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【GDC 2019】「Unity」「UE4」が最新映像でビジュアルクオリティを訴求
新ゲームストアEpic Games Storeの登場でゲーム流通は多様化するか
2019年3月29日 13:27
GDCの楽しみのひとつに、ゲーム開発手法やクオリティのベースラインを大きく左右するテクノロジの発表がある。その最たるものが、ゲームエンジンの進化ということになるのだが、2019年のGDCは例年に比べるとかなり控えめだった。
ここ数年は、大掛かりな舞台装置を用意して派手なパフォーマンスをすることが多かったEpic Gamesだが、昨年に引き続いて技術的に大きな話題はなく、既存技術のアップデートに終始していた。強いて言えば、物理エンジンのChaosへの更新くらいだろうか。対するUnityの方は、RTXに対するキャッチアップが最大の話題と言える。ただこれも時間の問題と考えられたため予想の範囲内だ。
ゲームエンジンサプライヤーとしては新参のAMAZONは、さらに輪をかけておとなしい。Lumberyardベータ1.18のリリースという話題はあったもの、目玉になるような話題は聞こえてこない。CryEngineに至っては、GDC2016を最後にいまだ復活を果たせていない。
このように、全体感としては、各ゲームエンジンともに、やや踊り場に差し掛かっている印象だ。2大ゲームエンジンでさえ話題の中心は、ゲームエンジンを活用して、どのように、どんなコンテンツを作るのか、というレイヤーに完全にシフトしている。
その一方で、あまりGDC向きの話題ではないにもかかわらず、ゲームの販売、流通面でのトピックは華やかだった。すでにお伝えしている通り、あのGoogleが、ということで話題を席巻した「STADIA」がその筆頭ということになるが、Epic は「Epic Games Store」の新ラインナップを発表し、HTCはCES2019で発表していた定額サービス「Viveport Infinity」の料金とサービス提供開始日を発表している。また、NVIDIAはGDCと会期が並行していたGTCにおいて、GeForce NOW Allianceパートナーのソフトバンクと協業して、「GeForce NOW」のサービスを日本で展開することを発表している。
GDC2019締めくくりの記事として、2大ゲームエンジンのキーノートからトピックをお伝えするとともに、PCゲーム流通の最新動向まとめておきたい。
ゲームエンジンのわかりやすい訴求項目は、何と言ってもそのビジュアルクオリティだろう。Epic GamesとUnity Technologiesの両社とも、ハイクオリティを追求する方向では、おおむねフィーチャーは出尽くした感がある。その最大性能をアピールするデモとして、Epicは「Troll」を、Unityは「The Heretic」をそれぞれ打ち出してきた。
どちらも映像品質に甲乙つけがたく、どちらのどんな機能が優れているとか劣っているとか、そんな次元の話にはなりようがない。パフォーマンスの方も良好で、どちらもPC1台でリアルタイムレンダリング可能なものだ。
ただし、訴求の方向性は違っていて、「Unreal Engine 4」(以下、「UE4」)は、NVIDIAが打ち出しているリアルタイムレイトレーシングを全面に押し出したものだ。水面やティアラといった表面が平坦ではない鏡面に対して、適切なリフレクションがなされていることがわかる。動的に移動する光源の役割を果たしているパーティクルの妖精自身のアニメーションも美しく、静かな闇のとばりが降りた森林を陰鬱なものから温かみのある空間に変化させている。
人間の姫と思しき女性の方も、これがデジタルヒューマンだとはとても思えない。肌や髪、衣服の質感、どれをとっても実写との合成にみえてしまう。シークエンスの再生を止めて静止させた状態でさえアラが見つからず、リアリティを損なわない。
対する「Unity」の方は、ポストエフェクトに力が入っている。デプス、グレイン、カラーグレーディングで雰囲気を出す方法論は、フィルムプロダクションを大きく意識したものだろう。空中を漂うパーティクルの表現も、演出として活きている。「The Heretic」のほうはRTXによるレイトレーシングではないが、ダイナミックな光源、シャドウ、リフレクションのどれをとっても、かならずしも「Troll」に劣るものではない。
