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「FFXIV: 漆黒のヴィランズ」開発者パネルが開催
リードシナリオライター織田氏と吉Pが「漆黒」の設定裏話を暴露
2019年8月24日 01:54
スクウェア・エニックスは、ケルンで開催中のgamescom 2019において「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ(以下、FFXIV)」の開発者パネルを実施した。
開発者パネルには、プロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏とリードシナリオライターで世界観の設定も担当している織田万里氏が登場して、メインストーリーや世界観に関する質疑応答セッションが行なわれた。
「漆黒」のメインストーリーは織田氏と石川夏子氏が執筆している。質疑応答は事前にコミュニティから寄せられたメインストーリーや世界設定に関する質問を、コミュニティチームの室内俊夫氏が読み上げ、それに吉田氏と織田氏が解答した。ネタバレを多数含んでいるので、「漆黒」未プレイの方は注意して欲しい。
織田氏の回答を吉田氏が絶妙フォロー
――水晶公、ヴァウスリー、エメトセルクと言ったキャラクターを作り、お話を書くのはどのくらい楽しかったか?
織田氏: どのくらいと聞かれると表現しづらいが、この3キャラクターに限らず、物語を作るということはいつも楽しんでやらせてもらっている。
吉田氏: キャラクターの運命を作っていくのは、メインシナリオの醍醐味だよね。
織田氏: ここに上がっている3人のキャラクターは、ほぼ石川さんが組み立てた存在。彼らのテキストを書く際にはブレが生じないように注意して書いた。
――水晶公は自信をクリスタルタワーの一部にしたとき、物理的な加齢が止まったのか?
織田氏: 漆黒のストーリーを最後まで見た人は、素顔を見たと思う。それが答え。
吉田氏: 彼はいろいろなものを救うために、長生きしないとそれが達成できないと悟った時、自分をクリスタルタワーの一部にすることで成長も加齢もしなくなった。そのくらいの想いで決断をした。
――ヒュトロダエウスとの会話やラスボス戦の前にエメトセルクが見せた姿の他に、光の戦士のもともとの魂がなんであるかのヒントがあったりするのか? コミュニティが一体となって謎を解く姿を見てみたい。
織田氏: ヒントがあるかないかでいうとある。が、これ以上はこの場では言いたくない。
吉田氏: 「漆黒のヴィランズ」だけではなく色々なところにヒントがある。言ってしまうと面白くないので、ああじゃないか、こうじゃないと議論してもらえると嬉しい。1つだけ補足しておきたい。光の戦士がヒュトロダエウスだったんじゃないかという予想をネットで見るが、それはない。
――エメトセルクは、我々光の戦士は原初世界の子孫であり、7回統合されたと言ったが、これは我々の魂を意味しているのか。それとも単に世界のことなのか。魂の統合が行なわれるということは、原初世界にいる全員が別の魂のカケラと一緒になったということか。それともそれは光の戦士だけで、何か特別な存在だからなのか。
織田氏: 世界が統合されるたびに、主人公を含むすべての生命体が統合を経験している。特定のキャラクターに限らず、すべて魂が濃くなっている。
吉田氏: 世界の統合はキャラクターに対して行なわれるものではなく、世界全体に対して行なわれる。必然的にすべての魂が濃くなっていると認識していい。
――「FFXIV」の世界設定にヴィエラやロスガルを組み込むために、どこが一番難しかったか?
織田氏: ヴィエラに関しては「FFXII」の設定をほぼ受け継いでいる。「リターン・トゥ・イヴァリース」のシナリオを担当した松野さんとやり取りしながら、「FFXIV」の世界になじませていったので、実はさほど苦労はしていない。松野さんありがとうございました。ロスガルについては、突然でてきた印象にならないように、ボズヤというすでに出ていた地名と設定をからめたりとか、そのうえで紅蓮秘話とかショートストーリーに登場させて馴染ませていった。
――ランジートの強さは優秀な将軍にふさわしく、部下の兵士を遥かに上回っていたが、罪喰いから力を得ていたのか。それとも彼自身の強さなのか。
吉田氏: これは結構コミュニティの間で議論になっている。
織田氏: 使い魔から力を得て戦うという独特の戦闘スタイルを持っている。あれは彼自身が修行で身に着けた力であって、罪喰いは無関係。彼は光の氾濫によって失われてしまったノルブラント以外の地域にルーツを持っている、特殊な武術を継承する一族の子孫であるという設定があって、命名のルールも他とは変えている。
――アシエンは、本当にエメトセルクの幻影都市の中で見られるような姿をしていたのか? それともこれはエメトセルクによる劇的な効果を狙った演出なのか?
