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SIE、ファンとクリエーターが直接言葉を交わせる、「JAPAN Studio “Fun” Meeting 2019」を開催

11月17日開催

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、品川の本社ビルにて、ファンとSIE JAPAN Studioのクリエーターが一緒に楽しむファンイベント「JAPAN Studio “Fun” Meeting 2019」を、11月17日に開催した。

 このイベントでは、「ASTRO BOT:RESCUE MISSION」、「GRAVITY DAZE」シリーズ、「ワンダと巨像」などなど、様々なタイトルを手がけるプロデューサーやディレクター、プログラマー、デザイナーなどと、ファンが一緒にパーティーに参加、言葉を交わすというイベントだ。ファンは自分が大好きな作品を作ったクリエイターと直接話ができ、作品への想いを聞くことができる。クリエイター達も生のユーザーの気持ちを聞ける貴重な時間となっている。

 会場は希望者から抽選で選ばれた200人以上のファンが集まり、クリエーター達と言葉を交わし、ファン同士の交流も行なわれた。本稿では会場の様子やクリエイターの想いが語られたステージイベントを紹介していきたい。

たくさんのファンとクリエーターの交流が行なわれた

クリエーターとファンが1つの場所で歓談できるファンミーティングの楽しさ

 「JAPAN Studio “Fun” Meeting 2019」は2部構成となっており、パーティーの前の「ウェイティングスペース」で数時間のファン同士の交流が楽しめた。注目はファンが作成したグッズの数々。自分が好きなゲームへの想いを込めた作品の数々は、同じJAPAN Studioのゲームが好きなファンの心を大きく震わせる。

 PS4、PS VRの体験コーナーに加え、20周年を迎えた「サルゲッチュ」、「どこでもいっしょ」など20年の歴史を振り返るコーナーも用意され、ゲームもたっぷり体験できた。参加者にはそれぞれ「名刺」が用意され、好きなゲームなどを書き込むことができ、この名刺を使ってのファン交流も積極的に行なわれていた。

ウェイティングスペースでもゲームを楽しんだり、ファンが作ったグッズを見ることができ、ファン同士の名刺交換など様々な楽しさがあった

 そしていよいよ「パーティータイム」である。司会は「勇者のくせになまいきだ」シリーズなどを手がける山本正美氏と、アイドルグループ「フィロソフィーのダンス」のメンバーである十塚おとはさん。

 参加するクリエイターはプロダクトデベロップメント部 部長の加藤和男氏をはじめ、「ASTRO BOT:RESCUE MISSION」クリエイティブディレクター/プロデューサーのドゥセ・ニコラ氏、(「GRAVITY DAZE」シリーズ/「SIREN」シリーズ クリエイティブディレクターの外山圭一郎氏、「Bloodborne」/「SOUL SACRIFICE」シリーズ プロデューサーの鳥山晃之氏などステージに上がりきらないほどたくさんのメンバーが集結した。詳細はPSブログの記事を参照して欲しい。

 イベントにはHead of PS Indiesに就任した元ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏も登壇。ファンの前で挨拶をした。会場には10月にSIE取締役を退任した盛田厚氏も訪れており、会場で挨拶した。吉田氏、盛田氏はファンにも非常に人気だった。会場ではファンが積極的にクリエイターに声を掛け自分の大好きなゲームの話を作り手本人と交わしており、見ているこちらも楽しくなる雰囲気だった。

最初の挨拶で、たくさんのクリエイターと共に、Head of PS Indiesに就任した元ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏が登壇。さらに会場を訪れていた元ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジア プレジデントの盛田厚氏もステージに

 合間で筆者も1ファンとして「Detroit: Become Human」等様々な海外タイトルを手がける石立氏や、「Days Gone」のローカライズスペシャリストの立山氏に作品の素晴らしさ、それをきちんとローカライズしてくれた感謝を伝えることができた。筆者達メディアも、発売前のインタビューなどでは取材することはあっても、プレイを終えた後の感想をクリエイターに伝えることはあまりない。こちらの感想に喜んでくれるクリエイター達の表情を見ることができるのはとても楽しい体験だった。

 「JAPAN Studio “Fun” Meeting 2019」は今回で3回目だが、筆者は初めての取材だった。こういったクリエイターとファンが近い距離で交流できる機会は国内ではあまりない。ファンにとってもクリエイターにとっても楽しい時間だというのは、取材して実感できた。このイベントはクリエイター達の刺激を受ける時間としてもとても大事なものだと実感した。

