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「CAPCOM Pro Tour 2019アジアプレミア」、1,018名の頂点に輝いたのはももち選手!
「アジアプレミア、処理」 1セットも落とさず11勝0敗で完全優勝を達成
2019年9月16日 10:14
東京ゲームショウ2019で開催された「ストリートファイターV」の世界大会「CAPCOM Pro Tour 2019アジアプレミア」。本大会はカプコンプロツアーにおける「スーパープレミア」という位置づけで、優勝者にはCPTポイント1,000が付与される。これはあのEVOと同じ扱いの大会だ。
プレーヤー層もEVOと比べて遜色なく、国内外の若手からベテランまで計1,018人のプレーヤーが参戦した。14日には8人による決勝大会への出場者を決める予選が行なわれたが、EVO 2019優勝者のボンちゃん選手が129位、カプコンカップ2017優勝者のMenaRD選手が97位という結果で終わっているあたりが、この大会の過酷さを表している。
格闘ゲームのeスポーツシーンにおける通説として「有名プレーヤーほど勝ち続けるのは難しい」というのがある。というのも、1度大きな大会で成績を残してしまうと、そのアーカイブがネット上で拡散され、世界中のプレーヤーから徹底的に研究・対策されてしまうからである。1対1の対戦である格闘ゲームにおいて、情報アドバンテージの影響は大きい。そのせいでプロ選手の中には一度頂点に立ちながら長いスランプを経験する者も多くいる。
しかし忍ism Gaming所属のももち選手は、そんな通説はもろともせず、大会通して1セットも負けることなく完全優勝で1,018人の頂点に立った。彼の本大会での戦績は11勝0敗、格ゲーマー風に言えば「アジアプレミア、処理」といったところだろうか。ももち選手の快進撃となった本大会を、写真と共にレポートする。
2D神復活か? 予選ラウンドを盛り上げたマゴ選手
さて、ももち選手の優勝で幕を閉じた本大会だが、MVPは間違いなくマゴ選手だ。今大会のマゴ選手には、まるで勝利の女神が後ろ盾についているかのように思わせる何かがあった。使用キャラクターの神月かりんの誕生日が9月15日だったり、大会中に「真理の開眼」というトロフィーをアンロックしたり……。
マゴ選手は「CAPCOM VS SNK 2(カプエス2)」の強豪プレーヤーとして有名になり、当時は自ら「2D神」と名乗るほど2D格闘ゲーム界に多大な存在感を持っていた人物だ。しかしその存在感はいつしかトッププレーヤーとしての存在感ではなく、パーソナリティーとしての存在感へと変わっていた。
「カプエス2」の全盛期といえば今から15年以上も昔になる。世代と共に新たな2D格闘ゲームが生まれていく波の中、マゴ選手は勝てなくなっていった。特に「ストリートファイターV」になってからというもの、大型大会での優勝は片手で数えるほどしかない。
「勝てないプロ」として、いつしかマスコットキャラクターのような位置づけになってしまったマゴ選手だったが、「アジアプレミア」での彼は一味違った。予選では台湾のGamerBee選手やよしもとゲーミング所属のまちゃぼー選手などの強豪を下し、下馬評をよそにTOP8入りを果たした。
TOP8の面子は、若手で勢いのあるShuto選手を始め、海外勢のAngryBird選手、BigBird選手、Phenom選手に加えて、RedBullアスリートのガチくん選手、東大卒プロゲーマーのときど選手、ベテランプレーヤーのももち選手、そしてマゴ選手だ。並々ならぬ強豪が揃う中、マゴ選手は1人ユニフォームでなく私服を着用している。何を隠そうマゴ選手は本大会のTOP24の中で唯一スポンサーが付いていない選手なのだ。
しかもマゴ選手はウィナーズでTOP8入りと来ている。意気込みを聞かれると、「今まで課題だったメンタル面も今日は万全なので、皆さんに完全な2D神をお見せしたい」と述べ、オーディエンスを完全に味方につけた。
今までのマゴ選手、特に競技種目が「ストリートファイターV」になってからの彼は、大舞台で大きなミスを犯したり、有利状況から勢いだけで一気に逆転されたりと、精神面の至らなさからくる負けが目立つプレーヤーだった。その負けっぷりは界隈で「昇天芸」と形容されていたほどだ。
しかし「メンタル面は万全」彼のその言葉は虚栄ではなかった。UAEの強豪Big Bird選手との対戦では、ゲームカウント2-2までもつれるもしっかりとインターバルを取り、気持ちを切り替えて勝利。同じくUAEのAngry Bird選手との対戦では、2-0でトーナメント敗退の窮地に立たされるも、またもインターバルを上手く使い3セット連取の逆転劇を演じてみせた。
ひょっとすると、マゴ選手が優勝するのではないか?誰もが予想していなかった大番狂わせを目前にし、会場は完全にマゴ選手の側に付いていた。
勢いだけでは勝ちきれない、ももち選手の“圧”
勢い、オーディエンス、そして時の運までもを味方に付け、優勝まっしぐらかと思われたマゴ選手。そんな彼が本大会で唯一敗北した相手、それがももち選手だ。ももち選手もマゴ選手と同じく、格闘ゲームの競技シーンに10年以上前から存在するプレーヤーで、両名は旧知の仲である。ももち選手がマゴ選手と違うのは、彼がトッププレーヤーでい続けている、という一点だ。
