CESA Developers Conference 2009現地レポート

堀井雄二氏が持つ「ドラゴンクエスト」の文法とは?

「I」の成り立ちから「IX」の新たなコンセプトまでを語る


9月1日~3日 開催

会場:パシフィコ横浜



堀井雄二氏

 CEDEC 2009の最終日となった9月3日、「ドラゴンクエスト」の生みの親として知られるゲームデザイナーの堀井雄二氏が、「国民的ゲームとは何か? ~ドラゴンクエストの場合~」と題して基調講演を行なった。

 「ドラゴンクエスト」シリーズは、7月に最新作となるニンテンドーDS用RPG「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」を発売したばかり。現在までに370万本を、1作目の発売から23年が経った今も人気が衰える気配はない。

 講演の始めに「こういったところで話をするのは苦手」と言っていた堀井氏は、実際のところ、こういった場所で講演を行なうのは珍しい。しかも新作が出て間もないタイミングということもあり、堀井氏が何を話すのかに注目が集まった。

 なお講演では、「ドラゴンクエストIX」のプロデューサーを務めた市村龍太郎氏と、同ディレクターの藤澤仁氏も登壇。市村氏が司会役となり、堀井氏と藤澤氏が答えるといった形で講演が進められた。




■ マニュアルが要らない、「ドラゴンクエスト」の文法

市村龍太郎氏
藤澤仁氏
堀井氏を中央に、市村氏と藤澤氏がサポートする形で講演が進んだ

 まず初代「ドラゴンクエスト」を作っていた頃について堀井氏は、「当時は性能が低かった。容量は64KB。その中に、プログラム、絵、音楽などが全部入っている。そのためにいろんな工夫をしていて、例えば文字は6bitに収めているので、カタカナは20文字しか使えない。アイテムも15種類にして、bit単位で削っていた」と、当時を振り返った。

 その状況での制作において最も気をつけていたことは、「わかりやすさ」だったという。当時はRPGというジャンルが知られておらず、何をしていいかわからないため、敷居が高かった。そのRPGを、普通の人でも遊べるようわかりやすくすることに気を配ったのだという。その第1段階が、アドベンチャーゲーム「ポートピア連続殺人事件」。このゲームには、「コマンドを選ぶとゲームが進む。文字で遊ぶことに慣れてもらう」という狙いがあったそうだ。

 「ドラゴンクエスト」の開発においては、名前の付け方についてのエピソードが披露された。「今でこそ『道具屋』という言葉が普通にあるが、当時、店の名前に、武器屋、防具屋ときて、アイテムを売る店はアイテムだから道具屋にしようと決めた。道具屋という店は現実にはない。でもダイレクトなほうがわかりやすいので、短くひらがなで書けるこの名前にした」という。

 次に、「2作目、3作目でさらに人気を集めるためのアプローチは?」という質問に対し堀井氏は、「『III』まではあまり苦労していない。『I』ではRPGをわかってもらうために、コマンドも簡単でパーティもない形にゲーム内容をシンプルにした。『II』で容量が増えたのでパーティプレイにしたが、いきなりパーティだと難しいと思ったので、シナリオで増えていくようにした。当時のRPGにはあまり物語がなかったが、シナリオがあるほうがわかりやすい。シナリオとシステムをマッチさせていった」と答えた。

 続いて「多くの人が遊ぶゲームだからこそ、大切にしていることは?」という問いには、「私はゲームをやるときにマニュアルを読まないので、読まなくても遊べるゲームにしたかった。RPGはアクションゲームと違い、自分が動かないと何も起こらない。それをわかってもらうため、『I』は最初に狭い王様の部屋に閉じ込めた。話す、調べる、階段、扉といったコマンドで脱出できれば、その後のゲームシステムがわかるような作り方をした。何かすると、何かリアクションが起こるということをわかってもらいたかった。それが『ドラゴンクエスト』の文法だと思う。文法さえ覚えれば、多少応用があってもできる」と述べた。さらにその説明のさじ加減について、「画面上であまり説明しすぎると、逆に読む気がなくなるので簡潔にする。わからなくてもクリアできることはスルーする」と付け加えた。

 市村氏は堀井氏と仕事をして、「ゲーム序盤のチェックが厳しい」と感じたという。これについて堀井氏は、「序盤が厳しいと、ゲームを投げてしまう。何をするかがわかれば、プレーヤーはその先に期待が持てて、能動的に遊んでくれる。そうなればどんなゲームも面白い」と持論を述べた。

 これについて藤澤氏もコメントし、「ユーザーがうまくいかないことがあっても、レアケースならいいのではと思うことがある。しかし、『ドラゴンクエスト』で1%だと、4万人いる。堀井さんは厳しく、そういうことをなくそうという」のだそうだ。堀井氏は「文句を言う人はまだいい。ゲームがわからないと、『私はゲームに向いていない』と思って2度と帰ってこない。そういう人を増やしてはいけない」と、序盤の重要性を改めて説いた。

