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2017年はUnity Technologyにとってビジネスの大転換期に!!
「Unity 2017」リリースに向け今後1年間に何が起こるのか
2017年3月6日 11:40
去る3月1日(現地時間)、Unity Technologyは、GDC 2017開催にあわせて、GDC恒例の基調講演を行なった。本講演のトピックスは大きく3つで、新たな販売プラットフォームホルダーとの連携、目前に正式リリースが迫るUnity5.6のリリース日と機能、さらに次世代のUnity 2017の話題と、それぞれのセクションでトピックふさわしいゲストを招いて紹介するというスタイルで進行した。
Unityを使うビジネスメリット。ギラギラしたお金の話が率直に進行
新たな販売プラットフォームとして、本講演で紹介されたのは、中国Xiaomiが展開するMI Marketおよび近日公開されるMI Game Centerだ。登壇したXiaomiのVP、Jerry Shang氏は、中国が今や世界でナンバー1のゲーム市場になったこと、Xiaomiがすでに累計でスマートフォンを2億台販売していること、デイリーのアクティブユーザーが1億人であることなどを、次々と紹介していった。
アプリに関しては、2016年にMI Marketからダウンロードされたアプリが60億本で、うちゲームが22億本と40%に迫る勢いだ。また今回は言及がなかったが、Unite 2016 LAの数字によると、2016年3Qにおいて、Unityを使用したアプリの26%が中国でインストールされており、Xiaomiは最大のアプリ配信の担い手で、中国でのアプリの13%はXiaomiによって配信されたものだという。
1億人のアクティブユーザーのうち、ゲームアプリ比率の40%がXiaomiのデバイスを持つゲーマーだと仮定すると、4,000万人ということになるから、世界最大のゲーム市場というのもうなずける。事実、Shang氏によると、2016年には総額で3億USドルが開発者に分配されている。
もうひとつの大きな販売プラットフォームとして、FacebookのGameroomが取り上げられた。Gameroomは、PC向けの専用クライアント型ゲームプラットフォームだ。こちらは、Unite 2016 LAに続いての登壇となったFacebookのGlobal Gaming Partnership担当Directer、Leo Olebe氏から紹介された。
昨今ユーザー離れが指摘されているとはいえ、17億人のアカウントを擁するFaacebookである。ユーザーの動線作りに失敗さえしなければ、ブラウザベースのカジュアルゲームの人気ですら下火になり、またも先鋭化しているPCゲームが、またもう少しカジュアルな方向に戻るかもしれない。
これらの新しい販売プラットフォームは、ゲームを入手するエンドユーザーにとっては、特に大きなメリットがあるものではない。むしろゲームによっては、すでにあるGoogle PlayやApp Storeの決済手段が使えなくなり、アプリ入手が一元的でなくなることで管理が煩わしくなるといったデメリットがある。どうしても乗り越えられないような高い障壁ではないが、ポジティブに考えられる話でもない。
一方で、ゲームを提供する側にとっては、特にデメリットのある話ではない。開発プラットフォームであるUnityによってマルチプラットフォーム化するコストが最小限に抑えられるなら、ゲームパブリッシャーとしては、より多くの販売プラットフォームに対応して、ユーザーにリーチする機会点を増やしたほうがい。販売プラットフォーマーは、AppleやGoogleの代わりに販売手数料を受けとりたいのだから、プラットフォームビジネスを行なうわけだし、Unity TechnologyはこのエコシステムによってUnityのライセンシーが増えればそれでいい。こちらは、ネガティブな事項がないわけでないないものの、おおむねポジティブだ。
その他、ビジネス面では、Unity IAPによる、コードを書かなくても各社の決済手段に繋ぎ込める機能や、IAPを活用して会社が急成長した事例の紹介が、NEXT GAMES、COLOSSAL ORDERと続いた。
この話題の最後には、OwlchemyのAlex Schwartz氏とDevin Reimer氏が登壇して、Job Simulatorが名だたるメジャーキャラクターやゲームIPを活用したVRゲームを抑えてトップに立ち、2016年に3百万ドルの収益をあげたことなどが報告された。Job Simulator成功の秘訣が、HTC Vive、Oculus Rift、PS VRの3つのVRプラットフォームのローンチ初日にあり、それを可能にしたのはUnityを開発プラットフォームにしたからだとReimer氏は語る。Unityでの開発は、素早いプロトタイピングとクロスプラットフォームでの商品化ができるだけではなく、なによりゲームのコンテンツ部分に注力できるのが大きいとしていた。