織田氏: ぼんやりとした幻影のような姿になっていることを除けば、当時もあのようなローブと仮面をつけることが一般的だったのかなと思っている。アシエンがローブと仮面を使うのもその名残り。
吉田氏: これには若干混乱があるかもしれない。古代人全員をアシエンと呼ぶわけではない。アーモロートに登場しているNPCたちは、アシエンではなく古代人の幻影。当時アーモロートに住んでいた古代人たちは、あの姿のようにローブをまとい、仮面をつけていた。ただ、顔がぼんやりしてエイリアンぽいのは正しい姿ではなく、幻影として再生しているだけなので、本来は我々と同じような目鼻立ちが存在するが、演出上みんな同じ姿にみえるよう狙ってあの姿にしている。
結構ここが勘違いの基になっている。例えばヒュトロダエウスと会話をした後、エメトセルクが一瞬光の戦士をローブ姿の人影と見間違える時に、幻影なので同じ人物だと思ってしまう人がいるが、本当はちゃんとした顔があると思ってもらえばいい。実はあのシーンのマスクはちゃんと別のものになっている。
――アシエンとアーモロート市民の名前はすべてギリシア神話に基づいたものなのか?
織田氏: 前提としてヒュトロダエウスがギリシア神話かというと、違うと思う。とはいえ、すべてかどうかは今後に係るので明言はしないが、今回登場させた各種用語についてはギリシアルーツの言葉で統一しているのは事実。
吉田氏: それに理由はあるの?
織田氏: 理由はあるが、詳しく語ってしまうと色々まずい(笑)。
――「新生エオルゼア」のカットシーンを見直してみて、アシエンのセリフで「示せ、創世の理の嘆きの声よ」というものがあり、非常に面白いと思った。アシエンのバックストーリーはどのくらいの期間温めていたのか。
織田氏: アシエンという言葉自体は「旧FFXIV」にも登場しているので、そのころから設定はある。すべての設定があるタイミングで一気に決まったわけではないので、いつからと言われると真相は分からない。
吉田氏: テレビドラマのシリーズと似たところがある。「新生エオルゼア」をファーストシーズンとすると、第2シーズンである「蒼天のイシュガルド」で打ち切りになる可能性もあった。そのため、なんとなく全体をそれっぽく決めていき、「紅蓮のリベレーター」を開発している辺りで、もう大丈夫だろうと一気に組み立てた。特にロアを作っている織田と、石川。特に織田さんは過去にしゃべったセリフや事象を徹底して慎重に調べているので、後から嘘にならないように、昔から考えられていたようにアドリブで設定を作り、ストーリーを紡いでいるので、2人のスキルは恐ろしく高いと思う。
――ラハブレアの本名は何か? エメトセルクの真の名前が分かったのは、本当にすごい発見だったのでラハブレアについても知りたい。
吉田氏: (答えず)
――エリディブスはかつてアシエン・ラハブレアのことを長い沈黙の後、言葉を慎重に選びながら『独特である』と評している。エリディブスはラハブレアに対して、エメトセルクと同様に低い評価を下しているものの、礼儀上それが言えないという状況なのか?
織田氏: エリディブスとほかのアシエンとの違いや、彼からの他のアシエンへの想いは今後のストーリーで描かれていくことになると思う。このあたりのプロットは吉田さんに提出してゴーサイン待ちなので、それが出ればという話になる。
吉田氏: 確かにここから先の物語に大きく関わることなので、これ以上詳しくは現時点では言えない。ただ、エリディブスもエメトセルクもラハブレアのことを低く評価しているということはない。ある意味尊敬しているはず。例えばエメトセルクのセリフの中に「あれでは擦り切れるよ」というようなものがあるが、あれは「あいつは仕事しすぎだ」という意味でもあるので、「吉田はほんとに仕事好きだな、おかしいなあいつは」と言うのと同じで、評価が低いわけではない。
――ガイウス・ヴァン・バエサルは光の戦士の味方として戦うことになったと思われる、最初のメジャーな敵役だと思うが、このキャラクターを再登場させようと思った理由を知りたい。
織田氏: 似た事例としては、竜騎士クエストで戦ったエスティニアンもイシュガルドでの冒険で仲間に加わった経緯がある。彼はイシュガルドという国をプレーヤーに伝えるために必要だったので仲間になった。ガイウスについても同様で、ガレマール帝国についてより深く知っていくべきタイミングがきたなという判断が下された。
吉田氏: 「新生エオルゼア」を開発していて、最後の大爆発を描いた時に、「ガイウスって死んだの?」という話をシナリオチームとした時「不明です」ということだった。死んだならちゃんとそれを描いて、生きているなら登場場所を作ろうと、あの当時はまだどうなるかはわからないが、生きているという決定にしておこうということにした覚えがある。