 「シリーズゲームならではの注意点は?」という問いに堀井氏は、「1作目が面白いと、2作目の期待値がどんどん上がり、同じような面白さだとつまらなく感じる。『ドラゴンクエスト』の場合、幸運にもハードが進化した。容量がどんどん増えて、できることも増えてきた。『II』は3人パーティ、『III』は転職、『IV』はオムニバス。それが『VIII』まで続いた」と答えた。特に「VIII」のインパクトが強かったそうで、「僕にとっての夢だった。『I』の時から、頭の中ではああいう映像を考えて作っていた。画面を見たときに、これはすごい、ゲームはここまでできるんだと思った」と語った。




■ 性能は落ちたが、新たなコンセプトで進められた「IX」

 ハードの性能が伸びていくことで進化してきた『ドラゴンクエスト』は、最新作である『IX』で、初めてハードの性能を落とした。堀井氏は「ニンテンドーDS以外で出すか、かなり悩んだ」と漏らしたが、いざDSと決まっても、ハードの性能が落ちた上でどうすればいいか、スタッフ全員で悩んだという。

 ここで藤澤氏が、「IX」のゲームデザインがどう決まっていったかについてプレゼンテーションを行なった。スタートは酒の席で夢のように語った、「DSでマルチプレイができるドラクエを作る」ということで、それが盛り上がって実現に向けて走りだすことになったのだという。

 開発コンセプトは、「ずっと遊べる」、「みんなで遊べる」。しかしこれまでの『ドラゴンクエスト』は、エンディングまで50時間くらいで、ヒントを聞かず1人で攻略するもの、というプレイスタイルだった。「これを今回のコンセプトにするのは大変だった」という。

 「ずっと遊べる」を実現するゲームデザインとしては、エンディング後も遊べる要素を加えた。エンディング後の世界を描くのは、『ドラゴンクエスト』シリーズ本編では初めて。移動手段を増やすなどして、新しいことが始まることを強調する狙いがあったという。また、強くなりたいというRPG最大のモチベーションを続かせるため、無制限に強くなる成長システムと、それに伴って成長する敵を「宝の地図」で実現した。

 さらに、「1度離れてもまた遊ぶ気になるゲームデザイン」も組み込まれている。毎日売っているものが変わる「Wi-Fiショッピング」や、人が増えることでメリットが得られる「すれちがい通信」で毎日電源入れるよう誘導し、さらにWi-Fiでの新規クエスト配信などで、1カ月くらい離れていても再び遊べる要素を提供している。

 もう1つの「みんなで遊べる」を実現するゲームデザインでは、「すれちがい通信」で「宝の地図」を交換できることが、直接的なマルチプレイでなくても、他のプレーヤーと一緒にプレイしている感覚を得られるものとなっている。また、クエストや錬金レシピなどで、難易度を高めにしているという。これには、「ユーザーの口コミを期待したこともあるし、今はインターネットで攻略情報を探す時代。みんなで探したほうが楽だし、楽しい」という。

 さらに、「人に話したくなるゲームデザイン」も盛り込んでいるという。キャラクターの見た目や強さ人によって異なっていたり、明確な目標を示さないようにすることで、他人との差別化をはかっている。これによって自分のプレイを人に話したりブログに書いたりといった、自ら情報を発信したくなる気持ちを引き出しているという。

 そして「IX」の最も大きな課題は、スタートダッシュ型ゲームから、ロングラン型ゲームへの質的変換だったという。従来のシリーズは発売1週目で9割を売り上げ、その後は止まるという傾向だったが、これを長く売れるようにしたかったという。まだ発売から2カ月で正確な数字は見えづらいが、あまり中古に出ていないといった効果は見え始めているという。

 また今後の課題として、シリーズゲームでありながら新しいプレイスタイルを提案し、従来作のファンに理解してもらうことを挙げた。新しいスタイルは、従来作のファンほど理解しづらくなるものなので。どうすればいいかということを今後も考えていくという。


「ずっと遊べる」、「みんなで遊べる」をコンセプトに、従来のシリーズとは異なる魅力が求められた「ドラゴンクエストIX」には、さまざまな仕掛けが組み入れられている



■ 「すれちがい通信」の流行は予想をはるかに超えていた

壇上でDSを取り出し、「すれちがい通信」を始めた堀井氏

 藤澤氏の説明が終わったところで、改めて3人が「IX」の開発を振り返った。堀井氏は「IX」について、「今までは、自分の携わったゲームは、完成後にはやらなかった。今回は自分で見ていないところが多いので遊べている。作るのはとても大変だったと思うし、『すれちがい通信』など、何が起こるかわからない、わくわくする感じが入っている。すごく苦労して、よく作ってくれたと思う」と語った。

 藤澤氏は開発時に堀井氏から、「マルチプレイができる『III』みたいなゲーム」と言われたという。研究のために改めて「III」をプレイしたという藤澤氏は、「ロジックとして面白いのはわかるが、それ以上になぜかやめられない。そういう感覚を『IX』で再現したいとい思った」と語った。

