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「少女兵器」、「鋼鉄少女」作者 皇宇(ZECO)氏特別インタビュー 第2弾

「鋼鉄少女」連載再開や、「艦これ」ブームの影響、コラボの可能性などについて聞く

1月収録

会場:Friendly Land本社

 約1年前、昨年2月の台湾取材で、台湾の独立系作家集団Friendly Landの紹介で、同社所属作家の皇宇(ZECO)氏にインタビューする機会に恵まれた。皇宇(ZECO)氏は、兵器を擬人化したイラスト集「少女兵器」や、旧日本海軍の艦船を美少女化したキャラクターで太平洋戦争を描く「鋼鉄少女」の作者として、日本にもファンが多い台湾の漫画家/イラストレーターだ。

 昨年2月の記事掲載当初は、「太平洋戦争の艦船を美少女化するなんてマニアックな漫画家が台湾にもいるんだ」というある意味予想通りの反応が多かったが、4月のあるゲームの登場を境に、この記事についてまったく違った反応が帰ってくるようになった。そう、「艦隊これくしょん」の登場である。

 時を同じくして、コミックガムで連載されていた「鋼鉄少女」は、外伝「北海のワルキューレ」が一区切り付いたため休載に入り、それと入れ替わるような形で「艦これ」が登場し、瞬く間に日本のブラウザゲーム市場を席巻した。

 多くの人は「『艦これ』が生まれる前から、実はこのような漫画があったんだ」とポジティブに評価し、「艦これ」の登場は、「鋼鉄少女」が再び注目を集めるきっかけともなったが、その一方で、一部の人は時系列を無視して「鋼鉄少女」は「艦これ」のパクりだと誤解する人もいて、Friendly Land代表取締役社長の王士豪氏や、皇宇さんは、思いも寄らぬノイズに悩まされたであろうことは想像に難くない。

 筆者自身、たまたま絶妙なタイミングでインタビューした立場として、太平洋戦争という同じモチーフ、艦船の美少女化という似たようなアプローチ、漫画とゲームという違った表現方法のものが、日本で大ブームになったことについて、彼らがどのように感じているのか気になっていた。今回インタビューを打診したところ、快く応じていただいたので、昨年に続いてインタビュー第2弾をお届けしたい。

【「鋼鉄少女」と「艦これ」】
左は「鋼鉄少女」の主人公である雪風(のちの丹陽)と大和。右は「艦隊これくしょん」の大和。同じ大和でもかなり描き方が異なる

「鋼鉄少女」連載再開に、「少女兵器」ゲーム化第2弾、第3弾と大忙しの皇宇さん

Friendly Land代表取締役の王士豪氏(左)と所属作家のひとり皇宇(ZECO)さん
コミックガム最新号を見せて、「鋼鉄少女」の連載再開を報告してくれた
「少女兵器」ドラマCDを収録した際に、声優の皆さんにサインしていただいたものだという
PlayStation Vita向けに「少女兵器」ゲーム化の記者会見を台湾で開催している

 1年ぶりに訪れたFriendly Landは、2月5日から始まるコミックフェアの準備で、コミックやチラシの類いが山と積まれて雑然としていた。王氏によれば、これでも取材対応のために綺麗にしたほうということで、来る前まではまともに座るスペースもなかったようだ。

 王氏は、挨拶もそこそこに、コミックガムの最新号を見せながら、昨年11月に皇宇さんと共に来日し、「少女兵器」のドラマCDを収録したこと、その際に「艦これ」プロデューサーの田中謙介氏に合って、意気投合したこと。2月に「鋼鉄少女」の画集の発売を予定していること、「少女兵器」のゲーム化の仕事が今も非常に忙しいこと、2月から「鋼鉄少女」の連載が再開されることなどを快活に語ってくれた。

 また、昨年の記事掲載後に、台湾や日本の関係者や読者から連絡が沢山来たという。「少女兵器」と「鋼鉄少女」は、日本では一部しか知られていなかったが、これでより多くの人が知ってくれたと嬉しそうに語ってくれた。さらに「艦これ」のブーム以降は、「鋼鉄少女」のライセンスに関する問い合わせが相次いだというが、本業である漫画制作・販売について台湾角川と業務提携しているため、その辺りの影響を慎重に考えながら進めていきたいという。

 「少女兵器」ドラマCDについては、井上喜久子さん、今井麻美さん、中村繪里子さんといった大物声優をキャストに、日台同時発売を予定しているという。「鋼鉄少女」の画集は、これまで描き溜めてきた未公開イラストや新規描き下ろしイラストも含めて「丹陽(雪風の台湾海軍旗艦時の名称)」の秘蔵資料を公開するという。王氏は、現在準備しているイラストも数点見せてくれた。