――ガレマール帝国の皇族のキャラクターは主に男性のキャラクターだが、ソル帝やヴァリス帝の妻や娘たちについても教えて欲しい。奥に控えている存在なのか、それともガレマール帝国の人々にとっては有名な公人なのか。
織田氏: 男性キャラクターばかりが登場しているというのは偶然で、女性もいるし、奥にこもっているばかりではない。ただヴァリスの妻についてはゼノスの出産直後に亡くなってしまったという設定なので、登場させるのは難しい。可能性があるとすればサイドストーリーなどで。
吉田氏: サイドストーリーと言えば、毎年8月27日は「FFXIV」が新生した日なので、そこに合わせて蒼天秘話とか紅蓮秘話を出してきた。今回も漆黒秘話という読み物がウェブ上で公開されていくので、それを読めばさらに楽しめるのではないかと思う。
――アシエン・ナプリアレス討伐戦のメテオが落ちてくるフィールドに、クリスタルタワーに非常によく似た景勝があり、壁画に描かれていたハイデリンに似た像がある。戒律の殻とは何なのか。なぜアシエンはこれら2つの神を描こうとしたのか。
織田氏: あの「漆黒のヴィランズ」に登場する壁画はアシエンが描いたものではなく、世界分断前の記憶をちょっとだけ覚えていた人が、夢などでビジョンをみて描き留めたもの。アシエンがらみで決勝をモチーフにした描写が多いのは、ハイデリンのマザークリスタルと対になるものがゾディアークにもあって、紫色のマザークリスタルのようなものを見たことがあると思うが、それに由来しているのでモチーフにしている。
――「絶アルテマウエポン破壊作戦」でアルテマウエポンが使う「アルテマ・サビク」などのこのサビクは何なのか、誰なのか分かる日は来るのか?
織田氏: 秘密だが、唯一言えるとすれば、あの動力源「黒聖石サビク」とは何だったのかという話については、今後のあるストーリーラインでも関わってくるかも。
――これまでジョブとクラスの背景となるストーリーやロアは豊かになってきた。しかしここ数年にかけて行われたジョブ調整により、プレーヤーがもともと興味を持っていたジョブのストーリーから離れてしまっているものもある。この状況に対してどんな対応をしてきたか。これからまたジョブとプレイの世界設定が同期していくことがあるのか。
吉田氏: これは僕らにとっても非常に難しい問題だと認識している。プレーヤーの皆さんがストーリーに求めるものと、たくさんのジョブがいる中で、ジョブバランスや立ち位置を強い弱いという軸で語られてしまう。それをできるだけ多くの人が満足できるようにしようとした場合に、もともとのジョブや背景とずれが生じてしまっているというのは事実だし、我々としても目をつぶってしまっている部分ではある。ここでストーリーを再調整したとしても、またジョブ調整がはいったら同じことになってしまうので、問題だと認識しつつまだ答えは出ていない。
――「漆黒のヴィランズ」で追加された新たなジョブアクションの中に、世界設定が語られていたり、バックストーリーを伴ったものは今のところ存在していない。各ジョブのアクションについての背景をもっと知ることができるか?
吉田氏: これも、先ほどの質問と同じで、レベル80ジョブアクションにはちゃんとしたストーリーを付けたいと思う側だ。だが、今は侍の「照破」を大きく変えようとしているが、そうして大きく効果を変えた場合に先ほどと同じ問題が発生してしまう。そのため、今後は無理にストーリーと関連付けるのをやめようとした結果、「漆黒」ではそもそも設定を付けないということになった。
――種族の各部族、例えばムーンキーパーやシェーダーの世界設定については非常に情報が限られている。それぞれの背景をより深く掘り下げるために、蛮族クエストに似たものとして、例えば部族クエストのようなものの実装は検討できないか。
織田氏: 種族クエストや部族クエストと言うアイデアは、かなり昔からチーム内に存在しており、タイミングを伺ってきたという経緯がある。ただ、1つの種族だけをプレイアブル種族として扱ってしまうと、他の種族のユーザーからすると、なぜ自分の種族の話がないかという声が上がりそうなので、どうせなら全部の種族でやりたいよねという話になったまま、どんどん種族が増えて作成コストもどんどん膨れ上がってきたというジレンマがある。
――ムーンキーパーの命名規則に苗字の中には第一星暦の時代から続いているものもあるとある。もう少し詳しく教えて欲しい。こうした苗字の中には世界が分断される以前の古代の民から受け継がれたものや、あるいはそれに関連したものがあるのか。
吉田氏: みんな細かい。よく調べているね(笑)。
織田氏: ハイデリンとゾディアークの戦いを記憶していた人が壁画を描いたように、忘れがたい言葉やフレーズがあって、意味は忘れてしまったけれどなにかとても大切だと思う音の響きみたいなものがあって、これを自分たちの名前に引き継いだという設定になっている。