Owlchemyの2人のコメントは、ごくごくステレオタイプなもので、少々期待はずれだった。彼らの成功談は楽しいし、いかに収益を上げるかといった話もとても大切なことだが、GDCに来るようなディベロッパーが知りたいことは、すでに勝った人が後付けで結果事実だけを語るようなものではなく、成功に至る過程で得たノウハウや、実装上の困難を克服したケーススタディであって、このセクションに“聞きたいのはそれじゃない”感が漂ってしまったのは残念だ。
Unity5.x最後の安定版にふさわしい“使える”5.6の新機能
さて、Unityエンジンそのものの話はというと、直近で1番大きなニュースは、5.6へのバージョンアップが3月31日に決まったことだ。Unity 5.6では、次の新要素が正式にリリースされる。
皆が幸せになれるフィーチャーとしては、各ローレベルグラフィクスAPIのサポートが挙げられるだろう。WindowsやAndroidではVulkanがサポートされ、iOSではMetalが5.5以降シェーダでサポート、5.6以降コンピュートでサポートされる。どのプラットフォームでも描画フォーマンスの向上は間違いないことから、心待ちにしていた開発者も多いだろう。
次に大きいのは、ミックスドライトの追加とプログレッシブ・ライトマッパーの改良だろう。ミックスモードは、シーン内の静的オブジェクトにはライトベイクされ、動的オブジェクトにはランタイムで光源計算されるため、実用性の高いライトだ。ライト自体が動作する場合はダイナミックライトを使わざるを得ないだろうが、シーン内の点光源の影響化をキャラクターが通過する際に印象付けてそれっぽく見せたいだけのような時には、このミックスドの設定とライト強度、周辺の反射強度を上手く調整してやると、レンダリング負荷を下げつつシーンに臨場感を与えることができるだろう。
プログレッシブ・ライトマッパーは、エディタ上のシーンで、エリアライトのライトベイクする際に、わずか2、3秒でベイクが完了するようになる。これは、シーン全体のライトベイクを一度に行わないで、カメラに入っている部分だけ先行してライトベイクを行うことによって実現している。シーン上の他の領域をカメラの画角内に入れた時に、新しく視界に入った部分のライトベイクをバックグラウンドで実行する。日常的な作業上のストレスが緩和するため、特にアーティストは、この機能が1番嬉しいかもしれない。
新しいNavMesh(ナビゲーションメッシュ)ツールも便利だ。複数のオブジェクトを接合させた際に、動的に結合したNavMeshを生成させることができるほか、NavMeshの角度が変わっても構わない。地平面を移動するキャラクターが、途中から壁面を忍者のように移動するということも可能だ。また、シーンをどのように修正しても、このNavMeshは動的にベイクされ、常に正しい挙動をするようにアップデートされる。
その他、動的テキストスタイリングのTextMesh Proがアセットストアでの取り扱いから、Unityの標準機能として取り込まれたり、新しい4Kビデオプレイヤー、2Dツールの改良、Collaborateのオープンβ移行などが、新要素としてあげられている。
ただ、Unity5.6は“正式リリース”版という呼称になるだけという見方もできる。というのも、どの機能もすでに何らかの形でプレリリース版が提供されてきたものではあり、今後もメジャーマイナー問わず問題があれば修正がされていくはずだからだ。5.6というバージョンナンバーが確たる意味を持つかは微妙だが、とはいえ、今まで5.x移行の直後のように、アプリケーションが不安定になることを恐れて導入を控えていた開発者にとっては、一定のお墨付きが得られた5.x代最後の安定版がリリースされるのは素直に喜ばしいだろう。
ユーザーの懸念を払拭できるか!?Unity 2017へと続く未来
最後の大きなトピックは、次世代Unityエンジンの“Unity 2017”の話題だ。2017世代からは、ナンバリング方式が、これまでのバージョンナンバー方式から、リリース年を冠したものに変更されることが決まっている。Unityのあるバージョンのメンテンンスはリリースから1年ということになっているため、2017年にリリースされたものは、2018年まで、ということがわかりやすくなるという主張がなされているが、実態としては現在と何も変わることはない。
本講演での、Unity 2017に関する話は、比較的抽象的なビジョンを語ったものばかりで、具体的ではなかったが、エンジンの安定化は常に重視していく姿勢を見せていた。加えて、非常に多くのプラットフォームをサポートするようになったことから、Unityエンジンとツール側で、一定のスケーラビリティを確保する方針を打ち出していた。現在も、確かにターゲットにしているプラットフォームに対して、簡単な操作でデプロイすることはできる。
とはいえ、ハイエンドPC向けゲームとモバイル向けゲームが完全に同一のソース、完全に同一のリソースからスマートにデプロイできるかというと、実際にはそうではなく、アプリケーション側で、ゲームデザイン、アートワーク、コードのすべての領域で、ターゲットハードを意識して開発する必要がある。