「Unity」のRTX対応したデモとしては、BMWと協業したデモ映像が披露された。ただし、これは全編CGではなく、実写との差がないことを実証するために半数は実写で、残りの半数のカットをCGで補ったものになる。確かに完成映像だけを見ると、どこまでが実写でどこからがCGなのかまったく判別がつかない。
この車体のリアルタイムデモはNVIDIAのブースで確認することができた。カラーグレーディングなどのポスト処理は、デモムービーと一致するものではないが、RTXによるリアルタイムレイトレーシングが確かに実現できていることが確認できた。
ただ、現段階のRTX対応は不十分なところがあって、カメラを動かすと、光線の粒度に起因すると思われる輝度の高いノイズがかなり目立つ。コンパネやステアリングの中央部分、シフトレバー周辺部にあるエッジや筋彫りのような極小の溝で激しく発生しているように思われた。現時点のBMWの映像は、これをポスト処理で緩和しているものと考えられる。ムービーのフッテージ素材としてならその解決はアリかもしれないが、ゲームのリアルタイム描画では、ちょっと無視できないレベルだ。
この件はUnityのほうでも把握していて、ブース担当者によると、次のリリースで改善されるのではないか、とのことだった。キーノートと考え合わせると、実証テスト版が4月4日にリリース予定だから、もう間もなくという話になる。そうでないとすると、Unity2019.3でのフルプレビューという日程が出ていたことから、早くて秋口のベータリリースの段階ということになるだろう。
「Unity」のこのRTXレイトレーシングは4Kプロダクションレベルを想定しており、ゲーム向けというわけではないようだが、「Unity」のハイブリッドなHDレンダーパイプラインでは、新しいシェーダーグラフでの設定により、ハードウェアパフォーマンスに応じて従来のラスターと新しいレイトレースのどちらでレンダリングするか透過的に切り替えてくれる。ソースデータはひとつで良く、それぞれのアウトプットを意識してリソースを用意する必要はない。
その他の「Unity」のトピックとしては、ハイエンド方面では、2018.1に導入されてから機能拡充が続けられてきたシェーダグラフに、2018.3でHDレンダーパイプラインが統合され、2019.1でマテリアルライブラリが拡充されたことが記憶にあたらしい。さらにローエンド方面への対応として、主にモバイル環境を想定したライトウエイトレンダーパイプラインが加わる。シェーダーグラフでのノードベースのシェーダー作成はアーティストフレンドリーで、シェーダー作成のハードルが下がることになる。
もうひとつ地味ながら大きい話題は、物理エンジンにUnity Physicsに加えてHavok Physicsを追加することだろう。Unity PhysicsはNVIDIAのPhysX由来ではあるが、バージョンは今後も3.4で固定され、将来的にはHavokが推奨されていくと推測される。
今般、「UE4」も物理エンジンを自前のChaosに変更しているが、「Unity」と同じタイミングで発表となったのは偶然ではない。この背景には、NVIDIAの物理ライブラリの方向転換が大きく影響していると考えられる。NVIDIAはPhysX4.0からPhysXを剛体専用とし、流体やソフトボディはFlexと命名された物理エンジンがカバーすることになった。おそらく、UnityもEpicも物理エンジンに大きな不満はなかったのだと思われる。ところが、機能別にブランチしたことや、Tensorコア前提の高精度だが速度の出ない方向に舵を切ったことから、ゲームにフォーカスした新しい物理エンジンの導入が急務になっていたのだ。
詳細に検証したわけではないが、既存のPhysXで実現できていたことは、問題なくできるということだろう。既存のデータとの互換性を有し、透過的にリプレイスできることが望ましいから、物理エンジンが変わったことで、特に何か劇的な変化が起こるということはないはずだ。
今後については、両社とも今まで通り、ゲームらしく精度はほどほどに、その代わりに高速に、という方針を取るはずである。事実、今般のデモでは、「Unity」は低重力の宇宙空間で、Havok制御のロボットを巨大洗濯機に大量に投入してかき混ぜるというデモを披露していたし、「UE4」のほうは、「Robo Recall」のグラフィックデータを流用したシーンで、敵役だった巨大メカをプレーヤーキャラクターとして操作して、反対に主人公だったRobo Recall社エージェント追い詰めるというデモゲームを披露した。巨大メカが街を破壊して、Chaos制御の建材の破片が大量に飛び散るシーンが展開されていたので、速度を重視しているから大量に出せます、ということで間違いないだろう。