――「FFXIV」ではマヤ文明やアステカ文明、中東や東アジアに影響を受けた文明が出てくる。今後も実世界から影響を取り入れる予定はあるか。この辺りがいいのではと思っている場所があれば教えて欲しい。
織田氏: 新しい地域を考えるにあたって、現実世界の歴史や文化をモチーフにすることが多いので。ただどこかと聞かれてもネタバレなので言えない。
吉田氏: 「FFXIV」の場合、織田が好きだからということもあるが、世界中の神話から着想を得ているものが結構多い。それをこの辺りだよと言ってしまうと、いろいろとまずいのでナイショにしておく。
――私もファンタジー作家を目指している。メインシナリオのストーリーを作り上げる際の、織田さんの執筆プロセスはどのようなものなのか。1日にどのくらいの量を書いているのか。各パッチのストーリーはどのくらい前から決めているのか。
織田氏: あくまでも僕のスタイルを話すが、これがあなたに合っているとは限らない。自分のスタイルで言うと、これは何の物語なのかという根本を決めるところからスタートする。この根本はできるだけシンプルに表現できるものがよい。できれば1行で書ききれるものが理想。例えば「蒼天のイシュガルド」では「1000年間続いてきたドラゴンと人の戦いを終わらせる物語」。1000年間も続く戦争とは何なんだろうとか、その戦争の理由は何だろうとか、ドラゴンと人間は何が違うんだろうという疑問に答えを用意していく。この疑問が解消されていく順番を決めていく。その過程で必要になるキャラクターの役割が出てくるので、先ほど言ったようにイシュガルドの言い分を説明するキャラクターが必要だからエスティニアンを仲間にしようとか、そういったことでキャラクターを作っていく。
1日の作業量に関しては、どれだけその作業に集中できるか次第なので、他の作業をまったくしなくてもいいという状態を作ってもらえれば当然早くなる。「蒼天のイシュガルド」の時にはそれだけに集中する時間を作って、1日に10クエストくらい書いていた。話の概略に関しては2年ごとに決めている。
吉田氏: 「FFXIV」はかなり長期計画でメインストーリーが組まれている。基本的に拡張パッケージの作業が終わった直後に、最近は次の拡張で使う2年分の話をおおまかに決めてしまうシナリオ合宿を行なうようにしている。「漆黒のヴィランズ」が第一世界を救う物語になり、光を切り裂いて闇を取り戻すことをテーマにした話にしようということを決めたのは2017年9月。パッチの作業をしながら、それぞれにイメージを膨らませておいて、2018年3月に行なったシナリオ合宿で、おおよその物語がどういうものなのかということを決める。
――今後のメインシナリオについても、織田さんと石川さんの協働で作られていくと期待してもいいのか。
織田氏: 吉田さんに「お前はクビだ」と言われない限りはしばらくは続く。メインシナリオの執筆という意味では、石川、織田の他にも表にはでていないスタッフがいる。
吉田氏: メインシナリオはサブクエストよりもかなりスキルが要求されてくるので、織田、石川に続く中堅のシナリオライターも2人参加している。この2人はパッチのシナリオを書いたりしながら、織田石川の寝首をかこうと虎視眈々と狙っているのではないかと思う。
ただゲーム開発のキャリアはすごく難しい。僕はディレクターでもあるので、今後織田と石川のゲーム開発者としてのキャリアをどうしていってあげたいかは、「FFXIV」とは別の軸で考えたりもする。新しいチャレンジをさせてあげたいという考えもないわけではない。2人が望んでこれからも「FFXIV」の仕事をモチベーション高く続けるよと言ってくれれば、それはプレーヤーの皆さんにとっても我々にとっても嬉しいことだが、本人たちが新しい挑戦をしたいという時にはちゃんとそれを歓迎できるチームでありたい。しばりつけようとは思っていない。どうしてもここまではやって欲しいということはあるが(苦笑)。
――公式世界設定本の第3弾を出版して欲しい。
織田氏: 出版の部門には伝えておく。書くのがしんどいし、印税がもらえないので、ちょっと考える。
吉田氏: ゲーム業界で働いていて、あれだけ豪華な本で設定だけを語れる機会はないと思うよ。
織田氏: 僕はゲーム開発者になる前に、出版編集者、ライターをやっていたが、その7年間で一度もハードカバーで箔押しの本を作ったことがなかったので、夢がかなっていたりする。
吉田氏: メインシナリオのスケジュールに影響が出ないことを約束したうえで、ぜひ執筆をお願いします。
織田氏: しばらく慎重に考えさせてください。
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