ファンとクリエーターが一堂に会し、楽しむ。とても楽しい空間だった

面白いゲームは、制作中も面白い! 「ASTRO BOT:RESCUE MISSION」

 ステージイベントでは「ASTRO BOT:RESCUE MISSION」のリードゲームデザイナーを務める森田玄人氏が登壇、ASOBIチームのゲーム作りの姿勢が語られた。ASOBIチームは最新ハードの魅力を伝えるゲーム作りをしている。2013年にはPS4の機能を活用する「THE PLAYROOM」、2016年にはPS VRの機能を活かした「THE PLAYROOM VR」を制作している。この2つはハードを買うと無料で楽しめるバンドルソフトだった。

 「ASTRO BOT:RESCUE MISSION」は、ASOBIチーム初となる一般販売のゲームとなった。PS VRを活用したアクションゲームでユニークなアイデアが盛りだくさんに詰め込まれている。森田氏はこの作品がどう生み出されたかを語っていった。

「ASTRO BOT:RESCUE MISSION」のリードゲームデザイナーを務める森田玄人氏が登壇、ASOBIチームのゲーム作りの姿勢が語られた
多くのアイディアを、伝わりやすく、そして面白さを重視して集めていく

 ASOBIチームのゲーム制作コンセプトは4つ。「魔法のような驚きをつくる」、「新しい技術や、新しいハードウェアを使った新しい遊びをつくる」、「楽しく、ユーモアがあり、笑顔になれる体験をつくる」、「誰でも、誰とでも遊べる体験をつくる」。これらを実現させるため、「チーム全体がゲームデザイナー」として、様々なアイディアで、「面白いこと」を目指していく。プログラマーや、グラフィッカーも、一緒にゲームデザインに積極的に参加していく。

 そのために、「メモ」が必須となる。メモは1枚に1つのアイディア。シンプルにアイディアが伝わるようにイラスト化する。1枚に収まりきれないようなアイディアはダメだし、イラスト1枚で伝わらないアイディアもまとめきれてない。ASOBIチームはアイディアが書かれたメモが壁中に貼られているという。面白さ、シンプルさ、インパクト、そして「世界中で伝わるテーマ」が求められる。

 ASOBIチームは様々な国籍のメンバーが集まっている。仕様書は短くシンプルにイラスト化し、短い英文をつける。誰にでもすぐに面白さが伝わる仕様書を心がけ、そのアイディアをすぐにレベルデザインで起こしゲーム化する。グラフィックスなどは凝らず、とにかくアイディアをそのままゲーム化する。そのためのツールは用意されており、誰もが自分のアイディアを素早くゲーム化できるような体勢になっているという。

 面白いアイディア、コンセプトは、もうこの時点で面白い。巨大なタコが襲いかかってくるアクションや、かみついてくる敵を避け、もう1人が怪物の歯を引っこ抜くなど、この試作段階でゲームとして楽しい。そうでない場合は見直していく。試作段階で楽しいゲームは、作っていて楽しいし、グラフィックスやバランスなど、より作り込んでいく時点でさらに楽しくなる。この作り方は、作り手のモチベーションを上げ、チーム全体の自信に繋がっていくという。「全てをプロトタイプで決めていく」というのが、1つの大きな要素だと森田氏は語った。

世界のユーザーに伝わる面白さを。誰でも楽しめる面白さを目指していく

ゲームを作ることの面白さと苦労、FAQコーナー「教えてJAPAN Studio」

 ファンからの質問に答えるのはHead of PS Indiesの吉田氏、「GRAVITY DAZE2」アソシエイトプロデューサーの和家佐恭介氏、「Bloodborne」/「SOUL SACRIFICE」シリーズなどのプロデューサーの鳥山晃之氏、「勇者のくせになまいきだ」シリーズなどを手がける山本正美氏が登壇した。

 最初の質問は「皆さんはどんなゲームを普段していますか?」。吉田氏は目覚めた朝に10ものゲームのデイリー報酬を得るために始めるという。吉田氏がオススメなのはApple Arcade、その中でも「Grindstone」がオススメだという。今ハマっている「Death Stranding」と双璧とのこと。また、元SIEメンバーが手がける「Last Labyrinth」もお気に入りとのことだ。

 和家佐氏も「Death Stranding」だが、「ディアブロIII」もひたすらプレイしているとのこと。テキストアドベンチャーの「Return of the Obra Dinn」これは山本氏、吉田氏も絶賛の作品とのこと。グラフィックス、ゲームシステム、様々なポイントでオススメとのこと。JRPGが大好きな鳥山氏は「イースIX -Monstrum NOX-」にハマっていたとのこと。元々「イース」に関わりたくてこのゲーム業界を志したという。「ポケモン ソード・シールド」も始めたという。

