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「UE4」が映画製作に革新をもたらす新AR技術を披露

VRシューター「Robo Recall」は正式リリースに移行

2月27日~3月3日開催

会場:San Francisco Moscone Convention Center

 GDC 2017も早くも3日目。Epic Gamesは、本年も例年通りに水曜日から、開発者向けの一連のセッションを開始した。「State of Unreal: Epic Games」と題したオープニングセッションでは、GDC 2016以降の歩みと「Unreal Engine4」(以下「UE4」)のみならず、Epic Gamesの最新ゲームタイトルや、パートナーとの新しい試み、「UE4」のライセンシーの現況などが次々と報告された。

 昨年は、リアルタイムパフォーマンスキャプチャをセッション会場でやってのけたEpic Games。今年のオープニングセッションでは、どんな趣向のサプライズが飛び出したのか。早速セッションの模様を紹介していこう。

革新的なARが映像業界に革新をもたらす

Epic Gamesの共同設立者、Tim Sweeney氏

 「UE4」に関連する一連のタイトル紹介ムービーの上演後、ご存知伝説のプログラマTim Sweeney氏が登壇して、セッションの幕が開いた。Sweeney氏によると、2015年はEpic Gamesにとって、飛躍の年となったようで、記録的な一年となったと振り返った。続く2016年には、「UE4」のシェア、Epicの収益共に2倍以上に達している。また、ゲーム、映像業界の各パートナーにとってもこの傾向は同様で、全世界のゲームディベロッパーの収益の総計が100億ドルに達していたことも併せて報告された。

 Epicは、ブレることなく、ハイエンドでフォトリアルなグラフィクスがウリの「UE4」に磨きをかけてきた。2015年には、Steamトップ25に入ったゲームエンジンを採用するタイトルは、すべて「UE4」採用という快挙を成し遂げている。また、2016年にSteamでトップ100に入った「UE4」採用タイトルの収益は倍増している。加えて、韓国では一二を争う人気ゲームが、いずれも「UE4」を採用している。

CTOのKim Libreri氏

 Sweeney氏による数字の話もほどほどに、続いて登壇したCTOのKim Libreri氏からは、「UE4」とVRを活用した事例が紹介されていった。NASAのHybrid Reality Labでは、ISSでの宇宙ミッションのトレーニングに活用されている。また、BMWでは、同社のMixed Reality新車開発システムで「UE4」が活用されている。

 加えて、建築VRの分野では、Foundryとの協業して、ホテル向けに建設前に室内をウォークスルーするビジュアライゼーションに取り組んでいる。その他、McLarenの自動運転サポート車の開発、Framestoneのバスで火星探索するという趣向の教育VR、バンダイナムコとポリゴン・ピクチュアズのアニメ「プロジェクト レイヤード」、NickelodeonのリアルタイムVRお絵描き、Future Groupの放送向けVRライブ、と「UE4」の活用の幅は大きく広がっている。

Imaginati StudiosのAndy Serkis氏がビデオレターで登場

 昨年、Ninjya theoryのHELLBLADEのライブパフォーマンスキャプチャを披露したことは記憶に鮮明に残っているが、その流れを受けてか、同様のテクノロジで、名優Andy Serkis氏率いるImaginati Studiosによって、昨年11月にはRoyal Shakespeare Companyの「テンペスト」(シェークスピア作「あらし」)のライブパフォーマンスが上演されている。

ILMのVFX Supervisor、John Knoll氏
Lucas FilmのPrincipal Engineer、Naty Hoffman氏

 ここで、Libreri氏に応じて最初のゲストが登壇した。ILMのVFX Supervisor、John Knoll氏とLucas FilmのPrincipal Engineer、Naty Hoffman氏だ。ILMとLucas Filmは、同社の「スター・ウォーズ」シリーズのスピンオフ最新作「ローグ・ワン」で、従来のプリレンダではなく、「UE4」によるリアルタイムレンダリング(ADGレンダ)を採用したことを紹介した。「UE4」でレンダリングされたドロイド「K-2SO」の姿は、当然のことながらハリウッド映画クオリティで、筆者から見ると、従来のプリレンダされたものに遜色がない。Hoffman氏は、映画品質のリアルタイムレンダリングが可能になったのは、「UE4」がソースコードにアクセスできることが大きいとしていた。

レンダリング品質に差がないように思える
The MILLのInternational EVP、Alistair Thompson氏
ChevroletのGlobal MarketingでGeneral Directorを務めるSam Russell氏

 次に紹介されたトピックも、またも映像業界からのものだ。CMプロダクションThe MILLのInternational EVP、Alistair Thompson氏と、続いて登壇したChevroletのGlobal MarketingでGeneral Directorを務めるSam Russell氏から、今回のオープニングセッションの目玉となる、実車スケールのARライブドライブキャプチャ「BLACKBIRD」が紹介された。

 このシステムでは、実際に公道を走ることができる自動車に、車内からの360度映像を撮影するカメラのほか、車体の随所にトラッキング用のQRコードが設置された“ARカー”を使用する。撮影は、このARカーに随伴して公道を走る車に搭載したクレーンカメラで行う。撮影した“ARカー”は、位置、確度、移動パスを持ったオブジェクトであるため、いつでも別のオブジェクト、つまり異なる意匠を持った自動車に置き換えて(正確には覆い隠すように合成して)しまうことが可能になる。