 ゲームについては現在進行形で、3タイトル抱えているという。昨年取材した際はブラウザゲーム「少女兵器 Web」だけだったが、現在はさらにコンソール版の「少女兵器」、スマートフォン版「少女兵器2」も抱え、各種イラストやちびキャラまで含めると100点以上を描いたという。コンソール版のプラットフォームはPlayStation Vitaを予定し、開発元はZEROPLUS。発売時期は未定ということだが、ぜひ成功させて、アーケード向けにも出していきたいと、早くも次回作構想もあるなどなかなか意欲的だ。

 コミックガムでの「鋼鉄少女」連載再開については、本当は、休載したもともとの理由である「少女兵器」のゲーム化関連の仕事をもう少し専念しておきたかったということだが、コミックガム編集部や読者から連載再開の要望が強いため、予定より早く再開することにしたという。それを後押ししたのはやはり日本での「艦これ」の爆発的なムーブメント。インタビューは、昨年春以降の「艦これ」のブームをどう見ていたか、から入ってみた。なお、回答は王氏と皇宇氏が2人でディスカッションして回答していたため、2人の回答として掲載している。

【少女兵器図鑑】
PS Vita向けに開発されているゲーム「少女兵器図鑑」

【北海のワルキューレ】
昨年3月にリリースされた「鋼鉄少女」の外伝エピソード「北海のワルキューレ」の単行本。第二次世界大戦の独英の海戦をモチーフにした作品となる

【皇宇さんが描き下ろしたラフ画】
皇宇さんが画集や、新連載に向けて描いているイラストや漫画のラフ画

良い面、悪い面があった「艦これ」ブーム。皇宇さんのイラスト参加や、「鋼鉄少女」とのコラボを希望

インタビューではしばしば2人でディスカッションが始まり、「艦これ」に対する想いは少しずつ違うようだ
「艦これ」の質問に答えづらそうにする皇宇さん
来月の発売に向けて準備している「鋼鉄少女」画集
その帯にメッセージを寄せるために準備したという田中謙介氏のイメージ
新連載で活躍するという新キャラクター翔鶴、瑞鶴の双鶴
復活を望む声が多いという4空母。上から順に赤城、飛龍、蒼龍、加賀。当然「艦これ」とはまったく設定が異なる

――昨年の日本での「艦これ」の大ヒットを台湾からどう見ていましたか?

王/皇宇氏:それについては何度もふたりで話し合いました。嬉しいこともありましたが、正直困ることも多かったです。「艦これ」ブームは突然やってきましたが、艦隊の擬人化は昔から流行っていること。自分たちとしては前からやっているけど、「鋼鉄少女」は「艦これ」のパクリだと心ないことを言う人もいて、ZECO(皇宇)さんのファンは「そうじゃない」と怒ってくれて、その度に、GAME Watchさんの記事を見て下さいと言ってました(笑)。結果としては「艦これ」で「鋼鉄少女」を知ったけど、読んだらおもしろいと言ってくれて読者を増やすことができました。

 「艦これ」プロデューサーの田中さんとは、お互いミリオタ同士、クリエイター同士として意見が合い、敵対するのではなくて一緒に市場を盛り上げたらいいねということで意見が一致しました。もちろん、オトナの事情や市場の違い、ユーザー同士が喧嘩したり、色々問題があります。本当は色んなことをやりたいのですが、「艦これ」がこれだけ大きくなると動きにくいし、下手に動くと「便乗だろ」と言われてしまいます。我々としては、昨年は精神的にツライ思いをしたので、これからは気にせずにやっていこうと思っています。

――日本ではちょうど「鋼鉄少女」と「艦これ」が入れ替わる形になりましたが、同時平行して走っていたらどうなっていたでしょうね(笑)

王/皇宇氏:「艦これ」とコラボしていたかもしれません(笑)。というのは、田中さんも「鋼鉄少女」のファンだといってくれて、お互いにミリオタで、情熱を持ってコンテンツを作っている方で、「艦これ」とコラボが今後出来るかどうかは別として、いちクリエイターとしてこれからも付き合っていきたいです。

 そうそう。2月の「鋼鉄少女」の画集は、田中さんが帯にコメントを寄せてくれることになったのです。専用の可愛いイラストも用意していただいて、どういう反応があるか楽しみにしています。

――複雑な想いがある「艦これ」ですが、ゲームとしてはどのように評価していますか?