 開発期間は5年に及んだが、その間の悩みについて聞かれた堀井氏は、「シナリオが1番悩んだ。1つ1つは濃いけれど、全体ではすぐ終わるのではと思った。システムで楽しめるゲームにするしかないと思った」と述べた。藤澤氏も、「シナリオは相当小さくてもいいという話もあった。でもそれでは『ドラゴンクエスト』ではないので、どの程度シナリオに力を配分するかは最後まで悩んだ」という。

 完成したゲームについて、現状を見ていて感じることとしては、「想定以上にゲームの消化が早い。みんなもっとゆっくり遊んでと言いたい」という堀井氏。プレイ時間も、既に100時間を越えているプレーヤーを多く見かけるという。これについては、「携帯機というのも大きかった。据え置き機だと、テレビの前に100時間もいられない。しかも『ドラゴンクエスト』は、プレーヤーが操作しなければ時間が止まるので、テレビを見ながらでも遊べる。そのゆるさがいいのではないか。100時間遊んでいても、100時間やった気はしない」と分析している。

 「すれちがい通信」については、3人揃って「こんなに流行るとは思わなかった」と驚いていた。「人間、物をもらうと燃える」と核心を突いた堀井氏は、「発見者と更新者に分けたのは、有名な地図ができるといいなと思ったから。でもまさか、それが『まさゆき』の地図(メタルキングしか出ないフロアがある)だとは思わなかった」と言って笑っていた。

 ここで壇上の3人がDSを取り出して、「すれちがい通信」を開始。堀井氏は既に820人とすれ違っていて、「地図を次々捨てている(所持数限界があるため)」と言っていた。藤澤氏は「すれちがい通信」の仕様について、「もうちょっと何とかしたらよかった。おまけ程度に考えていて、これほど遊ばれるとは思わなかった」と語った。

 これに関連して市村氏からは、先日発表されたアーケード用カードゲーム「ドラゴンクエスト モンスターバトルロードII」との連動について、「地方の方々はなかなか『すれちがい通信』ができないと聞いているが、『モンスターバトルロード』を発信拠点として、これがあるところを中心にコミュニケーションが広がっていくという狙いを持って仕込んでいる」と、その狙いを明かした。また遠くの友人と携帯電話を通じてゲームの進行度などを共有できるサービスでは、「アップロードされたセーブデータを集計し、人気の職業などを国勢調査のようにして発表したい」とも語った。




■ 長年の歴史とみなさんの思いが「ドラゴンクエスト」を国民的ゲームにした

国民的ゲームとは、持続と広がりを持つものだという堀井氏

 講演のまとめに入り、「これからのゲームはどうなっていくのか」という問いかけに堀井氏は、「ゲームはなくならないと思う。大学生がマンガを読む、と騒がれた時代があったが、彼らも今は60代で、今もマンガを読んでいる。今ゲームをやっている人が、老人になっていきなり盆栽をやっているとは思えない。ゲーム産業はなくならない」と答えた。

 また堀井氏は、「デジタルをファジィにするのが好きだ」という。「VIII」でテンションが上がるシステムが搭載された際、上がっていくテンションの値が5、20、50、100となっているのは、堀井氏の感覚的なもの。「突っ込まれると思ったら、誰も突っ込まない。人はああいうファジィな部分が好きなんだと思う」と堀井氏は語った。

 最後に、講演のタイトルにある「国民的ゲームとは何か」という問いには、まず藤澤氏が「日本のゲームの世界シェアは8%しかなく、さらに縮小している。その中で、我々がどうやって戦って勝てばいいのかというのは業界全体の課題。それを『ドラゴンクエスト』でもやるのかと問われて、堀井さんも含めて悩んだ時期があった。今は、『ドラゴンクエスト』は日本人が日本人のために作るゲームでもいいんじゃないかと思っている。ただし、日本人にはみんなに好きになって欲しい。日本人が1番楽しめるゲームだというのが、国民的ゲームだと思う」と語った。

 同じ問いに対して堀井氏は、「とても難しい質問。国民的ゲームを作るんだ、と思って作れるものではない。20数年の歴史が、みなさんの思いがそうさせた。昔、友達と競争して遊んだというような人が大きくなって、子供達に教えて、子供達も遊ぶ。より多くの人が遊べて、1つのゲームで話題になる。そういう持続と広がりを持つものが国民的ゲームだと思う。親と子供が同じゲームで遊べるって素晴らしいことだと思うと答えた。さらに続けて、「漫画家で例えれば、手塚治虫さんになるか、藤子不二雄さんになるか。これはプレーヤーが成長していくのか、あくまで初心者向けで行くのかということ。『ドラゴンクエスト』は藤子さんになれるといいなと思う」と、今後のシリーズ方針も垣間見せた。


(2009年 9月 4日)

[Reported by 石田賀津男]