作品を作り、世に出す、プロデューサーとしての視点が感じられたFAQだった

 次は「VRゲームを作るとすれば、次はどんなものが作りたいか?」、鳥山氏は「デラシネ」も手がけているが、「VRでしかできない新しいゲームを作りたい」と語った。和家佐氏は映画「ミクロの決死圏」のような、小さくなって人体を旅するようなゲームを、“誰か作ってくれないか”とずっと待っているという。

 吉田氏はここで「アイアンマン VR」を強く推した。先ほどの森田氏のプレゼンを例に出し、試作段階から面白かったことを強調。本作はオープンワールド型のゲームで、VRコンテンツでありながら広い世界を自由に探索できる。VRコンテンツ初期からあった、「プレーヤーをあまり動き回らせなくする」といった壁を易々と越え、自由度と広い空間で楽しめる作品だという。

 「ゲーム業界で働くためにはどうすれば?」という質問に山本氏は「ゲーム業界で働いてない自分を1mmたりとも想像しないこと」と答えた。特に若い頃の可能性は無限大だ。しかし、ゲーム業界で働くためにどうするか、何をすべきか、それだけを考え実行する。自分の行動は他の可能性には繋がらない。他のことを考えてしまうとそれがかなってしまう。そうならないように、ゲームを仕事にするために全ての思考と行動を集中させることだ。それは、自分がそうだったし、そういう人と仕事をしたいことでもあるという。

 鳥山氏は「ゲームは人と作る」からこそコミュニケーションを重視したいという。いかに自分が作りたいゲームを人に伝えるか、感情や想いを人にわかってもらえるかが大事なのではないかと語った。

 和家佐氏は「作ることに興味を持って欲しい」と答えた。ゲームは遊ぶのが楽しいのと、作るのが楽しいというのは、違う。ゲームに限らず、エンタメを志すならば、作って欲しい。Unityなどでゲームの制作のハードルは下がっているし、「ツクール」、「プチコン」など手軽にゲームが作れる環境がある。そうすることで作る大変さも実感でき、人に遊んでもらったときの反応なども得られる。吉田氏もまず作ってくるものをオススメしたいという。

 「モチベーションをどう保つか」。山本氏は今回のようなファンとのふれあいがモチベーションを大きく増してくれると答えた。クリエイターとしてとても重要だと考えているという。

 和家佐氏は「仕事のストレスは仕事でしか解決できない」という想いを持っているという。そのときできることをがんばって、やりきり、次に行けることがモチベーションに繋がる。つらくてもやるしかない、やりきるしかない。それが和家佐氏の仕事の仕方だという。ゲーム作りは薄皮を重ねていくような地味な仕事で、毎日が楽しいわけではない。しかし仕事の問題は仕事でしか解決できない。プロデューサーとして、ディレクターと協力しながら取り組んでいるとのことだ。

 鳥山氏は外部スタッフと協力してゲーム作りをすることが多い。プロデューサーとしての仕事の取り組みは「常に最悪を想定して動く」。一番最悪な事態を想定し、バックアッププラン、復帰プランといった安全策をきちんと想定し、準備しておくという。

 「PS5に対しての意気込み」で和家佐氏は「JAPAN Studio」という名前の通り、世界中の人に遊んでもらえる際、「これはアジア(日本)の人が作ったゲームだ」と感じてもらうことを心がけたいと答えた。日本人としての視点、気配り、テーマはもちろんUIの使いやすさ、ゲーム性の感触……色々なところで、アジア(日本)らしさを出していきたいとのこと。鳥山氏は「そのハードならではの遊び」、PS5ならではの特性や機能を活かしたゲーム作りをしていきたいとのこと。

 他にもいくつかの質問が出たが、クリエイターとして、様々なタイトルのプロデューサーとしての意見を聞くことができるのはとても充実した時間だった。もの作りの感触だけではなく、そのゲームが世に出て、世の中をどう動かしていきたいか、クリエイターの想いをどうゲームへと昇華させるか、そういう視点が感じられたFAQだった。

非常に楽しさの感じられるイベントだった

 イベントの最後は記念撮影。カメラに収まりきれないたくさんの人の撮影となった。筆者は今回初めてこのファンミーティングに参加したが、非常に楽しかった。クリエイター達の気持ちを充実させること、自分達が作ったゲームがどんなファンに遊ばれ、そして楽しまれているか、それをクリエーター自身に実感してもらえるとても大事なイベントだと感じた。

 会場や費用、ファンへの告知や人数の整理など多くの課題があり、SIEだからこそできるイベントかもしれないが、こういったファンとクリエーターが触れあう機会は他のメーカーでも増えて欲しいと感じた。