【BLACKBIRD】

 実寸大のオブジェクトとカメラが自走するだけのことと言ってしまえばそれまでだが、なんとも“スケール”が大きい話だ。本セッションでは、ルーム内に“ARカー”を持ち込んで、ハンディカメラで撮影。その場で別のデザインに置き換えてスクリーンで上映してみせた。

 筆者は、このセクションに話題が移った当初、“ARカー”に搭載されたカメラは、紹介ムービーにあったテライン用テクスチャの撮影のほか、ドライバー視点からの360度映像を撮影してのVR映像化、オブジェクト側からもカメラ位置を検出することによるカメラ精度の向上が目的だと思っていた。

 ところが、スクリーンにリアルタイムで流れている映像を見て、“ARカー”に車載したカメラからの映像を活用して、光源や周辺の環境をレンダリングに利用していることに気がついた。つまり、通常の3D空間でいうところのライトプローブやスクリーンスペースの環境情報を撮影により得ているのだ。この結果、“ARカー”は、光源矛盾がない上に自動車らしい光沢のあるカーペイントが施された“CGカー”に早変わりしている。さすがに屋内を“ARカー”が移動することはなかったが、“ARカー”をターンテーブルで回転させたり、ハンディを持ったカメラマンが移動したりしており、リアルタイムで完璧にレンダリングできている様子が確認できた。

【BLACKBIRD】

 ゲームの世界でも、本システムをドライブゲームなどで活用する方向性はあると考えられるが、やはりこれはThe MILLの想定するように、乗り物をCGで作るにしても、役者の演技との合成が前提なら、撮影現場に実在するものを持ち込むことができれば、監督が目で見て確認できるという部分が大きいのだろう。また、イマドキのプロの役者ならば、CG合成前提の演技にも慣れていると思われるが、それでもやはり物があるのとないのとは、役者の方でも目線の配り方など違いが出るだろう。

 筆者は以前より、AR技術の利用が映像業界で積極的に行なわれると考えていたが、それは屋内でのモーションキャプチャで役者がARヘッドセットを装着して、プリビズを見ながら演技するというものだった。この「BLACKBIRD」のシステムは、役者ではなくスタッフをメインの対象に、スタジオではなくロケにARを持ち出したということで、ここからまた新しい撮影技法が生まれいくかもしれない。

「Robo Recall」の正式リリース移行にもサプライズあり

 ここで改めて登壇したSweeney氏は、いいいよゲーム関連の話題に話を進めていった。まず最初に話題にしたのは、昨年のGDC 2016で先行アクセスが始まったEpicの自社タイトル「Paragon」の現況だ。「Paragon」はEpic初のMOBAタイトルで、PS4とPCで60FPSを維持するように最適化されている。現在までに「Paragon」は1,000万ユーザーを獲得しており、Epic全体のユーザーアカウントも5,000万に達している。

【Paragon】

 Epicの自社タイトルから、もう1タイトルフォーカスして紹介されたのは、「Robo Recall」だ。Epicの本作担当VRゲームデザイナー、Nick Donaldson氏の紹介を見るに、すでに半年近く前からゲームプレイの全体像が確立している通り、ここに来ても大きな変更はない。ただし、全体の描画パフォーマンスが改善されたり、昨年末のデモ版で見ることができなかった敵ロボットが追加されていたりと、正式版にふさわしい質と量を備えている。エキシビジョンのEpicブースやOculusブースでも、「Robo Recall」のプレイを待つ人の長い行列ができていた。

【Robo Recall】
Oculus Rift+タッチコントローラを598ドルに値下げする告知をしたCo-FounderのBrendan Iribe氏は、これぞVRゲームと最大の賛辞を送っていた

 「Robo Recall」は、この瞬間から正式リリース版に移行し、Oculus Rift購入者に向けてOculusストアから無料でダウンロード可能になったことが発表された。この正式リリースは、実に思い切ったもので、無料で提供されるのはゲームそのものだけではない。Mod開発者のために、完全なアートリソースやソースコードまで公開されたことがSweeney氏から最後に付け加えられていた。

Nintendo AmericaのPresident and COO、Reggie Fils-Aime氏はビデオレターで登場

 その他、すでに発表されている通り、「UE4」が「Nintendo Switch」で初めて任天堂のプラットフォームをサポートすることや、VulkanやOpenXRといった最新のAPIサポート、Gearbox softwareによる実験的な高品質なトゥーンシェーディング、System Era SoftworksのVRゲーム「ASTRONEER」、UE4 VR Editorの現状報告と続いていった。盛りだくさんの情報の中でも、韓国で大ヒット中のモバイル向けLineageフランチャイズ、「Lineage II: Revolution」の紹介は目を引いた。

【Gearbox software】
【ASTRONEER】

 NC Softのライセンスを受けて本作を展開するNetMarble USのCEO、Simon Sim氏には、比較的長い持ち時間が用意されていた。Sim氏によると、同作は韓国でリリースからわずか30日で1億7600万ドルの収益と500万のプレイヤー(韓国の総人口の約10%)を獲得しているとのこと。韓国では、やはり国民的ゲームIPが強ということだろう。

【Lineage II: Revolution】

 今年のオープニングセッションも、前年と同様に、多くのサプライズと大量の情報がぎっしり詰め込まれたセッションであった。PCやコンソールに向けたリッチな品質のゲームであっても、フレームレート重視のVRゲームであっても、要求されるのは美しく速く、である。「UE4」が、今後もこのベクトルで進化続けると確信できたセッションであった。来年GDC 2018で飛び出すサプラライズに想いを馳せながら、2017年の報告を終えるとする。