通信」を用意し、それが繋がることで日本全国に広がっていく。市村氏は話題となった「すれちがい通信」について「過疎地では拡大しにくいというのはわかっていた」と言い、全国2,500店舗にある3,800台の「モンスターバトルロード」の筐体を使った超連動を企画として盛り込む。ここでは「モンスターバトルロード」をプレイしている人も待っている人も「ドラクエ」をプレイしているというコミュニケーション感が演出でき、さらに待っている人同士でもすれちがい通信が発生する。「(モンスターバトルロードを介することで)すれちがい通信の聖地を作る」と言い、すれ違える“場”を作ることを進めていったという。
市村氏はこの他にも男女比を示し「口コミを広げてくれと言っても広がらない」とし、どうやって広がっていくのかイメージして施策を打っていく必要性を説いた。ちなみに発売当初の「ドラゴンクエストIX」の男女比は「8:2」だったが、現在では口コミが上手く機能して女性ユーザーが増え「7:3」にまで近づいてきているという。
発売後も各種数字を追い続け、運営定例会議を毎週開催し様々な施策を打っていると言い、「サービス業に近い」と市村氏はこれまでのゲームの売り方、作り方とは違っていることを示した。
計算ずくめに見えるが、この他にも「ミラクル」な要因もあったという。それが「すれちがい通信」と「宝の地図」の関連。「川崎ロッカーの地図」や「まさゆきの地図」の登場はスクウェア・エニックスとしては想定外だったという |
市村氏は前述の通り「3次元プロモーション戦略」を説明したが、「実は4次元目がある」と切り出した。それは「ミラクル」な要素で、「ドラゴンクエストIX」においては「すれちがい通信」と「宝の地図」の関連がそれにあたるという。市村氏は「ここまでは全く想像していなかった。『まさゆきの地図や川崎ロッカーの地図は仕込んだんでしょう』と言われるがしていない」ときっぱり。市村氏によれば「宝の地図」は自動生成であるため前述のような地図は偶然奇跡的に出来たのだという。プログラム的には30万分の1程度の確率だと言うことで「100人くらいでやるテストでやっても出ない」ということで、ここでも400万人というユーザー数がプラスに作用したと言えるだろう。
「すれちがい通信」と「宝の地図」の関連について市村氏は以下のように分析している。すれちがい通信では他人のプレイデータが見られるが、それは自分から情報を発信する事とも言える。ここでは短いながらもメッセージを書くこともできるため、ある意味SNSやTwitterと同じような現代のコミュニケーション方法にピッタリ合わさった。さらに「宝の地図」という“おみやげ”も持たせることができるため、「コミュニケーションの集大成(市村氏)」となったと考えている。
市村氏は「奇跡は待っていても来ない。必然を仕込まなければならない」と言い、種まきをした結果「必然と偶然が練金されて生み出された『ミラクル』」と「ドラゴンクエストIX」の錬金のシステムにかけて説明し締めくくった。
市村氏は年末を迎え「ドラゴンクエストIX」が様々な賞を受賞していることを明かし、「2009年のヒット商品ランキングで抗インフルエンザ商品より順位が上だった。インフルエンザより蔓延したと言うこと」と語り、「ニンテンドーDS」という個人ツールとも言える携帯ゲーム機、「ドラゴンクエスト」と、ユーザーの「コミュニケーション」という切り口で商品を捉えることで、「ゲームという枠を超えコミュニケーションツールに進化した」と分析してみせ、講演を終えた。
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※画面はすべて開発中のものです。内容・仕様は実際の製品とは異なる場合があります。
□「宣伝会議」のホームページ
http://www.sendenkaigi.com/
□「宣伝会議 プロモーション&メディアフォーラム2010」のページ
http://pmforum.jp/
□スクウェア・エニックスのホームページ
http://www.square-enix.com/jp/
□「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」公式サイト
http://www.DQIX.jp/
(2009年 11月 27日)