ももち選手はいくら他のプレーヤーから研究されようと、どれだけゲームが変わろうとも、トップに君臨し続けている。事実、EVO、カプコンカップ、EVO Japan、これら全ての大会で優勝経験があるのは世界にももち選手ただ一人だ。
そんなももち選手がTOP8のウィナーズファイナルで、マゴ選手の前に立ちはだかった。オーディエンスはもちろんマゴ選手を応援していて、ももち選手はまるでヒールのようだ。しかしそんな逆境はもろともせず、ももち選手はマゴ選手を圧倒する。
マゴ選手の主ダメージソースであるしゃがみ中Kを一切機能させず、守りの要であるVリバーサルも当身で封じる。そして極めつけはVトリガーによる奇襲。使用キャラクターのコーリンも相まって、まるで氷のような冷たさだ。ももち選手はゲームカウント3-1でマゴ選手をルーザーズへと送った。
みんなのヒーロー「マゴ」VS絶対強者「ももち」
ももち選手に完封されるも、マゴ選手は心折れることなくルーザーズファイナルを勝ち上がり、グランドファイナルにて再びマゴVSももちのカードが組まれた。マゴ選手はルーザーズなので、2セット勝利してやっと優勝できる。先ほどの試合を踏まえれば絶望的な状況だが、それでもオーディエンスはマゴ応援だ。
グランドファイナルの直前、マゴ選手は舞台袖で「勝ちてえ……」と1人高ぶっていたという。対するももち選手も試合前「優勝しか考えてません」とツイート。両名が全力で臨むグランドファイナルに、会場にも緊張感が漂った。
第1ゲームはマゴ選手が勢いを見せる展開となった。先ほど苦しめられた当身を投げで返し、物怖じせずに積極的に攻め手を増やしていく。最終ラウンドに至っては、マゴ選手がパーフェクトで勝利を収めた。
しかし、次第にみんなのヒーローの勢いが落ちていく。ももち選手は、マゴ選手の不用意な技の空振りに対し確実に反撃を入れ、画面端も巧みに脱出し、徐々に試合の流れを作っていった。そして勝負どころではVトリガーによる奇襲を駆使し、次第にマゴ選手を追い詰めていく。
ゲームカウントは2-1となり、ももち選手が優勝にリーチをかける。そんな第4ゲーム目、マゴ選手は後がない状態だ。第一ラウンド、ジリジリとした地上戦の末、マゴ選手は体力残り100を切ろうかというところまで追い詰められた。しかしマゴ選手はももち選手の中段技ブリザードヒールを上手くスカし、逆転する。
取って返した第2ラウンドは、ももち選手が早期にVゲージを溜め、Vトリガーによる攻めでマゴ選手を圧倒。マゴ選手は本当に後がない状況になった。最終ラウンドはお互いに大きなリスクを取らず、どっしりと構える。互いに技を交換し合い、お互いの体力が200前後になろうかという場面でタイマーが20秒を切る。
会場は息をのんで試合にくぎ付けになっていた。この時点ではマゴ選手の方が体力が多い、逃げ切れればゲームカウント2-2に持ち込める、そんな期待が生んだ静寂だった。しかしももち選手がベテランの底力を見せる。タイマー残り3秒の時点で絶妙な強Kを放ち、それが見事クラッシュカウンターヒット。試合はタイムアップ、ももち選手の勝利となった。
「格闘ゲームをやっていて最高の瞬間」
数々の熱戦の末、みんなのヒーローをも破り圧倒的な強さを見せつけ優勝したももち選手。優勝コメントとして「マゴ選手は気持ちのブレがある選手で、弱いときは凄い弱い。ただ今日はもの凄い強いマゴでした。彼は今後怖い存在になりそうだなと思います。」と語り、マゴ選手の健闘を称えた。
下馬評を覆す活躍で観客を大いに盛り上げたマゴ選手は、表彰式で終始苦い表情をしていた。優勝が見えた内容だっただけに、悔しさも大きいのだろう。最後には、瞳を潤わせる様子もうかがえた。
優勝したももち選手にはCPTポイント1,000が付与され、これでももち選手CPTランキング5位に浮上、カプコンカップ出場を事実上確定させた。そして賞金は500万円、ではなく大会規定に基づき10万円が贈られる。
巷で話題となっているこの賞金額だが、ももち選手はJeSUプロライセンスを保持しないため、本大会での賞金は非プロ選手が獲得できる上限額の10万円に留まる(本来であれば優勝賞金は500万円)。これが物議をかもしているようだが、ももち選手はあくまで自身の意志で、2017年にプロライセンスを辞退しており(それに関する声明も発表済)、加えて非プロ選手の賞金に上限がある旨は大会要項にも明記されているため、まったく問題がない。
むしろ、東京ゲームショウ初日にJeSUより発表(関連記事)となった法規制に対して関係省庁より一定の判断が示されたことを受けて、カプコン、そしてJeSUは、今後国内の大会においてプロライセンスの有無に関わらず、賞金額を同一にする取り組みが求められるだろう。
ももち選手は大会後のインタビューで「あなたは今幸せですか?」と聞かれると、「幸せです」と力強く回答した。曰く、格闘ゲームをやっている中で最高の瞬間は大会を優勝した時で、こういった大舞台での勝利の為に日頃から練習を積んでいるという。彼にとって賞金などは付加価値でしかなく、ただ純粋に勝利を追い求めているからこそ、長い間トッププレーヤーでいられるのだろう。
もちろん、プロライセンスの有無に関わらず賞金が受け取れるような法整備がされるのがeスポーツシーンにとっては理想的だが、ももち選手のようなプレーヤーは、たとえプロライセンスを持っていなくとも立派なプロフェッショナルであることは明らかだ。