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日本eスポーツ界のパイオニアRIZeSTが語る“eスポーツの稼ぎ方”
4年間で売上は450倍に。日本に適したeスポーツ事業とはどうあるべきか
2019年9月13日 20:51
- 9月13日開催
- 会場:幕張メッセ国際会議場
東京ゲームショウの併催イベントのひとつであるTGSフォーラム。毎年のトレンドに合わせて様々な分野のプロフェッショナルが登壇し、最新情報が共有される。同じCESA主催のCEDECと比べると、かなりビジネス寄りで普段のメディア活動では知り得ないようなビジネスサイドの情報が満載で、非常におもしろい。今回は、その中の1つである「eスポーツ参入への第一歩~BenQ、RIZeST、スサノオ3社の取り組みを一気に公開」の中から、特に興味深かったRIZeSTの取り組みを紹介したい。
RIZeSTのショートセッションのテーマは、eスポーツの稼ぎ方。「日本でeスポーツで稼ぐのは難しい」。これは日本のeスポーツ関係者なら誰もが知っている定理だ。その理由については様々な要因が挙げられるが、代表的なものとしては、大会実施に伴う法規制の問題があり、完全に市場が開放されているとはいえない事や、単純にマーケットサイズが小さいため、何をしてもスケールしないことなどがある。
法規制については先日、レポートでも取り上げたように日本eスポーツ連合(JeSU)が喫緊の課題として解決に向けて全力を注いでおり、徐々に解決しつつあるが(参考記事)、市場サイズについてはいかんともし難く、一朝一夕でどうにかなる問題ではない。
RIZeSTは、2011年11月に千葉市川市に設立されたe-sports SQUAREを原点に、8年近くに渡ってeスポーツ事業を展開してきた日本eスポーツ界のパイオニアだ。同社を率いるのは元ロジクールでマーケティングマネージャー等を歴任してきた古澤明仁氏。もともと優秀なマーケッターではあったもののゲーマーではなかったが、「League of Legends」とe-sports SQUAREに巡り会い、“ミイラ取りがミイラになる”どころではない勢いでずっぽしハマり、気が付けば日本のeスポーツ界の先頭をひた走っている人物だ。
その古澤氏が語ったのは、「日本においてeスポーツ界で稼ぐのは簡単ではないが、その道はある」というもの。その見事な証明として、古澤氏はセッションの冒頭でRIZeSTの売上推移を公開した。
具体的な金額や利益が出ているかどうかはわからないが、4期を終えた時点で、第1期と比較して売上規模は450倍に成長していることが披露された。「League of Legends Japan League(LJL)」という大型の案件を請け負い大きく成長した第2期と比較しても倍以上で、その後、RIZeSTはLJLという大型案件を失っているが、その後も成長を維持している。これは極めて凄いことだ。
古澤氏は、あらゆるeスポーツ事業の起点となる「なぜゲーム会社がeスポーツに取り組むのか?」から説き起こした。古澤氏によれば、ゲーム会社がeスポーツに取り組む理由は、ゲームの収益性を高めるための販促ツール、もうひとつがゲーム外でも興行収入という形で売上を確保するためだ。
ところが日本の場合は後者の「ゲーム外興行収入」はマーケットサイズが小さいため、そもそも成立しない。そこでRIZeSTは前者の「販促ツール」に着目し、eスポーツ大会を開こうと考えているメーカーに対して営業を行ない、メーカーから販促予算を頂いてゲームがより魅力的に感じられるような大会を手がけていった。
そこで重要なのは、大会によって生み出される付加価値。その付加価値こそが、ゲームへのロイヤリティを高め、プレイの継続、観戦の継続に結びついていく。それを実現するために、古澤氏は3つのポイントを紹介した。1つは熱狂を生み出すこと。1つは喜怒哀楽のドラマを作り上げること、3つ目はHEROを担ぎ上げることだ。
実際、RIZeSTのメジャーな大会運営の1つである「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS JAPAN SERIES(PJS)」では、観戦していてそれらの点について非常に強く意識した大会運営、配信を行なっているのを強く感じる。現在日本には無数のeスポーツ大会が存在するが、RIZeSTの大会運営におけるエキサイトメントの高め方は、国内トップクラスだと思う。