王/皇宇氏:1つは皇宇さんが忙しすぎて遊ぶ時間が取れないこと。もう1つはDMMさんが海外のIPをシャットアウトしているので遊びたくても遊べません。もちろん、台湾のコアなゲームファンは、VPNなどを介して遊んでいたりしていますが(笑)。だから僕らは動画や記事などを見るだけですが、多数のイラストレーターが参加していて、レシピで軍艦を作ったり、色んなおもしろいアイデアが詰め込まれていると思いました。田中さんには皇宇さんにもぜひ艦娘のキャラクターを描いて欲しいと依頼されました。スケジュールや内容はまだ決まっていませんが、ぜひ参加したいですね。

――おお、皇宇さんが「艦これ」の艦娘を描くわけですか。それはおもしろいアイデアですね。仮に描くとしたら何を描いてみたいですか?

皇宇氏:うーーん(笑)。英国の軍艦を描いてみたいですね。「艦これ」では日本の軍艦はすでに描かれているので。イギリスの艦隊は気品もあるし、文化としてメイド的な要素もあるから、その辺のアイデアを膨らませて。「北海のワルキューレ」でキャラ設定まではしたのに、漫画に登場させることが出来なかったキャラクターが沢山いるんです(笑)。あとは日本海軍もそうですけど、名前だけで結局建造されなかったような艦船も描いてみたいですね。お互いの事情もあるのですぐにということにはならないと思いますが、機会をいただければぜひ描いてみたいです。

――多数のイラストレーターが参画してひとつの世界を作っている。これは確かに「艦これ」の売りのひとつですが、そのようにして描かれた多様な艦娘についてどのようにご覧になってますか?

王/皇宇氏:羨ましいです(笑)。見ての通り、艦娘はフル装備ですよね。あらゆる装備、装甲、兵装を体にくっつけています。「ああ、こういう風に描くんだ」とかなり良い刺激を受けました。「鋼鉄少女」は漫画連載で、1コマ1コマ何度も描かないといけないので、主砲とかのシンボルだけを特徴として取り入れるに留めています。本当はもっと描きたいのですが、漫画だと時間が掛かりすぎて、連載できなくなってしまいますし、艦娘みたいに描いたら、装備が隣の人に刺さってしまうでしょう(笑)

――確かに。「鋼鉄少女」と「艦これ」は、主役級のキャラクターはかなり共通していますよね。雪風、大和、赤城、飛龍あたりですが、これもキャラクター設定が全然違っていて、両方知っている立場としてはおもしろいなと。

王/皇宇氏:そうですね。我々は、キャラクターデザインを作る前に、色んな資料を見て調べながらイメージを膨らませています。雪風は、建造当初のイメージから、か弱い、普通の女の子。強くても弱くても、胸が大きくても小さくてもいけない。大和に憧れる普通の女の子。主人公なのでバランスを取りました。

 大和は日本海軍の代表として、大和撫子らしく、黒く長いストレートの髪。台湾の機関誌「Creative Comic Collection(CCC)」に掲載したときは、若干少女っぽさもあったのですが、漫画連載の際に姉のイメージに修正しました。「北海のワルキューレ」のビスマルクも同じ姉のイメージですね。

――「艦これ」の人気要素として、中破すると艦娘の服が破けるというものがありますが、これも実は「鋼鉄少女」にもありますよね。

王/皇宇氏:そうなんです(笑)。わかっている人がわかってもらえればいいのですが、GAME Watchさんの記事があるから、見て貰えればどちらが先かということがわかるはずです。でも、「艦これ」の服が破ける要素は、オーソドックスだけどうまいなと思いました。「鋼鉄少女」で服が破けるときは、それは死ぬときなんです。とてもシリアスで悲しいシーンなんです。それに対して「艦娘」はお色気ありのサービスシーンですよね(笑)。「ああ、そういうやり方もあるんだ」と勉強になりましたが、ここも漫画とイラストではちょっと表現の仕方が違いますよね。

――2月から連載再開ということですが、どのような物語になりますか?

王/皇宇氏:南太平洋海戦から再開になります。前の連載では死人が出すぎた点が反省点で、読者としては可愛い女の子同士のやりとりも見たいと思うので、物語が進むペースをゆっくりにして、戦争以外にもキャラクターの暮らしも描くようになる予定です。そしてミッドウェー海戦で飛龍先生を失って人間的に成長した雪風の姿が描かれます。これまでは先生達が強すぎて出番がありませんでしたが、今後は雪風が戦うシーンも出てきます。いま冗談半分で言ってるのですが、雪風は最終的には丹陽として、中国海軍を相手に、台湾海軍の旗艦として、傷ひとつ付かずに、無傷で数艦を撃沈させているので、そこまで来るとウルトラハイパー雪風だよねと。でもそこまで行くのに数年はかかると思います(笑)

――ミッドウェー海戦で主要キャラクターの多くが亡くなりましたが、新規キャラは登場するのですか?