これらのゲームエンジンにまつわる話題が霞んでしまうほど大きな話題だったのは、2018年12月4日からスタートしたEpic Games Store大躍進の話題だ。Epic Games Storeは、いわばPCゲームのアプリストアで、Valveが運営するSteamと、真っ向から競合する。
Valveとの大きな違いは、Steamの流通マージンが30%に対してEpic Games Storeは12%で済むことと、「UR4」採用タイトルの場合、「UE4」利用部分のライセンス料を支払わなくて済むことだ。この条件がパフリッシャーにはよぼど魅力的に映るとして、Steamから剥ぎ取るようにして、多くの独占タイトルを手中にしている。「Metro Exodus」「Division2」に続いて、今般の発表でも、「Detroit: Become Human」「BEYOND: Two Souls」「HEAVY RAIN」といった人気タイトルがEpic Games Storeで独占販売されることが発表された。
Epic Games Store好調の話題は、ついにValve一強のPCゲーム流通に風穴を開けることに成功したと言える。思えば、EpicもValveも、もともとはそう変わらぬ立ち位置の会社だった。シューターを始めとする自社のゲームで評判を勝ち取り、その副産物のゲームエンジンを他社に供給するビジネスに取り組むところまでは、常にEpicが先行してきた。ところが「Steam」で2002年にいち早くゲームソフトのパッケージレスオンライン流通に取り組んだValveは10年かけてゲームソフト流通の75%のシェアを握ることに成功した。
もしかすると、Epicはもっと早くからValveに追従したかったのかもしれない。ところがEpicを取り巻くビジネス環境が平坦ではなく、長い間それを許さなかったのだろう。ところが近年事態は激変した。「UR4」の無料化以降、数多くのAAAタイトルへの採用、映像や建築といった分野への利用拡大、テンセントの買収による資金の流入と経営への関与、「Fortnite」の大化け、といった事象のひとつひとつが重なって経営を安定化させ、追い風になったのかもしれない。
なによりエンジン供給の拡大によって、小規模開発者でもEpicとの関係を持つことが高嶺の花ではなくなるとともに、多くの大手パブリッシャーとも相互に支え合う関係を築くことができたのが大きいのだろう。Valveと比較して極めて有利な条件を提示されて、ノーというパブリッシャーはいないはずだ。
この話題は、実に示唆に富んでいる。モバイルのようにハードばかりかOSがっちり組み込まれたストア以外からのアプリの導入を許さないAppleや、ハードは自由でも、同様にOSにストアが組み込まれており、一般的なエンドユーザーにとって、ストア以外からのアプリ導入のハードルが高く実質的に独占状態にあるGoogleといった“特権階級”だけが、今後も安泰でいられる、ということを証明してしまったのだ。
PCのように、歴史的な背景から、OSが固定的でなくストアもOSと一体的でない場合、いつでもストアのシェアは変動しうるということになる。中国のように外国籍の企業に対して、柔軟に法的対応を変化させる国は別として、ごく一般的な法治国家の場合、特定の企業が永続的に利益を独占することはできないのである。
立ち上がって日の浅いEpic Games Storeには混乱もあり、独占販売の弊害で、かえってSteam側が不利な立場に立たされていると見る向きもあるが、競争が生じることは基本的にはいいことだ。Epicに追従して、Valveや他の流通プラットフォームが適切なマージンに落ち着けば、ゲームの価格は安くなる、あるいは将来の高騰を抑止できるだろう。あるいは開発コスト増やしてゲーム品質をあげることもできるから、開発者にもゲーマーにも利益になるはずだ。
対して、流通ビジネスの担い手のほうも、ゲームやインゲームアイテムの魅力に頼り切って、ただ棚に並べて置いて広告宣伝に終始する姿勢に終止符を打つ時が来ている。本質的には、ストアはストアの魅力で集客しなければならないのだから、独自のアイディアでユーザー還元策を設けて、ゲーマーに愛されるストア運営をしてほしい。