ただ、ここからがおもしろいのだが、古澤氏は「LJL」のような大型の大会運営に寄っかかったeスポーツ事業はリスクが大きいと語る。大型大会は、人材、機材、ノウハウが、すべてそこに集中してしまうため、リソースが偏ったり、新規案件の種まきのゆとりがなくなったり、その案件しかできないようなスペシャリストばかりが育ってしまい、せっかく購入した高級な機材も稼働率が上がらないといった問題を抱える。
そして何と言っても大型大会の案件を失ったときのリカバリが難しい。実際、RIZeSTは「LJL」というSANKO時代から受注してきた大型案件を失っている。その際は、日本のeスポーツが上り調子にあり、「PJS」をはじめその他の案件を獲得できたから良かったものの、いつも代替案が確保されている保証はない。
そこで古澤氏は、2018-2019年度、大型大会のみに頼り切った事業ポートフォリオを改め、販促事業やコンサルティング、施設運営、そして教育など、従来の大型イベント稼働リソースを分散化させ、案件の大小にこだわらず、BtoB、BtoCを問わず、eスポーツに関するあらゆるニーズに対応出来るようなeスポーツゼネラリスト化を推進したという。
この結果、2019年度の売上構成比は、これまで85%近くを大会運営が占めていたのに対し、その割合は48%まで下がり、これまで「その他」に分類されていた事業が過半数を超える52%を占めるに至った。
具体的なビジネスケースとしては、古澤氏の古巣であるロジクールのゲーミングブランド「ロジクールG」の販促業務サポートや、ロジクール時代から続く太いコネクションがあるプロゲーミングチームDetonatioN Gamingのコラボレーション関連のプロデュース、意外なところでは今年のLJLで話題を集めたSENGOKU GAMINGへのBlank選手移籍に関するエージェント業務。これもRIZeSTが行なったという。
そしてRIZeSTが次の一手として力を注いでいるのが教育事業だという。「eスポーツを文化的、社会的、そして経済的なものにする」というミッションはわずか28人の会社では到底成し得ない。そこで古澤氏は「僕らが持っているノウハウを渡し、同じ事ができる人材を増やすのが近道ではないか」と考え、その具体策としてRIZeSTアカデミーを開講することに決めたという。古澤氏を筆頭としたRIZeSTの経験豊富な人材を講師とし、これまでのeスポーツ関連の制作業務で培ってきたノウハウを1週間程度の短期間で学べるアカデミーとなる。
育てる人材はプロ選手ではなく、大会を運営する側の人材だ。eスポーツ大会運営に必要な基礎的なこと、具体的には台本の書き方、大会ルールの作り方、メーカーへの使用許諾の取り方、放送の仕方、大会施設の電源やネットワーク周りの準備の仕方など、完全に実践にこだわった内容になっている。1週間のプログラムを受講することで、誰でも台本を書いてeスポーツのインターネット放送ができるぐらいの知識が身につけられるという。
その狙いは、全国47都道府県で、eスポーツ大会運営の完全な内製化。古澤氏は「我々の案件が減るのはちょっと悲しいんですけど、内製化させなければ文化になっていかない。教育という観点からRIZeSTアカデミーをはじめた」とその理念を説明した。言葉はぼかしていたものの、講師にはRIZeST社員を投入しているため、そのクオリティはまだ十分及第とは言えないようだが、ゲーム好き、eスポーツ好きというパッションから手取り足取り教え、少しずつ形になっていっているようだ。
最後に古澤氏は、事業ポートフォリオの1つである施設運営について、現在RIZeSTが運営しているe-sports SQUARE AKIHABARAを念頭に、「施設運営は簡単じゃない」と言い切った。
eスポーツ施設の運営は、誰でも考えられるeスポーツ事業の1つといえる。RIZeSTにも不動産を持つeスポーツに関心のある事業者や、東京オリンピック終了後の施設再利用にeスポーツを活用したいといった相談が寄せられているが、「正直、施設運用は簡単じゃない」と繰り返した。このため、寄せられている相談の9割を断わっているという。
簡単ではない理由は、施設運営は、機材や施設といったハードと、サービス、スタッフで構成されたソフトの両面が巧く噛み合わないと事業化できないためだという。それ抜きでスタートさせても「絶対に赤字になると言い切れる」という。
e-sports SQUARE AKIHABARAには、様々なゲームメーカーから多種多様な希望が寄せられるという。それは案件規模も違えば、プラットフォームも違う、それを内製で落とし込んで提案できるようでなければうまくいかないという。e-sports SQUARE AKIHABARAは、2016年に通常営業を終え、法人向けに業務転換しているが、今なお苦しい状態が続いている。長年eスポーツ施設を運営してきたRIZeSTならではの見解と言える。