王/皇宇氏:はい。連載再開からは新たに瑞鶴が重要キャラクターになります。翔鶴と双子姉妹という設定で双鶴と名付けています。ミッドウェーで沈んだ4人は生い立ちも艦形も違うので全員違うキャラクターにしましたが、翔鶴と瑞鶴は同じなので双子という設定にしました。

――主役級のキャラクターとしてはもうひとり大和がいますよね。でも大和は連合艦隊の旗艦を下りましたが、彼女はどうなるのですか?

王/皇宇氏:大和は重要なキャラクターとして登場し続けます。新たに連合艦隊旗艦となった武蔵も登場します。大和は旗艦を下りて、南太平洋海戦には関わっていないので、代わりに雪風が大きくクローズアップされます。

――金剛級の戦艦も登場しますか?

王/皇宇氏:登場しますが、漫画で描ける内容には限りがあるので、すべての艦船が出ると今の時点でお約束できるわけではないです。まだシナリオについては細かく書いていませんが、あまりに多く出し過ぎて一部が飾りみたいになってもいけないと考えているので、そこはバランスを取ります。金剛級の4隻、金剛、比叡、榛名、霧島が日本でも人気が高いことは理解しているので4姉妹として出す可能性はあります。

――南太平洋海戦を境に、戦況はどんどん厳しくなるわけですが、漫画としてどのように描いていくつもりですか?

王/皇宇氏:その点については、読者の間でも意見が分かれています。日本人は悲劇のシーンが受ける傾向にありますが、死ぬと登場しなくなるので、それは寂しいです。そこで今後はオリジナル要素や架空の要素を加えて、死なないようにするかもしれません。せっかく作ったキャラクターなのでもっと活躍を描きたいです。ただ、ミッドウェーで沈んだ4空母は復活しません。それは自分的に納得ができないです。

 ただ、これは構想に過ぎませんが、赤城や加賀はもともと戦艦として建造されていたので、戦艦として建造された赤城を出すというのはありかなと思っています。「私は3人目です」みたいな(笑)。

――しかし、連載が再開されて「鋼鉄少女」が再認知されていくと、ゲーム化の問い合わせは来るのではないですか?

王/皇宇氏:複数問い合わせが来ているのは事実です。ただ、それに対してもしゲーム化するとなると、時間もお金も掛かるのは事実なので、そこは慎重に考えています。熱意のある日本のメーカーさんは「鋼鉄少女」のゲームの企画書まで持ってきて見せてくれました。その方は、漫画を見てハマってくださって、それでこれだと思って企画書を作ったそうです。

 もし、「鋼鉄少女」のゲームを作ることになったら、フル3Dでオープンワールドなどは無理だと思うので、すでに実績のあるゲームエンジンを使って、バトルとイベント、学園ドラマなどもあるようなゲームにしてみたいです。数カ月後にいきなり発表したらごめんなさい。チャンスがあればやってみたいとは思っているのです(笑)。

――なるほど。バトルとイベントがあって、学園ドラマというと「サクラ大戦」シリーズみたいなイメージでいいですか?

王/皇宇氏:そうですね。そんな感じです。実現に向けてがんばっていきたいです。

――先ほど皇宇さんが「艦これ」でイラストを描くかもしれないというお話でしたが、「鋼鉄少女」と「艦これ」のコラボがあってもいいですよね。

王/皇宇氏:そうですね。「蒼き鋼のアルペジオ」のコラボイベントみたいな形でできるならやってみたいですね。たぶん、田中さん個人としては歓迎だと思うのですが、社内外から色んなプレッシャーがあると思うので、気長に考えています。

――日本の「鋼鉄少女」ファンに向けてメッセージをお願いします。

王/皇宇氏:とにかく連載再開できて嬉しいです。再開した連載では、雪風をもっと主人公っぽく活躍できるように描いていきたいです。翔鶴、瑞鶴のような新キャラクターも登場しますし、「北海のワルキューレ」で人気だったシャルンホルストも何らかの形で出していきたいです。それから「艦これ」はライバルや敵ではなく同志だと考えているので、これから一緒におもしろい企画がやれればいいと思っています。

――ありがとうございました。

【モバイルゲーム「少女兵器2」】
最後に王氏に、Unalisが現在開発しているモバイル向けのゲーム「少女兵器2」を見せてくれた。王氏自身も、新バージョンは初めて見たということで、初期に比べるとかなりおもしろくなっているということだ

【CHuNさん】
Friendly Landとしては皇宇さんのほか、新たにCHuNさんが日本で活躍しているという

(中村聖司)