Unity 2017では、この部分をある程度Unityに“お任せ”にできるようになるようだ。たとえば、同一のアートアセットから、ハイエンドなハード向けにはそのままに、ローエンドなハード向けにはリダクションや圧縮といった最適化を環境側で施してくれる。すべてお任せで果たして万人に完璧な結果を提示できるかと言われればそうではないのだろうが、逆に人間の判断が介在するとどうしても感覚的な判断や、思い入れという感情的な部分を混ぜ込んでしまい合理的な最適化ができないこともある。そういう意味では、最適化の要否判断をエンジンのプログラムに委ねてしまったほうがいい場合もあるだろう。
概念論に終始してしまうのかと思われたUnity 2017のフィーチャーだが、最後にひとつだけ、具体的に追加される要素が語られた。新たに開発パイプラインに追加されるのは、カットシーンとゲームプレイをシームレスに切り替える仕組みで、ユーザーキャラクターの動作やユーザーの入力に依存して動作しているゲームカメラから、あらかじめアーティスティックにキーフレームアニメーションをつけておいたカットシーンにつないで、演出が終了すると、またゲームカメラに戻してあげるという一連の流れだった。
それまでに語られていた大きなビジョンとは裏腹に随分現実的な話で、多少そのキャップの理解に苦しむ部分はあったが、カットシーンをゲームに繋ぎこむシステムは、多くのプロジェクトで普通に必要な機能だと思われる。個々の開発チームが独自に自前の実装をしなくてもすむようになるのは素直に喜ばしい。
ただし、公開された具体的な情報が少いのは非常に残念だ。GDCという、せっかく多くの開発者を新たに取り込む機会であったのだから、もう少し具体的に見せられるものを用意しても良かったのではないかと思う。
本年の基調講演は、Unityゲームエンジンそのものの新しい話題は、やや乏しかったように思う。2015年はUnity5というメジャーなリリース、2016年はUnity5.3となり可用性の広がりを見せてきたが、2017年は“情報の谷間”となってしまったのかもしれない。昨年11月にロサンゼルスで開催されたUnite 2016から、わずか1Qしか経過していないのが主な要因だろう。
ゲームエンジンそのものについては、今後、日本で例年春に開催されるUnite Tokyo、夏のSIGGRAPH(ロサンゼルス)、RESPAWNがリニューアルして開催される秋のdevcom(ケルン)、冬に開催されるUnite 2019 LAでの情報アップデートに引き続き注目したい。
一方で、その代わりというわけではないだろうが、新たなビジネス展開に関しては、情報のアップデートが多かった。特に中国でのXiaomiとの協業の話題は大きく、XiaomiのShang氏が登壇して直接開発者の前で協業について語ったのは、象徴的な出来事だった。
これまでは、中国企業や政府との間に直接的なパイプを持たない欧米の中小ディベロッパーにとって、中国市場への進出は魅力的であっても“万里の長城”並みに障壁が高かったはずだ。Unityが間に立って橋渡しを行ない、しかもゲームのターゲットと重複する若い世代に人気のXiaomiの販売プラットフォームが利用できるとあれば、中国進出を視野に入れたコンテンツ開発が拡大することは間違いないだろう。
加えて、Unity 2017に関しても、ゲームエンジンのフィーチャーより、ビジネス面で重要な意味を持つ。すでにアナウンスされている通り、本メジャーバージョンから、Unityのライセンスモデルは、いわゆるサブスクリプションモデルに移行する。既存のライセンス所有者には、Unity 2017以降の新機能が必要ないないなら、新ライセンス体系に移行しないという選択肢があるにはある。
また、新しいライセンスモデルでも同様に、将来のある一定の段階で、もうそれ以上新機能を求めないとして、Unity Proのサブスクリプションを2年継続した後なら、そのままずっと使い続けられるライセンスを獲得することもできる。
ただし、実際のところは、どちらの場合も現実的にはそうはならず、Unityでの開発を完全にやめてしまわない限り、サブスクリプション契約を継続していくことになるだろう。
他の開発ツールの先例を見るに、一般的にはサブスクリプションモデルへの転換は商業的に“うまくいく”事例が多い。ただ、ゲームエンジンの場合、少額のサブスクリプションモデルであった時期から、ほどなく基本無料モデルに移行したEpic Gamesや、やはりサブスクリプションを一定額から“お好きなだけお支払いください”という奇抜なスタイルに切り替えたCrytekが先例ということになり、伝統的なパッケージ販売を続けてきて、毎回新バージョンのパッケージを買ってもらえなかった開発ツールとは、やや事情が異なっている。すでにUnityコミュニティ内の反響は大きく、慎重で周到な移行が求められる。
このように、主に販売プラットフォーム拡大とライセンスモデル変更の2点から、2017年はUnityにとってビジネス面での大きな転換期になりそうだ。