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【GDC 2019】苦難を乗り越え、新しいことに挑戦し続ける「若い力」が「パンツァードラグーン」を生んだ!
二木氏&吉田氏が「パンツァードラグーン」シリーズの開発を振り返る
2019年3月21日 10:36
ドラゴンを駆り、360度全方位から迫りくる敵を倒して進むセガサターンの名作3Dシューティング「パンツァードラグーン」。日本では1995年3月10日、アメリカでは同年5月11日に発売されたタイトルで、来年には発売後25周年を数えるタイトルだ。
GDC 2019ではセガ出身で現グランディングのCOO兼ディレクターの二木幸生氏とマネージャーの吉田謙太郎氏によるセッションが行なわれ、「パンツァードラグーン」、「パンツァードラグーン ツヴァイ」、そして「AZEL -パンツァードラグーン RPG-(海外タイトルは「PANZER DRAGOON SAGA」)開発当時の振り返りが行なわれた。
二木氏「乗ってみたい乗り物といえばドラゴン」
事の始まりは二木氏がセガに入社してから1年を迎えたころ。会社からセガサターン用のレーシングかシューティングゲームを作るように要請され、二木氏はその2択からレーシングを選択するが、「ゲイルレーサー」の企画が先に通ってしまったことから代わりにシューティング、つまり「パンツァードラグーン」の企画を作り始める。
当時はリアル系のシューティングが多く、自機は戦闘機などの"硬い"ものが多かったが、二木氏は「乗ってみたい乗り物といえばドラゴンだろう」ということで自機をドラゴンに定めた。
また、「パンツァードラグーン」で特徴的なのはロックオン後に発射されるホーミングレーザーだが、これは3D視点ではピンポイントで狙いをつけて撃つのが難しかったたため、後から実装されたものだとのこと。「パンツァードラグーン」は独特の世界観も魅力のひとつだが、こちらも企画が通った後から練りこみを始めたのだという。
二木氏が目指したのは「映画のように物語を体験できるゲーム」であり、そのために最初から最後まで一貫したストーリーを用意したほか、ユーザーの想像力を掻き立てるため、画面には例えゲームに直結しなくともオブジェクトをできる限り多く登場させている。
ゲームの合間にはゲーム内のオブジェクトを用いたポリゴンのカットシーンを挿入し、音楽も画面の雰囲気に合わせたものを用意した。このあたりはある意味映画的な手法を採用しており、特に音楽面での演出はナムコの「スターブレード」の影響を受けたものだという。
「プレイステーションをやっつけろ!」
当時セガサターンとプレイステーションはほぼ同時期に発売されたハードで、バッチバチのライバル関係にあった。前評判ではプレイステーションのほうが3D性能が高いといわれていたが、一方のセガサターンは2D的な表現に強く、中でもスクロール性能はプレイステーションと戦うための1つの武器となった。ハード的な制約もあり、セガサターンの3D表現はプレイステーションのように「煌めくような美しさはなかった」ものの、逆にドライな表現が「パンツァードラグーン」の世界観にマッチし、二木氏は「結果的にはプレイステーションではできない表現ができた」と振り返る。
ただ、プレイステーションの「リッジレーサー」をメインプログラマーの須藤順一氏と見た際には相当な衝撃を受け、帰りに駅で「どうするあれ……?」という話をしていたとのことで、やはり強烈にプレイステーションを意識していたとのこと。「お陰で未だにプレイステーションのことを考えるとイライラする」、「最近ではプレイステーション クラシックのCMが流れていて辛かった」と当時のライバル意識は現在に至るまで尾を引いていることを告白し、会場の笑いを誘った。
こうして生まれた「パンツァードラグーン」は市場に受け入れられ、良好な反応を得ることに成功する。これにより続編の開発が決定し、開発がスタートしたのが「パンツァードラグーン ツヴァイ」と「AZEL -パンツァードラグーン RPG-」だ。2タイトルの開発はチームを分けて同時進行で行なわれ、二木氏が「AZEL -パンツァードラグーン RPG-」、吉田氏が「パンツァードラグーン ツヴァイ」の開発に携わることになる。
“3Dシューティング要素”を磨き上げた「パンツァードラグーン ツヴァイ」
「パンツァードラグーン ツヴァイ」は「パンツァードラグーン」の3Dシューティングの要素をさらに磨き上げた、正統進化版ともいえるタイトルだ。「パンツァードラグーン」では表現上の問題を「力技」でなんとかしていたり、「物語主導のため1回遊んだら終わり」という部分を難易度上昇でカバーしようとして「ゲームが難しすぎる」という評価を受けたりしていた。
そこで吉田氏は「ストーリーを大事にしつつ、難しすぎず、でもシューティングの面白さが感じられる」というある意味では矛盾に満ちた目標を立て、ドラゴンの種類の追加や進化、シューティングゲームでいう「ボム」にあたる「バーサク」など新たなシステムを導入していった。
中でも「時代を先取りしていた」と自負するのが、プレーヤーのプレイ結果を反映して自動かつリアルタイムに難易度を調整する「ADEC(Automatic Difficulty Adjustment)システム」だ。これによって「3Dシューティングというコアなゲームをより幅広い層に楽しんでもらう」ことを目指した。
チャレンジと苦難に満ちた「AZEL -パンツァードラグーン RPG-」
「AZEL -パンツァードラグーン RPG-」は二木氏をして「25年のキャリアの中で最もキツかったと即答できる」タイトルで、その理由は「とにかく新しいことに挑戦しすぎたから」なのだという。
「AZEL -パンツァードラグーン RPG-」も「パンツァードラグーン」と同じく「映画のように物語を体験できるゲーム」を目指したタイトルで、その実現のために世界全体を3Dで表現したり、シューティングをRPGの戦闘に落とし込んでみたり、昼夜の概念を表現するためにライティングを実装したり、磁気式のモーションキャプチャーを用いてイベントまでもフル3Dで表現したり……と、当時はほとんど前例のないことに次々とチャレンジした。
新しいことに取り組む一方、当然実装は困難を極める。全体のスケジュールは1年ほど遅れることになり、長期の開発によってスタッフには疲労が蓄積。あちこちで軋轢が発生してしまったりもしたとのことだ。開発チームは50人ほどだったとのことだが、当時の二木氏はこうした大規模なチームの管理経験もなく、マネジメントコストも増大していったという。結果的に「セガの開発スタッフは質が高く、なんとか完成にこぎつけることができた」ものの、コストがかかりすぎてチームは解散してしまうことになる。
二木氏は「若いときは経験がないので先の苦労を想像できず、無謀な挑戦をしてしまう」と苦笑交じりに振り返りながらも、「セガの社歌でもある無謀な『若い力』こそがゲーム業界を成長させてきた。そしてその力が『パンツァードラグーン』を生んだ」とした。そして「気持ちだけはまだ若いので、これからも新しいことに挑戦していきたい」と語り、セッションを締めくくった。