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クルマの安全のための自動運転AI「ADAS」、研究現場でUnreal Engine 4が大いに役立っていた! ゲーム技術からアプローチするADASの現状とは?

【CEDEC 2019】

9月4日~6日開催

会場:パシフィコ横浜

 ADAS(Advanced Driver Assistance System:先進運転支援システム)とは、要は車に搭載されるAIである。

 今でも自動ブレーキ機能など、テクノロジーの発達によって自動運転技術はだんだんと世の中に浸透しつつあるが、ADASの最終目標は「交通事故をなくすこと」であり、未だ発展途上の分野でもある。

 CEDEC 2019では、ADASを研究する自動車部品サプライヤーのデンソーより、「AD&ADASシステムとゲーム開発技術の融合」というユニークなセッションが行なわれた。デンソーは、ADASの研究に世界を代表するゲームエンジンである「Unreal Engine 4」を積極的に活用しているという。AD&ADASシステム開発部課長の服部陽介氏とAD&ADASシステム開発部担当係長の小口貴弘氏より、その内容が明かされた

AD&ADASシステム開発部課長の服部陽介氏
AD&ADASシステム開発部担当係長の小口貴弘氏

 ADASと一口に言っても、取り組むべき項目はたくさんある。車間距離を制御することや、駐車支援、ドライバーの状態チェック、自動ブレーキ、またエアバッグなどもADASの1つにあたる。車体にはありとあらゆるセンサーを搭載し、クラウド環境で地図情報などとも連携を取る。項目は膨大だが、ADASは人命を守ることが目的となるため、AIはとても高いレベルの品質が要求される。

 AIの性能を上げるためには、とにかくデータが必要になる。徹底的に公道を走ってデータをかき集めたり、日本各地にあるテストコースで雪上走行や夜間走行、降雨下の認識性能試験など、様々な環境下で実車テストをしてデータを集めていく。

 しかし、これらの実車試験のみではあまりに時間がかかる。テスラCEOのイーロン・マスク氏は、自動運転システムの信頼性を確実にするには100億kmのテスト走行が必要だと述べており、これは100台の実験車が1日500km走ったとしても550年かかる計算。はっきり言って途方もない数字である。

 ではどうするか、ということで注目され始めているのが仮想環境の活用だ。仮想環境でシステムを検証する事例は実際にも増えてきており、車体に搭載するセンサーや走行場所をモデル化して検証を並列化、加速化することで一気に効率を上げようという狙いである。

 デンソーでは、この仮想環境作りにUnreal Engine 4を用いている。制作はゲームスタジオのORENDAと協力し、さらに「エースコンバット7 スカイズ・アンノウン」にも採用されたリアルタイムダイナミック天候システム「trueSKY」も組み合わせている。ロケーションとオブジェクトを組み合わせて、時間変化や天候変化も加えることで実際に起こり得る様々なシーンのシミュレーションが可能となっている。

 検証のためには、とにかく仮想環境を現実に近づけることが大事で、それは見た目だけでなく、たとえば実際に車体に搭載するセンサーのエラーの吐き出し具合といったような精度も範疇になる。センサー実物の精度や反応速度の再現となると技術的にはかなり難しいそうだが、リアルタイムレイトレーシングを導入すると手応えを感じる程度に精度や速度が近似することから、レイトレにはかなり期待しているとした。

天候も含めたあらゆる環境が仮想空間上に揃えられる
カメラの認識に影響するため、カラーコーンの汚れなども大事な要素。Unreal Engine 4ならテクスチャの変化も簡単
「店を出る前にアプリで操作したら、自動で駐車場から店の入口まで来てくれる」という夢のような「自動バレー駐車システム」のシステム検証。仮想環境でしっかり検証することで、実車試験での無駄な手間を省いている

 また環境認識については、「セマンティックセグメンテーション」にゲームエンジンが役立っている。「セマンティックセグメンテーション」は、画像に移る歩道や走行可能車線、歩行者、他の車、家、木などを個別で認識し、ピクセル単位で判別するシステムのこと。

 「セマンティックセグメンテーション」は深層学習でAIに覚えさせるのが主流だが、そもそも実写画像データと画像データに対応した区分けデータが数百万単位で必要になる。

 しかし、Unreal Engine 4上では遅延レンダリングによって中間バッファを取得することで、データの区分けはとても容易になる。こうしたCGを使って学習の効率を上げる手法は論文にもなっており、「グランド・セフト・オートV」と実写を混ぜることで認識精度が向上した、質の高いCGを使うことで実写ベースのシミュレーターよりも品質向上の割合が高まったという報告もある。

 さらに車体の前後左右にそれぞれ取り付けられたカメラ映像を合成し、車体の真上から見た映像(トップビュー)を生成するという機能実証では、Unreal Engine 4上に作った駐車場でのシミュレーションをAIに学習させることで、概ね期待したとおりの結果が得られたという。

 仮想空間を利用した検証は一定の効果を上げているものの、研究開発そのものは真っ最中である。小口氏は最後に、「ADASシステム開発にゲーム開発技術者、アーティストの皆さまのご協力をお願いします」と締めくくった。

車体の前後左右に取り付けられたカメラ。ごく短距離の周りは見渡せるが、画像を合成してアルゴリズム生成することで、トップビューからより広い範囲を見渡せるようにならないだろうか、という機能開発
仮想環境上で学習
課題はあるものの、カメラでは見えないはずの場所が上手く生成されている